その18 漂流死体


 

 朝鮮半島から吹きつける風が体に身にしみる。海上保安庁からの連絡で水死体が海上で発見され港に陸あげされたという。私は病院から厳原港の岸壁に向かう。そこには漁船員らしい男性の腐乱死体が横たわっていた。死体のまわりにはおびただしい線香の数。しかし、この異臭はたまらない。死体に近づくだけでこみあげてくる吐き気。息をするだけでもどしそうになる。顔の肉は魚に食いちぎられたのか頭蓋骨が見えている。目玉は最初にやられたようだ。両眼とも無い。体は水分を吸って膨化している。だれなのか判別はつかないが男性であることは間違いないようだ。ボロボロになった服にはハングル語が書いてある。おそらく韓国の漁船員であろう。対馬近海で操業中に遭難したのであろうか。

 しかし、私はたまらない異臭のなかで、とにかく一刻も早く現場を立ち去りたかった。病院に帰ってくるとその匂いはみんなが顔をそむけるくらいだった。この匂いはいつとれるのだろうか。不安になりながらシャワーを浴びた。国境の島対馬では外国漁船員の遭難は日常茶飯事のことである。



厳原港