運動は20分か?

有酸素運動は20分すぎから効果が出ると言われますが、本当でしょうか?
20分説の根拠は次のようです。

私たちが運動を始めると、腎臓から血糖や血圧、心拍数を高めるアドレナリンやノルアドレナリンというホルモンから分泌されますが、このホルモンは脂肪分解酵素リパーゼを活性化して、脂肪を溶かし出す作用があります。
実際に運動中の血液を調べると、運動開始20分頃からこのホルモンの濃度が高まってきます。これが20分説の根拠です。

左図は、オックスフォード大学の研究グループがランニング中の人の血液を採取して、血液中の脂肪酸の濃度を調べたグラフです。
このグラフでは、運動開始40分位まではグルコース濃度が増え、その後から脂肪の濃度が増しています。
20分説とはだいぶ違うようです。

ダグラスバッグ
体内で脂肪がよく燃えたかどうかは、運動中の呼気をマスクで集め、ガスの成分を調べるとわかります。
グリコーゲンは炭素と酸素の化合物なので、グリコーゲンが燃えると、炭酸ガスと酸素の量が同じになります。
一方、脂肪は炭素が連なった化合物です。脂肪を燃やすには多量の酸素が必要なので、呼気中の酸素の量が非常に多くなります。
炭酸ガスの量を酸素の量で割ったものを呼吸商(RQ)といいますが、グリコーゲンが燃えたとき、RQhは1になります。
一方、脂肪が燃えると、酸素が多くなるので、RQは0.7に近づきます。
したがって、運動中の呼気を調べれば、筋肉が使ったエネルギーの割合がわかります。
ダグラスバッグは高価で、数百万円以上もするのですが、 この人は、ガスメータと酸素濃度測定器、ガス検知管を買ってきて自作したそうです。


呼吸商(RQ)
左図は、上の人が運動強度によって、脂肪の燃焼がどのように変わるかを調べたグラフです。
青色のグラフは消費カロリーです。
運動消費カロリーは心拍数に一直線に比例しています。
赤色のグラフは呼吸商から計算した脂肪の燃焼量です。
このグラフで、脂肪の燃焼量は心拍数の増加に比例して増加していますが、
心拍数が120を超えたとたんに脂肪の燃焼が急低下しています。
これは、心拍数が120を超えると、パワーの大きなグリコーゲンの使用が大きくなることを示しています。
この人の場合、心拍数120までが有酸素運動ということができます。

なぜ20分か?
さて、なぜ20分か?ということについて、たいへん貴重な論文があります。
川崎医療福祉大学 異なる運動実施時刻が脂肪燃焼に与える影響

論文を要約すると、
脂肪の燃焼は、空腹時の運動が最も効果が高く、平均RQ値0.83, 25分値が0.84で最も低値を示した。
昼食2時間後の運動でも、30分以上運動を継続すると、空腹時と同じ位に脂肪燃焼が亢進する。

すなわち、運動するなら空腹時が最も効果が高いのですが、昼食後2時間後の運動でも、30分以上継続すれば、脂肪が燃え始めます。



脂肪の分解
左図は脂肪組織の模式図です。
脂肪組織は内部に中性脂肪滴と脂肪分解酵素リパーゼを持っています。
脂肪分解酵素リパーゼは普段は不活性化され、脂肪が溶け出さないようになっています。
このリパーゼを活性化するためには、2つの経路が存在します。

1つの経路は膵臓から分泌されるインスリン・グルカゴンの経路です。
人体には1ヶ月は何も食べなくても生きていける位の脂肪が貯蔵されていますが、この脂肪を溶け出さないようにしているのはインスリンです。
インスリンは食事をすると分泌され、筋肉、肝臓、脂肪組織がブドウ糖を取り込むのを促進し、同時に脂肪の溶け出しを抑制する作用があります。
一方、膵臓から分泌されるグルカゴンは血糖の上昇で抑制され、血糖の低下で促進されます。
すなわち、グルカゴンは食後、血糖が低下して空腹になると分泌されますが、グルカゴンには脂肪分解酵素のリパーゼを活性化させる作用があるので、空腹時に脂肪が溶け出します。
先の論文で、空腹時の運動では運動の最初から脂肪が燃えましたが、これは昨夜の睡眠中の空腹によって脂肪が溶け出していたためです。

もう1つは、運動を始めると、副腎から血糖を上げ、血圧を高め、心拍を速める作用をもつノルアドレナリン、アドレナリンが分泌されます。これらのホルモンには血圧と血糖を上げ、リパーゼを活性化する作用があるので、脂肪組織のリパーゼが活性化し、脂肪酸を放出します。
このため、運動を始めてしばらくすると、血液中の脂肪酸濃度が徐々に増加します。
これが、昼食2時間後の運動でも30分以上継続すると、脂肪の燃焼が徐々に増加する理由です。

ジョギングは食前か食後かの問いに対して、痩せるかどうかはエネルギーがマイナスであれば良いので、運動量が同じなら食前でも食後でも同じだとか、ジョギング前にバナナ1本を食べると良いなどとアドバイスする人がいますが、これは間違いです。


スロージョギング
ためしてガッテン
2009年06月10日放送

走行速度と乳酸値
筋肉でグリコーゲンが使われると、乳酸が生じます。
乳酸が筋肉に貯まると、筋肉が収縮できなくなるの疲労します。
この乳酸は肝臓に送られ、肝臓のリサイクルシステムによって、乳酸2分子から1分子のグルコースが合成されて、再び筋肉に戻ってきます。
乳酸値は筋肉でグリコーゲンが使われた証拠となるもので、乳酸値が大きいほど筋肉でグリコーゲンがたくさん使われたことになります。
左図は、ジョギング時の走行速度ごとの乳酸値の変化を調べたカーブです。


上図で、走行速度が5KMを超えたところから、乳酸値が急激に増加しています。
この乳酸値が急激に上昇するところを乳酸閾値と呼びます。
先のダブラスバッグは非常に高価ですが、乳酸値測定器はそれほど高価ではありません。
乳酸値を測定し、乳酸閾値以下でジョギングをすると、ウォーキングの1.6倍のエネルギーを消費しながら、疲れが少なく、かつ脂肪だけがよく燃える運動ができます。


ケトスティック
アトキンスダイエット を簡単に言えば、炭水化物を5%以下に制限すれば、肉やバターはいくら食べても良いというダイエットです。
そして、最初の2週間が過ぎれば、あとはケトスティックの反応が得られる範囲で、1週間に10グラムずつ炭水化物を増やしていくというものです。
ところが、実際に実行してみると、なかなかケトスティックの反応が得られません。

ドクター江部 は糖質制限食を推奨しています。人類は、400万年の歴史の中で399万年は狩猟生活だったので、人体は脂肪−ケトン体を使うエネルギーシステムに適応していた。その後、農耕を始めるようになり、炭水化物を多く摂るようになってからブドウ糖−グリコーゲンシステムになり、そのために糖尿病が増加した。糖質制限食を実践すれば、元来の脂肪酸−ケトン体を使うエネルギーシステムに戻るので糖尿病が治ると繰り返し述べています。
しかし、糖質制限食を実践してみると、脂肪−ケトン体システムになるはずだのに、ケトスティックの反応はなかなか得られません。

兵庫県断食道場 では、兵庫県と五色町の共同で医学的健康法として断食療法が行われています。
その断食方法は100Kcalのバナナ入の特製ジュースを1日に3回飲むものですが、だいたい4日目くらいからケトンの反応が得られます。


低糖質高蛋白食でケトンがなぜ出ない
エネルギーが不足すると、その不足分のエネルギーが脂肪で補われます。
肝臓が脂肪酸からエネルギーを取り出すには、まず脂肪酸をβ酸化という反応でアセチルCoAに分解します。
脂肪酸1分子から8分子のアセチルCoAができ、アセチルCoA1分子がTCAサイクルを入ると、12分子のATPが取り出されます。
アセチル-CoAがTCA回路を回って代謝されるためには、ある程度のピルビン酸が必要です。
ピルビン酸はブドウ糖またはアミノ酸の代謝物なので、アセチル-CoAがTCA回路で代謝されるためには、ある程度のブドウ糖またはアミノ酸が必要です。
絶食時のように、脂肪酸だけが唯一のエネルギー源であるときは、TCAサイクルの回転が間に合わなくるので、ミトコンドリア内にアセチルCoAが大量に貯まることになります。
貯まったアセチルCoAはそのままでは血中に放出できないのでケトン体に変換して血中に放出します。
絶食では血糖値が60mg/dl位まで下がりますが、低糖質高蛋白食では空腹時血糖値が100mg/dl位に保たれます。
したがって、絶食ではケトン体の反応が得られますが、低糖質高蛋白食では得られないのです。

DR.江部の尿中ケトン体 は陰性です。
低糖質食では、主なエネルギーがケトン体・脂肪酸であることが売りなのですが、そのケトン体がでていないのです。

反応を得るには

左図は、ダイエット時の血中のホルモンの変化をパーセントで示したものですが、3日目位からインスリンの低下し、グルカゴンの増加が顕著になっています。
このように、インスリン濃度が低下してから、ジョギングをするとケトンの反応が得られますが、週末を利用して1日か2日位のダイエットをして、ケトスティックのテストしても反応が得られることは殆どありません。少なくとも4日くらいは続けないと反応が得られません。



ケトスティックの反応は体内での脂肪代謝が盛んだったことを示す指標です。
食事制限だけでケトスティックの反応が出るほどのエネルギーをマイナスにするには、断食などの極端な制限が必要ですが、食事制限とジョギングを組み合わせると、比較的容易に反応が得られます。
ケトスティックスの取り扱い説明書に、絶食、妊娠または頻繁な激しい運動によりケトン体が検出されると書かれていますが、実際には、強い食事制限を3日間くらい続けた上で運動をしなければ反応が得られません。
ケトスティックの反応は、体内で脂肪酸が多く消費されたかどうか示すもので、筋肉で脂肪が燃えたかどうかを示すものではありません。


ケトスティックス説明書
ケトスティックス試験紙取り扱い説明書(抜粋)
測定方法
1.乾いた清浄な採尿容器に新鮮な尿検体を採取します。
2.試験紙を容器より取り出し、新鮮な尿中に試験部分を完全に浸してください。但し試薬が溶出しないよう直ちに引き上げてください。
3.採用容器の縁に軽くあてて過剰の尿を取り除きます。試験紙を水平に保持してください。
4.15秒後に比色表の色枠を選び判定します。判定は便宜上15〜40秒の間で適宜行うことができます。

測定結果の判定
・正常尿ではケトン体は検出されませんが、絶食、妊娠または頻繁な激しい運動によりケトン体が検出されることがあります。
・絶食時又は糖・脂質代謝異常によるケトアシドーシスの場合、血清ケトン体の増加に先立ち尿中に大量のケトン体が出現します。