ファンタジー小説とか・・・

一番下へ        戻る


 リフトウォー・サーガ シリーズ
             著:レイモンド・E・フィースト/岩原明子・訳(ハヤカワFT文庫)

<シリーズ総評??>
 こうやって感想を書き出してみると、最初考えていたよりもはるかに低い評価な事に自分でも驚いてます。 しかし、やはり「アメリカンなヒロイック・ファンタジー色」が強いと言わざるをえないので仕方がないと思う。 ちなみにそれの代表作は「コナン・ザ・グレート」とか。ああいうのは叙情的とは言えないと思います。 アメリカの読者には求められている物なのでしょうが、私の嗜好には合いません。ですから、どの作家さんにせよ、そういった雰囲気を避けるため、出来るだけ、アメリカ作品には手を出さない事にしています。
 では「リフト・ウォー・シリーズ」に惹かれた点は何か?という事になりますがそれは、エルフ、王様、世界を脅かす敵。そう言ったありがちな事柄だけではなく「戦争」を軸にして、多彩な人物が入り乱れているという点。 もう一つ、架空世界の構築が見事であったという点。主人公たちが旅する世界がどの様な事象で出来ているのか?その描写も気に入りましたね。
 まず、ファンタジーは世界を上手に描写できれば五分の「勝ち」です。 

魔術師の帝国 上・下

 パグとトマスという二人の少年が主人公のエピックファンタジー。ミドケミアという世界の「諸島王国」は異次元世界ケレワンの「ツラニ帝国」からの侵略を受けていた。 戦争の中で、二人は様々な出来事を経て成長する・・・度を越したインフレ的展開にむかつくし、そう言うアメリカ的な大風呂敷が気に食わない。何が「竜から与えられた装備に秘められた魔力により不思議な力を与えられた」だ?ジャンプ漫画かっつーの!・・・それでも主人公らのほか、登場人物もエピックファンタジーの名に恥じず魅力に溢れており、プロットの緻密さもあいまってそれを補うに余りある作品だとは思う。

 評価:B

 

帝国の娘 上・下(フィーストと、ジャニー・ワーツの共著)

 ツラニ帝国を舞台にした宮廷謀略劇。外伝だが時間軸的には「魔術師の帝国」の次だと思うのでここに置く事にします。 謀略によって父と兄を殺された十七歳の貴族の娘マーラはアコマ家を継ぎ、仇を取るため権力闘争に身を投じる事となる。彼女は自らの後ろ盾を得る為に自らの身を犠牲として有力貴族の三男で、粗暴な男と婚姻し、嫡子を得た後に夫を亡き者とするという奸計をへて仇である帝国の大貴族ミンワナビ家を打倒する。
 どうでもいいですが、このシリーズには「チョー・ジャ」という蟻のような社会性を持った昆虫種族が出てくるのですが、あれはもしかしたら「エルハザード」に出てきた「バグロム」の元ネタなのかも知れませんねぇ
・・・それはそうと感想ですが、シリーズ中では一押しです。主人公に女性を持ってきた点と、謀略劇を主題に持ってきた事が私の嗜好に合ってます。 ただ、アメリカではこの続編が出ておりマーラは帝国での権力を握る所まで上り詰めるとか・・・またもやインフレですか?

 評価:A

 

 シルバーソーン 上・下

 ツラニ帝国との戦争(リフトウォー)から一年後、クロンドル公アルサとアニタ姫の
結婚式上でアルサを狙った矢がアニタ姫を貫いた!敵は邪悪な魔術師マーマンダマス。
矢には毒が塗ってあり、アルサ達は解毒剤シルバーソーンを求めて旅に出る。
〜世界の敵であるヘビ人間登場・・・安直ですね。たいした感動もなく読み終わってしまい
ました。ただ、時間をつぶす位の役には立ちましたかね?

 評価:C

 

 セサノンの暗黒 上・下

 さらに一年後、またまたマーマンダマス登場!パグは滅茶苦茶に強力な魔術師に
なっており、トマスにいたっては例の装備によってエルヴァンダーの妖精王として絶大な
力を持っています。・・・二人は敵を倒すため宇宙の外にある「永遠の都」へと旅立つ!
・・・それがジャンプ漫画的だって言ってるのですが・・・世界観が飛躍しすぎてシラケ鳥が
鳴いてます。

 評価:C

 

 王国を継ぐ者

 本来は外伝的作品らしいが、日本では「リフトウォー5」として売られてます。
 リフトウォーから20年後、「諸島王国」の隣国「大ケッシュ帝国」から女帝の誕生
祝賀会の招待状が届く。王国の使者として選ばれたのはボリクとエアランドの双子の
王子であった。 作中、前巻で活躍した「ロックリア」という方があっけなく死にましたね。
主人公もなんか間抜けで垢抜けません。・・・しかし、それでも「超絶な力」による戦い
とかが出て来ないので、異世界情緒が良い味を出している気がします。 やはり
ファンタジーにはなにがしかの情緒がなくてはいけません。ちなみにこの作品世界の
モチーフは「諸島王国」は西欧「ツラニ帝国」は東洋を、この作品の舞台である
「大ケッシュ帝国」は古代エジプトと中近東の混合となっております。

 評価:B

 

 国王の海賊 上・下

 リフトウォーから30年後、海の向こうからやってきた謎の襲撃者によってクロンドル
公国の都クライディー城は襲われ、主人公ニコラスの母でクロンドル公妃アニタは戦いで
命を落とします。 かつてはシリーズのヒロインの1人だった女性でも物語の道具として
簡単に殺す事は安直すぎではありませんか? やはり話題性、ファンを驚かせる事を
狙っているのでしょうが、それを安直なインフレだと言っているのです!それが見え見えで
若干嫌気がしました。 それはともかくニコラスのいとこ(王女)をはじめとするクライディーの
若者達は海の彼方に連れ去られてしまいます。 主人公らはこれを追跡して未知の大陸
「ノヴィンダス」に上陸し、事件の裏にヘビ人間の影がある事をつきとめますが・・・
 まあ、良いでしょう。主人公達がことごとく女の子とくっつく事がご都合主義すぎる気も
しますが、登場人物はおしなべて魅力的だし、話もそこそこにまとまっていてひずみは
無いと思う。お気に入りキャラは、ブリサ、ニコラス、ナコール・・・そんな所でしょうかね。

 評価:B

 

 忌わしき者の城 上・下 著:グレン・クック/船木 祐・訳(ハヤカワFT文庫)

 異世界の都市「カシュマラー」はかつては魔導師ナカールの下で繁栄を極めたが、今は大国ヘロデに征服され、市中にはヘロデ軍の傭兵が溢れているという有様だった。そんな中で起こる子供を狙った連続誘拐事件、カシュマラー人地下抵抗組織指導者の暗殺、これらの影にはナカールの城に隠れ住む魔女の存在があった!・・・大袈裟? 魔女、地下抵抗組織、占領軍の思惑の入り乱れる策謀劇、それにカシュマラー市民アーロン・ハービットと家族の移ろいも絡められています。 素朴でなんか良いですね。 世界観は中東、オスマントルコらしいです。

 評価:B

 

 光と闇の姉妹 著:ジョイン・ヨーレン/井辻朱美・訳(ハヤカワFT文庫)

 <谷>に住む少女ジェンナが予言に記された女神アンナとして成長して行く過程を描いています。この<谷>は女性のみで郷を形づくっており、彼女らは秘術を用いて影の魂を呼び出す事が出来た。そして「闇の妹」と語り合うことが出来、戦い、愛を分かち合った。島に17あるそれら郷の女達はアルタ教徒と呼ばれた。 
 本書はかなり意欲的です。巻末には作中で取り上げられた歌の楽譜がきちんと作られていたり、作品自体も予言>歴史書>物語の展開という順序で記述されており、読んだ感じも恐ろしい程に叙情的です。(翻訳家の井辻さんの力量もかなり凄腕ですが)

 評価:A

 

 白い女神 著:ジョイン・ヨーレン/井辻朱美・訳(ハヤカワFT文庫)

「光と闇の姉妹」の続編で、旅を続けるジュンナが伝説の「白い女神」として目覚めたり
逃亡する王子カルムと愛し合ったり、王位簒奪者カラスと対決するお話。
 なんかいいですね「フェミニズム」、耽美というか・・・エロティックというか、ファンタジックとは
この様な作品にこそ相応しい言葉と思いました。例の語り口が実験的ではあるのですが、
物語としての雰囲気作りに十分貢献していますね。

 評価:A

 

 ゲイルズバーグの春を愛す 著:ジャック・フィニィ/福島正実・訳(ハヤカワFT文庫)

 ゲイルズバーグという街で起こる不思議でノスタルジックな短編集。表題作の他、
9つの短編が収められているが、私のお気に入りはその殿「愛の手紙」である。主人公が
手に入れた骨董品の机の中にしまいこまれていた手紙が取り結ぶ80年前の女性との
奇妙なロマンスの行く末に胸を打たれます。
「独房ファンタジア」も良い話ですし、私はこれがフィニィの作品の中で一番好きです。

 評価:A

 

皇国の守護者シリーズ  著:佐藤大輔(中央公論社C★NOVELS) 

 佐藤氏の著書を紹介するのはこれが初めてだが、何を隠そう私の好きな作家の中で第1位です。 氏は緻密な(1兵卒による視点を中心とする)戦術描写が売りの「架空戦記」作家で、その最も異色な所はファンタジーやSFを隠れ蓑にした戦争小説を書いている所だと思います。 そして本作品、本来はとても「ファンタジー」と呼べる代物ではありません。 世界設定は確かに「剣と魔法」なのですが、そこに描かれているのはひたすらに「闘争」「闘争」「闘争」。 そして作品の中で主人公新城直衛は歯向かう敵は完膚なきまでに叩き潰し、手段を選ばない極端な現実主義者として描かれています。
 次にこの世界のモチーフですが、次の様な物となっています。 時代設定は近世「ナポレオン戦争」〜「日露戦争」程度の時代の戦術、それに加えて魔法(作中では導術)による通信、剣歯虎、翼竜といった猛獣の存在と、それを利用した戦闘部隊。 この辺りがファンタジー的なのですがその実、それぞれが電気通信、航空機械の代わりを務めているだけです。 敵味方の国家では「帝国」が近世の「ロシア帝国」あるいは「プロイセン」、もちろん「皇国」は幕藩体制下の「日本」です。

1・反逆の戦場 2・勝利なき名誉 3・灰になっても 4・壙穴(はかあな)の城塞 
5・英雄たるの代価 6・逆賊死すべし 7・愛国者どもの宴 8・楽園の凶器
9・皇旗はためくもとで 猫たちの戦野

 

 

 血のごとく赤く 著:タニス・リー/木村由利子 室住信子・訳(ハヤカワFT文庫)

 「白雪姫」、「シンデレラ」などの童話を下敷きにした短編集。童話的な語り口を目指している
らしく、 淡々と「本当は恐ろしい某」な感じの童話がつづられています。 これ!という程に
面白かった作品はなかったのですが・・・あえて言うなら「ラプンツェル」を原典にした「黄金の綱」、
・・・ヒロインの希望に満ちながらも暗黒面の運命を受け入れる描写が、まあまあ良かったかと思う。

評価:B

 

 ゴルゴン 著:タニス・リー/木村由利子 佐田千織・訳(ハヤカワFT文庫)

 ギリシャ神話をモチーフにした短編集、この人は他に「タマスターラー」というインド神話をモチーフ
にした短編集もある様に(特に最近の邦訳作では)パロディ物の短編を得意としている様です。
 さて、これもね・・・特に感動したりはしなかったというのが率直な感想ですね。淡々とし過ぎている
というか「しっとり」と言った感じがしますが、決してつまらない事は無く、飽きずに読み終えた所からも
「魅力」は感じてます。それが不思議な所ですね。 「童話」「神話」と言う物が読み伝えられている
理由がその辺にあるとするならば、この本は書き手の作意を確かに伝えていると言えましょう。
(この点はリーの作風すべてに言える様な気も…)

評価:B

 

 魔法千一夜 vol.1 著:後藤信二(小学館スーパークエスト文庫)

 魔法使いによる自治が行われる都市「ミレニアム」を舞台にした連作小説をまとめた短編集。街に住む人物のちょっとした事件などのネタを通じて「ミレニアム」の日常が語られる。
 前に、「世界の描写が上手く出来ていれば云々」という事を書いたが、この作品はどうだろうか?「冒険」も「英雄」も無ければ「世界の危機」と言える物も無い。 しかし、ここでは日常の隅々まで「魔法」が深く息づいているのだ…という事をひたすらに描き続けている。 (最後の方はちょっと毛色が変わってしまい少々残念ではあったが・・・)魔法学校初等科教諭のトワイライト女史をはじめ、登場する人物達はそんな魅力に支えられていました。
 この作品は90年代初期に「ポプコム」というコンピュータ・ゲーム雑誌があり、そこで連載されていた物です。 当時、私の最も好きだった「ファンタジー作品」であり…まあ、青春期の鮮烈な思い出は美化されがちだと自覚していますが、それでもこの作品は今でも傑作であったと信じています。(あ、ちなみにvol.2はうやむやになって出てません)
(ネット上でこの作品を暫定的に公開されているサイトもあるので一読されてはどうでしょう)

評価:A

 

 マリオンの壁 著:ジャック・フィニィ/福島正実・訳(角川文庫)

主人公ニックとジャンの夫妻が引っ越した古い家、壁紙を張り替えようとそれを剥がした裏には紅で次の様な走り書きがされていた。「マリオン・マーシュここに住めり1926年6月14日。読んで泣き面かくがいい!」
 これはかつて、この部屋の住人であり駆け出しの女優であった女性が残した物だった。その後、偶然にも彼女が端役として出演した映画をTVで見ていると、妻のジャンに彼女、マリオンの霊がとりつく。 夢の実現を目前にして交通事故死した彼女はこの世に未練を残していたのだった。
 この作品はノスタルジック・ファンタジーとでも言えば良いでしょうが、このジャンルはフィニィの十八番ですね。特筆すべき点としては・・・終盤の、主人公達が古いサイレント映画を見ているシーンが特に素晴らしい描写です。
 サイレントの持つ静粛で郷愁的な物悲しさ・・・その趣に軽い感動を憶えました。 で、そこから続くクライマックスも非常に良い終わり方です。

評価:A

 

 パラディスの秘録 幻獣の書 著:タニス・リー/浅羽 莢子・訳(角川ホラー文庫)

 ヨーロッパの架空の都市「パラディス」を舞台にした怪奇物語。 地方から学問を修めるために上京した地方貴族の青年ラウーランだったが、彼は下宿する屋敷で緑の瞳をした女性エリーズの幽霊と出会う。 彼女がなぜ屋敷で幽閉されているのか?物語はデュスカレ家の呪われた歴史の始まりであるローマ時代へと飛び、家祖であるウスカが悪魔に取りつかれる代価として名を成すまでを描いて現在にもどる。 そこで起こる奇怪な獣による婦女ばかりを狙った殺人事件。ラウーランは次第にデュスカレ家の血の呪いに巻き込まれていく・・・
 タニス・リーは耽美な描写で有名なイギリスのファンタジー作家。 短編を中心に何作か読みましたがこの作品は私が読んだリーの作品では一番の長編ですね。 この作品は他に比べても明らかに艶めかしい描写が多く、特にエリーズの退廃的ともいえる描写は魅力と迫力に満ちてます。

評価:A

 

パラディスの秘録 墜たる者の書 著:タニス・リー/浅羽莢子・訳 (角川ホラー文庫)

 架空の都市パラディスを舞台にした「紅に染められ」「黄の殺意」「青の帝国」の3篇から成る中編集。 これはこの本の解説も同意見なのですが・・・特に「黄の〜」が面白かったで内容を紹介しましょう。
 主人公は田舎にある農場に住む少女ジュアニーヌ。 彼女は義父によって辱められた事に耐えられず自分を慕っていた義弟のいる都へ逃げ出します。 しかし、弟は父親が姉を手篭めにした事を信じず、すがる彼女を「恥をかかせるな雌豚」と罵ります。 悲嘆に暮れる彼女は町で出会った男の導きにより修道院に住処を得、彼の勧めるままにそこを抜け出し、男装し、彼の率いる盗賊団の一員となる。 手始めに弟を屠り、夜な夜な僧院を抜け出して非道の限りをつくす彼女ですが都に疫病が訪れ・・・というのが黄の殺意の概要です。
 他の2編もひねくれて耽美な悪魔的エッエンスに彩られてます。

評価:A

 

冬の狼(アラン史略・1) 著:エリザベス・A・リン/野口幸夫・訳 (ハヤカワ文庫FT)

 架空の地アランの北辺にトーナーという郭(くるわ:城の事)が築かれて100年余り、突如南方から攻め入ったコウル・イーストルという梟雄に奇襲され郭は落ちる。城主アソルは憤死し、城の部将にして主人公のライクは虜囚となった主君の一粒種アーソルの助命と引き換えにコウルの臣下に就く。 屈辱の日々の末、助力者と共に脱出した2人は西方のヴァニマーと言う地に落ち延びますが・・・ その後どうやって城を奪い返すのか?という展開を楽しみにしていたのですが、それが一寸性急で、後半の畳み掛けに思わず「そんな簡単に行くの?」と感じてしまいました。 しかし、翻訳にありがちな冗長さが全体的に感じられず、非常に読みやすかった。
 次に、描写として気になった点です。 格闘術として合気道を参考にし、タロットカードの様な小道具を登場させる等、エスニックな雰囲気を意識している割に、家屋や城郭の描写が明らかに欧州のそれなのはどうしてもバランスに欠けるのでは?と感じます。 ・・・まあ、評価項に関して、ファンタジーに何を求めているか?という事柄に関わるのですが、物語としてはA、世界の構築ではBと私は思います。

評価:A

 

アランの舞人(アラン史略・2)著:エリザベス・A・リン/野口幸夫・訳 (ハヤカワ文庫FT)

 主人公は「冬の狼」からおよそ100年後のトーナーで暮らす隻腕の少年カーリス、彼は城主の家系にも関わらずその身の不具からそれ程幸の多くない地位にあった。 ある日、チアリ(舞人にして武道家、戦士)である彼の兄ケルが郭を訪れる。 カーリスには他人の心が読めると言う不思議な才能(作中では内話という一種の魔導とされる)があり、ケルがそれに気付き彼を連れ出す為であった。 カーリスは兄の求めに応じ、遥か南にある「魔法使の町」イーラスへと旅する事となる。
 カーリスの前には「内話者」となる道の他、以前から郭で培われた「学者」の道などがあります。彼がどんな道を選ぶのか?という物語です。ここは余談に属するのでしょうが・・・この世界、どうやら男女の営みについて「同性愛」がタブーでは無い様子で、ケル兄さんの愛人は男性です。愛人がいるにも関わらずこの人は弟とも愛し合います。・・・引用すると「彼を手と唇と舌で嬲った」です。作中で2回、未遂も確か2回ありました。それ以外のシーンでも「兄さんは肩を愛撫した〜」という描写がふんだんにあり・・・全く、勘弁して下さいです。 カーリスはなよっとした雰囲気の少年なのですが、外国にもショタ趣味という物があるのでしょうか?ま、兄弟愛と言えば聞こえは良いのですけどね。
 それはそれとして〜 戦争が舞台ではなく、主人公らの旅がメインに据えられている為、前作以上に人々の暮らし等、風俗描写がしっかりしていると思いますし、のどかな物語です。

評価:A

 

北の娘 上・下(アラン史略・3)著:エリザベス・A・リン/野口幸夫・訳(ハヤカワ文庫FT)

「アランの舞人」からさらに100年後のアラン最大都市である「三角州のキーンドラ」が本作の舞台。その有力諸家の女当主であるアーレ・ミードに年季奉公人として仕える少女ソーレンが主人公です。 彼女には遠い山々を背にした郭を幻視をするという「魔法の才」があったが、力を持つ者は「タンジョウ」という訓練所へ入らなければならず、彼女は自由を失う不安からそれを隠していた。
 物語中の出来事を通じて彼女が幻視の場所の正体を知り、不安を克服し魔法と向き合う様になってその場所へ行くという夢の実現までを描きます。・・・が、ページの多くは、キーンドラで長らく守られる「長剣の市街への持ち込み」という禁令が犯され、大量の剣が持ち込まれる事件を発端として、アーレ卿をはじめとする有力者同士が抗争を繰り広げるという、もう一つのプロットの方に大きく割かれており、事件については結局・・・下巻250ページあたりまで費やしてますね。
 まあ、それでも前作、前々作同様に、風景、風俗の描写が非常に繊細で感情移入に貢献していると思いますし、登場人物も魅力的なキャラが多く、作中の都市キーンドラ同様に雑多な内容ながらも飽きる事無く一気に読み終えました。・・・これは昨今の私にしては珍しい事ですね。

評価:A

 

ラベンダー・ドラゴン 著:イーデン・フィルポッツ/安田均・訳(ハヤカワ文庫FT)

 中世、暗黒時代と呼ばれた時期のイギリスが舞台、主人公はポメロイのジャスパー卿という若き騎士、彼は既に時代遅れになりつつあった甲冑に身を包んでの諸国巡礼の旅路にあり、生来の愚直とも言える生真面目さからそれを実行していた。 そうしたある日、立ち寄った村で人食い竜の退治を依頼されたジャスパー卿はしかし、出会った竜によってその住処へと連れ去られ、そこで驚くべき事実を知る事になる。襲われた人々は皆、生きており、そこで理想郷とも言える豊かな暮らしを営んでいたのだった。
 主人公は確かに存在しますが、この物語の中心は「ラベンダー・ドラゴン」その人と思います。 彼は主人公(読者?)に対して人間自らが誤った規律や道徳観念によって可能性に枷をはめる事の愚かしさ等、人間に関する考察を延々と説きます。…それは書かれた当時の世相への批判と思われますが、読んでいて疲れました。
 最後、理想郷を去る主人公のシーンにて、住民自身のどうしようもない世俗臭さが描かれ、理想郷の行く末がそれ程明るくない事を暗示して物語の幕は降ります。 物語としては…どうにも説教臭くていけませんな。

評価:C

 

だれも猫には気づかない 著:アン・マキャフリー/赤尾秀子・訳(創元推理文庫)

 エスファニア公国の老摂政マンガン卿が亡くなり、領主ジェイマス公をはじめとする宮廷内は深い悲しみに包まれる。 そんな折に隣国のエグドリル王がその姪と共に訪れる。 彼は近年、勢力の拡大に熱心だったのだが…その実、王の後妻であるヤスミンの欲望の傀儡となっており、今回の訪問もエスファニアを我が物とする策略を秘めての事であった。 しかし、ジェイマス公の傍らには味方としてこの上なく頼もしい、賢くも気高い摂政ニフィの姿があった。 彼は老摂政が生前、公国の平安の為に残した秘策であり…マンガン卿ご自慢の飼い猫だった。
 作品の主人公はジェイマス公ですが、ニフィはそれはそれは頼もしく、彼が判断に悩む時には鳴き声で助言し、危機に陥った時にはその爪を武器に大活躍します。 そんな彼を主人公は慈しみ、存在に敬意と愛情を払います。 しかしまぁ、ニフィは猫らしく、そんな事に全く気を止める様子が無いのですケド…
 最初は謀略劇かと思ったのですが猫一匹のお陰で、むしろ喜劇的になってしまっているのがこの作品の面白い所ではないかと思う。 「猫は独立した一個の個性である」という言葉が端的に表すのでしょうが、舞台装置としては第3者的な視点から物語を眺めたり…無邪気にも隠された謎を簡単に解いてみせたりします。 軽く楽しめて割と好感触でした。

評価:B

 

魔法使いとリリス 著:シャロン・シン/中野善夫・訳(ハヤカワ文庫FT)

 老魔法使いシリルの弟子だった主人公オーブリイは、新たに変身魔法の権威グライレンドンに師事すべく彼のもとへと赴く。 ようやく館へとたどり着いた主人公だが、主は館を留守にしており、出迎えたのはその妻と思われる女性だった。 彼女…リリスとともに暮らしていくうちに、主人公の中で彼女への想いが膨らんで行きます。
 主人公は未熟でありながらも非凡な才能を持った人物として描かれ、最後は作品中でグライレンドンの下で学んだ彼の力がすべてを解決します…力ずくで。 こうしたロマンス系なお話でも主人公がヒロイックなのが今時のファンタジーなのだろうかなぁ〜? などと感じました。(…ま、多くは語るまい)
 さて、主人公がそんなのでも話は面白かった。 グライレンドンは妻を溺愛しますが、実際には自己満足を満たしているに過ぎず、リリス自身も彼を愛しておらず、むしろ隷属に近い感情を抱いています。 その秘密が明かされるに至る過程、主人公の立ち居振舞いが自然で、物語の緩急のつけ方は好感触だったと思います。 それにリリスは可愛い良い子だなぁ…とも感じました。
 ただ、最後がなぁ…何で戦うのかなぁ? この1点がどうしても好きになれません。
評価;B

 

  天より授かりしもの 著:アン・マキャフリー/赤尾秀子・訳(創元推理文庫)

 すべての人が天から何がしか得意な才能を「天賦(センス)」として授かり、それによって栄えている世界、とある王国のプリンセス・アナスターシアは自分の「天賦」が王宮内では不必要で下等な物と見なされる事に耐え切れず、王宮を抜け出して森の中でひっそりと暮らす決意をします。 そこで出会った自分と同じ境遇で、どこからか脱走して来たとおぼしき少年ウィスプの助けで、何とかつつましい生活を手に入れた2人でしたが、たまたま出掛けた街で事件が起こります。
 「だれも猫には気づかない」が思いのほか楽しかったので同じ著者の短編と言う事で購入してみました。 今回のは前にも増して短いお話です。 内容はメルヘンチックなロマンス物とでも言うのでしょうか。 可愛いお姫様が森で暮らす童話的なプロットでありながらも…少年ウィスプ、彼が本当に善人なのか、実は悪の存在なのか、その辺があやふやにしか描かれておらず、ちょっとだけ緊張感を盛り上げています。  しかしながら話が短すぎる。 感情移入する前に物語が終わっちゃいます。

評価:B

 

 騎士の息子 上・下(ファーシーアの一族・1) 著:ロビン・ボブ/鍛冶靖子・訳(創元推理文庫)

 <技>と呼ばれる不思議な能力を持つ王家が平穏の内に治める「六公国」。 しかし、外島人と呼ばれる周辺民族による沿岸地方の略奪は後を絶たず、公国は緩やかに疲弊して行く。 そんな中で、時の第一王子の私生児として生まれた主人公フィツツ(名前の由来は庶子の意)は、王の影として仕える存在に育てられ、否応無く公国内外の権力争いに巻き込まれていきます。
 最初、文字通りよくあるヒロイック系の物語との先入観を持っていたのですが、読み進んでいくとそうでない事に気付きます。 主人公には特殊な能力が確かにあるのですが、未熟さから使いこなせず、華々しく活躍する場面は数える程しかありません。 それに、敵の方が常に1枚上手に描かれており、危機的状況に追い込まれてしまう事もしばしばです。 主人公が必要以上に強くないので物語の展開を楽しめました。
 また、文体が常に主人公フィツツ自身の視点から語られる回想録として描かれている点も面白い試みで、主人公が見聞きした範囲しか描かれない為に、人間関係が厄介です。 誰が味方で、陰謀の糸をひいているのか、とか…主人公の推理も時に的外れで、先の展開を読み難くしています。 しかし、頼りないながらも周りの人間や動物達に助けられて力を尽くそうとする彼の姿は魅力的で、彼が今後の物語で少しでも報われて幸せになったらと思います。

 評価:B

 

  帝王の陰謀 上・下(ファーシーアの一族・2) 著:ロビン・ボブ/鍛冶靖子・訳(創元推理文庫)

 継ぎの王ヴェリティと婚姻する山の王国の王女を迎えに赴いたフィッツは、ヴェリティの地位に取って代わろうとする異母弟リーガル王子の陰謀で毒を盛られてしまう。 その企みを砕いたのも束の間、外島人の略奪は止む事を知らず、<技>の使い過ぎでヴェリティは疲弊し、一旦は陰謀の頓挫したリーガルも虎視眈々と次の謀略を巡らし、その成果は次第に実を結んで行くのだった。
 主に人間関係と会話が物語の多くを占め、その舞台が殆どバックキープ城内の出来事に限られるので、世界観の描写も何もあった物では無いのだが、城の外に平原と石造りの城下町と言う典型的な中世的世界が舞台として良いだろう。
…そして物語の感想だが、何とも恐ろしい謀略劇で読後の後味は非常に憂欝でした。 その主たる原因は仇敵「リーガル王子」の人物像で、単なる悪人の域から抜きん出て空恐ろしい物だった。 城中の下人・女中へは笑みをもって対して気を配るので人気が高く、国政の一端を任されて「兄の為、国の為」と献身を装っては増税し、兄の対外島人の軍事政策で財政が逼迫していると吹聴して権威を貶めながら影で蓄財に励んで放蕩生活を送り、最後にはリーガルを末子として寵愛した老齢の王をさえ薬によって正気を失わせて傀儡としてしまいます。  一見して無能な放蕩息子に見せながら着実にフィッツを窮地に陥れて行く彼の人物像は今まで読んだどんな悪役よりも酷い狡猾さと陰湿さを感じ、嫌悪感を隠せません。
 相変わらず辛く非情な運命に満ちた物語ですが、最終巻こそ…何とか幸せな展開になって欲しい物です。

評価:B

 

 真実の帰還 上・下(ファーシーアの一族・3) 著:ロビン・ボブ/鍛冶靖子・訳(創元推理文庫)

 僭王となったリーガルによって罪を負わされて逃亡を続けるフィッツは、かつて王国を救ったとされる伝説の「古き者」を求めて山中に消えたヴェリティの後を追います。 上巻ではひたすら孤独な逃亡を続け、下巻ではようやく出会った(あるいは再会した)仲間とヴェリティを求めての探索行を描きます。
 いよいよ完結編となるこのシリーズ。 上・下巻で趣は全く異なりますが…人間関係に苦悩し続けるフィッツの姿だけは一貫して悲壮感が漂っており、心の安住を得るのは物語の結末の後、エピローグだけと言っても良い位です。 また、この作品の見所は先読みの難しさに尽きます。 最初、敵は外島人「赤い船団」になるのだろうと予想したのですが、何時の間にかそれはリーガル王子が取って代わり…登場人物の素性や活躍なども意外な役回りが散りばめられています。 結末も意外な物で…とてもではありませんが大団円とは言えない内容でした。 そして、主要な人物は皆が何らかの「不幸」を抱えて結末を迎えます。
 あと…主人公フィッツも無論、多くの物を失うのですが…でもね、この人は王妃ケトリッケンや吟遊詩人のスターリングをはじめとする女性陣にモテモテなんですよ。 この人が内気で朴念仁で鈍感じゃなかったら、あるいはもっと幸福になれた気もします。 それが救いと言えばそうなのかも知れませんね。

評価:B

 

もしも願いがかなうなら  著:アン・マキャフリー / 赤尾秀子・訳(創元推理文庫)

 舞台となるのは近世ヨーロッパ、その片田舎のとある領邦。 そこは公正な領主エアスリー卿と、その妻レディ・タラリーによって平穏に治められていた。 ある日、サンディミン公の急使が訪れて近隣のエフェスター公に不穏な動きがあると伝えられます。 エアスリー卿は兵を募って出陣し、館にはレディ・タラリーとその子達が残され、村人達とともに苦難の日々を過ごす事になるのでした。
 物語はエアスリー卿の長女ティルザの視点で描かれます。 惹かれるのはレディ・タラリーの「母親」としての強さ…苦難の中でたった一つだけ彼女が最後まで譲らない信念の尊さ、それと彼女を信頼するティルザ達兄妹のけなげな姿でしょうか。 しかし、見所はそれだけで「小説」としてはいかにも短すぎ、物語の組み立ても単純…特に登場人物の少なさと視点の工夫の無さは致命的。 感情移入もままならずお話を堪能したかった身としては大いに不満が残った。 
 翻訳前は絵本か児童書だったのではないかな?と思いますが、どうせ文庫化するなら2〜3の短編を纏めた方がボリュームの点で良かったのではないだろうか?

評価:C

 

 チャリオンの影 上・下 著:L・M・ビジョルド/鍛冶靖子・訳(創元推理文庫)

 舞台は、中世のイベリア半島を思わせる半島に位置する国「チャリオン」 主人公 カザリル荘候は軍指揮官として戦いに望み、味方の裏切りで奴隷船生活を強いられて身も心もボロボロとなって帰国し、少年時代に仕えたバオシア藩太后を頼ります。 そこには病で療養中の前国太后とその子供達が滞在しており、藩太后は恐れを知らないお転婆に育ちつつある国姫イセーレの為、教養と権威を兼ね備えた教育係を求めてカザリルに白羽の矢を立てます。 そうして日々を過ごす内に姉弟はジロナル宰相の傀儡政権と化した宮廷へと上がる事となり、カザリルは次代の権力を狙った陰謀に対して孤立無援の戦いに臨む事になるのでした。
 「魔法」こそ存在しませんが、この世界に「神」は実在しており、人に宿っては「奇跡」を起こし、現実世界に影響力を行使できます。 その見えざる手によって、主人公達は危機的状況に陥っては「奇跡的な逆転」を繰り返します。 一見、「ご都合主義」に見える繰り返しに、物語の起伏はなだらかに感じてしまうのですが、そうして下巻を読み進んでいると、何気なく書かれたカザリルの悲痛な過去描写が終盤に決定的な伏線として浮上、そのシーンの唐突さは驚きと感動で思わず天を仰ぐ程の衝撃を味わいました。 このシーンを含め、事態が連続して急転する後半は…詰め込みすぎで描写が薄い気がするものの、飽きる事無く結末まで楽しむ事が出来ました。
 思慮深く機知に富み、時として豪胆という完璧な人格を備えた主人公が聡明で美しい令嬢の未来の為に苦難の道を歩む「殉教者の奇跡」的なこの物語をして読後に思ったのは、神話的(あるいは福音書的?)だなぁ〜と言う直感的な感想。 あとストレート過ぎる結末が…幸せ過ぎではありますが、カザリルの境遇を思えば、素直に喜ばしく思うべきでしょう。 
 …最後、敵の描写も気に入っています。 それはイセーレ姫を我が物にしようとするジロナル宰相の弟 ドンド。 この人物は聡明なイセーレ姫を一時は絶望の淵に追いやる程の劣情を野心に抱いており、エロゲ主人公を思わせる不気味な存在でした。「彼が勝った後の姫の境遇」を想像すると、ついつい劣情を掻き立てられてしまうがエロゲスキーにはちょっと堪らない訳ですな。 難を言えばジロナル宰相とドンドの存在感の差は気になるかも知れない。 下巻で主人公達を苦しめるジロナル宰相は、確かに一国を傀儡とする巨悪ですから格が違いますが、描写としては権力者として有能な面も描かれているので…ひたすら害悪でしかないドンドの方が遥かに憎たらしいんですよ。

評価:A

 

 

 

一番上へ