06.JUL.2000 A.D.

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05:41 P.M. REPLAY


からだがだるい。
きっとあの注射のせいだ。
せっかくヒゲメガネの誕生日がわかったっていうのに、ぼ〜っとしちゃってダメだ。
ええっと・・・この前はここまでアクセスできたんだから・・・。

「マコト?」

ママ?
やばっ!早すぎるよ!

「マコト・・・こら!書斎に入ったらいけないってあれほどパパに云われてるでしょ!」

「いいじゃんかあ。Mac使いたいんだからあ」

「去年のクリスマスに自分の買って上げたじゃない」

「Intel積んだMacなんてMacじゃないや」

「また・・・そういうワガママを云ってるとパパに叱られるわよ」

「こわくないも〜ん」

「あらそう。じゃあもうそろそろ帰るから早速叱ってもらおうかしら」

「え?パパ早いの?」

「会社に研究所からメールが入って、ワクチン打ったら体がだるいんですって。早く帰るそうよ」

マジでやばい。

「あのお・・・さあ」

「なあに?素直な良い子のマコトくん」

なんだよ、にやにやしちゃってさ。

「あのお・・・ごめんなさい」

「ふふ。よろしい。さあ、早く片付けなさい。ご飯の支度手伝って」

「はああい」

ちぇっ。成績表アップ大作戦はおあずけか。
まったく、コンピューターがあったってネットにつながってないんじゃ宝のもちぐされだよなあ。
・・・パパもだるいのか。ママも帰り早いし・・・。
もしかしてエイズになっちゃったのかな?





















NerveType:NO

中編





















07:12 P.M. REPLAY


いいにおい。
ママのピザうまいんだよな。
買ってきたチーズに買ってきたクラストなんだけどなあ。
トマトはやわらかく煮えてて甘いし、台はカリカリ。火加減ってやつ?
プロの主婦はちがうよね。

「マコト。また漫画ばかり読んでるんじゃないだろうな」

「え?なにパパ?」

「漫画ばっかりじゃないわよねえ〜、マコト」

な、なんだよママ。そんないいかたしたらバレちゃうだろお。

「さあ、パパも新聞ばかり読んでないで。ペペロンチーノとマルガリータ冷めちゃうわよ」

「ああ」

「いっただきま〜す」

あちち。

「・・・決まったよ。例の話」

「・・・じゃあ、行くんですか?」

「ああ。来月の終り頃になると思うが・・・」

はふはふ。

「一年は帰れないと思う」

「まあ・・・そんなに・・・」

「歴史的な発見だからな」

一年・・・。

「むぐっ・・・パパやっぱり行くの南極?・・・けほっけほっ」

「ああ。パパが居なくても大丈夫だよなマコト?」

「う・・・うん」

一年・・・。

「・・・それじゃ家族を連れて行かれる方居らっしゃるんじゃない?」

「さすがに場所が場所だけにねえ。でも博士はお嬢さんを連れて行くらしいよ」

「まあ・・・」

「離婚したばかりだからなあ。子供を引き取った手前、連れて行かざるを得ないんだろう」

パパ・・・。

「かわいいお嬢さんだからな。なかなか聡明な子らしいし」

「あら、お会いしたことあるの?」

「離婚する前、研究所へ奥さんと来たことがあるんだ。家で別れ話をする暇も無かったんだな」

「・・・お気の毒」

いやだ・・・。

「ねえパパ・・・」

「なんだマコト?」

いやだ!

「・・・ペ・・・ペンギンがいいな!・・・おみやげ・・・」





















27.AUG.2000 A.D.

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08:38 A.M. REPLAY


オーストラリアってあついんじゃないの?

「あら。車に携帯置いて来ちゃったみたい」

でも日本より南極に近いわけだよなやっぱし。

「ママちょっと電話して来るわね」

「うん」

・・・みんな家族かな。調査隊ってこんなにいるんだな。そんなに『れきしてき』な隕石なのかな。
もう泣いてるひとがいるよ。出発まであと二時間以上もあるのに。
パパ早く戻ってこないかなあ。お腹すいちゃったよ。
子供はあんまりいないなあ。
あ、いた。女の子。
ジュースうまそう。いっこ上ぐらいかな?・・・って、こっち来るぞ?

「なに見てるのよ」

「え?あ、す、すいません」

「・・・君、調査隊の家族?」

「え・・・そ、そうですけど」

「わたしも。なんか、あんまし子供っていないのよねえ」

なんだこの女。なれなれしいな。
・・・ああっ!

「そっ・・・それビール・・・」

「ふふ〜ん。そうよ」

いいのかよ・・・。

「いいんですか?子供が」

「いいのよ。お父さんが買ってくれたんだし、もう中二なんだし」

中二って・・・。

「あら、本物の小学生にまでタメだと思われちゃったかしら?わたしってば童顔なのよねえ」

子供にドウガンもないよ・・・。

「ねえ、君は行くの?南極」

「え?い、いや、行きませんよ・・・もちろん」

「あっそう。わたし行くんだ」

ウソお。

「ホントに?」

「・・・行きたくないけど・・・」

え?

「・・・ねえ、ちょっと探検しない?飛行機飛ぶまで」

「ええっ?なんで?・・そんな、ダメだよ・・ですよ」

「いいじゃない。付き合ってよ。何かの縁だし」

「ち、ちょっと・・ダ・・ダメだって・・」

ひっぱるなよ!このヨッパライ女バカぢからあんなあ!
ああ、みんな笑ってるよ恥ずかしいなあもう・・・。
・・・今だけいうとおりにしておくか。

「・・・ちゃんと間に合わせるんならいいよ」

「わかってるわよお。ちょっとの間、雲隠れのお付き合いねっ」

はあ・・・ママにしかられる・・・。


09:17 A.M. REPLAY


涼しいなあ。
広い滑走路に飛行機がいっぱい。
あれ、この金網きったねえなあ。手まっくろだよ。
おっ、こっちに飛んで来た。

「気持ちいいわね」

「えっ!なにっ!」

「きっ!もっ!ちっ!いっ!いっ!わっ!ねっ!」

「あああぁっ!そおおぉっ!」

「聞こえるって」

そっちに合わせたんだろ。

「・・・南極って静かかしら」

「う〜ん・・・行ったことないからわかんない」

「はあ、ごもっとも」

ああ飲みほしちゃった。すごいなママだって全部飲めないのに。

「君は・・・お父さん好き?」

「な・・なんで?」

「嫌い?」

「う〜ん・・・やさしいときは好き」

「はあ、ごもっとも」

ああ、寄りかかったらよごれるって。

「わたしはね、嫌い。大っ嫌い」

「・・・でもお父さんと南極へ行くんでしょ」

「・・・うん」

「なんで」

「よいこだから」

「え?」

「わたしはよいこじゃなきゃいけないの」

「なんか・・・よくわかんない」

「・・・わたしもよくわかんないの・・・」

泣いてるのかな?

「・・・お父さんは嫌いだけど、お父さんに嫌われたくないの・・・」

・・・きれい・・・。

「だから行くの・・・一緒に」

ああ、顔こすったら・・・。

「ああ、やっぱり・・・」

「ん?どうしたの?」

鏡は・・・ないよなあ。

「顔くろくなっちゃったよ・・・トイレ行ったほうがいいんじゃない」

「えっ」

いまさら手を見てもおそいって。

「は、早く云ってよ!」

「だって・・・」

「もおお!こうしてやる!」

あっ、バカ、なにすんだよ!

「ははは、まっくろけ」

「ちょっとお!自分が悪いんだろお〜っ!」

こら、逃げるなシュラン女!

「あっ!いやあっ!もうっ!レディーに向かってなんということを!」

「ははは、これでおあいこ!」

「信じらんない!クソ生意気なガキねまったくうぅ〜!」

「そっちこそセイシンネンレイひくいんじゃないの」

「ハ・ラ・立・つ・わ〜っ!ちょっち待て!こらっ!殺してやるう!」

うわっ・・・くくっ

「くくくく・・・それっ」

「ふふ・・・うりゃっ・・ふふ」

「ひひひひ」

「はははは」

「わははははははは」

「あははははははは」


09:39 A.M. REPLAY


「どうもすいません、ウチのマコトが・・・」

これがカワイクてソウメイなオジョウサン・・・。

「いや、良いんですよ。この子も向こうでは遊び相手は大人ばかりになってしまいますから」

なんかわるいのはぼくばっかみたい。

「ほら、マコト。ちゃんと謝りなさい」

イヤだねママ。

「・・・ゴメンナサイ」

「良いのよマコト君。お姉さん楽しかったわ」

まっくろけの顔でいってもセットクリョクないよ。

「主人からも謝らせたいんですけど・・・」

「いや、良いんですよ奥さん。彼は今輸送器材の最終チェックをしています。・・・もうすぐ来るでしょうが・・・」

「・・・本当に済みません。洗っても落ちないなんて・・・」

「いいえ、お母さま。気にしないで下さい」

ひえ〜。オカアサマ・・・。

「本当にごめんなさいね、ミサトさん」

こづくなよ。

「オネエチャンゴメンナサイ」

「いいのよマコト君本当に」

コロシテヤルんじゃなかったの。

「じゃあ、わたしたちは食事をしますので、このへんで」

「じゃあね、マコトくん」

「うん・・・」

シュラン。
ドウガン。
ヨウチ。
バカぢから。
・・・きれいな・・・ひと。

「・・・さようならミサトさん・・・」





















STOP




















「葛城さん・・・」

「日向くん」

「・・・ミサトさん・・・」

「日向くん。あなたは幸せなの?」

「え?」

「あなたは幸せなの?」

「どうして・・・」

「あなたは全てを失ったわ。あのセカンド・インパクトで」

「・・・全て・・・」

「あなたが愛し、そしてあなたを愛していた家族全てを失った」

「・・・・」

「あなたは愛されたくないの?」

「自分は・・・」

「人間は愛されたいと願っているのではないの?」

「・・・そうだ・・・自分は・・・愛されたい」

「でもあなたは誰からも愛されていない」

「・・・そんな・・・」

「あなたを愛するものはすべて失われた。そしてあなたの愛するひとは、あなたを愛さない」

「・・・ミサトさん?・・・」

「あなたは幸せなの?」

「・・・やめろ・・・」

「あなたは幸せなの?」

「・・・やめろおっ!」

「あなたは幸せなの?」

「やめろおおおおぉぉぉぉっっっっ!!!!」





















13.SEP.2000 A.D.

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「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」








































西暦2017年8月27日






















午後8時48分


マコトのぼんやりとした意識に、呼吸を感じる。
シゲルの瞳は潤んで、正面に有る。
やがて覚醒が頭を駆け巡ると、覆い被さるシゲルを押し退け

「ななななな、何だ!どうしたんだ!」

「よ・・・良かったあ〜。生きてた〜」

「・・い・・意識不明だったってワケか・・」

「いやあ〜やっぱ人工呼吸って効くんだなあ〜」

3メートル奥の壁パネルまで後ずさる。

「じじじじじ人工呼吸う〜!?」

「うん。いろんな意味で初体験」

つつと汗が。

「・・・背中に薔薇背負ってなかったろうな?」

「おや、少女マンガも読むの?」

「少年マンガも・と云ってくれる?」

立ち上がると緩めてあったジーンズがずり落ちる。

「・・・信じてるからな・・・シゲル」

「なあにおだよお〜」

「それより」

デスクに着くとキーボードを叩き始めた。
シゲルはその顔を覗き込む。

「おい、いきなり大丈夫か」

「ノンキなこと云ってらんないよ。奴の正体半分判ったってのに」

「ええ?おい、ホントか?何か見たのか?」

「ああ。と云ってもまたお前は信じちゃくれないだろうがな」

「はいはい信じますよ。ここまで来たら一蓮托生。もう赤の他人じゃないんだし・・・」

指が止まる。

「その手の冗談また云ったらここ吹っ飛ばすよ」

「へえへえ・・・で、何なんだよ、その正体ってのは」

「『ナーヴネット・システム』・・・知ってるか?」

「いや。どうせまたトンデモ話の類だろ」

「ああ。さすがの俺も突飛すぎて一笑に付したバカげた陰謀話さ・・・でも、そんなもの程現実だったりするんだなあ世の中って奴は・・・」

「もう何聞いても驚かないよ」

「お前、エイズワクチンは打ってるか?」

「おっ、その気になってくれた?」

「・・・吹っ飛ばすぞ・・・」

「はは、冗談だよ。・・・何時の?」

「2000年7月の奴。確かハフィカイン・B-2カクテルだ」

「あ、セカンド・インパクトから向こうの奴はやってないよ」

ぐるりと眼鏡が向く。

「お前ほんっとに野性児だなあ。あれはWHOで全世界一斉が義務付けられてたぞ確か」

「俺は反体制革命分子だったの」

「あ、不良ね」

「・・・そうとも云う」

「そいつに、もしもワクチン以外の成分が混じってたとすれば?」

「・・・例えば?」

「例えば・・・人間の全感覚で捕えたあらゆる情報を分析、記録、送信する成分」

「はあ?」

「脳細胞寄生型液体コンピューター・・・『センサー』だよ」

シゲルは手のひらで額をぴしゃりと打つと、笑いを堪え立ち上がる。

「それ・・・信じなきゃだめ?」

「だめ」

笑いは噛み殺された。

「え〜信じます。信じますけど先生、例え第7世代有機コンピューターと云えども全人類の送って来る情報の処理は出来ないと思うんですが・・・ましてや情報は記録してこそ命。そんな大容量のメディアは無いんじゃ・・・」

「あるよ。俺たちの頭ん中さ」

「え?」

「俺たちの頭ん中で『センサー』は情報を処理する。そして必要な情報は記録されるんだ・・・新皮質の空いてる領域にね。そしてメイン・コンピューターの求めに応じて送信される。これが『ナーヴネット・システム』さ。全人類の脳味噌が容量なんだ。おつりが来るだろ?」

「う〜ん。勝手に脳味噌が他人に使われちまってるワケね」

「俺たちの脳味噌なんかほとんど空き領域なんだぜ。それよりプライバシー覗かれるほうが俺はイヤだね」

「・・・覗かれてたのか・・・」

「え?」

「・・・ラルフにさ」

「・・・ご明察」

マコトの指の動きはそれを探し当てる。

「何故、このシステムはその中心であるラルフと共に頓挫したのか・・・何故、ラルフはカスパーの中に蘇ったのか・・・そして、何故、自爆を望むのか・・・それが謎のあと半分だ。そして答えは、多分ここに有る」

ディスプレイに映るもの。
幾何学のタペストリー。
シゲルは目を細め、

「これ・・・ニューロ・プロテイン組成図じゃないか」

「ああ。MAGIのロジックを構成する物質だ」

突然。

『レヴェル・セブンでの細菌遺伝子操作実験中に気密室にて火災を伴う爆発事故発生。細菌毒性はE-3Aレヴェルアンダー。危険度はワイルドファイア級と認定。ただちに自律自爆の要有りと認めます』

マコトの顔はディスプレイを突き抜け、スクリーンを凝視する。

「しまった!デマゴーグだ!」

『人工知能メルキオール、バルタザール、及び名称不明は全会一致で自律自爆を決議しました。現在命令実行の確実性を検証中』

シゲルの力の無い声。

「これを狙ってたのか・・・」

そしてその目に、その姿が。
ヘッドセットを厳かに頂くマコトの姿が映った。

「な・・・何考えてんだ!今度は死ぬぞ!」

「何にもしなきゃどうせ死ぬ。チャンスはあるはずだ」

「マコト・・・」

微笑み。

「諦めるのはまだ早い・・・云ったのはシゲルだろ?」









































<後編につづく>




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