「ねえパパ・・・」

「なんだマコト?」

「・・・ペ・・・ペンギンがいいな!・・・おみやげ・・・」








































「ねえ、お兄ちゃん」

「・・・え?」

「どうしたの?ぼおっとしちゃって」

「え?ぼおっとしてた?」

「してたわよお・・・つまんないならババ抜きやめる?」

「いや、つまんなくないよミサトちゃん。ほら、引いて」

「もうっ、お兄ちゃんの番でしょうっ!」

「あ、そうだっけか?」

「・・・ふん、大方彼女のことでも考えてたんでしょ〜」

「・・・あんまり大人をからかわないでよ」

「ああ〜、図星だあ〜。ねえ、バツとしてビールもう一本買って来て〜ん」

「ミサトちゃん・・・子供なんだからあんまり飲まない方が」

「南極は寒いのよ」

「かなり暖房効かせてるよ」

「こころが寒いのよこころがっ!」

「んなムチャな・・・」

「買って来てったら買って来てっ!」

「・・・はいはい・・・ったく酒グセの悪い・・・」

「何か云った〜?」

「・・・お姫さまは可愛いな・・・と」





















部屋から出る。

これは・・・自分の部屋なのか・・・。

うすら寒い廊下。

どうやら俺は食堂を目指しているらしい。

南極・・・。

彼女、南極と云っていたな・・・。

・・・葛城調査隊か。

間違い無い。

暗がりの中、自動販売機が辺りを照らしている。

・・・俺は一体・・・誰なんだ?

取り出し口の冷えた缶を握る。

・・・スピナーは俺に何を見せようとしているのか?

俺の宿命を見せつけるつもりなのか?

父さんや・・・ミサトさんを。




















「買ってきたよミサトちゃん」

「あ、お兄ちゃん・・・良いもの見せてあげようか」

「良いもの?」

「うん。わたしの大切な・・・もの」

「ち、ちょっと・・・ど、どうして上着脱ぐの」

「ん?暑いからだけど?」

「え?」

「・・・ああ〜、お兄ちゃんエッチくさ〜い」

「いやそんな」

「ろりこ〜ん」

「だから違うって」

「・・・冗談よ。すぐ本気にするんだから」

「・・・・」

「・・・これ」

「これって・・・ペンギンの写真?」

「そ。主任さんにもらったの」

「主任って・・・日向主任?」

「うん。子供のお土産にペンギン持って帰るんだって」

「ペンギンを?」

「無理よねえ・・・ったくあいつもガキっぽいお願いするわ」

「あいつって・・・知ってるの?確か・・・」

「男の子。・・・ちょっと、ね」

「ふ〜ん・・・で、その写真が?」

「目を付けてるんだって。ここらでも一番立派なんだって。でも、中々姿を見せないって云ってた」

「あの仕事の鬼がペンギンを・・・ふふ、何だか笑っちゃうな」

「あ、これ秘密ね。黙ってろって念を押されちゃったから」

「まあ、そりゃ秘密にして置きたいだろうな・・・でも無理だね」

「え?・・・どうして?」

「だって、ミサトちゃんに云っちゃったら基地中の皆に知れちゃうもの」

「ひっど〜い。まだお兄ちゃん入れて10人にしか話してないわよお・・・」








































見上げると、巨人は虚ろな瞳を俺に向ける。

いや、横たわる槍を見下ろしているのか・・・。

剥き出したコアがどす黒く鈍く輝く。

まばらな人影でも、その緊張感から判る。

実験は近い。

この巨大な地下の球形空間で、あの暗いコアに槍を埋める日。

・・・セカンドインパクトが。

「お兄ちゃん」

「あ、ミサトちゃん・・・どうしたの?」

「・・・眠れないの」

「お父さんなら、今ブースの方に・・・」

「ううん、良いの。ちょっとお散歩してただけだから」

「そう・・・」

「・・・ねえ、お兄ちゃん。・・・明日だね」

「あ、ああ。そうだね」

「さっさと終わらして、早く帰りたいな・・・」

「そうか。やっぱり同い年の子とか居ないとつまらないもんね」

「ガキなんぞには興味無いわよ」

「おや。これは失礼いたしました」

「お兄ちゃんこそ早く恋人に逢いたいんでしょう〜」

「だから居ないんだって」

「うわ〜キモチわる〜。お兄ちゃんオタクなんじゃないのお〜」

「う・・・うるさいなあ・・・」

「恋人も居ないなんて・・・それで幸せなの?」

「・・・・」

「・・・あ、やだ、冗談・・・」

「子供の頃・・・」

「え?」

「子供の頃、未来はもっと素晴らしいものだと思ってた」

「・・・・」

「文化女中器や、窓拭きウィリイや、万能フランクが有って」

「・・・・」

「ひとは皆、科学の力によって幸せになれると思ってたんだ」

「ふうん・・・じゃあ、幸せじゃないのね・・・」

「・・・良いんだ。仕方ないのさ」

「・・・どうして?」

「・・・宿命だから」

「宿命・・・」

「・・・あれ?な、何云ってるんだ俺。ワケ判んないこと・・・」

「お兄ちゃんってろまんちすとなのねえ」

「そうじゃないって・・・何か誰かに云わされた感じで・・・」

「・・・ろまんちすとさん、主任が呼んでるわよ」

「あ。・・・じゃあねミサトちゃん。主任に呼ばれたら行くのが助手の仕事なんで」

「・・・宿命ね」

「ふ、そうだね。・・・早く寝るんだよ」

「はあい」








































眩い光。

激しい振動。

轟く咆哮に地底空間の天井は激しく砕ける。

目の前のドアノブをやっと掴むと、俺はそのひとを見る為に捻る。

そのひとの名を呼ぶ為にドアを開ける。








































その日が来たんだ。









































「主任!」

「くっ・・・」

「主任!早くシェルターへ避難して下さい!」

「ああ、判ってる。だが送信アンテナの制御がイカれた」

「何ですって?」

「データをサテライトに送らねば」

「そんな・・・ここに居たら巻き込まれてしまいますよ!」

「ダイヴした被験者の遺伝子はすでに融合を果たしている。貴重なデータだ。是が非でも残さねばならない」

「しかし・・・」

「未来の為に必要なんだ!・・・手動で送信する。君はシェルター・ポッドに行きたまえ」

パパ・・・。

「・・・主任・・・」

いやだ・・・。

「・・・どうせ調査隊全員の分は無い。わたしは残るよ…これは全人類に対するわたしの義務だ」

いやだっ!

「・・・・」

パパ、帰ろうっ!

「早く行きたまえ!」

一緒に帰ろうっ!

「・・・すいません主任・・・どうぞご無事で」

一緒にママのところへ帰ろうよおっ!

「君もな」









































パパァっ!








































U


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T ↑  S  p  i  n  n  e  r  ↓  S  p  i  n  n  e  r  N



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p

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I








































宿命なのか・・・。




















全て、宿命なのかっ!




















逃れることの出来ない、俺の・・・。




















「お兄ちゃん」




















「ミ、ミサトちゃん!?こんなところに居たら危ないよっ!」




















「・・・天使を見たの」




















「ああ、ケガしてるじゃないかっ!早くポッドへ・・・」




















「ふたりの天使を見たの」




















「・・・え?」




















「お兄ちゃん・・・宿命なの?」




















「全部、宿命なの?」




















「全部、なくしちゃうの?」




















「何もかも・・・全部」








































きつく抱きしめた。

そうせずには居られなかった。

そう・・・








































失いたくなかったんだ。



















































































              

          

     

           

     


  

           

          

     
       

       

 

           


    

 

          

  

                

  


          

        


      


             

     

    

            


          


       
        

    

                    
       
           



           

          

             
       
     

       

     


                   
           
            

     


              
           

          

     
       

    

            

      

       

     

           

           
           

  

     

         


          

              
       
  

           

          

       
       
      

      

  


         
           

          

     
       
           

    

 

          

  

                
       
  

           

          

        
       
      

      






























































「誰も宿命から逃れることは出来ないわ」




















「でもねリッちゃん、ひとは生み出すことが出来るの」




















「新しい宿命を」




















「だからひとは生きて行けるのよ」








































「・・・だってそれは、『希望』なんだもの」












































































































































































































































































































































































































































「センパイっ!」

『どうしたの?マヤ』

「物質化が・・・始まりましたっ!」

『ええっ?』

ディスプレイの中のLCLはごぼごぼと泡立つ。
ゆらめく赤みがかった影。

「・・・間違い無いです・・・帰って来たんですぅっ!」

『落ち着いてマヤ・・・状況は?』

「物体A、構成率84パーセント・・・」

『?・・・ちょっとマヤ、物体Aって?』

「あのお・・・それが・・・構成中の物体がふたつ有るんですぅ」

『どう云うこと?じゃあ日向君だけじゃ無いってことじゃない』

「そう・・・なりますぅ・・・」

『まさか!?日向君の自我イメージが何かを物質化していると云うの!?』

「・・・それって・・・」

『・・・イドの怪物・・・』

物質化の完了を知らせる表示。
ごぼごぼと排水されるLCL。
画像は暗く不鮮明な影を映す。

『気を付けてマヤ。何が出てくるか判らないわ』

「はい、センパイ」

低いうなりを上げてプラグのハッチが開く。
大型のスパナを固く握り締めたマヤの手が汗で緩む。
そろりそろりとプラグに近付く。
覗き込む。

「きゃあ〜〜〜っ!!!」

『マヤっ!どうしたのっ!何があったの!?』

「かわいい〜〜〜っ!!!」

『は?』

マヤの手が、『物体B』の額に張り付いた髪をそっとかき上げる。
意識無くインテリアに横たわるマコトに抱かれて
LCLに髪を濡らした全裸の少女は、瞳を閉じ、安らかな呼吸を繰り返していた。



からからとドアのベルが鳴る。
クラシックの流れる喫茶店の座席で手を振る男。

「マコト〜、こっちこっち」

(うわっ、恥ずかしいやっちゃな・・・)

隣りに座る女がにこにこと手を振る。

「日向さ〜んっ、やっほ〜っ」

(・・・マヤちゃん・・・感化されやすいんだね・・・)

ふたりの向かいに腰を下ろす。

「久しぶり・・・で、決まったんだって?シゲル」

「あ、ああ。まあ、大体来年ってことで・・・」

「大体って何ですか」

マヤは青葉シゲルのわき腹を肘で小突く。

「イテテ」

「来年の6月ですよ日向さん」

「そりゃおめでとさん。・・・でもマヤちゃん、こいつ用意が悪いから覚悟しときなよ」

「おいマコト、何だよその云い草。前途有るふたりに不安材料を植え付けんなっての」

「大丈夫ですよ日向さん」

「ほら、聞いたか?マコト」

「判ってますから」

「・・・・」

「わはは。一本取られたなシゲル」

「その点、日向さんは用意が良い・・・あ、いや」

「ん?どうしたのマヤちゃん」

「な・・・なんでも無いですぅ・・・」

真っ赤になって俯くと、ジュースの入ったグラスを抱えてストローをくわえる。

「変なヤツ・・・で、マコト。例の『物体B』、どうした?」

「あ・・・ああ」

「リツコさんとこでの検査は終わったって聞いたけど?」

「ああ。隅から隅まで調べたけど、人間と寸分変わらないそうだ」

「ふ〜ん・・・ってことはホントに葛城さんなわけね」

「う〜ん・・・どうなるんだろ。実は俺にも良く判らないんだ」

「で、どうした」

「・・・何が?」

「『物体B』こと葛城さん2号だよ。それからどうしたんだっての」

「ああ・・・彼女がそれからどうしたかって云うと・・・」

「うんうん」

乗り出す。

「・・・実はうちに居るのです」



「ほらっ、起きなさ〜いっ!」

ふとんの上から足蹴にされて、マコトは涙目を開ける。

「イテテっ・・・今日は休みだって・・・」

「何よ。たま〜に早起きしたから掃除してあげようって云うんじゃな〜い。少しは協力して」

「もう・・・勘弁してよ・・・」

眼鏡を掛けて、顔を上げる。
髪を引っ詰めエプロンを着けた少女。
片手にはたき、片手に缶ビールを持って睨む。

「・・・・」

「何?わたしの顔に何か付いてる?」

「あ、いや。・・・ねえ、もう少し寝かせてよミサトちゃん・・・」

「こお〜らっ!」

ふとんの上から踏み付ける。

「げほっ!」

「・・・わたしはミサトじゃないって云ってるでしょ?あのおばさんから名前もらったじゃな〜い」

「げほげほ・・・お・・・おばさん・・・」

「わたしはリツコ。日向リツコなの。自分の妹の名前ぐらい覚えてよ」

「わ・・・判ったよリッちゃん」

「ちょっとっ!」

踏み付ける足がぐりぐりと捩じられる。

「ぐげげげ」

「リッちゃんなんてガキっぽい呼び方やめてくれない?」

「だってガキじゃ・・・ぐげげげげ」

「そうねえ・・・『リッキー』が良いわね。ガイジンみたい」

「ちょっと無理が・・・ぐげげげげげ」

「何?お兄ちゃん」

「な・・・何でもないよ・・・リッキー・・・」

「・・・オッケー。良い?お兄ちゃん。わたしはお兄ちゃんのせいでこの世に生まれて来ちゃったのよ」

「・・・・」

「お兄ちゃんの身勝手な自我がわたしを作り出しちゃったんだからね」

「・・・・」

「・・・ちゃんと・・・責任取ってよね」

「うん・・・判ってるさ」

ふとんからのそりと立ち上がると、ズボンからウォレットを手に取る。
窓辺に寄り掛かる。

「良いもの見せてあげようか」

「良いもの?」

「うん。俺の大切なもの。こっちおいで」

寄り添う少女の目の前でウォレットを開く。
ぱさりと何かが落ちる。

「・・・!・・・」

「あっ、いやっ、こ、これじゃなくって・・・」

「・・・お兄ちゃんエッチくさ〜い」

「いやそんな」

「ろりこ〜ん」

「だから違うって」

「冗談だって。お兄ちゃん用意が良いもんね」

「・・・・」

「・・・あ、これ・・・」

血の付いたペンギンの写真。

「親父・・・いや、パパの唯一の形見。ミサトさんがくれたんだ」

「・・・好きなの?」

「え?」

「その・・・ミサトさんのこと」

「・・・・」

「わたしって・・・何なのかな・・・」

「・・・何って?」

「ミサトだし・・・ミサトじゃないし・・・何なのかしら・・・」

俯いた頭。
マコトが手を取ると、ゆっくりと視線が向く。

「・・・“この世の真理がどうであろうと、僕は現在をこよなく愛している”」

「・・・?・・・」

覗き込む瞳に微笑みかける。

「俺は見つけたよ・・・」








































「夏への扉を。・・・リッキイ」









































<おしまい>




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