D - P    A     R      T






























金属の円筒に粘液が満たされ、体から泡が立ち昇る。
全裸の肌に、通電されたLCLはさらさらと重みを無くす。
ケイジの風景が男を明るく照らし出す。
よぎる面影にその名を呼ぶ。

「ユイ・・・」

碇ゲンドウの決意。

「・・・わたしを受け入れては
くれないのか」

失うコト。

「・・・確かにシンジを追い込つめたのは
わたしかも知れない」

自嘲。

「・・・君は女だから、
鏡は怖く無いだろう?」

嘲笑。

「わたしは怖かった。鏡が。
生きている鏡が」

苦笑。

「・・・彼が逃げるたび、
自分の弱さを見せつけられる思いがした」

表情は手のひらに張り付く。

「君を失ったショックで一人目が死んだ時、
それがわたしの君への想いの深さだと知った」

顔を上げる。

「・・・だから判る・・・
喪失に耐えられない弱い自分が・・・シンジが」

見つめる瞳の先には、ケイジに立つ人影。
白衣を着た想い。

「・・・ひとを殺すより、死んだほうが良い
・・・その通りだ」

瞳は閉じられる。

「・・・わたしは耐えられない。
この人類を失うコトに」











「だから」










「わたしを受け入れてくれ」

「ユイ」

「わたしを」

「行かなければならない」

「ユイ」

「これ以上耐えられない」

「わたしは行かなければならないのだ」

「すべてのリリンに魂が宿る前に」

「最後の補完が行われる前に」

「月に還る前に」

「ロンギヌスの槍が解放される前に」

「ひとがそのかたちを失う前に」

「ユイ」

「頼む」

「頼む、ユイ」

「動いてくれ」

「お願いだ」

「今、動かなくては」

「今、動かなきゃ」

「みんな死んでしまう」

「みんな死んじゃうんだ」

「動け」

「動けっ」

「動けっ!」

「動いてよ!」

「今、動かなきゃ、みんな死んじゃうんだ」

「お願いだから動いてよ!」

「動け!」

「動け!」

「動いてよ!」
















「もう誰も・・・誰も失いたくないんだ!」






























どくん。

































「人間の全遺伝情報のデリート!?」

「・・・はい。それがゼーレの目指す補完の最終段階です」

ミサトの顔を見れないマヤ。

「それは月面のオリジナルの槍の解放・・・サード・インパクトによって行われます」

「やっぱ思った通りだな・・・お、お客さんだ。シゲルよろしく」

加持に肩を叩かれ、シゲルは

「もお、作戦行動中のオペレーター連れ出すのにどんだけ苦労したか」

「どうせマヤちゃんに助けてもらったってとこだろ。シナリオ通りだよ」

「ちぇっ」

ドアを開けると廊下を近づく黒ずくめの男。

「このトイレ、水が止まってる。向こうにもうひとつ有るよ」

去っていく。
ミサトは携帯を取り出すと

「・・・あ、日向君?どお?非常召集・・OK!じゃあ作戦通りいくわよ。いいわね」

加持に笑顔を向ける。

「ふふふ・・作戦部の底力思い知らせてやるわ。面白くなってきたあ!」



『再びケイジより、初号機起動との連絡が』

冬月は即座に

「パイロットは?」

『映像回線が回復していないため断定はできませんが、データはサードチルドレンと酷似しています』

「碇・・・君なのか?」

赤いアラートがふいに鳴り響く。

『ターミナルドグマ周辺に、強力なATフィールドが展開しています!』

「何!?」















突然の白

白の突風

衝撃

発光する気体の満ちた時間

天に落ちる快楽

光に撫でられる神経

終わる予感

終わる時間

出口への視線














その先は













その先には













「君は誰?」「碇シンジ」「それは僕だ」「そう。僕は君であって君じゃない。誰でもあって、誰でもないんだ」「何を云ってるの・・・わからないよ」「僕はすべての源。たったひとりの全体なんだ」「・・・僕はどうしたの」「君はひとりの魂に救われた」「タマシイ?」「そう。ひとつの想いに」「・・・綾波のこと?」「そう。そう呼ばれていた記憶に」「記憶?」「魂とは、記憶さ」「・・・どういうこと?」「君もそうさ」「僕が?」「君は記憶によって君足り得ている。培われた記憶の残滓。それが君の『こころ』さ」「僕は僕だ。この皮膚や、汗や、内臓や、爪や、匂いまるごと僕なんだ」「それは希薄な物質でしかない」「希薄・・・」「そんなもの、これっぽっちの価値も無い」「君・・・君は本当は誰なの?」「そう呼びたければそう呼べばいいさ・・・神様ってね」「・・・え・・・」「でも、今や君もそのひとりなんだよ」「そのひとりって・・・」













「神様だよ・・・アダム















「うわああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

地面から湧き上がる兇悪。
足音の狂暴。
恍惚と横たわるリリン達の頭上を襲う獣の猛り。
首を握る。
握り潰す。
血管のぬめる皮膚と筋肉の狭間。
脂肪のやわらかい体温。
顔に打ちつける血、血。
ゲンドウはその匂いを拭う。
何度も何度も拭う。
目玉に指が触れる。
何度も何度も触れる。

「へへへ・・・へへへへへ」

腹部の鎧を剥ぎ取るとやわらかそうな皮膚。
爪の食い込む感触。
ぴりぴりと黄色い脂肪が覗いていく。
うつろなリリンの目は不思議そうに初号機を見つめる。
やがて湯気の立つ自らの臓物に崩れ落ちる。
ばたばたと激しく痙攣する。
そして、8人は『敵』を見る。
『こころ』を瞳に宿して。



暗闇の老人。
バイザーに輝く怒気。

「碇・・・やはり裏切ったか」

宙空の石板の出現。
宙空の声。

「だが、エヴァシリーズにダイヴされていた遺伝子は、すでに融合を果たしている」

「ガフの部屋は満たされた」

「精子は泳ぎ出すのを待っている」

「もはや補完は完遂目前」

「人類はその幼年期を終える」

キールはその声にうなずく。

「この宇宙を絶望から救う聖なる浄化、サード・インパクトを行う時が来た。諸君、無慈悲なる夜の女王へと旅立とう」



「遅かったか・・・もはや融合している。チャンスを逸した」

冬月の苦い言葉を遮る冷たく固い銃口の感触。

「ゼーレに対する反逆は死をもって償われなければならない」

サングラスを覗き込む目は微笑む。

「ひとは、生きて行こうとするところにその存在がある。その希望を棄ててまでひとでいようとは思わんよ」

突然

『MAGIが何者かにクラックされています!』

「何?」

空調が止まる。

『松代のMAGIタイプと判明!』

ロックを失ったドアはこじ開けられる。

「突っ込め〜っ!」

ミサトを先頭になだれ込むガスマスクの一団。

「いやっほ〜!」

マコトを先頭になだれ込むガスマスクの一団。

その後を追う紫色の煙。
黒服たちは銃を撃つ間も無く昏倒する。

「こんにゃろ!こんにゃろ!」

げしげしと男たちを足蹴にするミサトを見下ろしながら、加持は足元に沈んだ男に下駄を捨てる。

「ご無事でしたか副司令」

冬月の顔をマスクが覆う。

「君か・・・元気だったかね」

「ええ、なんとか」

再び見下ろす。

「あいつ・・・張り切り過ぎだっての」



純白の羽毛を散らし、邪悪な槍を握って、地獄を飛び立つ天使たち。
悪魔は見上げるのみ。

「畜生!」

優雅に頭上で円を描く。

「来い!来い!来い!」

だが、一瞥の後、彼等の視線は二度と向けられない。

「来い!来い!来い!来てくれ!来てくれよ!お前らを行かすわけにはいかないんだ!」

突然の衝撃。
巨大な衝撃。
強力なATフィールドに空間が歪む。
ジオフロントの天井がばらばらと崩れ落ちる。

「ぐうぅぅぅ!」

青空にはばたくヒト。
だが、一瞥もくれないはずのその瞳は、一点に張り付く。













割れた地面から覗く白い頭
割れた地面から覗く白い手
割れた地面から覗く白い腕
割れた地面から覗く白い体













割れた地面から覗く白い悪魔













リリス




























EVANGELION:REMAKE
EPISODE:25 Sacrifice



























つづく




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