x レッドサン・ブッラックロス  著:佐藤大輔 (徳間文庫/中央論公社C★NOBELS)

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・合衆国侵攻作戦
 1947年、ドイツ第三帝国の首都グロスベルリンでは第三次世界大戦に関する作戦案が着々と纏められつつあり、その標的である日米はそれぞれが近い将来への予想に対して対照的な対応を取っていた。 日本は英国との連携の強化を、そして米国はごく政治的な理由から何ら有効な対策も打っていなかった。
 そして1948年5月13日、北米において第三次世界大戦が勃発する。

・迫撃の鉄十字
 カナダ・ケベック州はフランス系の移民が住民の多数を占める地域として知られていますが、本作中ではナチスが政治工作によってこの地の独立運動を支援、彼等はヴィシー政権下に入る事を望み、その支援の名の下にドイツ軍10万がこの地に集結します。 この兵力は言わずもがな合衆国侵攻の主力であり、合衆国東部は瞬く間に彼等の足元に置かれ、ワシントン、ノーフォークは反応兵器によって灰塵と帰した。
迷走する連邦政府を不安視した東部各州政府は次々に中立宣言をし、一部の州は事実上連邦離脱すら選択、合衆国は驚くほどの速さで崩壊して行く。 
 そして、舞台は第二戦線たるインド洋へと移る。 主役は通商破壊を行うドイツ戦艦「フリードリヒ・デァ・グロッセ」である。

・反撃の旭日旗
 開戦から二週間余りで20隻以上の船舶を失ったインド洋、日本海軍遣印艦隊は航空機、戦艦隊を繰り出し、遊弋する戦艦フリードリヒ・デァ・グロッセの捕捉に全力を挙げ、ついにはこれを仕留める事に成功、インド洋中、東部の制海権を一応確立する。(潜水艦については除外)そして再びアメリカ大陸の戦況を描きます。 開戦から一ヶ月、ドイツ軍は依然として西へ南へと快進撃を続け、カナダ戦線でも抵抗する日英軍は後退に次ぐ後退を余儀なくされていた。 そうしたカナダから帰還した1隻の高速輸送船があった。 その積荷は鹵獲したドイツ戦車パンテルII。 その装甲を日本陸軍の主力、一式中戦車改で撃ち抜くテストをした川端中佐の呻き声でこの巻は締め括られる。「畜生め」「あの戦車では奴等に勝てない」

・作戦グスタフ発動
 苦闘を続けるカナダの日英軍、テキサスに集結した残存合衆国軍を描いた後、再び舞台はインド洋へと移る。 フリードヒ・デァ・グロッセ撃沈以降、戦況は膠着していたが決定的な戦況安定を図るにはインド洋の西の入口にあるソコトラ島占領が不可欠であった。 その準備として遣印艦隊及び英東洋艦隊は集結し、対するドイツ東方艦隊へもイタリア海軍の増援が決定され、インド洋に再び戦雲が立ち込める。

・第二戦線崩壊
 インドにゴアという都市があります。天然の良港を持ち、長らくポルトガルの植民地として栄えて来ましたが、作中ではドイツがポルトガルから譲り受ける形で保有し、アーリア支隊という総統直属部隊の根拠地となっています。 日英機動部隊はソコトラ島攻撃の前にこの部隊の戦闘能力を奪うべく奇襲を敢行し。停泊する艦隊に打撃を与えます。 
 そして、ソコトラ島上陸作戦「ブルー・アイス」が発動、上陸部隊はインド洋を一路西へと進み、遣印艦隊はその護衛として露払いを務め、イタリア東洋艦隊と衝突する。

・インディアン・ストライク
 海上では独伊海軍と遣印艦隊との戦いが続いていたが、ソコトラ上陸作戦は既に開始され、ドイツ軍の激しい抵抗によって、上陸部隊は苦戦を強いられる。 特に装備で劣勢な戦車隊にとっては地獄と言って良かった。 彼らの敵は第15装甲擲弾兵師団第2大隊、パンテルIIを装備する機甲部隊であった。
 その指揮官ベルンハルト中佐の行動命令が発せられる。「戦車前へ」

・バーニング・アイランド
 ベルンハルト率いるパンテルの群れが突入した海岸橋頭堡は大混乱に陥る。 敵味方が入り乱れて航空支援、重巡等による艦砲支援ともに不可能、終いに日本軍は駆逐艦を海岸に接近させての直接射撃など、苦肉の策で何とか撃退する事に成功する。 この戦いを頂点に作戦の焦点は上陸から内陸侵攻へと移行し、ドイツ軍は次第に追い詰められる。

―以上、徳間文庫版、以下は中央論公社C★NOBELSよりの刊行―

 死戦の太平洋 1・2
 インド洋の戦いは日英側に軍配が上がったが、今だ戦争は始まったばかりであり、(作中の文を引用するなら)地獄の釜は煮え立っており、戦争の夏は「はじまりを終えたばかり」であった。 
 インド洋を片付けた日英軍の戦略の中心は、いまだ苦戦が続く北米戦線に軸足を移しつつあり、日英の北米戦線維持の帰趨を掛けた試金石として、エヴェレット・ヒース大佐を指揮官とする最初の大規模物資輸送船団VT−17が独潜水艦群の待つ北太平洋を渡る。 これが成功すれば日英は北太平洋における物資輸送への自信を手にする事が出来るのだった。 

 パナマ侵攻 1・2
 北米戦線ではミシシッピ河突破を目標とする「作戦グスタフ」の成功で合衆国軍は完全に東海岸から駆逐され、西海岸に残された合衆国主要都市はワシントンを焼け跡にした反応兵器の射程に入る。 そしてロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴの3都市が200万の命と共に失われ、合衆国本土の中枢は完全に壊滅した。 しかし、それでもしぶとく生き残った合衆国政府は降伏よりも日英との同盟による徹底抗戦を選択、ついに対独三国同盟が成立する。
 そして、日英米枢軸は反撃の第一歩として(真田忠道中将曰く)「太平洋の蛇口」を閉めるべく、ドイツ占領下にあるパナマ運河侵攻作戦を選択する。

 

(一番上に) 

―以下は徳間新書から刊行の外伝等―

 外伝1
「戦艦ヒンデンブルグの最期」「勇者の如く倒れよ」の2編を収録。 両者とも、第3次世界大戦後半期の戦いを描いています。年代的には1950年末〜51年3月の出来事です。 前者は全長350m、基準排水量14万8千t53センチ主砲8門を持つドイツ戦艦最強を誇る怪物の最期を、後者は史実のレイテ沖海戦をモチーフとするアイスランドを巡る一連の戦い、ドイツ側の呼称になる「北ノ暴風作戦」がその舞台です。

外伝2
 7つの短編を収録、テーマとなっているのは前線で苦闘する兵士の姿です。 「塹壕にて」では無能で働き者な中隊長によって悪い状況が更に悪化しようとするのを防ごうとする軍曹を、「ある中尉の死」では本編中で主人公格の一人のある人物が戦後亡くなった事件について描いています。 また、最後に収録されている短編「戦艦」は舞台とオチが一風変わっていて面白いです。

外伝3
10編を収録。 戦中、戦後の様々な出来事を描いています。 「市民討論」は分断国家となった米国での諜略宣伝放送を、「主力戦車論・断章」では日独の戦車開発競争を俯瞰し、「宇宙英雄ヴァルター・ケーニヒ」では日独冷戦の後に両国がようやく歩み寄った21世紀の月面開発で見つかった過去の遺産を描いています。 どの短編も戦場を描いてはおらず、舞台裏の設定等を小出しに披露している様な・・・印象ですかね?

レッドサンブラッククロス秘録
 実際に参加した方々による体験をまとめた戦争手記という形をとっている。 付属して陸軍戦車総覧がくっ付いています。・・・忘れてはいけないのはここで取り上げられている内容はすべて「架空の物」であるという事です。 雑誌の連載記事を装っている所なども悪趣味っぽいですが・・・すべてジョークです。(こういうわざとらしい所も私は大好きだ) 後、巻末に本編の登場人物集があります。

 レッドサンブラッククロス密書
 レッドサン〜の世界は史実をどう捻じ曲げる事で生成したか。 という事柄が、佐藤大輔という時代改変犯罪者を追うタイムパトロールの報告書という形で書かれています。 また、ノストラダムスの大予言を作中の歴史と対応させ、その偶然とは思えない符合の多さも披露してくれています。 ・・・はぁ?まあ、ここは笑う所なのでしょうな。 資料として第3次世界大戦におけるドイツの計画機、帝国陸軍編成史と各種資料(<もちろんフィクションです)それから2編の短編と本編の名言集、年表が収録されています。

 


まめちしきのコーナー

 グロスベルリン
 第三帝国首都、軍需相シュペーアの主導による都市計画で改造されたベルリン市の事だと思う。
大ベルリンの意。

 反応兵器
 佐藤大輔作品で核兵器はすべからく「反応兵器」と呼称される。

 フリードリヒ・デァ・グロッセ
 史実では幻の終わったドイツ海軍のH級戦艦の名前、フリードリヒ大王の意味。

 「畜生め」「あの戦車では奴等に勝てない」
 元ネタは宇宙戦艦ヤマトの第1話、沖田十三の名台詞より。

「戦車前へ」
 読みは「パンツァー・フォー」 元ネタは小林源文のコミック「黒騎士物語」あたりだったと記憶するが…定かではない。 至る所のミリタリー物で使われる名台詞。 ドイツ国防軍の軍歌に「突撃砲兵の歌」という物があり、その中で「戦車、前へ!前へ!(Panzer voran! Voran!)」と歌われているのを確認しました。 元を辿ればこの辺りが起源であろうと思われます。

装甲擲弾兵
 ドイツ陸軍での歩兵の呼称。 擲弾(てきだん)と言うのは手榴弾の事であり、元々は密集隊形からこれを投げる(投擲する)歩兵を指した。 が、後に歩兵その物を指す様になったらしい。
 そして歩兵戦闘車両及び戦車等で「装甲・機甲化」された擲弾兵部隊を装甲擲弾兵と称する。