サキコ理論
サキコ理論の概要

私たちのカラダには、特に運動をしていない時でも、心臓の拍動や呼吸、胃腸の消化活動などのために動き続づけいているたくさんの筋肉があります。また、どんな時でも、一定の姿勢を保持し、立ったり坐ったりするために、身体中の筋肉が複雑に調節された動きをしています。
 これらの筋肉は、普段は、血液中の脂肪酸を燃料として使っています。食後しばらくは、食事から吸収された脂肪酸が、血液中にたくさんありますが、食後時間が経つと、体脂肪が少しずつ分解されて燃料となります。
 そう、脂肪は、一日中とろりとろりと燃焼しているのです。
 いわゆる有酸素運動を行えば、この燃焼をいっきにすすめることができますが、特に激しい運動をしなくても、体脂肪は自然に、少しずつ燃焼しているのです。要は、体脂肪の蓄積が、この自然な燃焼の速度を上回らなければよいのです。

  体脂肪が蓄積するのは次のような条件の時です。
・血糖値(血液中のグルコース濃度)が高い。
・血液中の脂肪酸濃度が高い。
・血液中のインスリン濃度が高い。
この逆の時は、体脂肪は、つねに分解に向かいます。
体脂肪が増えるのは、主に食後です。

実際には、どうしたら良いでしょうか。
その前に基礎知識の復習をしましょう。次の絵を3分間みてください。






エネルギーの転換

この図の中には、ポイントがいくつかあります。

●食後急速に血液中に流入した脂肪酸やグルコースは、いったんグリコーゲンや中性脂肪という形に合成されて、後で小出しに使えるようにストックされます。この反応を指令するホルモンがインスリンです。食後時間がたって、血糖値が下がってくると、インスリンの濃度は下がり、グルカゴンというホルモンの指令によって、食後とは逆に、脂肪やグリコーゲンが分解される反応が大きくなってきます。…私達のカラダは24時間休みなくエネルギーを使っているのに、食事は日に数度。ここのところを、こういうしくみで調節しているのです。

●分解と合成の反応は、常に両方向に起こっています。インスリンやグルカゴンの作用によって、速度が異なるだけです。ところが、図をよく見てください。グルコースが脂肪に合成される反応だけは、絶対に一方通行なのです。すなわち、いったん脂肪に蓄積されたエネルギーは二度とグルコースになることが出来ません。これは後で食欲のしくみを考える時に重要になってきますので、覚えておいてください。







エネルギーのタンクの使い分け

 カラダの中には上の図のように、体脂肪という巨大なエネルギータンクと、筋細胞の中のグリコーゲン、肝細胞の中のグリコーゲンという小さなタンクがあります。(この他に筋肉などの蛋白質もエネルギーとして利用できますが、話を簡単にするために、今は省いてあります。)

それぞれの燃料にはそれぞれの特性があります。
 肝臓のグリコーゲン・タンクは、カロリーにしてわずか300-400kcal程度ですが、血糖値の調節という肝臓の重要な機能を支えています。すなわち、食後上昇した血液中のグルコースを吸収しで満タンになり、時間が経つとすこしずつ分解されて血液中にグルコースを放出し、血糖値が下がり過ぎないように維持します。

 筋肉のグリコーゲン・タンクは、筋肉の自前のエネルギータンクだと考えて下さい。食後インスリンの作用を受けて満タンになりますが、血糖値が下がってもあまり分解されず、血糖値を維持するためにグルコースを放出することはありません。そのかわり、筋肉が運動などで大きなエネルギーを必要とする時使われます。スポーツ選手ではこのタンクの容量が非常に大きくなっています。

  食事をした後、肝臓や筋肉のタンクを満タンにしてさらに余ったエネルギーはすべて脂肪細胞に格納されます。脂肪の1kgは約7200kcalのエネルギーを貯蔵し、逆に供給することが出来ます。1日に必要なエネルギーを1800kcalとすると、約4日分、10kgの体脂肪があれば40日分の燃料を貯えていることになります。先程書いたように、筋肉は、直接脂肪酸を燃料とすることができますので、理屈の上では40日間はエネルギーの補充がなくても、私たちの心臓は動き、呼吸を続ける事ができることになりますが、問題は、いったん脂肪に転化されたエネルギーはグルコースに変えることはできず、血糖値の維持には使えないことです。



飢餓状態

 ところで、血糖値が維持されることはどうして重要なのでしょうか。
 それは、脳や赤血球という自前のエネルギータンクを持たない重要臓器が、平常はグルコースしかエネルギー源として利用しないからです。そのため、肝臓のグリコーゲンのタンクが空になって血糖値が下がりはじめると、強い空腹感が起こります。

   血糖値を維持している、肝臓のグリコーゲン・タンクは満タンにしても、半日くらいで空になります。エネルギー源としては脂肪がまだまだたくさんありますが、血糖値の維持には役に立ちません。それでも、血糖値はそれ以上下がらないようになっています。なぜでしょうか。
 まず、筋肉や脂肪細胞がグルコースの取り込みを止め、少ないグルコースを脳へまわすようになります。これで消費がかなり節約出来ます。また、体の中にはグルコースに転換できるエネルギー源が他にあります。脂肪の分解でできるわずかなグリセロール、それと、蛋白質の成分であるアミノ酸です。グリコーゲンが不足すると、肝臓はアミノ酸をグルコースに転換しはじめます。さらに、グルコースの欠乏状態で脂肪酸が消費されると、ケトン体という物質が増えて、これは、脳の非常用エネルギー源となります。

 さらに絶食状態が長引くと(2、3日以上)、エネルギー代謝の状態は全く変わってしまいます。脳も、腎臓も、脂肪酸を利用するようになります。こうなると、空腹感もあまり感じなくなるそうです。
 カラダは飢餓に耐えられる様にできています。でも、そのような状態は飢餓状態と言われる異常な状態で、カラダは普通の状態とは全く異なる、ストレスに適応したモードに変わっています。基礎代謝量も体温も下がり、貧血や抵抗力の低下が起こってきます。筋肉も落ちます。
 ダイエットでこのような状態まで突っ込んで行くことはお勧めできません。
 不健康ですし、基礎代謝が落ちて体重が下げ止まります。それに何より、平常状態に戻す時に異常な食欲が出て、リバウンドを起しますので、せっかくの努力が水の泡になってしまうことが多いのです。しかし、このようなダイエットをした人でも、徐々に食べる量を増やし、正しいダイエットに移行すれば、健康を取り戻し、かつ減らした体重を維持することは可能です。

 基礎代謝量の低下は、エネルギー不足状態で一時的に起こるものです。 "ダイエットを繰り返すと太りやすい体質になる"というのは迷信です。



デトロイト式食事の利点

 遠回りをしましたが、いよいよダイエットの話に戻りましょう。

 ダイエットの基本は1日に必要な栄養成分を充分とりながら、カロリーだけを減らす事です。Diet7ではこれまで、これを守りながら、食事の時間的配分に関してはそれぞれのみなさんの生活パターンや食欲の特性を尊重してきました。ところが、ML参加者の中に劇的な効果をあげた方が現れ、その人達のメソッドを教えていただいた結果、私達が"デトロイト式"と呼ぶ、非常に規則正しい食事配分が有効であると確信するにいたったのです。ここではその理由について考察します。
ここからは、基礎代謝量BMRが50kcal/h、睡眠8時間(23時―7時)の人を例にシミュレーションをしてみます。
BMRというのは、"20―25℃の室内で、仰臥位で、目覚めながら安静にしている時のエネルギー消費量(食後6時間後)"ですので、昼間活動中のエネルギー消費量は、軽作業の人でもBMRの30%増しくらいになります。
激しい肉体労働やスポーツをする人は別のシミュレーションが必要です。

 最初に書いた様に、私たちのカラダは1日中コンスタントにエネルギーを使っています。脳はグルコースを、筋肉は通常脂肪酸を、そして激しい運動の時には筋肉内のグリコーゲンを燃料として。

 まず、朝起きた時、夜食をしていなければ、肝臓のグリコーゲン・タンクは残り少なくなっていて、目覚めた脳に、これから充分なエネルギーを供給するのが難しくなります。ここで炭水化物を含んだ朝食を取り、肝臓のタンクをいっぱいにしましょう。
その量は、昼食までに使いきる量とします。基礎代謝量BMRが50Kcal/h、朝食が7時で昼食が12時の人なら、50*1.3*5=325kcal以内となります。
肝臓の筋肉のグリコーゲン・タンクに格納できるエネルギー量もだいたいこの程度以下です。これ以上のエネルギーは、時間をかけてすべて体脂肪に転化される事をイメージしましょう。昨夜残しておいたシュークリームには手が出なくなるはずです。

 昼食は夕食までに使いきる量です。夕食が7時なら、50*1.3*7=455kcalです。
ビジネスランチはこの2倍の量がある事に気がつかれることでしょう。こんな昼食では、夕方まで働けない、と感じるかもしれません。その通りです。4時頃にはお腹が空いてきます。食後4時間で血糖値はやや下降し始め、空腹感を感じます。
高い血糖値、高いインスリン濃度にカラダがなれた人ほど、この空腹感が強くなります。大丈夫です、まだ肝臓のグリコーゲンは残っています。デトロイト式を2週間ほど続けると、カラダが低血糖に慣れ、この時間の空腹感は少なくなります。

 ところで、900kcalのランチを食べた時でも、4時間でお腹が空きます(特に、炭水化物の多い時。)昼食のエネルギーはまだ余っているのに、どこへ行ってしまったのでしょう。それは脂肪細胞の中です。一度に900kcalの食事をすると、インスリンの急上昇が起こり、肝臓や筋肉に格納しきれないエネルギーはすべて、脂肪細胞に格納されます。4時間たって血糖値が下がってきたところからようやく、脂肪の燃焼が優位になるのですが、繰り返し言うように、脂肪に転化されたエネルギーはグルコースには変わらないので、血糖値は上昇せず、空腹感が起こるのです。お腹が空いた時、前の食事からの時間と消費カロリーを計算してみて、エネルギーがまだプラスだったら…少し我慢して、脂肪細胞に格納された脂肪を消費しましょう。今朝の体重に戻るために。

 12時に455kcalのランチですませ、夜7時まで我慢すると、エネルギー収支はようやくゼロになります。ようやく夕ご飯ですが、寝るまでの時間を計算すると、夜11時に寝るなら4時間、12時としても5時間しかありません。4時間分の必要エネルギーは、50*1.3*4=260kcal、たった260kcalの晩御飯では、余りにさびしいので、もう少しリッチにしましょう。160kcalアップすればそこそこの食卓になるでしょう…その代わり、その分、寝る前に運動してつじつまを合わせましょう。160kcalの運動は、ゆるい自転車こぎ、散歩などで40分くらいです。
時間の無い人は、この分を見越して、昼食後に少し体を動かしておくのも良いでしょう。運動量ができない日は、どこかで食べる量を減らします。

 就寝前、エネルギー収支はゼロになっていますので、お腹が空いています。起きていては駄目です。空腹で寝付かれなくなる前に寝てしまいましょう。これで今日は大成功。寝ている間はお腹が空かず、朝までにカロリー収支は50*0.9*8= 360kcalマイナスになり、 脂肪が360 / 7.2 = 約50g燃焼します。(就寝中のエネルギー消費はBMR*0.9になります。)

このシミュレーションでは、一日の摂取カロリーは 
(1時間あたりのBMR)*1.3*16+160=(1時間あたりのBMR)*20.8+160 kcal
となり、ほぼ、1日の基礎代謝量をとる事になります。

補足:
・300kcalを超える食事は必ず脂肪の蓄積を起す事を覚えておいてください。
・昼食の量はこの量を超えますので、夕方に間食を取れる人は、量を減らして間食に回すことができればなお結構ですが、400kcalより少ないカロリーで他の栄養素を満たしたバランスのよい献立を考えるのは難しくなりますので、注意して下さい。
・このシミュレーションは、大きな持病(腎臓病、肝臓病)の無い人には無理の無いダイエットです。意外に空腹感がなく、効果は確実です。
また、食欲のしくみをよく理解してダイエットに励めば、生理的な空腹と、ストレスなどによる食欲を自分で区別することができるようになりますので、無理に食欲を押さえつける事がなく、リバウンドしにくいのです。
・さらに劇的な効果を期待するためには、1時間あたりの消費カロリーを、(1時間あたりのBMR)*1.3ではなく、(1時間あたりのBMR)*1に設定します。この方が効果は劇的で、意外に空腹感も無いことが、実践者の経験から証明済ですが、1日の摂取カロリーが基礎代謝量より少なくなるダイエットは4週間くらいを限度とし、糖尿病などの持病のある方には注意が必要です。



食欲のしくみ

次の図は、「ハリソンの内科学」という教科書に載っている図です。

胃の充満、血糖値とインスリン濃度の上昇、交感神経の緊張は、満腹中枢に働き、食欲を抑制します。
 レプチンなど、脂肪細胞から分泌される何らかの物質も食欲を抑制していると考えられます。
 ところが、他の精神的な要因が直接大脳皮質に働くと、摂食中枢活動が低いときでもこれを増幅し、あまりお腹が空いていなくても食べる、という行動が起こります。





 この図は少しわかりにくいので、正確さには欠けますが、もう少し分かりやすい図を用意しました。



左の図で赤い枠で囲った刺激が、強すぎると、黄色いワクの生理的な抑制がかかっている時にも食べ過ぎてしまいます。血糖値は下がることなく1日中高い状態になり、インスリンも高くなります。脳がこの状態になれてしまうと、インスリン抵抗性という状態になり、満腹感を得るのに、ますます高い血糖値を必要とする、というふうになります。

大脳からの刺激を抑制できるのはやはり大脳です。いったんこの悪循環にストップをかけてしまえば、生理的な食欲調節機構が正常に戻ります。




人の一生の間、食欲というのは非常に厳密に調整されています。
仮に、1日100kcal(小さなキットカット1個とクッキー1枚)を食べ過ぎる人がいたと仮定しましょう。
この100kcalが、その人の消費カロリーより多かったとするのです。
1ヶ月の余剰のカロリーは 100kcal * 30 =3000 kcal、脂肪1gは約7.2kcalですから、
体重の増加は、3000 / 7.2 = 416( g)となります。
1年間では、416 * 12 = 4992グラム。1年間に約5kg、5年間に25kgも太る事になります。
こんな人はあまりいません。
自分は食べ過ぎている、と毎日自己嫌悪に陥っている人でも、食べ過ぎている量はせいぜいその程度なのです。
自然に備わった生理的な能力を信頼しましょう。
あなたも必ず、自然な食欲を取り戻す事が出来ます。




まとめ

・体脂肪はエネルギー源として1日中少しづつ、燃焼し続けていま す。ダイエットの極意は、蓄積の速度が燃焼の速度を上回らないよ うにする事です。

・脂肪が蓄積されるのは主に食後です。炭水化物の摂取によってイ ンスリン濃度が高まると、この反応は促進されます。1日の総カロ リーが一定なら、炭水化物を控え、何度かに分割して食べる方が有 利です。

・空腹感を引き起こす最も大きな要素は血糖値で、血糖値の維持 は、脳のエネルギーをまかなう為に絶対必要ですが、血液中のグル コースをストックするタンクはせいぜい300kcalの容量しかありま せん。食事はこのタンクが減った分だけ補給するようにします。満 タン以上に食べても貯蔵ができないのでお腹がすくのは同じです。

・デトロイト食では、食事ごとのカロリーを食事の間隔に合わせ、 エネルギーが不足しないようにしながらカロリーをセーブします。 ストレスなどで食べ過ぎていて、高い血糖値、インスリン濃度にか らだがなれた人には初めはつらいかもしれませんが、いったん悪循 環を断ち切ると、自分で正常な食欲の感じが解ってきます。エネル ギー計算をすることが、これを助けます。心理的な原因による過食 は知性でコントロールできます。

・たんぱく質の代謝、運動時のエネルギー代謝についてはここでは 省きました。別の考察が必要です。


サキコ理論Spotsへつづく...



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