YOMODA YASHIKI






「い、痛いーーっ!!」

イルカの声は、部屋中響き渡った。ここが離れの個室でよかったと思われるほどの音量だ。でなければ何事かと、旅館の誰かが駆けつけたに違いない。
イルカはものすごい力でカカシを締め付け、そのせいでますますカカシ自身を身の内に感じることになり、痛みで全身が強張っていた。
「が、我慢してください、イルカ先生…!」
「む、無理です…っ!」
「無理でも力抜いて…っ、オレも痛いんです…っ!」
「あ、…はっ…で、できません…っ」
今の状況になるまで、かなりイルカがじたばたしていたとはいえ、二人はとても甘い雰囲気だったのだ。イルカも初めてカカシのことを心の底から好きだと思い、だからこそ抱かれてもいいと覚悟した。いや、いっそ抱いてほしいとまで思ったかもしれない。だが、そんなイルカの思いすらも吹き飛ぶほど、この行為は想像を超えていた。
「ぃ、痛…っ、痛い…っ!」
「お願いだから力を抜いて、イルカ先生…っ!」
「ど、どうやって…?」
イルカは涙目でカカシを見上げる。小動物のようだった。
「ゆっくり息を吐いて、深呼吸して…」
「い、痛くて…、息、できません…っ!」
息してないわけはないのだが、今のイルカに何かを求めても無理そうだった。ならばと、カカシはイルカの分身を愛撫して、つめた息を吐かそうと試みた。
「い、イヤだっ!動かないでください…っ、い、痛い…っ!」
だが、カカシのそんな動きですら、痛みに変わるらしく、ふるふるトイルカは小刻みに震えている。先ほどまで硬くなっていたイルカ自身もあっという間に萎えてしまっていた。苦痛がさっきまでの快感を上回ってしまっているのだ。
カカシは途方に暮れた。
先っぽを入れたこんな状態で、だ。
このままでは自分もちぎられそうで、痛くて辛い。
イルカには可哀想だが、このまま押し切ってしまえばいいのだ。痛みもそのうち麻痺してくるし、慣れれば少しは楽になるかもしれない。
だが、今の辛そうなイルカを見ると、強引に進めることはカカシにはできなかった。
なぜ昔の自分は、この人を酒で酔いつぶして無理矢理犯してしまおうなどと思えたのだろう?今の苦しそうな息をして、脂汗を流して震えているこの人を見れば、そんなひどいことなどできるわけがなかった。
ならば今回はあきらめて、さっさと抜いてあげればいいと思うのに、カカシにはそれもできないのだ。
張りつめたカカシ自身は解放を求めていて限界に近かったし、その苦しむイルカの顔は、痛々しくて可哀想である半面、本能に訴える嗜虐的な興奮をも煽っていたのだ。

―――イルカの中に入りたい。
イルカを本当の意味で自分のものにしたい。
イルカと繋がりたい、誰よりも深く。
だが、イルカを苦しめることだけは自分にはできない―――

カカシはしばらくの間どうすることもできなくて、前にも後にも動けないでいた。


「カ…カカシ…先生…?」
てっきりそのまま押し入ってくると思ったのに、なぜそうしないのだろう?
じっと動かないでいるカカシに不思議に思い、それまで痛みでぎゅっと目をつぶっていたイルカが、そっと目を開けて様子を窺がった。
そこには、情けなさそうな、困った子供のような顔をしたカカシがいた。
いつもへらりと笑っていて何事があっても動じず飄々とした態度でいるカカシが、これまで見せたことのない表情で、こちらを見ている。そのすがるような顔つきで、カカシが途方に暮れているのがわかった。
こんな状態だと、カカシの方も辛いに違いない。なのに、カカシは自分のことを思いやって動けないでいるのだ。
イルカの胸の奥から、じわっと温かいものが溢れてくる。
カカシは、優しい。
カカシは本当に自分のことを大切に思ってくれている。
それが感じられて、イルカは嬉しくてたまらなくなった。
「…カカシ先生…」
イルカはカカシに向かって手を伸ばし、ゆっくりとカカシの身体を抱きしめた。
無理な体勢で苦しかったが、それでも抱きしめたくてたまらなかった。重なり合った部分のカカシの体温が、嬉しい。
「い…いから…遠慮しないで…動いてください…」
それだけ言うのもやっとだったが、イルカは努めて平気な顔をして、カカシににっこりと笑いかけた。
そうして、初めてイルカはその言葉を口にできたのだ。

「…オレも…、カカシ先生のことが…、好き、ですから」


カカシは信じられないものでも見るように、その柔らかな笑顔をみつめていた。
しばらくして、くしゃっと泣きそうな顔に変わる。
イルカの口からそんな言葉が聞けるとは、今まで思ってもいなかったからだ。
こんな風にようやく肌を合わせることができても、どこかで半分は自分の片思いだと思っていた。イルカが自分を受け入れる覚悟をしてくれたのも、自分がイルカを騙した結果で…もしかすると永遠にイルカの気持ちを手に入れることなどできないかもしれないと、そんな風に思ってさえいた。
どこかで自分には本当に得たいモノなど何一つ手に入れられないのではないかと、子供の頃から思いこんでいたのかもしれない。そしてまた、これほどまで欲しいと思ったことなど、これまで一度もなかったのだ。イルカ以外には。

「…オレも…好きですよ、イルカ先生」
カカシは震える声でそう答えた。
「…知ってます…」
くすりと笑うイルカの顔が優しい。カカシの一番好きな顔だ。
カカシは本当に泣きそうになった。
この人は、どこまで自分を好きにさせたら気がすむんだろう?
さっきまでの激しい想いとは別の、切ない想いが身体中を駆け巡る。
「…そんなこと言ったら、もう遠慮なんてできませんからね?」
「いいから…動いて…ください」
その言葉に、カカシは思い切ってぐっと身体を前に進めた。
イルカの身体の狭い道を無理矢理こじあける。ギシッと音がしそうなくらい、そこは狭かった。だがそれは、二人の想いを成就するための儀式のようにも思えた。
「…くっ…!」
イルカはなるべく息を吐くようにして、カカシの腕につかまってその感覚に耐えた。身体の中に熱い塊が侵入する。その圧迫感で胃の中のものがせり上がってきそうで、苦しかった。
「大丈夫…ですか?」
カカシの問いに、こくりとうなづいて笑う。声も出せないくらい苦しい。
笑顔をとりつくろいながらも、身体が小刻みに震えている。そんなイルカを気遣いながらも、カカシはゆっくりとイルカの最奥まで入り込んだ。身体を重ねた状態で、二人で大きく息をつく。
「イルカ先生、全部入りましたよ。…動くから、なるべく力を抜いて…息を大きく吐いて、オレに合わせて呼吸して」
イルカはまたこくりとうなづく。
カカシはゆっくりと抜き差しをはじめる。
ズッと身体の中が擦れるようなカンジがする。イルカは、その硬い異物が身体の中を移動する排泄感に似た慣れない感覚と、カカシが突くたびにおこる吐気に必死で耐えた。
「……うっ…、…ふっ…」
「ごめんね、イルカ先生。我慢してね?」
「…だ…大丈夫…です」
さっきよりは少し楽になっているのかもしれない。イルカの呼吸も苦しげではなくなってきた。
そのイルカの表情を見てようやく、カカシはイルカの中に自分がいるのだという喜びが沸いてきた。イルカの中は温かい。つながっているのだと実感する。
カカシは今になってようやくイルカの内部の気持ちよさに身震いし、快感に震えた。きゅっと締め付けるイルカの粘膜がしっかりとカカシ自身を包み込み、溶け合うような錯覚がする。
涙が出そうだ。
こんなことがこれほどまでに気持ちいいなんて、今まで知らなかった。
「イルカ先生…」
少し無理な体勢かもしれないと思いつつ、そっと唇をイルカの顔に近づけると、イルカが少し顔を寄せて、カカシに応えようとする。
「ん…、ん」
ゆっくりと律動を繰り返しながらの短い口付け、それだけでまた身体の奥から熱いものが湧き上がってくる。
この気持ちは何なんだろう。
好きとか愛してるとか、そんな言葉だけでは表現できないような気がする。
やっと求めていたものを手に出来た…そんな喜び。
失っていた自分の欠片をようやくみつけて、欠けた空洞がふさがったような…たとえようのない満足感。
「カ…カカシ先生…?」
イルカはカカシの頬を伝うものに気がついた。カカシは自分で泣いていることに気づいていないのかもしれない。イルカはそのカカシの涙を見た途端、身体の中から熱いものがこみ上げてきた。
愛しさが膨れ上がり、つながっている部分から、痛みだけではない感覚が沸き起こってくる。
「あっ…!」
カカシ自身のカリの部分がイルカの内部のとある部分を通過するたび、強い刺激がおこり、イルカは戸惑った。
「…ぁあっ、あっ」
さっきまでとは違うイルカの声にカカシは気づき、少し律動を早くする。
「あ、あ、あっ」
カカシの動きにあわせて小刻みに声が漏れるのだが、そんな声をあげていることすらイルカは気づいていなかった。痛いのだ、確かに。圧迫感もあいかわらず辛い。なのに、初めて知る快感が、それらを凌駕している。
「気持ちいい…?イルカ先生」
「あ…、ふっ…」
答えられないイルカは、イヤイヤするようにかぶりをふった。
「気持ち悪い?痛いだけ?」
その質問にも顔を横に振ることでしか答えられなかった。
「…ぁ、はっ、あ!あっ、あ!」
カカシの動きがさらに激しくなる。
もうイルカの身体を労わる余裕はカカシにはなかった。
ただ無心になって快楽を求めていた。イルカも同じく、カカシに身体を揺さぶられながら、もう何も考えることができなくなっていた。
「あ、あ、あっ、あ!」
「イルカ先生…っ!」
「あ――-―- っ!!」
二人は同時に達した。



はぁ、はぁと、二人の吐く息の音だけが室内に響いている。
二人は折重なったまま、動けなかった。
重なり合った胸から、どくんどくんと互いの鼓動が伝わって、まるで世界中に二人だけしか存在してないような、そんな気がした。

「なんだか…世界が違って見えますよ」
「オレも…」

「オレ、SEXって、本当はこういうものだったんだって、初めて知った気がします」
「…オレも…」

「ねぇ、もう一度だけ言ってください」
「?」

「オレのこと、好きだって…」
「もう一度だけでいいんですか?」

「あ、いや、何度でも…というか、毎日…!い、いや、これからずっと、一生…っ!」
「…毎日は言えないですけど……好きですよ…」

カカシは今、ようやく身も心も手に入れた恋人に、満面の笑顔でキスをした。





「…あ、あの〜…」
イルカは自分の身体をさわさわといやらしい動きでまさぐるカカシの手を止めて、とまどったように尋ねた。
「ん〜?なんですか?」
「あの…、さっきから、何してるんですか?」
「何って…つづきですよ、つ・づ・きv」
カカシは悪びれず、またイルカの身体をさわさわと撫ではじめている。
「ええ?!さっきので終わったんじゃないんですか?」
「何言ってんですか!夜はまだ長いんですよ?これからですよ、こ・れ・か・ら!」
鼻息も荒いカカシに、イルカはすーっと血が引く思いがした。
「う、嘘でしょ?だってオレ、二回も達ったんですよ…?」
「二回がなんです!若いんだから、あと五、六回は達かないと!
いや、今晩は特別な夜だから、あと十回は達かせてあげますね!オレの溢れんばかりの愛とテクで!!」
カカシはにーーーっこりと、それはもう自信満々で言い放った。

『う、嘘だろ〜ッ?!』

そうして、イルカははじめての夜に、すすり泣いてやめてくれと懇願し、意識を失うまで何度も…という、とんでもない体験をするのだが、それはこの普通じゃない恋人を持つことの、最初の受難だったのだ。
だが、途中、
『こんなに二人で出しちゃったら、この高価な布団もガビガビだ…。
これ、さっきの仲居さん達が始末するのかな?恥ずかしい…。せっかく仲良くなったのに、朝、顔合わせられないじゃないか…』
イルカにそんなことを気にするぐらいの余裕があったことだけは、追記しておく。




おしまい。