母の白内障手術


 諌早の実家の母が、物が見えにくいといって、当院で診察したのは昨年の夏だった。軽い老人性白内障があり、両眼の矯正視力は0.7であった。

 最近、少し見えにくくなったということで、白内障手術の計画をしたのが今年の3月頃だったが、延び延びになって、ようやく6月30日に来福することになった。白内障とはいえ、視力0.7である。しかも自分の母親であるから、緊張しない方がおかしい。私は、母親といえども特別扱いはしなかった。普通に接することで、平常心を保とうとした。心のどこかの緊張感は見えないプレッシャーとなって表れる。特別に手術器械や手術材料を代えたりとかはない。いつものような方法で、いつものような手術であった。

 手術は点眼麻酔のみで何事もなく簡単に終わった。術後視力は0.9であった。それまで、心のどこかに引っかかっていた見えないプレッシャーはほんの数分の手術の終了とともに、去っていった。

 この経験は私にとってもちろん初めての経験であったが、私の手術に自信を持つ経験になったことは確かである。だが逆に言えば、外科医は自分の母親の手術ができて一人前なのかもしれない。ようやく私も一人前になれたのかもしれない。だが、これはあくまで通過点である。まだまだ、困難な症例に遭遇するであろうと、1000例以上の白内障手術経験を持っていても、白内障手術は難しいと感じている。





[HOME][INDEXへ][次のページへ]