「子供の頃・・・」








































「子供の頃、未来はもっと素晴らしいものだと思ってた」




















「文化女中器や、窓拭きウィリイや、万能フランクが有って」




















「ひとは皆、科学の力によって幸せになれると思ってたんだ」




















「ふうん・・・」




















「じゃあ、幸せじゃないのね・・・」




















「・・・良いんだ。仕方ないのさ」




















「・・・どうして?」








































「・・・宿命だから」










































S

p

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n

n

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UNIT-2










































冷たい光は金属を照らし
幾枚ものディスプレイは無人のプラグを映す。
床にしゃがみこみ、うな垂れる女。

「・・・せ、センパイぃ・・・」

顔を上げる。

「・・・センパイ、わたし・・・どうしたら・・・」

一枚のディスプレイに浮かぶ女。

『・・・マヤ、落ち着くのよ。彼を救う方法は有るわ』

「でも・・・」

リツコはふっと笑みを浮かべ

『・・・しかし、あなたも無茶ね。スピナーに触ろうなんて』

「・・・・」

『・・・科学者だった・・・ってことね』

ゆっくりと椅子に座り直す。

「・・・でもセンパイ、何で・・・」

『MAGIを何に使うのか、こっそりモニターしてたの。・・・科学者ですからね』

マヤの僅かな笑み。

「・・・でも、何故あれがスピナーだって・・・」

リツコの顔に眼鏡が現れる。
書類に目を落とす。

『・・・偵察機事故のデータを見たわ。双方向回線パルスにノイズが現れてるわね』

「・・・そういえば」

『そう。今回も同じ兆候が見られたでしょう?あれは、MAGIがスピナーに入れ替わる瞬間なのよ』

「・・・じゃあ・・・」

俯く。

「・・・わたしが早く気付いていれば・・・日向さんは・・・」

『今更悔やんだって仕方がないわ』

「でも・・・」

『とにかく、彼をサルベージすることが最重要課題。判った?マヤ』

「・・・はい、センパイ」

『では』

眼鏡を外す。

『あなたは彼に植え付けられた情報が何であるかを突き止めて。彼はその情報に過剰にシンクロした結果、取り込まれてしまったの。だから、それを取り除かなければならないわ』

「はい・・・センパイは?」

『彼が接触してくれたおかげで、スピナーの場所が判ったわ』

「・・・何処なんですか?」

『・・・カスパーのアボリジナルよ』

「ええっ!?」

立ち上がる。

「・・・そんな・・・脳幹システムに!?」

『新皮質をスキャンしても見つからないはずだわ』

「そんな・・・一体、誰が・・・」

『・・・そんなことが出来るのは、たったひとり』

はっとする。

「・・・まさか・・・」

『とにかく』

リツコはヘッドセットを戴く。

「せ、センパイっ!」

『大丈夫よ。フィジカルハーモニクスじゃないから危険は少ないわ。直接ブレイントークで触るし、飽くまでも補助よ』

「でも」

『スピナーはわたしに任せて、あなたは偽情報をデリートすることだけを考えて』

「・・・・でも、センパイ」

『これは、わたしの義務なの』

「・・・・」

『・・・宿命なのよ』

微笑む。



「科学者・・・か」

マヤを映すウインドウが閉じる。
リツコは高い天井を見上げる。

「科学者なんて残酷なものね・・・彼がスピナーに接触するまで待ってたんだから」

無人の空間に自嘲が響く。
ディスプレイに向き直る。
かたかたと鳴るキーボード。

「・・・カスパーのアボリジナル・エントランスへガイド」

ビープ音。

「・・・パスワード・プロテクトね・・・オーナー・キー入力」

ビープ音。

「蹴られた・・・ディベロッパー・キー入力」

ビープ音。

「ダメ・・・まあ、アボリジナルはまだ誰にも触られてないものねえ・・・」

ため息をつく。

「・・・プラグインでも脳幹には届かないわ・・・どうする?」



「カスパーのライブラリ・エントランスへガイド」

かたかたと指はパスワードを打ち込む。
ディスプレイは文字列をマヤの瞳に映す。

「リーディング・ログを構築。時間は・・・キャッシュを使ったとしても、事故の起きた時間から3分前まで」

文字が流れ出す。

「・・・この中に有るはず・・・この中に」

ぴたりと流れが止まる。

「・・・こんなに・・・多過ぎる・・・」

ため息。

「インデックスを検索して行くしかないわ・・・でも、何で?」

キーボードに顔を伏せる。

「考えるのよ、マヤ。・・・日向さんが感情移入しそうなもの・・・」

静寂。

「・・・あ」

ぱっと顔を上げる。

「・・・あのビデオ・・・」

キーを鳴らす。

「セ・カ・ン・ド・イ・ン・パ・ク・ト」

ビープ音。

「・・・無い。違うの?」

キーを鳴らす。

「ナ・ン・キョ・ク」

ビープ音。

「カ・ツ・ラ・ギ・チョ・ウ・サ・タ・イ」

ビープ音。

「ヒ・カ・リ・ノ・キョ・ジ・ン」

ビープ音。

「・・・判らない・・・」



リツコは目を瞑る。

「・・・スピナーさんのお誘いに乗ってみる?」

キーを叩く。

「ドアイメージ展開」

キーボードから両手を離す。

「・・・ねえ、ピート君」



ちらりとマヤの目の端に映るもの。
マコトの衣類。

「・・・ごめんなさい、日向さん・・・」

ズボンのポケットからウォレットを取り出す。
開く。

「?・・・写真?」

古ぼけた画像。

「御両親・・・と?」

もう一枚。

「・・・ペンギンさん・・・これ血かしら?・・・それと」

コンドーム。



「そこね・・・スピナーさん」

空中のドアノブを掴むと、ゆっくりと廻す。
開ける。

「・・・!・・・」



「きゃああああっ!!!!・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!!!」










































「わたしがこの世界に確かに生きていた証に」




















「・・・」




















「リツコ、結婚してくれ」




















「・・・何考えてるの!こんなもので今までの仕打ちがすべて許されるとでも思ってんの!バカにしないでよ!傷つけられた女のプライドをこれで帳消しにしろって云うの!・・・これから勝手に死にに行こうって云うエゴイストのプロポーズなんか、受けるとでも・・・思って・・・」




















「・・今のは・・科学者としてのわたし・・」




















「・・・男と女はロジックじゃないものね・・・そうよね、母さん・・・」








































「・・・隠し撮りはあまり良い趣味じゃなくてよ」




















「せっかくの面白いビデオだけど、生憎こちらが目を開けば終わるわ」




















「・・・ねえ、ユイさんには何を見せたの?」








































「・・・母さん」










































「ペ・ン・ギ・ン」

ディスプレイを流れる文字列が、止まる。
一列が抜き出される。
拡大される。

「・・・ヒット・・・した・・・」

マヤは読む。

「2000年9月13日・・・記録者・・・ラルフ?・・・」



「全回路接続。シャットダウンは無効。・・・もう逃げられないわよ」

たったひとつを残して、全てのウインドウが閉じる。
暗い画面がゆらゆらと揺らぐ。

「・・・・」

画面に数字が現れる。

『5』

「・・・・」

『4』

「・・・・」

『3』

「・・・・」

『2』

「・・・・」

『1』

「・・・久しぶりね、母さん」

ぼんやりした影が像を結ぶ。
白衣を着た女。

『・・・良くこのプログラムを発見出来たわね。あなたは自分の技術力を誇って良いわ。でも、これが発見されるころには既にわたしはこの世には居ないでしょう』

「あの時に・・・撮ったのね・・・」

『わたしは今、自ら命を断つ決心をしたわ。ひとを殺したの。それも小さな女の子よ。ふふ・・・バカみたいね。自業自得なのに』

「やっぱり・・・」

『・・・碇ユイ博士を殺したのはわたし・・・いえ、正確に云えばあなたが見つけたこのプログラムよ。プラグ内の人間に過度の感情移入を誘発させて、シンクロ過剰な状態を生み出し、消し去る・・・まったく、嫉妬に狂った科学者ほど手に負えないものは無いわね』

赤木ナオコはふっと笑う。

『・・・このプログラムは証拠隠滅の為にMAGIの正式稼働時に消去するつもりだったわ・・・でも、残すことに決めた。ささやかなプレゼントよ。わたしがこの世に生きていた確かな証拠』

「バカよ・・・母さん、あなた大馬鹿者だわっ!」

『それから・・・悪いけど、素晴らしい技術者のあなたを見込んでわたしの娘に云付かってくれるかしら?』

「・・・!・・・」

『・・・愛していたと・・・』

「・・・母さん・・・」

『・・・じゃあ、お別れね。あなたに素敵な未来が有りますように』

ふっつりと画面が暗転する。
手の甲に滴る涙。
しかし、その指は正確にコマンドを叩く。

「・・・ターゲットプログラム、全削除実行。機能的に支障が出る部分についてはバルタザール、メルキオールが適宜サポート」

メイン・モニターに映る赤い帯がみるみる短くなる。

「・・・さよなら、母さん」



『マヤ、どう?』

開いたウインドウのリツコ。

「あ、センパイ・・・そちらは?」

『片づいたわ。現在MAGIオリジナルはクリーンよ』

「センパイ・・・泣いてるんですか?」

『な、何でも無いわ。で、そっちは?』

「それが・・・」

顔が曇る。

『見つからないの?』

「いえ、確かにこれなんです。デリート信号に対して日向さんの反応も有ります・・・でも・・・」

『でも?』

「スレショルドがリビドーに振れないんです・・・デストルドーエリアに留まったままで・・・」

『そんな・・・』

訝しむ。

『じゃあ、日向君が帰ることを拒んでいるとでも?』

「そうとしか・・・考えられないんです」

『そんな・・・植え付けられた情報自体は弱まってるはずよ』

「はい・・・そのはずです」

『じゃあ何故・・・』

リツコはグラフの信号を見やる。

『一体・・・どうしたって云うの日向君・・・』









































<UNIT-3へつづく>




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