日本の通訳案内業試験   2001.1.

 

語学関係では日本で唯一の国家試験

 

対象言語;英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、
     イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、朝鮮語

 

受験手続期間;4月の初めから5月中旬まで願書の交付と提出は
       郵送も可能

 

1次試験;7月上旬  外国語の筆記試験 合格発表;8月下旬  

 

2次試験;9月下旬  外国語による口述試験 合格発表;10月中旬

 

3次試験;10月下旬  一般常識の筆記試験 
     最終合格発表;12月中旬


        受験体験記      2001.1.

この試験についてわたし自身の受験体験を踏まえてお話しよう。

98年4月3日、わたしは、試験を主催している
国際観光振興会(東京・有楽町 運輸大臣試験事務代行機関))
に赴いて、願書をもらった。

平成10年度の通訳案内業試験の手続きをするためだ。

「通訳案内業」というのは訪日外国人の観光案内をする仕事で、
対象の外国語は、
英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、
中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、朝鮮語

9カ国語。

語学関係では、唯一の国家試験だ。年齢、性別、学歴、国籍に
関係なく、
だれでも受験できる。願書の受付期間は、
例年4月の初めから5月中旬ぐらいまで、この年は、
4月2日から5月13日まで、受験料は
7300円だった。
願書の交付と提出は郵送でもOK。


1次試験
 

7月5日、日曜日。
午後1時から3時 わたしは東京郊外の成蹊大学で受験した。
試験会場は、
東京以外にも、札幌市、仙台市、名古屋市、
京都府、広島市、福岡市、那覇市
に設けられた。
韓国から来て受験するなら福岡市がもっとも便利だ。
 

1次試験は外国語の筆記試験。朝鮮語は約200人受験した。
驚いたことに、
半数以上は韓国人。
とくに韓国人の女性が多かった


韓国で日本語を教えていたとき、熱心に学び、めきめきと上手に
なった学生たちとおなじ層の人たち。
 

教室に入ったわたしは、自分がここで彼女たちと
おなじ席に座っておなじ試験を受けるということが
信じられない気がした。
「自分は受験生なのではなく、試験官なのではないか」という
錯覚を覚え、韓国で教えていた頃の教室の風景と、
試験会場が二重写しとなった。
 

試験は1時間ほどで終わって早退した。韓国の若い女性たちも、
わたしより早く続々と早退した。
 

試験前から会場となった大学の正門付近に、英会話学校の
講師たちが総出で営業していた。自分の学校の登録学生たちに
励ましの声をかけながら、未登録者に、模範解答を郵送するから
名前と住所を書いてくれ、と。講師と思しき白人もいた。
 

1次試験の合格発表は、8月21日、自宅にハガキが送られてきた。
開封しなければなかが見えない「親展」形式。シール状の上紙を
はがしてみると、「合格」の二文字が目に飛びこんできた。

2次試験

 

8月25日、わたしは再び国際観光振興会に行って、
そこで販売している「日本文化・外交小史」
「観光日本地理」なる3次試験の参考書を購入し、
ついでに事務員と話をした。
 

このとき、年輩の事務員の方がこういう話をしてくれた。

「この試験は、語学関係では唯一の国家試験なので価値がある。
やさしい試験ではない。昨年(平成9年度)、朝鮮語は、
1次試験受験者が約220人、最終合格者は20人。
1次通過は40%。2次通過は92%。ところが、
3次通過は、
2次通過者の24%
。行政としては、朝鮮語と中国語の有資格者を
増やしたい。ところが、朝鮮語受験者には韓国人が多く、
ほとんど3次で落ちてしまう」
 

9月27日、日曜日。国際教育会館というところで、2次試験。
外国語による口述試験だった。
2次試験の
会場は、英語以外は東京だけだ。
 

当日は、受験者を、10時から、10時半、11時、11時半…と、
30分ごとに、5、6人ないし7、8人ずつ集合させ、順番に、
ひとりずつ面接していった。わたしは10時半の組だった。
 

朝鮮語は2部屋に分けて行われ、それぞれ試験官は3人
わたしの入った部屋は、まんなかに韓国人の女性がひとり、
彼女の両脇に日本人の男性2人。
 

この試験のとき、小さなハプニングがあった。順番がきて、
名前を呼ばれたとき、わたしはたまたまトイレに
行っていて、飛ばされてしまったのだ。
それで、昼休前の最後に受験させてもらうことになった。
 

わたしが入室すると、日本人男性の試験官が
「あなたは遅刻しましたね。なぜ遅れましたか」ときいてきた。
わたしは最初の質問だったので、うろたえながら、
「いや、その、時間前にきていましたが、名前を呼ばれたとき
化粧室(韓国ではトイレをこういうのが一般的)に
いっていました」
と答えた。アスペクト、自動詞と他動詞の区別に気をつけて
文を組立てたが、声がうわずっているのが自分でもわかった。
これをきいて、試験官は、「ああ、そうでしたか」とにっこり。
 

その後、質問の大半は韓国人の女性がした。「最近の円安、
為替レイトの変動の激しさが経済に与える影響」「それが
観光産業に与える影響」「経済の自由化の流れをどう見るか」
など、
社会常識を問われた

内容的にはあまりうまく答えられなかったが、
会話は滞ることなく無事にこなした。

試験が終わって、ドアを出ようとしたところ、韓国人の女性が
「ずいぶんお待ちになったでしょう」と、わたしの背中に声を
かけた。わたしはピタッと動きをとめ、それから、ゆっくりふり
向いて、「いまかいまかと緊張して名前を呼ばれるのを待って
いたので、そうでもありませんでした」と答えた。
 

2次試験でも、朝鮮語の受験者は、ほとんど韓国人女性。
日本人のほうが少数だった。
いったいどこの国の試験なのか
と考えさせられた。朝鮮語の日本人の受験者たちは、
だいぶ1次でふるい落とされたようだった。

2次試験は
韓国語なので、韓国人の受験者にはまったく問題ない
日本人もほとんど通過する。
日本人の場合、むずかしいのは1次試験である。
韓国人の場合は、3次試験だ。
 

10月13日に合格通知がきて、25日に3次試験となった。
採点の関係もあるのだろうが、
1次試験は実施から合格発表まで
1カ月半もあり、合格発表から2次試験までも
1カ月以上あるが、2次試験の実施から合格発表、
そして3次試験までは時間がない。
 

この試験に最終合格するには、少なくとも1次試験に
合格したらすぐに3次試験の準備にかからなくてはならない

わたしもそうした。

3次試験

 

3次試験は、日本語による筆記試験。ただし、韓国人は韓国語、
中国人は中国語、というふうに、
1次で選択した外国語で
受験することも可能
。ただ、最終合格した韓国人の話では、
漢字表記のほうが分かりやすいので、
韓国人も日本語で受験にしたほうがいいとのこと。
 

わたしは東京都内の青山学院大学で受験した。
午後1時から3時まで、1次と同じ時間帯だった。
3次試験の会場は、
1次試験を東京、京都府、福岡市で
受験した人は、同じ場所
で受験する。
したがって、韓国から受験する場合、1次と3次を福岡で、
2次だけ東京で受験することができる。
 

内容は、日本地理、日本歴史、産業・経済・政治・文化に関する
一般常識
。2次まで通過した日本人なら、
80%から90%合格する。

 

合格
 

12月18日、せっかくだから最終合格発表だけは自分の目で
見にいこうと、東京国際フォーラムのツーリスト・
インフォメーション・センター(TIC)に向かった。
ハガキによる通知とは別に、
ここの掲示板に合格者名が貼りだされた。
自信はあったが、実際に、自分の名前を見つけると、
うれしかった。

この試験は、
3回に分けて行われ、期間は7月から12月まで
半年
にわたる。最終合格までたどりつくにはかなりスタミナを
要する。
 

2次通過者で、3次で脱落したのは全体平均で18%だった。
つまり80%は合格したことになる。だが、朝鮮語だけは脱落者が
多かった(87人中53人脱落)。無理もない。
すでに何度か指摘したように、朝鮮語の受験者は、韓国育ちの
韓国人たちが主体なのだから。

ほかにはポルトガル語も脱落の割合が高かった
(10人中7人脱落)、これはたぶん純粋な日本人よりは、
ブラジルの日系人ないしその縁者で日本語が達者になった人が
受験することが多いからだろうと思う。

日本で育ち、日本の教育を受けていないとなかなか通らない
ようだ。朝鮮語の合格者34人のうち、日本人は18人。
2次を通過した日本人は全員合格した。
韓国人は16人だった。
が、このなかには在日も含まれるはずだ。

地域限定免許

97年6月より、沖縄を除く九州地方に限定した免許が交付される
ようになった。これは通訳案内業試験の受験者で、
3次で落ちた人たちが対象となる。
2月中旬に行われる4日間の研修を受ければ、だいたい取得でき、
これを取得すれば
5年間、1,2次試験が免除される。
この免許がなければ1年だけしか免除されない

日本語を母語としない韓国からの朝鮮語受験者の3次合格までの
負担を軽減する効果がある。



     3次試験対策      2001.1. 

3次試験の意義

韓国人の受験者は、ほとんど3次試験で落ちてしまう。

語学は達者でも、日本についての一般常識が足りないからだ。
だが、よく考えてみれば、日本についての一般常識が足りない
ということは、日本語の専門家としてやっていくには力不足と
いうしかないのではないか。上級レベルになればなるほど、
純粋な語学力というよりは、
人文社会系を中心とした
総合的な知識、そしてそれらを駆使した論理的で
わかりやすい表現力
が問われるようになるからである。
日常会話が達者だとか発音がきれいだということよりも、
ニュースで語られる程度の話題にすべて対応できる
幅広い知識、その理解の深さが要求される。

その意味では、この三次試験は、人文社会系の基礎知識を
養うのに、ちょうどいい目標になる
と思う。
勉強するためには、なにかはっきりした目標があったほうが
いい。

また、実際に通訳、翻訳、通訳案内業の仕事をするとき、
3次試験のためにがんばって身につけた知識が役に立つ。

注意すべき項目

では、どうやって日本についての知識を増やすか。
日頃から、テレビを見たり新聞を読んだりするときに、
たとえば以下の項目などに、とくに注意する。
仕事で接する相手は韓国人と日本人なので、
両方の興味に応えられるように準備しておくといい。
日本人は韓国の、韓国人は日本の事情を知りたがる。
したがって、以下の項目の知識を整理するとき、

韓国の情報も押さえておく
必要がある。
日々の努力の積重ねが大事だ

国土 面積、長さ、緯度、地勢、地震、火山、温泉…
気候 平均気温、雨量、四季、南北・太平洋側と日本海側の差…
人口 総人口、少子化、外国人人口、平均寿命…
歴史 日本人の起源、日本史の概略、天皇と将軍、武士、戦争、
   原爆、占領…
文化 伝統芸能(歌舞伎、能、文楽、生け花、茶の湯)、漢字、
   かな、カタカナ、ローマ字、外来語、 現代の文化、
   ファッション、マスコミ…
経済と産業 国民総生産、国民所得、産業別就業者数構成比、
   貿易(摩擦)、資源、主要輸出入品目、農業、漁業、
   工業、サービス業、IT(情報技術)分野…
治と防衛 天皇制、国会、内閣、首相、選挙、政党、自衛隊、
   米軍基地、沖縄…
宗教 主要宗教、日本人の宗教観、神道、仏教、キリスト教、
   禅、神棚と仏壇、新興宗教…
労働 平均賃金、ボーナス、失業率、所得税、消費税、
   終身雇用と年功序列、年俸制、派遣、変わる日本人の
   労働形態、ラッシュアワー…
教育 学校制度、幼稚園と保育園、義務教育、塾予備校、
   子どもの問題(いじめ、自殺、非行)、高校と大学、
   短大、外国語教育…
交通 電車、自動車、自転車…
スポーツ 相撲、野球、サッカー…
人々の暮らし 衣食住、家庭、冠婚葬祭、年中行事…
娯楽 パチンコ、カラオケ、映画、ゲーム、その他の趣味…

受験勉強

受験のための特別な準備もしなければならない。

歴史と地理を重点的に勉強する。

歴史は、日本の高校の教科書をよく読む。問題集を買って、
解答から、重要な言葉をピックアップし、
その読み方を正確に覚え、
その意味を覚えて少しずつ肉付けしていくといい。
最後にテキスト(社団法人日本観光通訳協会発行の
「日本文化・外交小史」)の内容を頭に叩き込む。
 

地理は、中学校の地理の教科書の日本の部分、
とくに各地方の特色を理解する。
高校よりも
中学の教科書が役に立つ。
日本地図をよく見て、おおまかな日本地理を頭に入れる。

地名は必ず地図で確認
する。
国立公園
に関する問題は、毎年、必ず出てくる。
テキスト(社団法人日本観光通訳協会発行の
「観光日本地理」)を入手し、暗記する。

韓国人の場合、日本についての全体的な知識の不足を
歴史と地理でカバーするのがもっとも確実である。
歴史は高校の教科書を中心に
全体をよく理解することが大切だが、
時間などの制約で、ある程度絞らなければならない場合は、
文化史、外交史、経済史の三つとする。
これらの分野は通訳案内業者にとっては必須的な知識であり、
実際に仕事をする時、この方面に無知では話にならない。

それから最近の出題傾向として、時事の問題が増えている。
経済ニュースを中心に、この世の中がどういうふうに
動いているかをよく理解する。

くりかえすが、こうして努力して身につけた知識は、
実際に日本語の専門家として仕事をするときに必ず生きてくる。

参考書
                 
以下のテキストの熟読を勧める。

歴史 「詳説 日本史B」(山川出版社、高校の教科書)
   「日本文化・外交小史」(社団法人日本観光通訳協会)

地図 「最新基本地図(世界・日本)」(帝国書院)

地理 「地理 世界と日本の国土」
   (日本文教出版、中学の教科書)
   「観光日本地理」(社団法人日本観光通訳協会)



通訳案内業試験 言語別合格者数の推移 

 

 

英語

 

 

フランス語

 

 

スペイン語

 

 

ドイツ語

 

 

中国語

 

 

イタリア語

 

 

ポルトガル語

 

 

ロシア語

 

 

朝鮮語

 

 

 

1990

422

52

37

32

46

3

3

5

33

633

1991

359

40

28

28

29

8

4

7

48

551

1992

417

26

33

36

38

6

2

12

64

634

1993

266

21

44

17

40

8

3

11

49

459

1994 333 22 35 9 37 7 5 10 39 497

1995

270

16

18

10

44

5

7

8

30

408

1996

239

9

6

11

46

3

3

8

22

347

1997

212

12

12

7

58

3

3

6

20

333

1998

228

14

10

13

77

2

3

12

34

393

1999

232

15

12

11

72

5

7

9

29

392
2000 236 14  8 8  85 6 5 5 23 397
2001 222 9 11 12 95 2 4 8 34 397
2002 186 15 13 12 49 5 7 8 21 316



80年代後半の
朝鮮語合格者数

1985   6
1986  10
1987  10
1988   9
1989  21


概観

このデータは、近年の日本の通訳、ガイド業界、ひいては
国際関係の実態のリアルな断面を垣間見ることができる
ひじょうに興味深いものだと思う。

英語の合格者の減少は、欧米人の訪日の相対的減少。
それから、通訳の需要も多いが
、通訳者もたくさんいて、
もはや飽和状態、さしあたって有資格者を増やす必要はない
という行政の意志の表れか・・。


同様に、
ヨーロッパ系の各言語の衰退も目立つ。

そして、全言語を合わせた総数が、92年から97年まで
大幅な減少傾向を示しているのは、さびしいかぎりだ。

そんな中、98年、主に
中国語、朝鮮語が増加に転じた
今後も、このふたつの言語の
重要性が増すと思われる。
 
さて、朝鮮語を85年から97年まで通して見てみると、
92年の64人をピークとした放物線となっている。
近年ではあのころが交流のピークだったと考えられる。

その後の減少は、景気の低迷と無関係ではあるまい。

 
中国語と朝鮮語の合格者を、98年に多く出したのは、
行政が観光など外国人誘致に力を入れようと考えてのことか。

なにしろいまや
観光にかぎっても外国人入国者の60%以上は
アジアから
の人たち。日本への留学生がアジア、
とくに中国と韓国に集中しているのと同じ
だ。

通訳案内業試験に合格したわたしは、99年に入ると、
有資格者団体の主催する研修会に参加し、
たくさんの同業者と知りあいになった。

朝鮮語の仲間は、日本人と韓国人、男性と女性の構成が、
わたしが受験したとき試験会場に集まっていた人たちのそれと
だいたいおなじだ。
日本人より韓国人、男性より女性が多い
 
すでに活躍している先輩もふくめて、現在、韓国語通訳の
主力になっているのは、
日本人(ないし在日韓国人)と
結婚した韓国人女性たち。いわゆるニューカマーの人たち


ひと時代前に主力だった在日2世の人たちは高齢化したことも
あってか、だいぶ後退してしまったようだ。




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