とく。




















とく。




















とく。




















とく。




















熱と。




















光と。




















衝撃と。




















振動と。




















そして




















開放。








































沈み込む暗黒。




















悲しいほどの、星空。








































真っ白い海。

僕のこころを捕らえて放さない、静寂の光芒。

天空から降り注ぐ無限の瞬き。

それは、今にも僕を射貫きそうな新鮮な星の光。

初号機の脚をゆっくりと月面へ向ける。

ランディングモードに移行する。

目指すモノは、肉眼でもはっきりと見て取れた。

長い、影。

鋭く、忌まわしい輝き。

プローブは電子の声を囁き

僕は目標にガイドの照準を合わせる。

緊張が走る。

そそり立つ槍を凝視する。

居るはず。

いや、きっと居る。








































僕の、破滅。








































N e g a t i v e L o v e










































飛行機雲。








































蒼い高みを裂く残酷な過去。

それは陽光に浮かぶ記憶の、刺。

あの時に見た、虚ろな目。

精神の昇華した、虚脱の骸。

機械の寄生したストレッチャーの上。

彼女の瞳は目薬に濡れていた。

・・・正視なんか出来ない。

背けた目に飛び込む、光景。

看板。

アナウンス。

笑顔。

慌ただしい空港の、日常。

彼女は死んだ。

ここに居るのはアスカなんかじゃない。

ただ生きているだけの死体。

まだ死んでないだけの死体。

握るこぶしが白くなる。

噛みしめた唇が白くなる。

・・・ミサトさんに促され、ぼそりと別れの云葉を口にする。

さよなら。

・・・本当にさよなら。




















染みて行く哀しみ。




















ドイツへと雲を引き

飛行機はアスカを僕の住む世界から連れ去る。

飛行機雲。

焼き付いた光景。








































窓から振り返ると、退屈な授業。

退屈な高校生たち。

終業のチャイム。

僕の住む世界。




















がじゃりがじゃりと軋むペダル。

僕の足の裏を焼く靴の中の灼熱。

ハンドルを握る手が汗で緩む。

陽炎に揺らぐ、街、ひと、僕、自転車。




















ききりと止まる。

人気の無い街に、ゆらぐ影がゆっくりと化けて行く。

彼方からの視線はやがて通される。

晴天に色を放つ、青の髪。

陽に晒すには残酷な程白い身体を制服に包み

綾波レイは鞄を下げ、真っ直ぐと近付く。

僕は自転車を下りる。

そうか。

今日なんだ。




















終わりの始まり。






















部屋に上がると、窓を開ける。

崩れかけた飛行機雲。

ドアの閉まる音に振り返る。

僕を見つめたままの、赤い瞳。

畳の目を踏む黒い靴下。

この狭い部屋の緊張。





















座布団を勧められるままに彼女は座る。

紅茶のカップには手を付けず

ただ僕の顔をじっと見る。

風鈴が鳴る。

僕は目を逸らす。

カレンダーの赤い丸。

月へと飛び立つ日。

補完に必要なモノ。

それは初号機と、リリスと、・・・槍。

ネルフはその回収準備に追われている。

ゼーレは父さんを探すのを諦めたらしい。

でも、君は・・・





















・・・君は、探している。

父さんを。

自分の記憶の糸口。

彼女を思い出す糸口。

・・・二人目の自分。




















でも僕は告げなければならない。

この云葉を云わなければならない。

君の旅を終わらせなければならない。

自分を見つける旅を。




















その云葉を聞いた時

彼女は不思議そうに僕の顔を覗きこんだ。

僕は出来うる限りの冷たさを笑みに込める。

聞こえなかったの?




















父さんは僕が殺したんだ。




















君を手に入れるためにね。




















凍りついた時を僕は泳ぐ。

触れたら切れそうな程薄い肩を両手で掴む。

仰向けに押し倒す。

はらりとのぞく額。

震える僕の手のとまどい。

赤い視線。

僕は俯く。




















制服の赤いリボン。

するすると衣擦れる。

君は力無く見つめる。

凶暴を逃すまいとしている僕を。

堅く目を瞑り、ブラウスの襟首を掴むと、一気に左右に引きちぎる。

・・・まるで血の気の無い白い胸板を、下着が覆う。

頭頂から抜け出ようとする興奮を堪えて、力任せにそれを取り去る。

白く揺れる双丘が、僕の瞳を罪悪の光で焼き尽くす。

僅かに色濃いその中心の突起。

震える手の平が触れる。

そのまま乳房を握る。

力を込める。

その時。




















とく。




















とく。




















とく。




















とく。




















鼓動が手を打つ。

凶暴が昇華して行く。

手を退けると、僕はその柔らかい肉にそっと耳を押し当てる。




















とく。




















とく。




















とく。




















とく。




















鼻の奥が緩む。

閉じた目から温かいものがにじみ出る。

嗚咽を噛み殺す。




















涙を隠すように彼女に背を向ける。

静かに呼吸を整える。

・・・僕には出来ない・・・。




















不意に後頭部に激痛が走る。

カップの割れる音。

燃える様に熱い紅茶の香り。

そのまま前屈みに倒れると、机で頭を打つ。

もうろうとして仰向けになると、伸し掛かる体重を感じる。

振り乱された青い髪。

前をはだけたままの制服。

真っ直ぐ伸ばされた白い両腕。

その先端は、僕の首を掴む。

喉笛に突き立てられた両の親指は、ぐりりと押し込まれる。

僕の黒目は上瞼に突き刺さる。

僅かな隙間に映る、形相。

白目が限界まで露出した眼。

その中心の赤は怨念に濁る。

食いしばられた歯の間からたらりと滴るよだれ。

低い唸り声。




















それは自分を取り戻す術を失った、狂気。

魂の行方を見失った、恐怖。




















僕の身体から離れようとする意識。

痛みも苦しみも届かない場所で、僕は安らいでいた。

そう。

彼女は僕を殺そうとしている。

ATフィールドではなく

その憎悪で。

そうさ、君はもうアダムなんかじゃない。

・・・人間なんだ。




















まさぐる手でシャツの胸ポケットからペンを取り出すと

そのまま彼女の首筋に突き立てる。

ふっと腕の力が抜ける。

崩れ落ちる。

頭を僕の胸に埋める。

気管は開放される。

僕は激しく咳き込みながら、そっと彼女を退ける。

四つん這いになって呼吸を鎮ませると

携帯を取って番号を指に任せる。




















ミサトさんの声を待つ。






















脚に感じる僅かな衝撃。

漆黒の闇を切り裂いてそびえる光の槍。

ゆるゆると舞う白い粉塵が治まる。

槍のそそり立つ、その根元。

色彩の抜けた月世界の光景に

その青は片膝を着いて頭を垂れていた。

ゆっくりとその金属の顔を向ける。

エヴァンゲリオン零号機。




















僕の、破滅。




















その手は槍を掴むと、ゆっくりと引き抜く。

太陽にかざす。

影を静かに伸ばして行く。

切っ先は狙い違わず、初号機のコアへと向けられる。




















あの時の彼女の、目。

あの時の彼女の、声。

あの時の彼女の、憎悪。




















僕は目を瞑り、精神を統一する。

今日、この日のために訓練してきたこと。

・・・暴走の阻止。




















ぎりぎりと初号機の機体が軋み始める。

フィールドが展開される。

だめだ・・・一歩も動いちゃだめなんだ。

だめなんだよ・・・母さん。




















・・・母さん、一緒に父さんのところへ行こう・・・。

彼女の手で、一緒に・・・。




















人類は補完されてはいけない。

初号機が有ってはいけないんだよ。

母さんが覚醒した今、壊すにはこうするしかないんだ。

僕と一緒なら良いでしょ・・・ねえ、良いでしょ母さん。




















突然、身体が開放される。

初号機はだらりと弛緩し、ばたりと両膝を着く。

零号機の構える切っ先が胸部装甲板に触れる。




















綾波・・・。

アスカ、ミサトさん、みんな・・・。

・・・そして、あんなに奇麗な星に住むひとたち。

・・・さよなら。








































動かない。




















零号機は、動かない。




















槍は、静かにその切っ先を地面に埋める。

憎悪の昇華した立ち姿。

まさか・・・




















・・・思い出したの?




















急激に身体を縛られる感覚。

初号機は顎部装甲具を引きちぎると

真空に叫ぶ。

両手で槍を握り、力無い零号機から奪う。

高くかざされる鋭い尖り。

そして・・・




















それをそのまま、深々と自らのコアへ沈める。




















エントリー・プラグの電源が落ちる。

声も無いまま、僕は強烈な振動に晒される。

強力なG。

・・・射出された?




















振動が治まると、予備電源が起動する。

モニターを凝視する。

四散した初号機。

遥か遠く離れつつある槍の輝き。




















プラグは、零号機の懐に抱かれていた。






















ぱたぱたと窓を叩く雨。

薄ら寒い日曜の午後。

寂しい日常を映す部屋。




















補完計画は、初号機を失い破綻をきたした。

・・・母さんの望んだ通りに。

ゼーレもネルフもその目的を失い、消滅した。

・・・父さんのシナリオ通りに。




















そしてまた、僕は退屈な高校生に戻る。

この退屈なベッドの上。

・・・僕の住む世界。




















ノックの音に目を覚ます。

扉の向こうに、雨を滴らせた制服の少女。

綾波レイ。

俯き、震えている。




















畳に雨の跡を残しながら

彼女は部屋の真ん中にふらふらと佇んでいる。

紅茶を入れようと立った僕の背中。

濡れた身体がすがり付く。




















・・・あの時、月の上で君は思い出したんだね。

自分がアダムであったことを。

どうして、人間になったのかを。




















ゆっくりと身体を返す。

僕のシャツの胸を堅く握り締める手。

でも・・・彼女に何て云えば良い?謝れば良いの?

・・・僕に出来ることなんか、無い。




















彼女の手が離れる。

俯いたまま、静かに後ずさる。

そして、ゆっくりと自らの制服のリボンを解く。

濡れそぼった赤を引き抜く。




















小さく震える手は、ブラウスのボタンをひとつひとつ外す。

そっと肩から服を落とすと、静かに下着から腕を抜く。

固まってしまった僕の視野に、あの罪悪の光を晒す。




















僕の視線を受け止める、切ないほど白い乳房。

僅かに血の通う乳首。

雨の滴が髪の先から滴り、胸板を滑る。




















差し出された両手が、僕の頭を捕える。

髪の毛に差し込まれる指。

少しずつ、少しずつ白に引き寄せられる。

そのまま、僕の頭は彼女にかき抱かれる。

耳に染み込む音。




















とく。




















とく。




















とく。




















とく。




















脚の力が抜ける。

僕を支える気も無い彼女の身体。

僕の頭を胸に乗せたまま、ベッドにふたりの体重を沈ませる。




















顔を上げる。

彼女の瞳を見つめる。

赤い光の奥に宿る、切なさ。

僕は赤子の様に、懸命に覗き込む。

その光を、目の前に取り出したくて。

全てで、癒したくて。




















触れたのは、僅か。

しかし、僕の唇は火傷で震える。

彼女の瞳から、切なさがこぼれそうになる。

それに吸い込まれるように、また火照った患部で彼女の吐息を塞ぐ。




















夢中で吸い込むと、柔らかい肉が僕の真空を埋める。

彼女の舌。

ざらりともどかしく僕の舌を掻く。

少し温度の低い、彼女の唾液。

咽喉を鳴らして飲む。

薄目に映る眉間の皺。

額に張り付く透き通った毛髪。

僕の頭から熱が吹き出す。

頬に染み込む。

彼女に染み込む。




















蒸発する雨。

僕の鼻に匂い立つ。

それは人間の匂い。

・・・彼女の、汗。

・・・彼女の、匂い。




















突然、鈍痛が僕を襲う。

ずきずきと下半身が熱で凍る。

息が出来ないほど、張りつめる。

記憶が、甦る。

彼女を汚そうとした、凶暴。

例え強制されたものでも、それは僕を襲う猛烈な嫌悪。




















僕は両手をついて彼女から唇を外す。

つつと粘る唾液を引き摺り、身体を起こして背を向ける。

いきり立つ自身が告発する、僕の罪悪。




















背中に感じる体温。

振り返ると彼女は僕の肩をやさしく掴む。

そのまま横たえられる。

仰向けのシャツが手繰られると、僕の胸が露出する。

乳首を這う舌のざらつき。

彼女は僕の味を舐めとると、充分に咀嚼する。

腹を、乳房の重さとその先の固さが掻いて行く。

僕の臍が舌で埋まると、半身が脱がされるのを感じる。

彼女の咽喉を突き上げる僕の自身。

やがてそれも、熱く滑るざらつきに味を舐め取られて行く。

僕の腹はてらてらと輝く彼女の唾液で粘っている。




















そう。

彼女は僕を、味わっている。

そうして、僕を認識しようとしている。

そうして、僕を理解しようとしている。




















綾波・・・。

僕は、美味しい?

ねえ綾波・・・僕を喰べて。

僕を取り込んでよ。




















彼女の口中の僕の味は、隅々まで舐め取られる。

皺も窪みもざらついた肉に擦られる。

限界だった。

腰から湧き出た、熱。

叫び声と共に、僕の頂上から吹き出す。




















彼女はじっと僕の精を口に受ける。

静かに僕を出すと、かちかちと噛む。

舌で掻き回し、ゆっくりと飲み込む。

そうしてまた、僕の皺や窪みから舐め取る。

僕の味を。








































僕の手の平で形を変える弾力。

薄く透ける血管を舌で辿り、頂点の突起を含む。

その固さを舌に撫で付ける。

柔らかく、唾液が馴染んでいく。

彼女の咽喉から擦れた細い息が漏れる。




















彼女がやったように、滑らかな腹を粘液で汚す。

小さな臍を舌で埋める。




















覆うものを取り去ると、匂い立つ彼女が味を粘らせている。

窪みも、皺も、襞も、指でいっぱいに広げる。

舌を尖らせ丁寧に舐め取る。

・・・彼女の味。

・・・そう、人間の味。








































少しずつ彼女に僕が差し込まれる。

しかめる顔に僕の罪悪が膨らみそうになる。

しかし、僕を抱く力に、それは消えていく。

ぴったりと胸が重なると、僕は彼女に全てを埋めていた。

彼女の蠢く内臓に触れていた。

青い髪をくしゃくしゃと頭をかき抱く。

唇を重ねると、彼女は舌ももどかしく僕の唾液を吸う。

熱を放つふたり。




















蒸発する雨。

僕の鼻に匂い立つ。

それは人間の匂い。

・・・ふたりの、汗。

・・・ふたりの、匂い。




















僕は、泣き声さえあげて、果てた。

彼女の人間に官能し、果てた。

そして、彼女の隙間を精で満たし、泣き崩れる。

快感も罪悪も退屈も憂うつも、涙となって彼女の顔に滴り落ちる。

彼女はやさしく頬ずりをする。

そして、そっと僕の耳を舐める。






















雨はまだ止まない。

白い空の色が窓を染める。

毛布に包まるふたり。

彼女の寝息が満たす部屋。




















僕に向けられた、安らかな寝顔。

額に張り付いた髪を、そっと掻き上げてみる。

暖かい頬。

血の通う皮膚。




















もう旅を続ける必要はない。

もう過去を追い求める必要は無いんだ。

君は体温を放つ人間。

香り立つ匂いを持った人間なんだから。




















零号機に移植されコアを失った君は、心臓を取り込んだ。

人間としての生を与えられた。

・・・それは君がパイロットだったからかも知れない。

でも、君はこうして生きているじゃないか。

人間として。




















人間は、過去に縋り付いて生きちゃいけない。

空虚な記憶に絶望して、未来まで否定しちゃいけないんだ。

未来は、これから埋めていくものだから。

これから作りだす過去なんだから。




















生きる意味なんて、誰にも無い。

自分で見つけるしかない。

自分で埋めるしかない。

自分の未来だから。




















・・・僕は見つけたよ、綾波。




















瞳のくりくりとした動きが瞼に透ける。

頬を撫でる僕の手に、そっと手が重なる。

瞼がするすると開かれる。

赤い瞳。

僕の笑みを映す、透き通る輝き。




















柔らかい微笑み。

僕の手に伝わる。




















そっと彼女は僕の頭を抱く。

裸の胸に僕を導く。

耳を当てると、あの鼓動。

・・・彼女の鼓動が、人間を謳う。




















とく。




















とく。




















とく。




















とく。








































・・・父さん。









































<おしまい>




NOVELSに戻る

ふりだしに戻る