毎年11月から1月にかけて、対馬沖には中国、韓国、北朝鮮、ロシアの漁船が漁のために集結する。とくに圧感なのは時化を避けて対馬沖に集結する中国漁船団である。黒船が対馬沖に何十隻も停泊している様はまさに黒船襲来を思わせる。不気味な様相である。そして、この大漁船団はさまざまな病気とけがでいづはら病院に担ぎ込まれるのである。急性腹症、大腿骨骨折、腹部損傷、急性虫垂炎、顔面骨折などありとあらゆる重症疾患がやってくる。多い月は1カ月に15人くらい入院という月もあったようだ。眼科も例外なく眼球破裂がやってきた。虹彩、水晶体脱出である。角膜縫合、水晶体吸引で入院。スタッフとのやりとりはもちろん中国語?である。筆談が始まる。中国語の通訳が福岡から来るのだが常時いるわけではないのでなかなか難しい。中国からの留学看護婦さんが対馬いづはら病院にいたころ勉強していたので、北京語は簡単な会話はある程度わかるのだが、四声が難しくこちらの発音を聞き取ってもらえない。もどかしさを感じていた。漁船員の治療費は中国政府が最終的には出すのだが、こちらに長くとどまることは許されない。物価が全然違うのだ。これだけの治療費は漁船員の給料の何年分かという話を聞くとうなづける。国境の島対馬はまさに国境で生きている。
根緒の漁り火 |