ある夏の夜だった。美津島町根緒から小舟に乗り、イカ釣りに出かけた。疑似餌を仕掛けて、対馬の東海岸に出た。他の船の漁り火が明るい。疑似餌を引くと面白いようにイカがかかる。時には墨を吐く。注意しないと墨がかかる。つりあげたばかりのイカは透明だ。体の模様がすばやく変わって面白い。青い血液が流れている。しかし、あんまり夢中になっていると船酔いで気分が悪くなってくる。外洋はやはり波が高い。浅茅湾のようにはいかない。慣れの問題だろうが、いったん船に乗ったらなかなか帰れないのがつらい。とぜいたくなことを言っていた。釣り上げたばかりのイカの刺身はこたえられない。醤油をつけて口の中にチュルチュルと放り込む。対馬では何がおいしいといって、この、イカの新鮮な味は忘れられない。
小綱の夕日 |