「・・・レイ・・・」




















「・・・行っちゃったんだね・・・」




















「・・・僕を置いて」

C-PART










































暗黒






















「・・・碇君」

「・・・綾波?」

「碇君・・・」

「ここは・・・
僕は死んだの?」

「あなたは
死んではいない」

「じゃあ、ここは
・・・どこなの?」

「ここは、わたしの中」

「・・・綾波の
・・・中?」

「そう。
わたしのATフィールドの中」

「何で・・・
わからないよ・・・」

「わたしはあなたを
サルベージしたの」

「サルベージって・・・
いったいどういう・・・」

「あなたの魂を固定するのよ。
ATフィールドの中に」

「そんな・・・
綾波の中に?」

「違う。これはもうあなた。
あなたというヒト」

「・・・綾波は・・・
綾波はどうなるの?」

「・・・・」

「・・・綾波」

「・・・消えるの・・・」

「綾波!」

「これはわたしが望んだこと。
だから、いいの」

「何故・・・
どうして・・・」

「碇君・・・
わかったの」

「・・・」

「失うコト」

「・・・綾波・・・」














突然の白

白の突風

衝撃

発光する気体の満ちた時間

天に落ちる快楽

光に撫でられる神経

終わる予感

終わる時間

出口への視線














その先は













その先には















「どうあっても説明しないつもりね・・・」

ミサトの絞り出す声。

「もうすぐ始まるわ。見ればわかるでしょう」

巨人たちの映像から、リツコは振り向かない。

「何よその云い草は!アスカをあんな目に遭わせておいて、よくもそんな・・・そんな」

「あなたって泣き虫だったのね。かわいいわよ」

肩を掴む手。
振り向かされた金髪のかかる頬を打つ手のひら。

「気が済んだ?」

『初号機パイロットモニター回線パス解析完了。・・・こ・・・これは』

「何だ。どうした」

冬月は声を荒げる。

『・・初号機パイロットは・・居ません・・』

「何ですって!」

ミサトより早くリツコはモニターに駆け寄る。

「そんな・・・まさか・・・」

『サーモグラフも心電図も脳波も、その他反応ありません』

「まさか・・・死んだんじゃあ・・・」

ミサトの声は震える。

『いえ、完全に消失してしまっています』

「・・・取り込まれたの?」

「ふ・・・そう・・・そうなの」

突然のリツコの微笑みにミサトのいぶかしむ顔。

「何がそうなのよ」

「・・・何でもないわ。残念だけどあなたと一緒にここでショウを見物出来なくなったみたいね・・・失礼するわ」

目配せすると、冬月は頷く。

「ちょっと待ちなさいよ!」

発令所の出口までは追えた。
ぐいと掴まれる腕。
黒ずくめの男。

「葛城ミサト三佐ですね」

「しつっこいわねえ!離しなさいよ!このお!」

小声で

「・・・少し痩せたかな?」

「・・・え・・・」

青々とした髭の剃り跡。
短く刈り込まれた髪。
サングラスの奥に覗く、にやけた懐かしい瞳。

「かっ!かっ!かっ!かっ!かっ!かっ!・・」

「シィーッ」

懐かしいウインク。

「・・・ちょっとこちらに来ていただけますか」

「は・・・離してよう」

メインモニターに映る光景を見つめる人々を背にして、二人は発令所を後にする。




大きなたわみを持たせて羽を折り畳む

巨人達の優雅な蠢き

グラスファイバーケイブルから流れる陽の光が
滝と霧のカンバスに七色の筆を投げる

天国の光景

地獄の惨状

槍は握られる

傍らの悪魔を見ないひとりの天使の手で




「始まったな」

加持は連れ出したひとを振り向く。
風圧。
頬を打つ乾いた音が廊下に響く。

「痛てててっ・・・ったく、いきなり」

しゃべれない。
くちびるを塞がれた。

「・・・むう・・・」

目の前のミサトの閉じられたまぶた。
そのまつげの奥から涙が湧き出しては頬の色を伝い、滑り落ちる。
ぞくりとする。

「・・はあぁ」

首に回した腕をほどき、肩に落とす。
ミサトの額を加持の胸が支える。
胸に伝わるつぶやき。

「・・・説明する気なんて、無いんでしょ?」

「・・ま、そうだな・・命拾いをしたことがあったとだけ云っとこうか。長くなるんでね」

「じゃあ、わたしも聞かないで置くわ」

涙の乾いた顔を上げる。

「しっかし君もビンタが好きだな〜。リッちゃんにも強烈なのお見舞してたじゃないか」

「見てたの?」

「ず〜っと葛城の後に立ってたんだぜ。まあ、気が付かないのも当然だけど」

スーツの襟を左右に広げ、

「どお?似合う?ワンサイズ狙い狂っちゃって、肩ぐりがちょっとキツイんだけど」

「・・・アンタ相変わらずお軽いのね・・・」

「それ、ホメてんだよな?・・だけど下駄って効くもんだな。一発だったよ。こう、パコーンと」



槍を大きく捧げ持つと、その巨人は他の仲間を見回す。
すでに鎧の胸部は剥離し、コアが剥きだしの赤い光を放つ。

「・・・ガフの部屋が開く・・・」

冬月の恍惚としたつぶやき。

『初号機、25番ゲートよりケイジに収容完了。やはり、パイロットは居ません』

瞳に意思が戻る。

「そうか・・・碇・・・逢えたのか?」

その言葉にマヤは顔をしかめ、視線を落とす。

「・・・コホン。あ〜ちょっとすまんが、トイレはどこかな?」

見ると、他とは感じの違う黒スーツの男。

「・・ち、ちょっと案内してもらいたいのだが」

彼女の知る長髪の男と云えばたったひとり。

「・・・何してるんですか青葉さん」

「あっ、そ、そう。わかったよ。うん。廊下を出て左ね。あはははは」

彼女はため息をひとつつくと

「・・・ご案内します」

「え・・・わ、悪いねえ忙しいとこ」

「どういたしまして」

それを見ていた冬月は、スクリーンに視線を戻し

「・・・これで役者は揃ったな・・・」



ゲンドウの立つ広大な空間。
ターミナルドグマ。
LCLの満ちる鏡に映る十字。
磔の巨体を恍惚と見上げる彼の足元には、全裸の少年。
ぬらぬらとLCLに粘る、碇シンジ。
顔をしかめたうつ伏せ。
時々のぴくりとした痙攣の他、生きている証はない。

「やはりここに居たの」

振り向くまでもなく

「・・・君か」

自分からリツコは視界に入る。

「レイに裏切られたのね」

「結果的にはな」

「・・・初号機との融合はもう果たせないわね。どうするつもりなの?」

「・・・」

「補完は始まっているわ。完全な補完が行われるまで時間の問題よ」

「わたしが初号機とシンクロする」

突然の高笑いがLCLの表面を打つ。

「何考えているの?出来るわけないでしょう!」

ゲンドウは表情を変えない。

「シンジはシンクロする。理論上は可能だ」

「いくらサードがあなたのクローンだからと云って、シンクロ出来たのは100個体の内のたったひとりなのよ。可能なわけないわ」

「・・・ユイも居る」

「そんなにユイさんに逢いたいの。・・・でも、残念ね」

白衣のポケットから取りだされたリボルバー。
撃鉄が起こされる。

「あなたはここで死ぬの。わたしと一緒に」

冷静な視線をリツコに向ける。

「・・・そうか。それも良いかも知れん。君にはそうする権利が有る」

「わたしを独房から出したこと、後悔しているんでしょう」

一歩踏み出されるゲンドウの足。

「近寄らないで!」

「君にはレイのサルベージを頼むつもりだった」

また一歩。

「最後までわたしを利用しようとしてたのね。おあいにくさま。そんなに可愛い女じゃないのよ」

また一歩。

「近寄らないでって云ってるでしょう!・・・そんなにレイが可愛いの?」

ゲンドウの左胸に銃口が押当てられる。

「わたしは行かなければならない。最後の補完を行わせない為に」

「撃てるわよ!バカにしないで!撃てるわ!」

がちゃり。
冷たい床の上に凶器が落ちる。
嗚咽が空間を這う。

「・・・わたしってバカみたい・・・」

ゲンドウは懐に手を差し込む。

「・・・邪魔者は殺すのね・・・」

リツコの左手をぐいと掴む。

「痛い!」

ゲンドウの指先に現われた輝ける色彩。
やわらかい光の石。
そっと、白く細い薬指を差し込む。

「わたしがこの世界に確かに生きていた証に」

「・・・」

「リツコ、結婚してくれ」

頬を伝うものを否定しながら、リツコは叫ぶ。

「・・・何考えてるの!こんなもので今までの仕打ちがすべて許されるとでも思ってんの!バカにしないでよ!傷つけられた女のプライドをこれで帳消しにしろって云うの!・・・これから勝手に死にに行こうって云うエゴイストのプロポーズなんか、受けるとでも・・・思って・・・」

背中に回される腕を感じ、リツコはその想いをゲンドウの胸に埋めた。

「・・今のは・・科学者としてのわたし・・」

ゲンドウの背にリツコの手が現われる。
ささやく。

「・・・男と女はロジックじゃないものね・・・そうよね、母さん・・・」
















コアに突き刺さる凶々しい尖り

そこから噴き出す色の光

身をよじらせ快感に陶酔するがごとく
ヒトは自ら槍を深く深く突き立てる

仮面からしたたるよだれ

わななく巨体の息が上がる

羽がびくびくと羽毛を散らす

失神

引き抜かれる槍にぶるんと震える

その光景を羨望する待つ者達

狂宴は続く


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