YOMODA YASHIKI





◆2012年バニー誕生祝い小説◆
最初漫画で描こうと思ったネタですが、時間的に10/31中にUPできそうになかったのでSSにしたものです。
一気に書き上げてろくに校正してませんが、たまにはこんなのもいいかな、と。
とにもかくにも、バニーちゃん、○回目の誕生日おめでとう!!


僕の人生最良の日






今日は僕の二十九回目の誕生日だ。
TV、イベント、取材中、ありとあらゆる場所で僕の誕生祝いのサプライズが設けられ、その度にしらじらしく驚いて喜んで見せて、やっとすべての仕事を終えて恋人と二人っきりになったというのに、その恋人が今、とてもつれない。
僕の恋人はワイルドタイガー、かの人だ。
僕の相棒で、僕のすべて。
必死でくどき落として恋人になってもらって、ありとあらゆる戦略を使って、なし崩し的に同棲まで持ち込んだ。
そして、僕はこれまでことあるごとに求婚しまくっているのだが、のらりくらりとかわされ続け、約二年間、僕達は恋人同士という関係を続けている。
その恋人が、僕の誕生日だというのに冷たい。
いや、冷たいというよりは、まるっきり関心を持ってくれてないというのが正しい。
今日が僕の誕生日だなんて、この人の頭の中からすっぽりと抜け落ちているに違いないのだ。


「なーんであんな男がいいんだよっ!」
 はい、その言葉、今日十七回目です。
「楓には早すぎるっ!早すぎるんだって!」
 その言葉は二十一回目…かな?
「なんでパパの言ってること、わかってくれないんだよ〜、楓えぇ〜っ!」
 虎徹さんはソファーに置いてあるクッションに顔を押し付けて、ついに本気で泣き始めてしまった。
 リビングのテーブルには、楓ちゃんと黒髪の少年が仲良くツーショットで映っている写真が一枚と、二枚の可愛らしい苺柄の手紙が置かれている。
その手紙には、『彼が私の彼氏だよー。林間学校で二人で撮った写真同封するね。けっこうイケメンでしょ?』と、楓ちゃんの丸っこい文字で書かれてあった。
 この手紙を読んだ途端、虎徹さんはすごい剣幕で楓ちゃんに電話をかけ、「男と付き合うなんて早すぎる!」「別れろ!」「こんな男、絶対に許さん!」と喚きたて、「せっかくお父さんにも紹介しようと思ったのに、お父さんの馬鹿!」と、楓ちゃんの盛大な怒りを買ってしまったのだ。
 あきれた親馬鹿だが仕方がない。
 虎徹さんの普段の溺愛ぶりを見れば、こうなるのは当然だと誰もが想像がつくだろう。
 そのことをあの賢い楓ちゃんが気がつかないわけがない。
きっとこれはあえてボーイフレンドができたと報せることで、虎徹さんの子離れを促そうとしたのではないかと僕は思っている。
 なら僕は当然、楓ちゃんの味方だ。
「楓ちゃんも十三歳になったんでしょう?もうお年頃だ。
だったらボーイフレンドの一人や二人いてもおかしくないじゃないですか」
「何言ってんだよ!まだ中学生なんだぞ?子供だぞ?
ボーイフレンドなんて必要ない!絶対ない!」
ムキになる虎徹さんは可愛いが、言ってることは昔の頑固親父そのものだ。
「…古いな…」
「あ、お前、今、なつかしくて嫌な言葉使ったろ?」
「聞き違いでしょう。
それより、あなたがそこでいくら怒っても楓ちゃんの気持ちは変わりませんよ。
むしろ反対されれば反対されるほど、ロミオとジュリエットのように気持ちが盛り上がってしまうかもしれない。逆効果だとは思いませんか?
この場合は大人として静かに見守ってあげるべきでしょう」
「見守れるか!男だぞ?楓に男ができたんだぞ?!」
 くどい。堂々巡りだ。
「いいじゃないですか。今回のことは将来の予行練習だと思えば。
 楓ちゃんだっていつかお嫁に行ってしまうんですよ?
いつ彼女が未来の旦那様を連れてくるかわからないんだから、今のうちにそういうことにも慣れておいてください」
 僕が冷静にそう云うと、虎徹さんは半べそをかいた状態で反論した。
「お、おまーなっ!
バニーは人の娘のことだと思って、そんな簡単に言うけどなっ!」
「僕だって楓ちゃんのことを我が子のように可愛く思っていますよ。まぁ、我が子というより歳の離れた可愛い妹ってカンジではありますが」
「いいや!お前は肝心なこと、全然わかってない!」
 虎徹さんはそう云うと、僕に向かって最近では見たこともない真剣な表情でこう言った。
「いいか、たしかにボーイフレンド……ただの友達なら俺だってべつにかまわないんだ…。
けどな、そいつが将来、本当に楓の恋人になったとしたら…!」
「なったとしたら?それがどうかしたんですか?
彼がとてもいい青年なら、そのまま旦那さんになったってかまわないですよね?」
僕は半分馬鹿にしたようにそう言ったのだが、次に虎徹さんが発した言葉に、とてつもない衝撃を受けてしまった。

「バッカ、だからお前はわかってないって言ってるんだよ!
恋人や旦那ってのはアレだぞ?
お前が俺に毎日やってるようなこと、その男が楓にするってことなんだぞ?
楓が、俺がお前にするようなことをだな…っ!」

バン!
 虎徹さんが最後まで言わないうちに、僕は玄関のドアを開けていた。
「おい、バニー!
お前、こんな夜中にどこ行く気だ?」
 虎徹さんが慌てて僕の身体を羽交い絞めにして、僕が外に飛び出すのを止めた。
 僕は後ろを振り返り、ひきつった顔で笑う。
「……ふっ、決まってるじゃないですか。今からその小僧の息の根を止めに行くんですよ…」
 オリエンタルタウンまでなら、ハンドレットパワーを三回ほど使えば着くだろう。
 これが放っておけるものか…!
 僕の可愛い天使虎徹さんの愛娘、愛くるしく可憐なあの楓ちゃんに、僕が虎徹さんにするような、あーんなことやこーんなことを、あんな淫らなことから人には言えないようなことまで、あの写真の乳臭いガキがやろうとするだなんて、断じて!断じて許せない…っ!!
将来の禍根になるような者は、今のうちにさっさと排除しておかねば…っ!
「落ち着け、バニー!ヒーローが人殺しなんかしちゃいけない!」
「大丈夫です、殺しはしません。軽く蹴りを一発脳天にお見舞いするだけです!」
「だから、お前の蹴りは普通の人間にやっちゃダメなんだって!いいから戻れ!」
 それからも玄関でバタバタとひと悶着あって、僕は少しだけ冷静になってソファーに座った。
大きく深い溜息をついて心を落ち着かせる。
「…僕は、とんでもない勘違いをしていました…!
 楓ちゃんには将来結婚もしてほしくない…っ!」
「バニー、やっと俺の気持ちをわかってくれたか…!」
 虎徹さんは、僕をしっかと抱きしめてくれた。
 今この瞬間、親馬鹿が二人になっただけかもしれないが、男親とはこういうものなのだ。ようやく僕も本当の親の気持ちが理解できた。
一人娘の結婚を男親が反対するのは自然の摂理だ。太陽が東から登って西に沈むのと同じ原理なのだ。
 僕がまだ怒りに身体を震わせていると、いつの間にか虎徹さんが僕の目の前にチャーハンを置いてくれていた。
「もう晩飯食っただろうけど、もしまだ腹すいてるならそれ食えよ。いつもの炒飯で悪いけどな」
「ありがとうございます…」
実は僕は、誕生日である今日中に虎徹さんの手料理を食べたいばかりに、午後から出された御馳走やケーキにはほとんど手をつけなかったのだ。
その美味しそうな匂いだけでごくりと喉が鳴る。
「いただきます…!」
虎徹さんのチャーハンはいつ食べても美味しい。どこの中華料理店にもひけをとらない。
僕はバクバクとそれを一気にたいらげてしまった。
こんな美味しい手料理を恋人に食べさせてもらったのだ。(たとえ一年の食事の内、三分の一がチャーハンだったとしても)今日の誕生日は最良の日だ。
僕が満足して御馳走さまのキスを虎徹さんの頬にすると、虎徹さんも軽く頬に返してくれた。
こういう風に自然に返してくれるようになるまで一年かかったのだ。本当にオリエンタルタウン育ちは奥ゆかしすぎる。そんなところも愛しいから、全然かまわないのだけど。
「本当はさ…ケーキとか買っておこうかとも思ったんだけど、お前、甘いのあんま好きじゃねえし、今日はよそでたくさん食っただろうから…」
「虎徹さん…!」
今日が僕の誕生日だと覚えてくれていたのか…!
てっきり忘れてしまっていると思ったのに。
「嬉しいです…っ!」
僕が感極まって抱きしめると、虎徹さんは腕の中でもごもごと動いて文句を言った。
「お前もしかして、俺がお前の誕生日忘れてると思ったのか?いくらなんでも俺はそこまで薄情じゃねえぞ。
そりゃ今日は楓のことに動揺して御馳走作りそこなっちまったけど、材料だけは買っといたんだ」
そう言われてキッチンの方を見ると、たしかにいつもよりたくさんの食材が並べてあった。料理をする前に楓ちゃんの手紙を読んで、すっかり忘れてしまったのだろう。
「明日、あの材料を使って料理してくれますか?」
「ああ、任しとけ!
 今日の分、しっかりやり直すからな!」
僕はまたもたまらない気持ちになった。この人は僕を幸せにする天才だ。
嬉しくてぎゅうぎゅうと抱きしめると、虎徹さんが優しく僕を抱きしめ返してくれた。
そして、静かにこう云った。
「楓のこともな……本当はわかってんだ。
あいつがいつまでも子供ではいてくれないことくらい…」
「虎徹さん、今日はそのことはもう…」
虎徹さんにこれ以上寂しい気持ちになってほしくない。
僕が慌ててそう言うと、虎徹さんは僕の唇に指を当てて、困ったように笑った。
「だいたい楓も楓だよな。
俺に紹介するのなら、もっといい男つかまえてからにしろってんだ」
そうして、僕の頬をゆっくりと撫でてこう云った。
「俺の兎ちゃんくらいイケメンで、カッコが良くて、頭が良くて、抜群に強くて、甲斐性があって、真面目な男じゃねえと、楓にはつり合わねえよな…」
 僕は、虎徹さんの唇に軽くキスを落とした。
 虎徹さんが照れもしないでこんな風に僕のことを褒めてくれるなんて、今日の誕生日は最高すぎる。
「そんな理由だと、僕しか楓ちゃんの相手は務まりませんよ。
でもあいにく、僕はあなたしか目に入らない」
「バーカ、お前にだって楓はやらねえよ!もったいねえ!」
「ひどいな、こんなにいい男なのに」
そんなことを言いながら二人で抱き合ってしばらく笑っていると、僕の腕の中で虎徹さんがポツリとこんな言葉を零した。
「ありがとうな……楓」
 そうして、僕を見上げて悪戯っ子のように笑ってこう云った。
「バニー、お前、楓の手紙、最後まで読んだ?」
「え?いえ、一枚目の途中までしか…」
 読んでる途中で虎徹さんが楓ちゃんに怒涛のごとく電話をし始めたから、それどころではなかったのだ。
「一番最後の行、読んでみてくれ」
そう言って虎徹さんは楓ちゃんの手紙を僕に手渡した。


『P.S
だからお父さん、私のことは心配しないで、バーナビーさんと幸せになってね!』



「……!」
 僕が言葉を失っていると、虎徹さんが僕の方を向いて、優しく微笑んだ。
「どうやら娘からもお許しが出たみたいだから、俺も踏ん切りがついた。
結婚してくれ、バーナビー。
お前のプロポーズは、今でも有効か?」

「―――もちろん…!」


こうして、僕の二十九回目の誕生日は、これまでの人生で最良の日となったのだ。




Happy Birthday!!