人狼

2000年公開作品


  押井守氏の描くケルベロスシリーズ初のアニメ版。終戦後の歩みを、我々の世界とは微妙に軌を異にするパラレル日本が舞台。ケルベロス世界では、学生紛争や左翼テロが我々の世界よりも遥かに激化しており、それを鎮圧し首都圏の治安を維持する為の「首都警」が設立された。そして、実際の暴動鎮圧に当たるのが、特殊強化服プロテクト・ギアに身を包み重火器で武装した「特機隊」、通称「ケルベロス」である。しかし、高度経済成長に伴い、ケルベロスの存在を疑問視する声が高まり、時代はケルベロスに背を向けた。ケルベロスは解散を阻止する為に、後に「ケルベロス騒乱」と呼ばれる武装蜂起を行うも結局は鎮圧され、幹部の一部は国外逃亡しケルベロスは歴史の舞台から消えた。これが、押井守氏が監督した実写映画『赤い眼鏡』『ケルベロス地獄の番犬』と藤原カムイ氏作画の漫画『犬狼伝説』で語られたストーリーである。「人狼」は前2作の実写映画より以前の、まだケルベロスが健在で社会の風当たりと戦っていた頃、「ケルベロス騒乱」の少し前あたりを舞台としている。

  本作「人狼」は前2作と異なりアニメであり、押井氏も脚本のみで監督は他に任せておりますが、やはり完成したフィルムは押井イズムが溢れておりました。そう、「パトレイバー1」ではなく「パトレイバー2」的な雰囲気が。初っ端から「特機隊」と、これを潰そうと画策する室戸文明率いる公安部との狐の化かしあいですからねぇ。ここら辺は、やはり漫画を読んでないと辛いところでありますな。全編に渡って「赤頭巾ちゃん」の物語がキーワードとして散りばめられていたのも独特の雰囲気を醸していました。これはヒロインの少女とケルベロス(狼)に所属する主人公を対比したものですね。60年代(?)の東京の街並を、主人公とヒロインの行動する過程でじっくりと描写していたのも、いかにも押井的な感じがしましたよ。安保闘争とかを知らない世代としましては、昔の学生運動を「ふ〜ん、こんな感じだったの〜」と疑似体験出来るという側面もありますね。
  この世界は、そもそも第ニ次大戦自体が独伊枢軸対日英同盟の戦いだったそうで。アメリカはモンロー主義で静観。(笑)  で、日英同盟側が負けちゃって、ドイツに日本は占領されて、ようやく独立を果たしたけど朝鮮戦争とかが起きないんで経済的に現実より苦しいという事みたいです。だからプロテクト・ギアがドイツ軍の分隊支援火器であったMG42を振り回している訳ですな。
  ケルベロスとなると、やはりプロテクト・ギアの活躍が期待されるところですが、物語の冒頭と最後の方のクライマックスで活躍シーンが存分にあり、満足できました。テロリストに向かってMG42をブッ放すシーンが凄かったです。テロリストは何発も銃弾を喰らいつつ、踊りながら死んでいくし〜。あれって、途中からは死体を撃っている様なものですよね。(^^;) プロテクト・ギアのデザインは、前2作と漫画、そして本作と悉くデザインが異なっておりますが、真っ赤なビノキュラーは共通ですね。闇に浮かぶ赤い眼鏡を見たテロリストどもは生きた心地がしなかった事でしょう。それにしても、プロテクト・ギアの耐弾性は予想以上でしたわ。(^^) クライマックスの地下下水道内の公安部との戦闘で、マシンガンの銃撃をあれだけバシバシ多量に喰らっているのにピンピンしているとは! 大体舞台は60年代ぐらいを想定していると思われますが、プロテクト・ギアだけ凄くオーバーテクノロジーですね。(^^;) つ〜か、こんなに強い連中をよく公安部は倒す事が出来たものです。あんましプロテクト・ギア活躍シーンは物語の主題では無く、もっとしんみりとしたシーンが主題なので、こういうシーンがお目当てで来てる客は監督の意図せざるところなのでしょうが(爆)。

  結局主人公がヒロインを殺しちゃった訳ですが、正直「女を守ってやれよ!」と思いましたよ。プロテクト・ギアの力をもってすれば、女の盾となりつつ国外脱出あたりまでやってのけそうな気がするんですけどね。実際のところ、あの女の死は無駄死にです。結局はスキャンダル云々に関わらず、「特機隊」は公安部に倒されてしまいましたからね。所詮「特機隊」を多少延命させたに過ぎません。ここら辺まで考えると、非常に無常観が漂います。
  作画は意図的に影を少なくしていましたが、同じコンセプトのVガンダムと違って、作画がヘボいとは感じないのが不思議です。これは、Vガンダムと違ってキャラクターデザインがアニメアニメしていないから、という部分が大きいと思います。ま、やたら登場人物の肌が白いのは演出とはいえ変な感じでしたが。(^.^;)

  私としては、結構面白いけど苦い味わいの残る作品でありました。どう贔屓目にみても王道ではなく奇道に位置する作品ですから、万人にお薦めできるものではありませんが、余裕があればレンタルビデオで一度観てみてください。何か感じるものがあるはずですから。DVDは高過ぎですが。(爆)


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