「さあ行くよシンジ君。僕たちの生まれし星へ」


















「一機だけ残したのか」

暗闇の石板たち。

「すべてを失うよりは良い。リリスにすべて融合されたらおしまいだ」

「すでに初号機を融合しているからな」

「槍を手にしてしまえばいくらリリスと云えども恐るるに足らん」

「たとえアダムとともにあろうとも」

「ところで残ったのは」

暗闇の老人。
白髪と笑み。
キール。

「・・・わたしだ」















B-PART
TB-PAR
RTB-PA
ARTB-P
PARTB-

















輝ける衛星の地平。
輝けるふたりの少年は
その翼を闇にはばたき、柔らかい反射を放つ。
お互いの手は握られ、
お互いの顔には微笑みが置かれ、
その輝く瞳たちに、目指す屹立するモニュメントの影を捕える。
槍は深々と白き土に抱かれ、その白さを浮き上がらせるべき光線を長々と遮る。

「カヲル君・・・あれは」

「ロンギヌスの槍だよ、シンジ君。オリジナルのね」

ふたりの爪先は土に印を刻む。

「すべてのリリンを本来の姿へと還す、その聖なる槍」

「本来の姿・・・」

振り返るカヲルの輝く銀色の髪。
シンジには眩しい。

「そう。リリンはね、本来コア・・・ガフの部屋を持っていたんだ」

「え?」

「だけど失われてしまった。退化したんだ」

「・・・カヲル君」

「でも、もう一度リリンはそれを取り戻すことができる。この槍でね」

「カヲル君、君は・・・」

「・・・ふふっ、シンジ君、僕のことが知りたいのかい?」

「カヲル君・・・君は・・・使徒では無いの?」

「違うよシンジ君。使徒であった僕は消えた。君に消されたんだ」

微笑むとカヲルはシンジに向き直る。

「今の僕は君と同じリリン・・・ヒトなんだよ」

「カヲル君・・判らないよ・・カヲル君・・」

「見せて上げるよ」

突然、カヲルの体がより強い光に包まれる。
そしてシンジはその光に溶ける。
光となったカヲルの肉体に混じる。
風を感じる。
抜けてゆく。



「槍・・・」

巨大な槍は、その巨人の輝くコアに突き立てられようとしていた。
ざわざわと大勢の人間がそれを見守る。
吹きすさぶ氷の風
曇天の極。
ぷつりと槍の尖りがコアに沈む。
突然みしみしと巨人の筋肉が膨らみ始める。
わらわらと散る人々。
巨人は強烈な光で辺りを染め、見上げる顔には空虚な瞳が切なげに開く。
背中からは新たな光の柱が幾筋も天空に立ち上がり始める。

「これは・・・」

「リリンたちがセカンド・インパクトと呼んでいるものだよ」

「これが・・・セカンド・インパクト・・・」

「そう。リリンたちは無謀にもリリスを介さず直接自分たちの遺伝子をアダムにダイヴしてしまったんだ。その力を手に入れるためにね。その結果、アダムはコアを書き換えるために猛烈な勢いでエンブリオに還元してしまった。失われた大量の質量は爆発的に熱エネルギーへと転換され、アダムは地球中に四散してしまったんだ。15のピースに分かれてね」

「それが・・・使徒」

「そう。リリンが回収できたのはそのうちの1ピースだけ。ゲームは失格だね」

空から見下ろすシンジの目に止まるひとがある。
逃げまどう人々の中、ひとり空を見上げている汚れ無き瞳。
そのあどけない顔の懐かしい少女。
しかし、見悶える巨人の衝撃に鉄の雨が答え、
沸き上がる白煙にその瞳は消えた。

「さあ行こう、シンジ君。これはもう起こってしまったこと。僕たちにはどうすることも出来ないんだ」

ふたりは、天空の光の穴に落ちた。



白く淡く光る空間。

「ここは・・・」

「ここはね、使徒のコアの中だよ」

「使徒の・・・コア」

「そう」

「なんか・・・懐かしい感じがする・・・」

「それはそうさ。君の魂はこの場所を求めていたのだから」

「・・・どういうことなの、カヲル君・・・」

「オリジナルの君・・・幼くして死んだ碇シンジが求めていた『母親』の中だよ」

「オリジナルの・・・僕・・・」

「君の肉体はその記憶を移植された碇ゲンドウのクローンに過ぎなかった。・・・判っているんだろう?」

「・・・僕は僕だ・・・」

「そう、君は君。君はその記憶によって君足りえている。肉体が誰であろうと魂が君である限り、君は君だ」

「・・・」

「そして今、君の体はオリジナル・リリスなんだ。使徒の願いとともに」

「使徒の・・・願い?」

「アダムにダイヴされた遺伝子はね、君の本来の母親のものなんだ」

「・・・母さんの!」

「そう。魂の無い使徒はね、母性本能に従い、君を取り込むためにあの街へ現われていたんだよ。そしてそれを邪魔する全てのものを憎悪した。ネルフも、初号機も、そして君に興味を示す女たちもね」

「・・・そんな・・・そんなことって・・・」

「事実だよ。実際初号機は君を取り込んだだろう?初号機は零号機や弐号機と違ってリリスのコピーだから君を取り込んでも変化はなかったけれど、もし、君がオリジナル・アダムに直接取り込まれていたらサード・インパクトが起こっていたんだよ」

「・・・うそだ!母さんが使徒だなんて・・・そんなのうそだ!」

「アダムのコピーである零号機も、君の母親を直接取り込んだ初号機も、オリジナルのアダムである使徒も、アダムのコピーである綾波レイも、みんな君の母親の遺伝子を抱えていたんだ」

「うそだ!・・・うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!うそだ!」

「信じないのかい?」

「じゃあ・・・じゃあカヲル君・・・君は」

「ふふ・・・やっぱり知りたいんだね。じゃあ、見せてあげるよ。僕のすべてを」



ぴかぴかと沈む床。
きらきらと固まるガラス。
その向こう、ベッドの上に正気の蒸発した女が人形を抱え、半身を起こす。
むしり取った髪が散らばる。
ぶつぶつと声を発する。

「あれが僕だよ。シンジ君」

「あれが・・・あのひとは・・・誰?」

「君の大事なひとと同じ遺伝子を持つひと」

「僕の大事な?」

後ろにひとの気配。
振り向く。
視線を下げる。
赤い髪を真紅の髪止めで飾った青く幼い瞳。
しかし厳しい陰が映る。

「まさか・・・」

厳しい視線はシンジたちを見ない。

「まさか・・・アスカ・・・じゃあ!」

微笑む紅い瞳。

「そう。惣流キョウコ。僕の遺伝子だよ」

「何故・・・」

「リリンが手に入れたオリジナル・アダムからは日独で2種のヒト型クローンが造られた。綾波レイ。そして僕。レイは君の母親の遺伝子が息づいていたが、こちらでは安全にアダムをフォーマットする術を生みだしたんだ。それを発見したのが彼女さ。僕も、弐号機も、その後の量産型やリリス・クローンもその技術の応用なんだ」

「じゃあ・・・どうして・・・」

「彼女は僕たちを安定させるため自分の遺伝子をダイヴした。そして自分の魂の移植に望んだんだけど・・・残念ながらこういう結果に終わったんだよ」

シンジは黙って幼い横顔を見つめる。

「・・・やっぱり、アスカは・・・」

「そう。彼女も君と同じ。仕組まれた子供さ」

今にも泣きそうな顔を張り付かせ、彼女はきびすを返すとドアへ消えた。

「じゃあ・・カヲル君とアスカは兄妹なんだね」

「ふふ・・・そういう云いかたも出来るね。シンジ君」

突然、キョウコが顔を上げ、シンジを凝視した。
正気が戻ったような、悲しみに満ちた青い瞳。

「・・・アスカ・・・」

「行こう、シンジ君。月へ還ろう」

その青から、輝く涙が滴った。



槍に手をかけ、輝く背中をよじり、カヲルはシンジに微笑みかける。
シンジはその固い表情を崩さない。
その顔にカヲルは語りかける。

「判ってるよシンジ君。アダムとリリスだろう」

「・・・一体何なの・・・教えてよカヲル君」

「遠い昔の話さ・・・まだこの宇宙ができる前。まだ前の宇宙が終わっていない頃のお話し」

「・・・」

「そこに住んでいたのはたったひとり。宇宙にたったひとりだったんだ。・・・というか、彼が宇宙そのものだったんだ。肉体なんていうものは無く、ある種のエネルギー体・・・そう、ATフィールド体とでも云うべきものだった」

「・・・ATフィールド・・・」

「彼はひとりが堪らなく嫌になった。そこで、もうひとつ宇宙を創ることを考えた。簡単なんだ。夢見るだけでいい。彼はこの世界を夢見た。そして、そこに生命の源・・・コアを放ったんだ」

「・・・コア・・・」

「この宇宙に無数に降り注いだコアは、あらゆる星で命を産みだした。でもね、根付いたのは地球と月にふたつだけだったんだ」

「・・・この宇宙でふたつだけ?どうしてなの」

「・・・彼の気に入らなかったんだよ。ふたつ以外はすべて絶やされた」

「そんな・・・どうして」

「創造主はしばしば完全主義者なんだ。ふふっ」

「・・・じゃあ、そのふたつのコアが、アダムとリリス・・・」

「アダムは地獄のごとき灼熱の地球へ降り立ち、眠りに就いた。そしてリリスは、緑あふれる青空の楽園・・・月へと降り立ったんだ」

ぐいと力を入れると、するりと槍はカヲルの頭上に差し上げられた。

「リリスからはリリンたちが産まれた。翼もコアもまだあった。食べる必要も寝る必要も・・・セックスさえ必要の無い、まさに天使のごとき汚れ無き存在。楽園にふさわしい生き物さ」

「じゃあ、どうして」

「・・・やはりリリンはリリンだったんだ。自分たちの母たるリリスを疎ましく思う者たちが現われた。禁断の実・・・欲望を欲したんだ。そして槍を手にした。リリスのコアを貫いたんだ。・・・ファースト・インパクトだよ。月は死の世界になった。そしてリリンは、槍を手に、地球へ堕ちた・・・天使はルシファーになったんだ。それがリリンの祖先」

「・・・」

「コアは退化した。欲望がそうさせたんだ。堕落の物理的証拠だよ。そして気の遠くなるような時が立ち、アポロがリリスのエンブリオを持ち帰り、南極でアダムが発見された」

「・・・そんな・・・じゃあ人間は・・・」

「ひとの希望は悲しみで綴られているんだよ・・・シンジ君」

「人類は・・・ひとりぼっちなの?」

「孤独なんだ。この宇宙で人類は孤独なんだよ」

「じゃあ・・・」

「そう」

槍を立て、そそり立つ影を陽にかざす。

「もう一度、本来の姿へと戻るべきなんだ。それがこの宇宙の唯一の生命としてのさだめだから」

「カヲル君・・・」

「完全であるべきなんだ」

「・・・そうだね・・・カヲル君」

「違う」

空間を轟く地鳴り。
カヲルの顔から笑みが消える。

「誰だ!」

「神さえも完全では無い」

「誰なんだ!」














「このひとを見よ」














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