中国語を学びながら
           
−朝鮮語との類似点等について−
       2003.5.


目次
1、発音
1)終声「-n、-ng」の対応
2)入声の残存
3)濁音の消滅

2、語彙
1)動詞の用法
2)中朝で共通する日常基本単語
3)中朝で使用頻度の高い単語
4)日本製漢字語
5)三者三様の意味をもつ単語
6)造語の面白さ



もうだいぶ前のことになりますが、朝鮮語を学びはじめたわたしは、
日本語と朝鮮語が似ていることに驚いたものであります。

似ている、というよりも、ほとんどまったくおなじ発音(と意味)の
言葉があって、ハングルをまったく知らなくても、たとえば、
以下のような言葉は、そのまま理解できることにも気づきました。

注意(ju-i)、無理(mu-ri)、
(wi)、信者(sin-ja)、
気分(gi-bun)、家具(ga-gu)、
土地(to-ji)、余暇(yeo-ga)、
価値観(ga-chi-gwan)、
調味料(jo-mi-ryo)、
温度計(on-do-gye)、
高速道路(go‐sog-ddo-ro)。

ところで、最近、中国語を学びはじめたわたしは、今度は、
中国語と朝鮮語とのあいだでおなじ(か、それ以上の)ことがいえる
ことに驚いております。

第一に、漢字の発音がよく似ているのです。
まず、この点から説明したいと思います。

1、発音

1)終声「-n、-ng」の対応


日本語の字音は、「ん」以外はすべて、母音で終わる。
中国語(現代北京語)の場合もほぼおなじで、母音で終わるか、
「-n、-ng」で終わるかのどちらかです。

しかし、朝鮮語の場合は、母音で終わるもののほかに、
7つの終声が使われます。

この7つのうち2つは、「-n、-ng」であり、漢字の読み方において、
この2つは中国語のそれと完全に一致します。

この事実を知ったわたしは、「いや〜、これなら、朝鮮語を
母語とする人たちなら中国語はとっつきやすいはずだ」と、
ちょっと羨望を感じました。

日本人の場合、日本語にこの「-ng」がないため
(正確には、たとえば「ほんをよむ」というときには、ふつう
「hongwo-yomu」と発音しているので、ないとはいえない
のですが、「-n」との文字による区別がないために意識されて
いない状態です)、

「-n」と「-ng」を区別して多用している中国語や朝鮮語を学ぶとき、
苦労するひとつとなっています。

中国語と朝鮮語では、たとえば、

 an(中):an(朝)、
 ban(中):ban(朝)、
 gan(中):gan(朝)、
 tan(中):tan(朝)。

 song(中):song(朝)、
 dang(中):dang(朝)、
 tang(中):tang(朝)、
 wang(中):wang(朝)。

これらは、終声の「-n、-ng」のみならず、音節全体がおなじです。

終声の「-n、-ng」に限っても、

 men(中):mun(朝) 
 qian(中):jeon(朝) 
 ren(中):in(朝)。 

 huang(中):hwang(朝)、
 deng(中):deung(朝)、
 jing(中):gyeong(朝)。

単語レベルでみても、

紅茶 hong‐cha(中):hong‐cha(朝)、
公安 gong‐an(中):gong‐an(朝)・・。   

これらはまったくおなじであり、

観光 guan‐guang(中):gwan‐gwang(朝)、
観衆 guan‐zhong(中):gwan‐jung(朝)・・。

これらも、ほぼおなじであります。

2)入声の残存

朝鮮語の7終声の残りの5つは、「k、t、p、m、l」ですが、
じつは中国語においても隋唐代の中古音では、 「k、t、p」で
終わる音節があったそうです。これを入声といいます。
入声は元代前後に消滅したといわれています。

たとえば、日本語の歴史的仮名遣いで「フ」で終わる文字、
「合(ガフ)」、「葉(ヤフ)」などは、もともと「-p」で終わる入声字。
日本語の音韻変化の結果、「合」、「葉」の現代日本語音は、
それぞれ「ゴウ」、「ヨウ」になりました。

しかし、現代朝鮮語には、この「-p」で終わる入声がそのまま
残っています。「合」は「hap」、「葉」は「yeop」と発音します。

中国語でも、北京以外の地方へ行けば、現在でも広範囲に
入声が残っています。 たとえば、 (ミン)方言(福建語)や
粤(エツ)方言(広東語)などは「-k、-t、-p」の区別を完全に
保存しています。

したがって、現代朝鮮語の漢字の発音というのは、昔の中国語の
発音に近く、現代においても、相当部分、類推的に理解できる
という面があります。

3)濁音の消滅

現代の中国語(北京音)では、 子音は有気、 無気の2種しか
ありません。 Pinyin表記で「p/b」、「k/g」、「t/d」などの
有気/無気の対立はあるものの、濁音はありません。

これまた朝鮮語もおなじです。

※ただ朝鮮語にはもうひとつ濃音というのがあります。これは、
「gg/dd/bb/ss/jj/」と発音表記されます。たとえば、「がっかり」
という言葉を、ローマ字表記すると「gakkari」となりますが、
この「kk」の部分。「kka」(っか)と、空気を出さないで、
喉の奥に力を入れて発音する音です。

ところで、隋唐代の中古音では、有気、 無気の清音のほかに
濁音もあったそうです。

たとえば、「足」と「族」は、 現代中国語ではどちらもPinyin表記で
「zu」で、区別されませんが、日本語音では「ソク」と「ゾク」と
区別されています。

実際、「族」は唐代の中古音では濁音でした。

入声の消滅とほぼ同時期に濁音も消滅して清音になったと
考えられています。

この変化は相当全国的な規模で起こったらしく、呉(ウ)方言
(上海語)など一部の方言では濁音が保存されていますが、
中国最南端の粤(エツ)方言(広東語)でも濁音は消滅しています。

かつて韓国で日本語を教えていた当時、韓国人学生たちが、
日本語の濁音に苦労していたのを思い出します。
濁音表記のことを「濁り」といっていましたが、学生たちから、
よく、「そこには濁りがつきますか?」という質問を受けたものです。

中国語の基本的な単語をひととおり見渡してみて、わたしは、
とにかく発音が近いので、中国語は、韓国人にはかなり学びやすい
言語だと感じました。

しかし、比率的には、ごく少ないものの、中国語の単語には、
朝鮮語より日本語の発音に近いものもあるのが、おもしろいですね。

たとえば、

態度(たいど) tai-du(中):tae-do(朝)、 
殴打(おうだ) ou-da(中):gu-ta(朝)。

2、語彙

1)動詞の用法


やはり朝鮮語を学びはじめた当時、わたしは、漢字語のみならず、
固有語の用法においても、日本語と朝鮮語がよく似ていることに
驚いきました。

たとえば、「かける」という動詞があります。朝鮮語では、「geolda」が
対応しますが、その対応範囲がびっくりするほど広いのです。

壁に絵をかける
閂(かんぬき)をかける
橋をかける
議題を会議にかける
言葉をかける
電話をかける
ブレーキをかける
望みをかける
賞金をかける
賭博で金をかける
命をかける

これらの「かける」は漢字で表記すると、「掛ける」「架ける」「懸ける」
「賭ける」と区別されるが、朝鮮語ではすべて「geolda」が対応します。

これほど広範囲の対応は、日本語と中国語、朝鮮語と中国語の
いずれにおいても見当たりませんが、ある動詞の用法の共通する
部分が、日本語と中国語より朝鮮語と中国語のほうに多いという
ことはあると思われます。

たとえば、「飲む」の場合、日本では「水を飲む」のほかに、
「薬を飲む」ということも可能ですが、中国語と朝鮮語では、
薬は「食べる」であります。

2)中朝で共通する日常基本単語

日常よく使われる基本単語においても、中国語と朝鮮語には
共通するものがたくさんあります。

たとえば、「味噌」のことを、どちらの国も「」(jiang(中):jang(朝))
というし、「汁」は「」(tang(中):tang(朝))です。

」というと、日本語では、敷地もしくは建物全体のなかに入る
ときの入り口をさしますが、中国語と朝鮮語の場合、それ以外に、
建物内部の各部屋への入り口、つまり「ドア」「戸」の意味でも
使います。

ほかにも、

「(郵便)切手」(日)は、「郵票」(中朝)、
「裁判所」(日)は、「法院」(中朝)、
「誕生日」(日)は、「生日」(中朝)、
「天国」(日)は、「天堂」(中朝)、
「雪達磨」(日)は、「雪人」(中朝)、
「転校」は、「転学」(中朝)、
「傘」(日)は、「雨傘」(中朝)、
「日傘」(日)なら「陽傘」(中朝)、
ちなみに、この発音は「yang-san」とおなじ。
「港」(日)は、「港口」(中朝)、
ナマコ(海鼠(日))は、「海参」(中朝)。

それから、「提高」という単語も中国と朝鮮では共通です。
「望ましい方へ高める」という意味ですが、日本では使われない
ものです。


3)中朝で使用頻度の高い単語

日本でもかつて使っていたし、いまでもたまには目にしますが、
めったに使われなくなった単語で、中国と朝鮮ではいまも日常的に
使っているものもあります。

たとえば、

「入浴」(日)は、「沐浴」(中朝)、
「容疑」(日)は、「嫌疑」、
「滝」(日)は「瀑布」(中朝)。
「数量が非常に多い」という意味の「許多」(中朝)。
「家」「部屋」(日)の意味で、「」(中朝)。

行李」というのもあります。これは、もともと、旅の荷物を運ぶときに
使った、竹または柳で編んだ「つづら」状の入れ物のこと、梱(こり)
ともいいます。日本ではもうほとんど使われなくなった言葉(であり
実物)ですが、中国では広く「旅行時の荷物」 をさし、朝鮮では、
「行李」(haeng−ri)よりは「梱(こり)」(go−ri)で残っています。

最近、時事関連の出来事のなかで、気づいたものに、「先生」と
いう単語があります。

日本では、教師、政治家、医者、弁護士など、一部の職業に限って
使用されていますが、中国や朝鮮では広く使われ、大人の場合、
「さん」代わりに使うことも可能です。

1978年7月31日、新潟県柏崎市の実家に帰省中、北朝鮮によって
拉致され、2002年10月15日に、約四半世紀ぶりに帰国した蓮池薫さん(現在45歳 朝鮮名「パク・スンチョル」)の場合、同時に帰国した
方々が彼を「先生」と呼んでいたために、出迎えた日本人たちが、
薫さんを、帰国した拉致被害者たちのなかでのリーダーと思いこみ、
本人がそれを否定する、ということがありました。

たとえば、「正月」というと、日本では陽暦の正月をさしますが、
中国と朝鮮では陰暦の正月です。このように慣習において、中朝は
より近いと面があって、それが語彙にも反映されているといえる
かもしれません。

「先生」に類する単語としては「大丈夫」もあります。
現在、日本では「危なくない」「確かだ」という意味で使われていますが、
中国と朝鮮にはこの意味はなく、「一角の男」という意味。
昔は日本でもそういう意味で使われていた単語です。

また、「是非」という単語。
「良し悪し」という意味では日中朝共通ですが、日本語にある
「みなさま、ぜひお越しください」というときの「ぜひ」の意味は、
中国と朝鮮にはありません。半面、中朝には「いざこざ」の意味が
あるのですがが、この意味は日本にはありません。

それから、「手風琴」という単語。
わたしは知らなかったのですが、アコーディオンのこと。広辞苑の
「アコーディオン」の項には、この「手風琴」が記載されているし、
わたしがいまこの原稿を書くのに使っているマイクロソフト・ワード
でも「てふうきん」と打って変換すると、この漢字語が出てきます。

2002年10月25日、フジテレビで、午後9時から約2時間にわたって
放送された横田めぐみさんの娘、キム・へギョンさん(15)の
インタビュー(「スクープ!時と海を越えて…へギョンさんから横田
夫妻へ 独占"涙のメッセージ"」、平均視聴率は26.3%(ビデオ
リサーチ調べ、関東地区)
の際、ヘギョンさんが音楽が好きだと
いうので、インタビュアーが「どんな楽器の練習をしているのですか」
と問うたところ、ヘギョンさんが「手風琴」と答えたのだが、これを
日本人の同時通訳者が知らなかったらしく、翻訳できず、瞬間、
絶句してしまった、ということがありました。

わたしも知らない単語で、後で調べて、アコーディオンと知った
のですが、この「手風琴」は中国と北朝鮮で日常語として使用され、
日本と韓国では「アコーディオン」のほうが一般的です。

英語の単語の使用は、やはり日本と韓国に多く、中国、北朝鮮では
対応する漢字語のほうをよく使っているようですね。

英語で思い出したのですが、「外人」という単語。
日本では「外国人」の意味ですが、中朝では「他人」もしくは
「部外者」の意味。ただし、韓国では「外国人」の意味もあります。

4)日本製漢字語

近代以降、欧米の進んだ文化や科学技術を積極的に取り入れ
はじめた日本は、各分野の欧米言語による用語に対し、新しい
漢字語をつくって対応させ、新語の大量生産を行いました。
そして、これらの新しい漢字語が、中国、朝鮮に逆輸出されて
定着しました。

政治、経済、社会、文化、国際、民主主義、人民、共産党・・。

すべて日本製漢字語です。

日本製漢字語は、中国より、朝鮮において広く使用されています。

ごく身近なものを例にとっても、たとえば、「電話」は日中朝すべて
「電話」ですが、「冷蔵庫」は朝鮮では「冷蔵庫」ですが、中国では
冰箱」。「自動車」も朝鮮では「自動車」ですが、中国では「汽車」。
「映画」も朝鮮では「映画」ですが、中国では「電映」となります。

ちなみに、外来語がそのまま定着した「テレビ」の場合、朝鮮では
やはり外来語のまま「テレビジョン」「TV」を使いますが、中国では
電子机」といいます。

「野球の試合」というと、朝鮮では、まったくおなじ漢字語を使いますが、中国では「棒球比賽」と、だいぶ異なります。

「野球」は朝鮮では「野球」ですが、中国では「棒球」、サッカーは
朝鮮では「蹴球」ですが、中国では「足球」。バスケットボールは
朝鮮では「籠球」ですが、中国では「籃球」。ただしバレーボールは
中朝ともに「排球」です。

「野球」「蹴球」「籠球」「排球」、すべて日本製漢字語であります。

この例からすると、日本では使われなくなった日本製漢字語が
朝鮮においていまなお使われている、という面もあるということも
できるでしょう。

外来語をそのまま使わないで、漢字語に置き換えて使おうとする
傾向は、日本より中国と朝鮮に強いようです。

新しい例では、「コンビニエンス・ストア」。
日本では「コンビニ」という短縮形ですっかり定着した観がありますが、中国では、「便利店」、韓国では「便宜店」としています。

5)三者三様の意味をもつ単語

日中朝ともにおなじ漢字を使いながら、意味のまったく異なる単語も
あります。

たとえば「工夫」。

日本では「いろいろ考えて、いい方法を見つける」というような意味
ですが、中国では「時間」「暇」「努力」、朝鮮では「勉強」となります。

愛人」というと、日本では、もっぱら、「夫や妻以外の恋人」という、
やや不謹慎な意味で使われますが、中国では、文字通り、
「愛する人」、つまり「夫、妻、恋人」となり、朝鮮では「恋人」です。

放心」は、日本では「気が抜けて、ぼんやりする」くらいの意味で
使われますが、中国では「安心する」の意であり、朝鮮では
「油断する」となります。

中国語には「放心店」という言葉があります。日本や朝鮮の意味から
すると、泥棒に入られそうな雰囲気ですが、じつは「料金をごまかさず、
品質もサービスもいい店」、つまり「安心できる店」という意味です。

また、同様の漢字語をおなじ意味で使うにもかかわらず、漢字の
配列が逆になっていて、まぎらわしい単語もあります。

たとえば、日本の「草花」は、中国と朝鮮では「花草」となります。
「紹介」は、朝鮮ではおなじく「紹介」ですが、中国では「介紹」です。

このようにまぎらわしい例は、物の数をかぞえる単語にもあります。

たとえば、紙など薄い物をかぞえるときに使う「枚」は、中国と朝鮮では
」となり、グラスに注いだ飲み物をかぞえるときの「杯」は、
中国ではおなじく「杯」ですが、朝鮮では「」です。

6)造語の面白さ

中国語を学ぶ楽しさのひとつは、その造語の面白さにあるのでは
ないかと思います。

中国は、漢字の音と意を巧みに使って、非常に面白い言葉を
次々に生み出しています。

たとえば、「黒客」というのがあります。
「黒」には、「黒社会」(ヤクザの世界)のように「闇」の意味があります。したがって「招かれざる客」というくらいに解釈できると思うのですが、
これは他のコンピュータに不正に侵入して被害を与える「ハッカー」を
意味します。発音は「hei−ke」、原語である英語の「hacker」に
よく似せていますね。

ところで、原語の「hacker」には、「コンピュータおたく(熟達者)」
という意味もあります。こちらは、中国語では、「電脳虫」といいます。
コンピュータのことを中国語で「電脳」というが、「電脳虫」というのは、
その本質をよくとらえていると思うのですがどうでしょう・・。

拝拝」(bai−bai)は、英語の「bye−bye」。
追星族」というのは、「(スター)の追っかけ」。

「フェーン現象」という言葉。
山間の盆地などに発生する現象。おろしの一種で、山腹から乾燥した高温の風が吹きおろすこと。
原語はドイツ語の「Fohn」(oの上に「¨」がつく)

北朝鮮でこれをどう表現しているのか知りませんが、韓国では
日本語の「フェーン」とおなじく、「po‐en」と、そのまま原語に
近い音で表現しています。

中国では、「焚風」(fen‐feng)。
これまた漢字の音と意をよく生かしています。

ところで、じつは日本では、「風炎」(ふうえん)ともいうのです。
これなども、漢字の音と意をよく生かしてつくられた造語だと
思いますが、日本では、ほとんど使われていません。
もっぱら「フェーン」ですね。


以上、断片的ではありますが、日本人として感じた中国語と朝鮮語の
類似点など、気づいたことをまとめてみました。

語学学習の息抜きとしていただけましたなら幸いです。


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