YOMODA YASHIKI






「――で、バニーちゃん。なんでまたこういう体勢になってんのかな?俺、着替えの途中だったんだけど…」
俺は今、またもやロッカールームの壁に押さえつけられている。本日二度目だ。
Tシャツを脱いだ後で上半身裸になっているから、壁に直についた背中がちょっと冷たい。
目の前のハンサムは申し訳なさそうに、だが、まるでそれはやむを得ないことのように言い訳をした。
「…すみません。でも、今日の虎徹さん、あまりにも色っぽすぎるから、我慢も限界で…」
それ、昼間も言ってたよなぁ。なんでそんなバカみたいな嘘をつくんだか…。おっさんに『色っぽい』とか言うことが、褒めてることだと勘違いしてるんだな、こいつ。
「ね、キスだけ…、キスだけでかまいませんから…」
「馬鹿なこと言ってないで、離せ……んっ!」
バニーは有無を言わせず俺の唇を塞いだ。
ねろりと口の中に舌が入り込むだけで、ぞくっとする。舌を絡み取られ、ちゅっと吸い上げられただけで、身体の熱が瞬時に上がった。
バニーは、ちゅくちゅくと、わざと音を立てるように口づけて、熱い身体をぴったりと密着させる。押し当てられた性器が擦れるだけで感じてしまう。バニーの舌に蹂躙されている口の中すべてが、たまらなく気持ちいい。
……駄目だ、今日は身体が昂ぶるのが早すぎる。
「だ、めだって、言ってるだろ…っ!」
俺は慌ててバニーの顔を押しのけるが、すでに腕の力が弱くなっていた。
「そんないやらしい顔をして駄目だと言われても、説得力ありませんよ、虎徹さん」
いやらしい顔って、どんな顔だよ!
反論しようと睨みつけると、バニーがにやりと男臭い感じで笑った。こいつは最近たまに、こんな顔を見せるようになった。その度、ドキリとしてしまう。
「『そんな顔なんてしてない』って言いたいんでしょう?
今度、鏡に映して、自分の目で確かめてみますか?きっと驚きますよ。
ああ、いいですね、そんなプレイも…。早いうちに大きめの鏡を買っておきますね」
「バカッ!変態っ!絶対そんなことすんなよ!」
俺が何と言おうと、こいつはこういうことは必ず実行するから嫌なんだ。近いうちにバニーのマンションに、でかい鏡が運び込まれるに違いない。
「そんな変態に触られて、こんな風になってる虎徹さんだって、変態なんじゃないですか?」
「…あ…っ」
バニーが俺の下着の中に直接手を入れて、勃ちあがったペニスをするすると撫で摩る。
「…は…っ、やめ…ろっ!
お前っ、キスだけって言ってたくせに…っ」
「本当にやめていいんですか?キスだけでここをこんなに大きくして…ずいぶんと身体もいやらしいんですね…」
まるでAV男優のような陳腐な台詞を言われても、冷めるどころか余計に興奮して感じてしまうのは、惚れた弱みというものだろうか?
「バ…カ、ここ、どこだと……んっ」
「ロッカールームです。でも、皆さん、あと一時間くらいはトレーニングしてますよ」
「折紙…とか…っ、後で、来るかも…っ」
「先輩は、今日はアカデミーの方に用があるから来れないって昨日言ってたでしょ?」
バニーはそう話しながら、俺のペニスを根元から先端まで緩急をつけて擦り上げる。時折、裏筋を指でくすぐったり、陰嚢を柔らかく揉んだりして変化をつけるため、あっと云う間に俺の分身は硬くガチガチになってしまった。
「うっ…、あっ」
亀頭部分を指の腹で円を描くように擦られると、身体が震えて、思わず声が出そうになった。慌てて自分で口を覆ったが、完全には抑えきれず、息が漏れたような声が部屋に響く。
「…ふっ、…んぅっ、…んっ」
「虎徹さん……可愛い…」
バニーにそう言われて、知らないうちに腰を揺らめかしている自分に気がついて恥ずかしくなる。
何をこんなとこで立ったまま、マジに感じてるんだよ!さっさと止めないと、誰かに見られでもしたらどうする気だ?
俺は冷静になり、慌ててバニーの身体をどけようとした。
「も…っ、離せっ、出たらマズイだろ…っ!」
「遠慮しないでイってください」
冗談じゃない!こんなところで出したりなんかしたら、絶対後で「イカ臭い」って、ネイサンにバレちまうじゃないか!
「こ…のままじゃ、部屋が、汚れる…っ!」
「じゃあ、ゴムをつければいいですよね」
「ゴムなんか持ってないぞ…っ」
バニーは下半身の愛撫を続けながら、もう片方の手でトレーニングパンツのポケットから、コンドームと携帯用のローションを取り出した。
「お前…っ!」
俺は開いた口が塞がらなかった。そんなものを用意してたのか。最初からやる気満々だったんじゃないか!
バニーは手早く俺のペニスと自分のものにゴムを被せる。元々手先が器用なのか、こんなことまで手際がいい。
「ゴムをつけちゃうと舐めてもおいしくないから、このまま手だけでしたのでいいですか?」
「………」
そんなこと、俺に聞くんじゃない。答えられるわけがないだろう。こんなところで手で擦られるのも舐められるのも嫌だけど、このまま放置されるのはもっと嫌かもしれない。
「でも、虎徹さん、最近、手だけだとイくの、遅いんですよね。刺激が足りないのかな?」
そう言って陰茎への愛撫を続けながら、口づける。
「…んんっ…」
やっぱりこいつとのキスは、何度しても気持ちがいい。唇を合わせただけで蕩けるような気分になる。
俺が口づけに酔っている間に、バニーの手が、俺の胸をゆっくりと撫でた。
「いっ…!」
小さな突起をするっと触れられただけだというのに、鋭く刺すような痛みと、小さな快感に襲われる。
「いた…痛いっ、そこ、やめ…っ」
「赤くなってますね…少し触っただけでも痛い?」
「ん…。ヒリヒリする」
「昨日いじめすぎましたね。…舐めたら少しは治るかな?」
「治るわけ、な…っ!あ…っ!」
お前、『傷は舐めたら治る』というオリエンタルタウンの迷信を馬鹿にしてたくせに、こんな時ばかり都合よく使うんじゃない!
「あ、バニー、…だめ…っ、吸うなって…痛いっ」
「ここ、ずっとこんな風に立てたままだったんですか?乳輪まで膨れてる……本当にあなたはいやらしいな…」
「バッ、バカ!お前がしつこくしたから腫れてるだけ…っ!…あうっ、あ、…っ!」
バニーが舐め続ける乳首が、じんじんと熱を持ち、ひりつくように痛む。痛いのに気持ちがいい。いや、痛いから気持ちがいいのだろうか?
俺はバニーに抱かれるようになってから、それまで知らなかった扉をたくさん開けてしまった気がする。
バニーの舌と指に執拗に胸の尖りと陰部を弄られて、俺はすっかり息が上がっていた。
「バニ…、もう…っ」
「イっていいんですよ?まだイけませんか?」
擦られ続けたペニスは限界まで大きくなっている。イきたい…でも、このままではイけない。
バニーの言う通り、最近の俺は、イきにくくなっているのだ。
若くもないのに昨日から何度も射精しているのだから、少しくらい遅くても仕方がないと思うが、きっとそれだけではない。自覚したくなかったが、このくらいではまだ、決定的なモノが足りないのだ。
「……はぁっ、…ふっ、う」
「やっぱりあなた、後ろの刺激がないと、もうイけなくなっちゃったんですね…」
かあっと顔が赤くなる。わかってたけど、そんなことはっきり言うなよ、バカ!バカ兎!
いや、照れてる場合じゃない。このままロッカールームで本番だなんて冗談じゃないぞ!
「おい!まさかこんな所で、本気で入れるつもりじゃないだろうな?
やめろよ!ただでさえケツが痛いんだから、絶対に突っ込むなよ!」
「痛い…?腫れてるんですか?ちょっと見せてください」
「な…っ?」
バニーは了解もとらずに俺の身体をひっくり返し、俺の下着を引き下げ、中腰になって俺の尻をマジマジと見た。
いきなり何すんだよ、馬鹿野郎!こんな所でこんな恥ずかしい格好させんじゃねえ!どんな羞恥プレイだよ?
憤死しそうになっている俺にはおかまいなしに、バニーは後ろの穴をじっくりと観察して感想を述べた。
「本当だ…腫れて赤くなってる。痛いですか?」
「…ったりまえだろ。昨日、何回やったと思ってるんだ」
「数えてませんが、確かにやりすぎましたね。実は僕のも、先が少しヒリヒリしているんです」
そうか、お前もか…。そりゃそうだろうなぁ。入れられる方が痛けりゃ、入れる方だって痛くなるよな。やりすぎるとお互いが痛いだなんて、俺はこの歳で初めて知ったよ…。妙に感慨深い話だな。
「ま、そういうわけだから、今日のところは、もう……あっ?」
つぷり、と指が一本入ってる。
「あ?…バニー…?」
俺は今、ちょっと涙目になっているかもしれない。痛いって言ってるのに、お前、なにしてんの?なんでケツの穴に指突っ込んでんの?
「ごめんなさい。なるべく痛くしないようにしますから…。
こうしないと、虎徹さん、なかなかイけないから…そのままじゃ辛いでしょ?」
痛くしないと言った通り、指にはたっぷりとローションがつけられていて、いつもより慎重に、ゆっくりとした動きで中を探られた。
「や…だって…、あっ…!」
俺の感じるところはすぐにみつけられて、そこを重点的に擦られる。さすがに指が動く度に入口周辺が痛むが、それが気にならないほどの快感が、次から次へと奥から押し寄せてきた。
「うぁっ…んっ、う…」
「痛いですか?」
「はぁっ、…ふっ…ん、…んんっ…」
言葉にしようと思っても、口から出るのは色を帯びた呻き声だけだ。首を横に振って返事をする。
「良かった…。このまま感じて…イってください」
バニーは俺の様子を伺いながら、指の動かし方を変えて快感を与え続ける。いつもなら二本目、三本目と数を増やしていくところを、今日は指一本だけで終えるつもりらしい。
一本でも充分気持ちがいいのだが、少しばかり物足りない。俺は無意識に、いや半分故意に、バニーの指が自分の一番良いところに当たるよう、腰を揺らめかしていた。
「…虎徹さん、いやらしすぎます…。
あなた、もう僕なしでは、生きていけない身体になっちゃったんじゃないですか?」
俺は、最中だというのに吹き出しそうになってしまった。
あーあ、こんなにすぐに言われちまったよ。
「仕方ねえ…だろっ、みんな…っ、お前のせいだ…っ」
「はい、僕のせいです」
後ろを見なくても、こいつが幸せそうに笑っているのが、声でわかった。
「バ…ニー、お前の…」
 入れるなとは言ったものの、こいつももう限界だろう。俺ばかり気持ち良くなったのでは悪い。
少しくらい痛くても我慢できるから、とっとと突っ込めばいい。そう口を開こうとしたら、バニーが意外なことを言った。
「このまま指だけでイけるでしょう?今日は入れませんから、安心してください」
……え?
「お前…それで、いいの…?」
俺は後ろを振り返り、バニーの分身を見た。
バニーは自分のもう片方の手でそれを擦っていたが、それは反り返り、今にも爆発しそうに大きくなっている。
「大丈夫ですよ。僕はあなたを感じさせられたら、それだけで充分ですから…」
「でも…」
「なら、悪いですが、虎徹さん、僕のペニスを触ってくれますか?」
バニーは自分の陰茎を、俺の手に握らせた。
ひどく熱い。硬い。脈打っている。
昨日何度も、俺の身体の中に入っていたモノだ。
「…ふっ…」
俺が手を上下すると、バニーが気持ちよさそうに息を漏らした。お前、こんなので満足するのか?
お前だって俺の中に入れたいんだろ?
「うっ、…ふっ、…あっ」
バニーは一本の指で、俺の身体の中の愛撫をずっと続けている。奥底から間断なく続く快感に酔っているのに、なかなかイけない。
「…バ、バニー…っ」
入れてくれないと思うと無性に欲しくなった。
ああ、くそっ、くそ!
身体中が熱い。奥が、奥が物足りない。
こいつのが欲しい、手の中のこれが欲しい、我慢できない…っ!
俺は熱に浮かされたようにバニーのペニスを擦りながら、無意識に言葉を零していた。
「…も…っ、入れろよぉ…!」
ああ、言っちまった…!
もういい、こうなったら何も考えられなくなるくらい、ぐちゃぐちゃにしてほしい…!
「で、でも、虎徹さん…っ!」
「…いっ、いいからっ!入れてくれよ…っ!」
俺の声は情けなく半分泣き声みたいになっている。
こいつ、呆れているだろうな。痛いから嫌だと言ってたくせに突っ込んでくれって、どんな淫乱オヤジだよ?
「虎徹さん…」
俺は後ろを振り向いて、バニーに想いをこめて懇願する。
「―――欲しいんだ、バニー…」
バニーは息を飲み、すごい形相になった。
「…あ、あなた、性質が悪すぎる…っ!
さっき、あんなに嫌がっていたくせに…!」
バニーは息を荒くしてそう言いながら、熱く猛ったモノを容赦なく俺の中に穿った。
「はっ…!ああっ…!」
指とはまったく違う、熱い大きな塊りが俺の身体の奥まで刺し貫いた。こすれる痛みと中からの快感で、一瞬意識が飛びそうになる。
バニーに腰をがくがくと揺さぶられて、正気に戻る。
だが、身体の奥から次々と連続して押し寄せる波に、またも陶然となってしまう。
「ああ…っ!あっ、あ、はっ」
気持ちがいい。何も考えられない。
気がつけばバニーの動きに合わせて、夢中で自分の腰を振っていた。
「あっ、あっ、はぁっ、ああっ、あ!」
自分のものとは思えない、あられもない嬌声が上がる。
「虎徹さん、ダメです!声が大きすぎる…っ!」
「う、ぐ…っ」
バニーが慌てて俺の口を手でふさいだ。息が上がっているからひどく苦しいのに、こいつは普段手荒いことをしないから、こんなことにも興奮してしまう。
「うっ…、んんっ」
いい歳した大人が、こんな場所で立ったまま後ろから突かれて、こんなに喘いで淫れまくって、馬鹿じゃないのか。
「…虎徹さん、虎徹さん…っ」
バニーが声を抑えて、切なげに俺の名前を呼んでいる。
ああ、バニー、可愛い俺のバニー。
馬鹿でもいい、馬鹿になったまま、こいつと一緒にこのままぐずぐずに溶けてしまいたい。
「んっ、ふっ、んんーっ…、んっ!」
「虎徹さん…っ!」
目の前がスパークした。
「くっ、ああ…っ!」
俺達は、ほぼ同時に達した。


突然、シュン!とロッカールームのドアが開く音がした。
「「えっ?!」」
俺達は飛び上がるほど驚いた。
「ば、バカ!お前、鍵かけてなかったのかよ?」
「す、すみません、うっかりしてました!」
うっかりにもほどがある!俺達は今、もろにつながったままだ。
足音が大きくなる。
誰かが部屋の奥に、俺達の近くまでズカズカと入ってくる。
「ワイルド君!バーナビー君!」
やってきたのはスカイハイだったようだ。
俺は真っ青になって固まったまま、怖くて後ろを振り向くことすらできない。
「話し声がしたから来てみたんだが、やっぱりまだ帰ってなかったんだね。
アニエスさんが冷たい差し入れを持ってきてくれたから、君達もすぐに来た方がいい!すぐにね!
…ん?どうかしたのかい?二人とも、変な格好だね」
「い、いえ、ちょっと虎徹さんが腰を痛めたというので、マッサージを…」
バニーは自分の手と身体で俺を隠して、なんとかごまかそうとする。絶対隠しきれる体勢じゃないんだから、抜いた方が良かったんじゃねえの?と思ったものの、俺も硬直したまま動けなかった。
「ええ?それはいけないな。私にも見せてみたまえ」
スカイハイがさらに俺達の近くまで寄ってきそうになって、ヒ――ッと、俺は声にならない声を上げた。
「いえっ!大したことはありませんから!
あっ!スカイハイさん、誰かがあなたを呼んでるみたいですよ!」
「ん?そうかい?」
バニーが焦りながらも上手くごまかした。
「先に行ってください、僕達もすぐ行きますから!」
「了解した!そして、待っているよ!」
単純なスカイハイは、爽やかにトレーニングルームの方に戻って行った。
「……た、助かった…」
ずるりとバニーがペニスを抜いた途端、俺は文字通り脱力して、その場に座り込んでしまった。
「あー、肝が冷えた……三年くらい寿命が縮んだ気がする…」
「見られたのがスカイハイさんで良かったですね…」
たしかに…なんであんな状態でわからなかったんだろう?あいつの鈍さと天然っぷりは、ちょっと心配してしまうほどだが、ともかく助かった。
「こらっ、バニー!そもそもお前が…っ!」
「すみません、調子に乗りすぎました」
「だからキスは外ではすんなって言っただろ!」
俺は怒鳴りながら、急いでゴムを外して服を整えた。
「でも、虎徹さんだってノリノリだったじゃないですか…。
まさか、あなたが自分から『入れてくれ』なんて言ってくれるとは…」
「だッ!言うな!」
「すみません。でも、僕、すごく嬉しかったんです…」
俺は、ぽわんと頬を染めて子供のように感想を述べるバカ王子のパンツを、ぐいっと引き上げながら怒鳴った。
「いいからさっさとしまえ!お前、出しっぱなしだぞ!馬鹿!」
二人で慌てて後始末をして、身支度も整えた。
トレーニングルームに行く前に、トイレで汚れた手を洗っておかないと。あと、目聡いネイサンに笑われないよう、顔も洗っておいた方がいいな…。
はー、やっぱり外でキスなんかさせるもんじゃない。
俺もこいつもキスだけで終われるわけがないんだから。刺激的な場所ですると、二人とも理性がはじけ飛んで、えらいことになってしまう。
神妙になってそう反省している俺とは対照的に、バニーはまだ幸せそうなふわふわした顔をしている。
「虎徹さんって、やっぱり素敵だ……奥が深い…」
なんかぶつぶつ言ってるが、大丈夫なんだろうか、こいつ。
目が合うとにっこりと笑って、まるで壊れ物でも扱うように、俺をそっと抱きかかえた。
そうして、甘えた声でゆっくりと耳元に囁く。
「…ねえ、虎徹さん、今晩も僕のマンションに泊まっていきませんか?それとも、虎徹さんの家の方がいいですか?」
おいおい、何考えてるんだ、バニーちゃん。昨日散々やっといて、さっきも激しいのを一発やったとこなのに、これ以上したら俺の身体がもたねえよ。
だが、そう思ったところで、俺の口から否定の言葉が出るわけがなかった。
「――俺んちは壁が薄いから、お前んとこがいい…」
「わかりました。帰りに虎徹さんの好きなお酒、買って帰りましょうね」
こんなとろけそうなバニーの満面の笑顔を見ると、全部どうでもよくなってくる。
あー、ホントどうしようもねえなぁ、俺は。
なんのかんの言いながら、何もかも許しちまって、救いようがない。どうするんだ、こんなに惚れちまって。
でもまぁ、いっか。
もし、こいつが俺に飽きて、若い可愛い女の子に乗り換えるって言いだしても、絶対別れてやらねえ。
泣いてすがって、なんだったら脅してでも、みっともなくしがみついてやる。自分から身を引いたりしねえからな。
大人の余裕なんかクソくらえだ。
こんなおじさんを本気にさせたお前が悪いんだ。ちゃんと最後まで責任とれよ、バニーちゃん。

「虎徹さん、なに笑っているんです?」
あ、でも、躾は必要だな。今日は見られたのがスカイハイだから助かったようなものの、こんなことを続けていたら、いつ他の人間に見られるかわかったものじゃない。
うん、俺もまだ社会的に抹殺されたくはないんだ。お父さんは生活費稼がなきゃいけないんだから。ヒーローをクビになったらつぶしがきかないってこと、引退した一年間で身に染みちゃったし。
「お前、もう絶対家の外ではキスすんな。これ、命令な」
「ええっ?」
「もしキスしたら、一ヶ月間、えっちなし!」
「ええーっ?そんなっ、虎徹さん!」
バニーは大袈裟なくらい驚いた。
「だから、外でしなきゃいいだけの話だろ。家の中でやるのは何回してもかまわねえんだから」
「で、でも!なら、二人きりで他に誰もいない場所だったら、かまわないでしょう?」
「ダメー。絶対お前セックスしようとするもん」
俺がその気になっちまうからな。
「そんな!なら、ダブルチェイサーを走らせて、郊外で夜景を見ながらとか、海辺で沈む夕日を見ながらとか、そんな時でもキスしちゃダメだって言うんですか?」
「…お前、またなんか計画してたな?その具体的な感じ、怖すぎるぞ」
なんだよ、夜景と海辺の夕日って…ベッタベタじゃねえか。若いくせに、こいつの脳内ちょっとベタすぎる。
俺は溜息をついた。
「余計冗談じゃねえっての。それじゃ青姦コースまっしぐらだろ」
「だって!男なら恋人と一度くらい自然の中でやってみたいって思うのは、当たり前のことじゃないですか!
虎徹さんだって、ロッカールームでこれだけ感じてたんだから、綺麗な場所でしたら、もっと気持ち良くなりますよ?」
おいおい、バニーちゃん。もうキスのことじゃなくて青姦の話になってんぞ。お前ってホント正直なヤツ。
俺はニヤニヤしながら最後通告をしてやった。
「そんなに外でしたいのなら、してもいいんだぜー?
一ヶ月、えっちしなくてもいいんならな」
「うぅ…っ!」
一ヶ月もお預けしたら俺の方がもたないけどな。それに、一回くらいなら外でやるのも楽しそうだけどなぁ、とこっそり思ったが、それは内緒にしておく。
そうして『外でのキス禁止令』は、俺の可愛いバニーに問題なく遵守されたのだった。


 
[終わり]


お粗末でした!やっぱり蛇足でしたね(笑)