その日は暑い8月の夏の一日だった。黒島という砂浜の美しい無人島に院内で海水浴に行くことになった。ちいさな離島の病院は職員同士の結びつきが非常に強い。また、娯楽設備の少ない島にあって、夏の海水浴は家族にとっては数少ない楽しみの一つなのである。
美津島町の樽ヶ浜という港から船に乗って20分も行くとその島はある。私はこの美しい島に一度行ってみたいとずっと思っていた。対馬の展望台に登ると東の日本海の中にぽっかりと浮かんでいる。島の形は一度見ると忘れられないものだ。黒島はお魚が半分顔を出したような形をしている。人魚が横たわっているようにも見える。砂浜の海岸が少ない対馬の中にあって、その島はすごく砂浜のきれいな島である。ただ対馬本島と陸続きでない離島の中の離島である。それだけに海の透明度が違う。夏の日差しは強かったが海水は火照った体を冷やしてくれる。看護婦さんや技師さんや事務職員みんなが仲間だった。夏のそして最初で最後の黒島の一日だった。
浅茅湾 |