アヴァロン

2001年公開作品


  押井守監督久々の実写作品。「ケルベロス 地獄の番犬」以来約10年ぶり。

  喪われた近未来。現実への失望を埋め合わせるべく、若者たちは仮想戦闘ゲームに熱中していた。その見返りとしての興奮と報酬は多くの若者を熱狂させ、パーティと称する非合法集団の群れと無数のゲームフリークスを出現させた。時に脳を破壊され、未帰還者と呼ばれる廃人を生み出す危険なゲーム。人々はこのゲームを英雄の眠る場所<アヴァロン>と呼んだ。
  主人公のアッシュは、孤高の女戦士として注目されるソロプレイヤー。日々架空の戦場で戦い続ける彼女は、かつて所属していたパーティ「ウィザード」の仲間であったスタンナから、リーダーであったマーフィーが未帰還者となった事を知らされる。彼は最終フィールド・クラスAを超えた幻のフィールドと噂されているクラスSAを探求しており、ついにクラスSAへのアクセスに成功したものの、戻ってくる事が出来なくなったというのだ。果たして、クラスSAは実在するのか? そしてその先には何があるのか? アッシュもまた、クラスSAの謎に挑む。


  私としては、見に行った甲斐のある作品でした。
  押井守の実写作品としては非常に高い完成度でしたし、実際なかなか先進的な演出も多かったと思いますね。爆炎が横から見たら2Dの書き割りだったり、人間が2D化して砕け散ったり(スプライトのイメージか?)とか。逆に言えば、あの一般人置いてきぼりの押井色というものは薄かった気がしますが。そこら辺はいつもの押井色を期待していた人には物足りなかったかもしれませんね。
  「全ての映画はアニメになる」でしたっけ? 以前観たSWエピソード1なども含めて、確かにその通りであるなと思いましたよ。
言えるのは、「押井監督作品でも白人を使えば洋画っぽくなる」という事でしょう。散々「実写の方はツマラン」と言われていた、押井守の実写作品の定説を覆したんじゃないでしょうか。

  テーマに関して私としては、「逆マトリックス」という印象を受けました。マトリックスがバーチャルリアリティの世界じゃいかん。現実に帰れ!という話に対して、アヴァロンは現実が良ろしくないんだからさぁ、理想のバーチャルリアリティー空間を現実としちゃえば良いじゃん、という話だと解釈しましたぞよ。もっとも、最後に主人公がゴーストに対して引き金を引いたかによって解釈が多少変わってきますが。あの少女を撃てばコンプリートで現実世界に戻るのでしょうし、撃つのを止めれば読み心地の良い仮想空間に安住できる代わりに、また現実世界から別の刺客が送り込まれて来る事になるのでしょうね。

  もっとも、マーフィーがアッシュに対して言った「お前の名前の由来である髪のメッシュはどうした?」というセリフから、現実と思われていたセピア調の世界もまた電脳空間であり、本当の現実は全く出てきていないという解釈も成り立ちますわな。その場合は、この映画全てが荒巻義雄の「要塞シリーズ」における電脳遊戯天体グロブローみたいなものだと解釈すべきでしょうか。あと、アッシュの飼い犬がどうやって脱走したかも謎ですしねぇ〜。(^^;
  カラーの世界が本当の現実世界であるという解釈も可能ですが、実際のワルシャワでは大学とあのコンサートホールは全然違う場所にあるそうですので、やはりあれも仮想空間だと思われます。

  画像の演出は力が入ってました。殆どのシーンにデジタルで修正が加えられており、なんとなくファンタジックな印象を受けます。後半のカラーの部分は問題無いんですけど、前半のセピア調世界の部分はDVDでの再現が難しいかも。特に、あの窓の光が滲んでいる部分とか……。こうなるとLDの出番かもしれませんね。
  犬主義を標榜する押井監督らしく、犬がキーパーソンとして登場したのは微笑ましかったです。あぁいう耳がダラリと垂れ下がった貧相(失礼!)な犬が登場するのは、押井作品でも初めての様な気がするんですが、そこら辺はどうなんでしょう。

  メカニックは流石にポーランド軍の協力を受けているだけあり、実車がゾロゾロ出てきて非常にリアルで良かったです。
  冒頭でアッシュが対戦したクラスAのラスボスのヘリだけは、フルCGの為CGである事がまる解りでしたが。(笑)  このヘリはハウンドではなく、オリジナルの「ブラン」というヘリだそうです。あのCGっぽさはわざとではなく、単なる予算の限界の様な気がするのですが、真相やいかに?  ゴースト出現直前に出てきたオリジナルの大型多砲塔戦車も、なかなかアナクロチックな面白いデザインでしたな。あれはガンヘッドをなんとなく連想してしまいました。

  悪い点といえば、前半にあったバンクシーンがタルかったですねぇ。これはもうちょっと後に、回想シーン的なものも兼ねてやれば良よかった様に思いますね。あと、スタンナが飯を手掴みで喰うのをアップで写すのには閉口しました。(^^;)  いやあの場合手掴みでも何の問題も無いのですけど、口をアップで映すなよ〜。


  ゲームが舞台という事で、実在のコンピューターゲームからの引用が色々あるのも、判る人には面白いところ。
  ビショップのレベル上げる経験値はファイターの2倍とか、NPCにマカニトとかバディとか名前をつけるのは、ウィザードリーが元ネタです。私はウィズはやった事が無いんで、知り合いに教えられるまでさっぱり気が付きませんでした。(汗)  いや〜ここら辺世代を感じるっつ〜かなんつ〜か。PK(プレイヤーキラー)なんてのは、ウルティマオンラインなどネットゲームがモチーフの様ですな。スタンナとマーフィーの関係なんかは、ネットゲーマー同士の友情をイメージしたものの様に感じられました。


  音楽はワルシャワ・フィルが担当しており、かなり良かったです。流石はワルシャワ・フィル。作曲の川井憲次も相変わらず良い仕事してますね。「ア〜ヴァ〜ロ〜ン♪」とタイトルを連呼する主題歌が、確かにアニメ的でありますな。これで日本語の歌詞に、「喰らえ必殺対戦車ロケット〜♪」なんてのがあればよりアニメ的で完璧なんですがね。(笑)


  続編ではアヴァロンを運営する会社が遂に姿を現し、その陰謀に対して主人公達が奮闘する物語になるんでしょうな。ってそりゃ無理過ぎか。(^^;)  

  万人向けでは無いところは相変わらずですが、私としては一度ビデオレンタルなどで視聴をお薦めしたいところです。多分地上派だと深夜でしかやりそうにない気がします。(^^;

  それにしても、ネットゲームやって金を稼げるってのは良いですね。これで廃人になる危険性とかが無ければ完璧じゃん!(笑)
  どっかクリアすると賞金がでるネットゲームを、出してくれないものですかね〜。




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