当直の夜である。いつものように、深夜に呼び出されて病院へ向かう。眠い目をこすりつつ。見ると玄関に高級外車が停まっている。外来では悪名高いやーさんが腹の具合が悪いと言って座っている。このやーさんは、若い頃は元気で、入院中に日本刀を隠し持っていたこともある。診察すると上腹部に圧痛がある。酒(ヤク)を常用している慢性膵炎のようだ。しかし、医師や看護婦いじめで有名なのだ。眠いにも関わらず、彼を説得するのには1時間という時間をかけなければならなかった。彼の血管は動脈硬化が進み点滴がなかなか入らない。点滴に失敗すると何と言われるかわからない。ということで誰も関わりたくないのである。彼の言い分を充分聞いてあげることで彼の満足感が得られ、治療開始となる。私にとってはこういう苦い思い出も初めて経験することであった。
別の夜、これは10時頃だった。小指を切り落としたやーさんが来ている。見ると、中指、薬指も第二関節から先がない。反対の手の小指もないのである。指の先の骨を削って断端形成をやる。整形外科医のいないこの島では眼科医である私がこういうことをやっているのだ。医療の難しさを感じた。
和多津美神社 |