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comformity?

ok


practice










































「衝撃でモーターがイカれたかな・・・」

狭いリフトにかちゃかちゃとスイッチを押す音が響く。
照明が点滅する。

「・・・電源供給も危なくなって来た。空調も止まってる」

シゲルを横目に、マヤは端末を覗き込む。

「おかしいわ・・・」

「何が?」

「・・・ATフィールドが、複数同時展開してる・・・」

「複数・・・って・・・何台有るの?」

「プロトタイプは二台・・・『ドロシー』と『コデイバ』しかないはずです・・・それが、少なくとも十台以上は・・・」

「・・・大方ワイアレスセンサーのジャミングじゃない?」

「そんな・・・ジャムにしては鮮明過ぎますよ・・・」

床にぺたりと座り込んで、マヤは襟ぐりをぱたぱたと扇ぐ。
シゲルは天井仰ぎ見ながら

「マ、マヤちゃん・・・その・・・暑かったら・・・上脱いでも・・・」

キッと見上げる眼。

「あっ、いやっ、その、別にそういうつもりじゃ・・・」

すっと立ち上がり、シゲルに迫る。

「ご、ご、ごめんよ、あの、」

「非常用換気口」

「はっ?」

視線の先を追う。
格子に閉じられた、ひとひとり通れる穴。

「青葉さん、届きます?」

「とおりゃあ〜〜っっ!!」

ばしりと天井を叩く。

「いてて、だめだ・・・ネジでしっかり止まってる・・・何か踏み台でもあれば・・・」

ちらりとマヤを見る。
険しい顔。

「あっ、いやっ、その、別に踏み台になれってわけじゃ・・・」

「肩車して下さい」

「へっ?」

覗き込んだ瞳に、決意が見える。

「あの・・・良いの?」

「良いって・・・何がですか?」

「あの、その・・・ス・・カート・・でさ」

「そんなこと云ってる場合じゃないですっ!わたしたち、ふたりっきりで閉じ込められちゃってるんですよっ!」

「・・・・」

「一刻も早く出たいじゃないですかっ!」

「・・・・」

「さあ、早く」

四つん這いのシゲルの首を、柔らかい体温が包みこむ。
必死の真顔。

「良いです。上げて下さい」

「は・・・はいいっ」

滑らかな膝に手を添える。

「良かった。コインで開くわ」

「・・・・」

「青葉さん、コイン有ります?」

「・・・・」

「・・・青葉さんっ」

「・・・えっ、あ、当たってる?」

「・・・フケツ」

柔らかな足が、シゲルの首をぎゅうと絞める。

「ぐげげげげ・・・」

「コインですよっ、コ・イ・ン」

「ば・・・ばい・・・」

受け取ったコインをギャップに差し込み、捩じる。
かちゃっと云う音とともに、格子がだらんとぶら下がる。
肩から柔らかな重みが消える。

「大丈夫?マヤちゃ・・・」

見上げた目の端に白が映る。

「・・・ん・・・」

換気口から白い手が覗く。

「青葉さん、早く」

「あ、良いよマヤちゃん。これぐらいひとりで上れ・・・」

「ノートを」

「・・・・」

薄暗い空洞にシゲルが這い出す。
端末を覗き込んで居るマヤ。

「ど・・・どうしたの?」

「・・・ATフィールドが・・・消えてるんです・・・」

「消えてるぅ?」

「ええ・・・大体、S2機関を搭載後の起動実験も満足な結果を得られて無いんですよ。リフトを止める程のフィールドを展開出来るわけが・・・」

「じゃあ・・・本当に数が増えたってことか・・・」

「・・・まさか・・・コマンドを・・・」

「コマンド?」

それには答えず、端末をぱたりと閉じる。
暗いシャフトを見上げる。

「・・・上に昇るのは難しそうですね・・・」

「・・・降りるしか無いか・・・」

「ラダーが有ります。そこか・・・」

マヤの視線が一点で止まる。

「ん?・・・どうしたのマヤちゃん?」

視線の先を追いかけると、シャフトの壁面にぼんやりと浮かび上がる赤。

「な・・・何だありゃ?」

「・・・バ・・・バラですぅっ!」

「なにぃっ!?」

しゅっと云う音と共に、べたべたと液に粘る触手が急激に投げられる。

「きゃああああぁぁぁぁっっっっ!」

「マヤちゃんっっ!!」

触手に搦め捕られたマヤは、ずるりずるりと壁へと引き摺られる。

「このやろおぉぉぉぉっっっっ!!!!」

端末を大きく振りかぶり、触手の中間へ思いきり叩き付ける。

「放せこらっ!このおっ!」

何回目かの殴打を行おうとしたその時、眩い光にシゲルの身体は大きく弾かれた。

「わああああっっっっ!!!!」

その光の中に、影が浮かぶ。
醜悪に肥大した、鮮やかに赤い、薔薇の花。
中心部からぞろりと伸びたぬらぬらとした何本もの触手が、気絶したマヤを、今まさに毒々しい花びらの中へ飲み下そうとしていた。

「ち、畜生っ!ATフィールドか・・・バケモノめっ!」

壁にぎゅうと押し付けられ、シゲルはもがく。

「マ、マヤちゃんっ!・・・くっそおーっ!」

と、その時。
突然、今までの輝きは失われ、花びらは鮮やかさを失った。
がさがさと音を立て、みるみる茶色く枯れてゆく花の中心に、粘液に濡れたマヤが赤子のように丸くなって横たわっていた。

「マ、マヤちゃんっ!」

乾いた花びらをかき分け、抱き起こすシゲル。
額に張り付いた髪をそっと撫で上げると、瞳は静かに開く。

「あ・・・青葉さん・・・無事だったんですか・・・」

「・・・そ、それはこっちのセリフだよマヤちゃん・・・」

「わ・・・わたし、助かったんですね・・・」

「マヤちゃん・・・話してくれないか・・・何なんだこのバケモノは・・・」

「・・・バラ・・・でも、開発していたものより進化しています・・・」

「?・・・そりゃどう云うことなんだ?」

マヤは身体を起こすと、がさりと残骸を掴む。

「・・・この兵器のコンセプトは、『地球にやさしい』・・・です」

「はあ?」

「クリーンなんです。全て土に戻るんです・・・木や、花や、緑のために・・・」

「ちょっとマヤちゃんっ!」

マヤの両肩を掴み、ぐいぐいと揺する。
伏せた顔から云葉が流れ出す。

「・・・青葉さん、S2機関の原理については?」

「スーパー・ソレノイド・エンジン?・・・ほんの基礎ぐらいは・・・」

「・・・細胞は死ぬときにエネルギーを放出します・・・そのエネルギーを動力に転換する・・・」

「ああ、知ってる。キール葛城博士のスーパー・ソレノイド理論だろ?」

「・・・無限に細胞増殖を行うジェネレイター・セル、そしてその細胞にアポトーシスを起こさせるコントローラー・セル・・・このふたつを組みあわせたものがスーパー・ソレノイド・エンジンなんです・・・」

「うん」

「でも・・・このふたつのセルについては理論的にまだ完全には解明されていません・・・はっきり云って使徒のものを流用したブラックボックスに過ぎないんです・・・」

「・・・そいつが暴走したのか・・・」

ゆっくりと、少しづつ向く瞳。

「コントローラー・セルを制御するニューロ・チップのバージョンが実働予定よりまだ低いんです。・・・多分、ヘヴィーなコマンドで暴走したんだと・・・」

「どんなコマンド?」

「自己複製です。理論的には可能なんですけど・・・チップのバージョンがなかなか上がらなくて・・・」

「それで数が増えてるわけか・・・」

「機能も増幅してます・・・特に・・・対人用の・・・システムが」

「対人用?」

「ジェネレイター・セルにはもうひとつ・・・取り込んだ細胞を分解してコントローラー・セルで制御可能にする機能も実現が予定されていたんです・・・」

「・・・マヤちゃん・・・それがどう云う意味か判ってるのか?」

「・・・・」

「マヤちゃん、それは食人兵器だ。国際法どころじゃないぞ・・・」

「判ってます・・・判ってたのに・・・」

そっと手のひらで顔を覆う。

「止まらないんです・・・夢中だったんです・・・でもある日、恐ろしくなって・・・チップにフェイル・セーフを・・・」

「えっ?何?」

「偶然見つけたんです・・・ジェネレイター・セル自体にアポトーシスを起こさせるコマンドを・・・」

「・・・じゃあ・・・」

くるりと振り返ると、枯れた醜悪が散っている。

「何者かがそのコマンドを使ったってわけか・・・」

「でも、わたししか知らないはずなんです・・・ヨゼフの隠しコマンドで発信されますから・・・」

「待てよ・・・チップにコマンドを送るのはヨゼフなの?」

「ええ・・・開発中のプロダクトは全部・・・」

シゲルは顎を撫でる。

「何者かがヨゼフに対して最後にアクセスしてるんだよなあ・・・」

「そう・・・そうですね・・・」

「で、バラに対してコマンドを送れるのもヨゼフ・・・」

「・・・じゃあ全て、ヨゼフを乗っ取った何者かによるものなんですか?」

「そう考えるのが自然・・・わっ!」

ごとりと音を立てて、リフトがゆっくりと降下を始める。

「・・・マヤちゃん・・・このリフトを制御しているのも・・・」

「ええ・・・そうです」

リフト内部のレヴェル表示が最深部に近付く。
どさりと床に立つと、シゲルはそのまま目をつぶる。

「み、見ないから、俺の肩に乗っかって良いよ・・・」

「・・・じゃあ、すいません・・・」

マヤが穴から両足を下ろしたその時。
突然リフトが加速する。

「きゃ〜っ!」

落下したマヤを支えようとしたシゲルが床に叩き付けられる。

「むぎゅ〜っ」

瞬いて消える照明。
しかし、静かにリフトは減速し、最深部で止まる。
モーターが音程を下げる。
ゆっくりと目を開くシゲル。

「だ・・・だいじょぶ?バヤぢゃ・・・」

照明が点灯する。
仰向けのシゲルの顔は、マヤの胸で塞がれていた。

「・・・・」

「う〜ん・・・青葉さん・・・」

「・・・・」

「青葉さ・・・きゃあ〜〜〜っっっ!!!」

ばしっ。
ぴっ。
インジケーターが、ドアオープンを差す。
跳ね起きるふたり。
共に凝視する先が、ふたつに割れ、ゆっくりと滑る。
そして、その向こうに広がる光景。
立ち上がるシゲルにしがみつくマヤ。

「・・・どう・・・どうなってるの・・・」

そこは、天井の高い、長い廊下だった。
しかし、その壁、天井、あらゆる面と云う面が、バラで埋まっていた。
そして全てのバラは、茶色く無残に渇き、その異様な大きさの花びらを散らしている。

「な・・・全部、死んじまってるのか・・・」

無数の花びらが降りしきるその先に、人影。

「し・・・所長っ!」

呆けたような笑い。

「・・・伊吹君か・・・やったよ・・・実験は大成功だ・・・自己複製も対人プログラムも、問題無く動作して・・・」

「てめえっ!」

シゲルは花びらをがさがさと鳴らして駆け寄ると、襟首を掴む。

「てめえかっ!こんな物騒なモンを差し向けやがったのはっ!」

「・・・途中まではうまく行っていた・・・途中まではな・・・」

「何?・・・どう云う意味だっ!」

シゲルの手から外れてばさっと座り込む。

「『ドロシー』『コデイバ』・・・起動は順調だった・・・しかし・・・『ドロシー』のコントローラー・セルが制御不能に陥った・・・信じられないレベルのエネルギーが放出され・・・S2機関はものの見事に暴走だよ」

「じゃあ・・・これはみんな『ドロシー』の・・・」

シゲルは散る花びらの一枚を掴む。

「いや・・・自己複製を行ったのは『コデイバ』の方だ・・・これは当初の計画通りのプログラムだよ・・・あの時まではな」

「あの時?」

「『ドロシー』が消えるまでは」

「・・・消えた?」

「『コデイバ』の実験中に管理人が来た・・・その時、今までおとなしかった『ドロシー』が暴走を始めて・・・それで・・・くっくっくっ」

俯く乾いた笑い。
シゲルは膝を突き、再び襟首を絞る。

「それでどうしたんだっ!」

「消えちまったんだっ!管理人共々真っ黒い穴ぼこに落っこっちまったよ。あっと云う間さっ!」

「・・・まさか・・・」

マヤを振り返る。

「間違いありません・・・ディラックの海・・・虚数空間です」

時田に向き直る。

「誰なんだ?」

「何がだ?」

「ヨゼフをコントロールしてる奴だよっ!誰なんだ?」

「こっちが知りたいさ・・・あいつのおかげで実験はめちゃくちゃ・・・揚げ句の果てにみんな枯れちまった・・・あいつがヨゼフを乗っ取ったおかげでなっ!」

「・・・判らないのか?」

「ほんとに知らんよ・・・『ドロシー』が消えたドサクサにログインして来やがった・・・『マリア』とか云う粋な名前でなっ!」

「・・・マリア?」

「きゃああああっっっっ!!!!」

振り返ると、激しい勢いで花びらが舞い上がり、音を立てて巨大な渦を巻いていた。

その中心には、マヤ。

「マヤちゃんっ!」

「青葉さああああんっ!・・・きゃああああぁぁぁぁっっっっ!!!!」

彼女の背景に、巨大な虚無の色が口を開ける。

「ディ・・・ディラックの海っ!」

駆け出したシゲルの伸ばす手を、マヤは必死で求める。

「マヤちゃんっ!」

激しく舞う花びらが手を打つ。
伸ばした指先が一瞬触れる。
だが、その瞬間に彼女の肢体は闇に飲まれ
舞い踊る花びらと共に光にかき消された。
ばさりと膝を付き、うなだれるシゲルに花びらが静かに舞い散る。

「・・・マヤ・・・」









































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B-Life








































<No-Lifeにつづく>




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