皇国の守護者 著:佐藤大輔(中央公論社C★NOVELS) 

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 反逆の戦場 
 <大協約>世界にある島国「皇国」は、隣国である大陸覇権国家「帝国」の侵略を受けていた。
皇国最北の地「北嶺」で敗走を重ねる皇国軍、主人公新城直衛は死力を尽くして敵を足止めし、
撤退する味方の時間を稼ぐが・・・(第1巻の舞台である「北嶺」は北海道をモチーフとしています)

 勝利なき名誉
 追い詰められた皇国軍1万8千を本土へ撤収させる為に必要な時間はあと2日。新城は奇策を
持ってこれを完遂した後に降伏、「帝国」の捕虜となった。そこで彼は敵の勇将として東方鎮定軍
総司令にして東方辺境領姫・元帥であるユーリア・ド・ヴェルナ・ツァリツィナ・ロッシナへの接見を
求められる。(この接見でのやり取りがこの巻の一番の見所でしょう)

 灰になっても
 捕虜交換で帰国した新城直衛は友軍1万8千を救った英雄として「皇国」今上皇主正仁帝に
軍状報告を奏上する栄誉を得る。 そこでは有力諸侯である五将家(駒城、守原、西原、宮野木、
安東)が対立、彼は政争に巻き込まれ、弱兵部隊である近衛衆兵隊に転属させられる。
 政争で将家の思惑が対立する中、ユーリア率いる帝国軍が本土の「龍州」に来冠。 新城の
率いる「近衛衆兵鉄虎第501大隊」は訓練不足ながらも最前線に血路を拓き、橋頭堡を拡張
しようとするユーリアの本陣に迫るが・・・

 壙穴(はかあな)の城塞 
 皇国軍の作戦は帝国軍の反撃で頓挫、潰走する皇国軍。そんな中、唯一整然と後退する新城の
部隊へ皇都に至る街道上にある未完の稜堡式城塞「六芒郭」を死守せよとの命令が下される。
 ユーリアは煮え湯を飲まされた新城との決着をつけるべく、部下の反対を退けてまでも要塞攻略に
執着、結果として皇国軍は防備を固める時間を得たが、新城らは包囲軍の猛砲撃により戦力を
すり減らされ続けていた。 そして彼らは遂に要塞を放棄し包囲の突破を図る。 突然の混乱の中、
要塞攻略に固執したユーリアへの反感を募らせたラスティニアン少将は不穏な行動を実行に移す。

 英雄たるの代価
 新城らの包囲突破は成功し皇都に帰還。しかもクーデターと言う窮地に立った敵将ユーリアを
携えて・・・ 皇都での凱旋パレード、冬季に入っての自然休戦、その舞台裏で対立する将家
(特に守原家)は次々に重ねられる新城の功績に怨讐を募らせるばかりであった。
 その頃、ユーリアの抜けた帝国軍の新司令官マランツォフ元帥は、敵の隙をついた冬季攻勢を
企図し、新城の義兄、駒城保胤(くしろたねやす:五将家駒城家次期当主)の守る虎城山地への
攻勢を仕掛ける。 寒さと疲労から来る体調不良で判断力が低下した保胤は「一時撤退」という
然るべき決断を下せず、戦況は次第に悪化、彼は発熱から昏倒する。 その時、偶然に軍監部の
公用軍使としてその場に居合せた新城は「異常にも」彼に代わって軍の指揮権を継承すると宣言した。

 逆賊死すべし
 マランツォフ元帥の政治的得点獲得の為に生起した「限定的攻勢」、新城直衛は敵の裏を読み
戦線を後退させ、敵から作戦の主導権を奪う。 思いもよらず後手に回った帝国軍だが「政治的」
体面から作戦の中止は出来ず、新城の誘いに乗る結果と分かりながらもこれを噛み砕くべく攻勢を
継続。 敵の真意を見抜いた新城は、さらに前線の後方へと部隊を浸透させ、敵の後方を蹂躙、
大損害を与える事に成功する。
自らの背中を脅かされた帝国軍は大混乱を来たし撤退、新城はまたもや大きな軍功を揚げた。
 この時、帝都では守原家を中心にしたクーデター計画が水面下ではじまっていた・・・ 

 愛国者どもの宴
 王都に帰還した新城は大佐昇進の内示を受け、同時に近衛衆兵鉄虎第501大隊の指揮を
解かれ新設の教導連隊を任される事となった。   また、大打撃を受けた帝国軍は冬季休戦の
体制に入り、一応の脅威は無くなっていたのだが・・・ 守原家の決起準備は凱旋式典開催の
舞台裏で着々と進みつつあり、新城は来るべき動乱を確信し新設連隊の戦力化に注力する。 

  楽園の凶器
 守原家の義挙にともない皇国の要人が拘束される中、叛徒にその信望と経歴を恐れられる新城も屋敷を襲撃される。 信頼できる僅かな仲間、そして劣勢な手勢を率いて新城は何事を成し遂げるのか…
 久々の新刊ですが、この巻から表紙がボトムズの塩山紀生から平野耕太に代わりました。 今までの表紙は確かに無粋で良い印象は無かったのですが、さすがに7巻もシリーズを続けた末に変更するのは作品の雰囲気を壊しかねないと思います。 特に…巻中に1枚だけ平野氏の挿絵があるのですが、絵の題材が本文と関係なく…ウザいです。 

  皇旗はためくもとで
 守原家の軍勢は皇都の要所を占め、彼らの言う「義挙」は成功を収めつつあった。 しかし、新城は近衛衆兵たちと合流し、次の一手を打つ。 そして、良し悪しこそあれ新城に影響を受けた人間達も各々が出来うる行動を起こし、それは皇国の古い時代の終わりと、新しい時代の到来を告げる契機となる出来事の始まりでもあった。
 前回気になった表紙、今回は「獅子猿」なる方が担当されてます。 線の細い綺麗どころな絵で、作品イメージが変わってしまう所ですが、まぁ…前よりは良いですかね。 …多分、この巻で完結かな?

 

外伝 猫たちの戦野(C★N 25・C★NOBEL創刊25周年アンソロジーに収録)
 主人公は龍州生まれの青年 會場 佳二郎。  彼は<帝国>来冠において持ち前の愛国心から募兵に応じたのだが、しかし英雄的に戦う事を望んでいた彼に突きつけられた現実は、過酷なまでの戦場の姿であった。 この物語は一人の甘っちょろい青年銃兵が如何に戦ったか、その1コマを描いています。
 感想は内容が短すぎと言う不満に尽きる。僅か13P!その上、内容からはサービス精神のような物が感じられず、何とも歯がゆい。 が、久々に既作の続編を読めただけでも良しとすべきだろうか? …アンソロ本の本作紹介では「1〜9以下続刊」と書かれている。個人的には懐疑的に見ているが、長い目で期待だけはしていよう。

 

 (一番上に) 


まめちしきのコーナー

大協約
 作品世界における2大知的生命である人類と龍との間で有史以前から取り交わされている決まり事(律法)、都市の不可侵、捕虜の取り扱い等々が細かく取り決められ、皇国においては日常生活、道徳面等の生活規範としても影響が大きい。

ロッシナ家
 東方辺境領姫ユーリアが属する家系、帝国皇帝に連なる一族。

近衛衆兵
 民衆からの志願兵で構成される皇主直轄の軍隊組織、近衛総軍に属す。他に将家の子弟から成る近衛禁士隊も存在する。

近衛衆兵鉄虎第501大隊
 新城直衛が近衛衆兵隊で与えられた部隊、剣虎兵を主力とする。 501と言う数字の元ネタはWWIIでドイツ陸軍の独立戦車大隊に割り振られた番号が500番台である所からだろうと思う。

剣虎兵
 人に慣らした剣牙虎を主力とする皇国独特の兵種、基本的に兵1人が剣牙虎1頭とペアになる。
戦力的には1組の剣虎兵で一般銃兵20名に相当すると言われ、白兵突撃では凄まじい威力を発揮する。

剣牙虎
 学名をマダラオオキバネコと言い、食肉目猛猫科に属するいわゆるサーベルタイガー。 現実世界でこの種に相当する動物は更新世〜漸新世に絶滅しています。

独立捜索剣虎兵第11大隊
 1巻で新城が属した陸軍の部隊。 激闘の末、上官が指揮が出来ない状態(戦死ね)になった後は彼が率いた。 新城が近衛衆軍へ配置換えとなる後任指揮官は佐脇俊兼少佐。 

捜索剣虎兵
 剣虎兵を主力として威力偵察を主任務とする部隊編成の事。 剣虎兵の他、銃兵、砲兵、導術兵、工兵等を一通り装備、戦力として自己完結している。 

将家
 皇国各地に封じられる諸侯の事。 特に軍事・政治・経済で巨大な権勢を誇り、皇国封建体制の中枢を占める五家(駒城、守原、西原、宮野木、安東)は、五将家とよばれる。