YOMODA YASHIKI





【淫乱警察24時】
(タイトルに偽りあり、です。(^^;)内容は15禁)




「よう!弁護士先生!
この間はずいぶん活躍したそうだな?」

聞きなれた声が聞きなれない呼び方で俺の足を止める。
今日も朝から万屋は開店休業で、このまま鳴りもしない電話を待っているよりはと、俺は目的もなくぶらりと外に出て、階段下に降りたところだった。
振り返ったそこには、珍しく非番なのかいつもの黒い着流し姿の土方が立っていた。
相変わらず綺麗な顔をしている。
あ、これ、俺の欲目じゃねーから。こいつ本当にびっくりするぐらいの美人さんだから。男だけど。
真選組があれだけ問題おこしても世間にそれほど糾弾されないのは、一般人から幕府関係者まで広く大勢の老若男女のこいつのファンが陰で支えているからだという話が、まことしやかに噂されているくらいだし。
さらにあのS王子のファンも多いらしくて(あいつは腹黒だけど顔だけはジャニ系だから)、こいつら二人が巡回していると、いつもどこからか黄色い声か携帯のシャッター音がするという、そこらのアイドル顔負けの警察官二人組なわけだ。副長、一番隊隊長という不思議な組み合わせでよく巡回しているのは、もしかすると一般人へのサービスのためなのかもしれない。
それにしても珍しいこともあるものだ。こいつが非番の時に自分から俺んちにやってくるなんて。
だいたいいつも俺がジミーを捕まえて(あいつは一応副長付監察方らしいし)、こいつの休みを脅して聞きだして、屯所に押しかけてそのまま拉致ってのが普通で…あれ?これって犯罪?ストーカーよりタチ悪い?
いやいや、ともかくそれだけ努力が必要なわけだ、こいつとつきあうってことは。それが珍しくこいつから俺んちに出向いて、さらに自分から声をかけてくるとは!もしや天変地異の前触れか、これは?
「さっきから何バカ面さらしてんだ。お白州で弁護士やったっつーから、ちったあ頭良さそうになってんのかと思ったのに、前より馬鹿面してんじゃねぇか」
 何の気まぐれで土方がここまで来てくれたのかわからないが、言ってる内容がいただけない。いったい誰だ、この間のことをコイツに吹き込んだヤツは?
ああ、あいつしかいねーな。マダオだ、マダオ。
この前俺は、痴漢で捕まり窮地に陥った奴を、華麗な弁護士姿で颯爽と現れ、強力なライバル検事とお白州で熱く戦い、見事無罪を勝ち取ったという、実に主人公らしい活躍をしたのだ。そのことを知っているのは、うちの新八と神楽、あとは俺に助けられた張本人、マダオこと長谷川のおっさんしかいない。
 そういえばおっさんは今、意外と土方と親しいんだった。
奴が入国管理局長だった頃、よく真選組にバカ王子の無理難題の尻拭いを押し付けていたから、真選組の連中には嫌われていると思いこんでいたおっさんは、今の落ちぶれた姿を奴らが見れば、思い切りあざけられると覚悟していたそうだ。
だが、土方と再開した時、意外にもこいつの態度は以前と少しも変わらず、さらに「今の長谷川さんの方が親しみがもてますよ」と笑いかけてくれたんだと、おっさんが涙ながらに嬉しそうに話してた。
それからは時々夜一緒に飲んだりする仲になったらしい。ったく、俺とはなかなか会ってくんねぇくせに、なんでオヤジなんかと酒を飲み交わしたりしてんだよ、こいつは。危ねーだろうが!
いや、だから今はそんなこと言ってる場合じゃなくて、問題は土方がどこまでこの間のことを知っているかということだ。俺の活躍は知られてまずいことじゃない、むしろ知ってほしいことだが、こいつのニヤニヤ笑いから察するに…。
「お前お白州の場で『淫乱病棟』ってDVD見たんだって?看護婦SM調教モノたぁ、大した趣味じゃねーか」

ノーーーーーーオォォォ!!!
よりにもよってDVDの中身まで知られているとは!
いったいコイツにどこまで話してんだよ、マダオーー!だからおめーはいつまでたってもマダオなんだよっ!!!
「あ…いや、ま、アレはその場のノリでね…」
ダラダラと嫌な汗が頬をつたってくる。
いや、落ち着け俺!エロDVD見たことを男が男に知られたからといって、べつに恥ずかしい話じゃないぞ?
いくら俺とコイツがそういう間柄でも、こんなことぐらい同じ男同士、やましく思うこたないんじゃないか?浮気したわけじゃないんだし…。
「知らなかったな〜、お前看護婦が好きだったのか。
調教ねぇ…女の尻をひっぱたくシーン、お奉行に巻き戻させてまで見たんだって?
そんなにいい女だったのか?それともそういうのが興奮すんのか?」
土方は俺をからかいながら、ニヤニヤ人の悪そうな笑顔をうかべている。
何だろう、このいたたまれない気持ち。
なんつーか、いかがわしい店の名刺が奥さんにみつかった時の気分?「へー、アナタ、このお店で可愛い子に大事にしてもらった?良かったわね」なんて笑顔で言われてる気分。しなくてもいい言い訳したくなるけど、言い訳したらもっと悪い立場に追い込まれそうな…。
もちろんあくまで想像だけど。銀さんまだ未婚だし。土方とだったら結婚してもいいけど、こいつがOKしてくれるとは思えねえし。
あ、この際法律なんて無視ね、無視。ニセ弁護士やった自分が言うのもなんだけど、法律なんて破るためにあるんだから。
んん?でも、これってひょっとして…?
「なになに?もしかして妬いてくれてんのォ、土方くん?
もちろん俺は白衣の天使のナースより、真選組の隊長服に身を包んだ鬼副長さんの方が興奮すっけど?
あ、土方君がナースのコスプレしてくれるっつーなら、そりゃ願ったり叶ったりだけど〜♪」
「くだんねぇこと言ってんじゃねえっ!
なんで俺がそんなことしなきゃなんねェんだ?」
「あれ?『そんなDVDの女なんか見ないで俺を見てv銀さん好みに染まってみせるからv次はナース服と縄を用意してねv』って言いたかったんじゃないのォ〜?」
「世迷いごとはあの世で言えーっ!!」
ビュッと風を切る音が辺りに響く。
「うわっと!」
あぶねー、あぶねー!俺は寸でのところで土方の刀を避けた。あ、ちょっとばっかし前髪が切れた気がする。本当にあぶなかった。
いつも思うけど、コイツは抜刀すんのもキレんのも早いよ、早すぎる。だいたい日中着流しに帯刀して歩かなくってもいいだろうに。非番の日でも仕事熱心なのは問題だよ、まったく。
あー、でも、こんなに怒るってことは、少なからず図星だったってことだな。やっぱし妬いたんじゃねぇ、こいつ?
今度は俺の顔がニヤつく番だ。ここで笑うと逆効果だってことはわかってるけど、こんな嬉しいこと、めったにないんだから仕方がない。あの土方が、ちょっとでもヤキモチやいてくれるなんてね。
「いーだろ、エロDVD見たってさ。
あの時俺の脳内じゃ、黒髪の副長さんがナース服着て縛られてたんだから」
「な、なに気色悪いこと言ってんだ!俺はそんな変な妄想許した覚えはねーぞ!人権侵害と肖像権侵害で訴えるぞ、テメェ!!」
「え〜?そんなことで訴えられるんなら、全世界の男が刑務所行きじゃねーか?」
「うるせえ!全世界の男がお前みたいな変態なわけねえだろうが!」
「妄想するのが変態なら皆変態だろ?
てめーは誰かをオカズにしたことないのか?妄想しないで一人で抜いたりできんの?その方が特異体質じゃね?
ちなみに今俺が手コキする時は、いつもお前のこと思い浮かべてるぜ?」
「…なっ!?」
俺がそう言った途端、白い顔がみるみる赤みを増してピンク色に染まった。ホントこいつ、ジミーが言ってたけど、意外と純情。こんな風に赤面するこいつって、なんかすごく可憐ってカンジがするんだけど、そう思うのは俺の頭が腐っているんだろうか?
「何まっ昼間からバカなこと言ってやがる!死ね!死ね!今すぐあの世に送ってやる!」
キラリと光る刀身が、俺めがけてまっすぐに降りてくる。
「ひゃあ!
だからそれ危ないって!お前、照れるにしても度がすぎるって!」
「照れてんじゃねえ!!」
「ちょっ、ちょっと待て!落ち着け!」
俺は刀を振り回す土方から必死になって逃げた。
「チョロチョロ逃げんな!」
「うわっと、こえーよ、マジでェ〜っ!
おまわりさ〜ん、助けてェーっ!!」
「うるせー!俺がその警察だって言ってんだろーが!」
「助けて〜!殺される〜っ!!」

ダン!
「…なんてね」
俺は土方の刀を持つ手を捻りあげ、路地裏の壁に身動き取れないよう押さえつけることに成功した。
コイツの刀をかわしながら、よくここまで誘導できたものだと自分でも思う。
「ちっ」
土方がくやしそうに舌打ちしたが、実力の差というよりこれは経験の違いだから気にすることはないんだけどな。おめーは今現役で命のやりとりやってっけど、きっと俺の方が経験した修羅場の数が違うだけ…ま、そんなこと、ここで言う必要もないけど。
それにしてもこの場所は、何も考えずに入ったにしてはなかなかにいいところだった。ほんの少し奥に入っただけなのに、大通りの喧騒が遠くに聞こえる。この暗がりなら俺達の会話が誰かに聞かれることもないからかなりきわどいことだって言えるし、それにもう少しそれ以上のことしたってわかりっこない。
俺は意識してそれまでの雰囲気を変え、土方にじわりと身体を密着させていった。
ああ、着流しで薄着ってのはいいな。布越しでもこいつの鼓動が伝わってくる。さっき走ったせいか少し早い。まだ整わない息も夜を連想させるし、ヤバイ、マジでこのままやっちまいたくなった。
「っ!おい…!」
身の危険を感じてか、身体を捩って抗議する土方の耳元で、わざと低い声で囁いてみる。
「…だから、そうやってキれんのは、ヤキモチからだろ?土方くん?」
土方はいつもの瞳孔開き気味のキツイ瞳で、キッと睨み返してきた。
あ〜、俺やっぱ、こいつのこういう眼、すごく好きかも?
こんな風に強い光でまっすぐこちらを見られるとゾクゾクする。今この時だけは、こいつが見ているのは俺だけだ。俺はこうやって自分だけを見てほしいばっかりに、いつもこいつを怒らせているのかもしれない。
これってやっぱMじゃないの?こいつは俺のことサド王子と同じ『どS』だって言うけど、自分じゃかなりMのような気がするけどな。
「…手ぇ離せ。痛え」
「あ、悪ぃ。
離すけどよ、もう物騒なもの振り回すなよ?」
俺が手を離すと、ホッと土方の肩から力がぬけた。けっこう強い力で押さえつけてしまったみたいで、しきりに腕をさすっている。痺れたのかもしれない。
自分でもわりと馬鹿力な方だとは思うけど、土方は鍛えてるわりに意外と体力がない気がする。俺から見るとずいぶんと華奢なカンジだ。細身だがしっかり筋肉もついていて、剣を持つとえらく強いくせに、なんでだろう?
こいつがこんなだから、俺は時折こいつを無性に護りたい衝動にかられることがある。もちろんそんな必要はないし、そんなことはこいつに対しての侮辱だとわかってはいるんだが…。まったく俺はいつの間にこんなにお前に骨抜きになっちまったんだろう?
「…俺はあんなエロDVDの女を見てるより、こうやって土方君と一緒にいる方がいいんだぜ?」
「へっ。ずいぶん陳腐なくどき文句だな」
「陳腐な言葉ってのは、それだけよく使われてる、真実の言葉ってわけじゃね…?」
どんなに歯の浮くような言葉を口にのせてもこいつには全く伝わらないが、それは本当に俺の正直な気持ちだった。あんなビデオの女達より、目の前の土方の方がずっと価値があるに決まってる。
俺は土方の目を覗き込みながら、ヤツの整った薄めの唇に自分のそれを近づけていった。こういった場所でチューってのもなかなかオツなものだな。こいつとこんなことすんのも、先々週に会った時以来で久しぶりだし…。
「やめろ!」
「んぐゅあっ!」
変な声が出た。
ひどいことに土方は、おもいっきり盛り上がっていた俺の顔を力一杯押しのけやがったのだ。
おいーっ!それ、仮にも恋人に対する仕打ちかァ?
ん?いや、俺達の関係って、そもそも恋人同士って言っていいのか?んん?
「なんだよ?ここじゃマズイってか?誰も見てねーだろーが!おさわり禁止ですか、コノヤロォ!」
思わずキれそうになる俺に、土方は不可解な言葉を投げかけてきた。
「DVD」
「はぁ?」
「見せろ。お前、持ってんだろ?」
「はああぁ???」
ヤツは俺から少し視線をはずし、うつむき加減で心持ち頬を染め、ぶっきらぼうにこう言った。

「見せろ。…俺ぁ、今までそういうの、見たことねーんだ」




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