貧しき者、寂しき者の慰めは夢想である

阿部次郎


人類は空想に支配される

ナポレオン










































ぐつぐつかたかたと、ダイニング・キッチンに満ちる鍋の呟き。
コンロのスイッチダイヤルをぎゅっとひねる手に、鎮まる。
手は、まな板に置いた包丁を再び握ると、残りのキャベツを刻み始める。

(・・・もうそろそろかな・・・)

千切りが完成すると同時に、どこからかエコーの効いた声が

『シンジぃ〜〜、もういいわよぉ〜〜』

「はぁ〜〜い」

少年はいそいそとエプロンを外すと、小走りで風呂場に向かう。
脱衣所から浴室のドアを見れば、磨りガラス越しの肌色のシルエット。

『ねえシンジぃ〜、夕飯のおかずなにぃ〜?』

「治部煮と豆腐ハンバーグ、あと海草サラダにしじみのみそ汁だよ」

シルエットは、やがて水音と共に消える。

『ハンバーグはちゃんと大根おろしソースにしてくれた?』

いそいそと服を脱ぎながら

「うん。ポン酢はこの前作ったのがあるから」

『よろしい。では、入室を許可する』

全て脱ぎ終わった裸体が、ドアを開ける。

「おじゃまします・・・」

ふわりと湯気の満ちた乳白色の室内に、横長の浴槽。
その湯に静かな波を立てながら、紅い髪を後頭部にまとめ上げた少女。
洗い場の風呂イスにいそいそと座り込む少年を眺めながら

「・・・なんだかさあ・・・」

「え?」

「・・・シンジの方が、新妻みたいよね・・・」








































げりをん
THE FINAL










































ふたり分の身体を沈めると、湯は盛大にこぼれ落ちる。
後ろから抱きかかえる少年は、少女の二の腕をふにふにと揉む。

「ちょっとぉ・・・なにすんのよぉ・・・」

「・・・アスカ、もしかして痩せた?」

「んー、・・・て云うより、今までむくんでたかな」

「どうして?」

「ほら、ピル飲んでたから」

「そうなの?」

「そう云うこともあるって、リツコが云ってたわ」

「ふうん・・・」

「で、お返し」

後ろ手にさわさわと、少年の股間をまさぐる。

「ち、ちょっと、アスカ・・・」

「うふふ、・・・そろそろナマで入れたくなって来た頃でしょ?」

「な、ちょっと、やめてよ」

「ちょっと触られただけで、こんなにむくむく膨らましちゃって〜」

「ほんと、マジでやめ・・・うっくっ・・・」

のけ反る咽喉がうめき声を漏らすと同時に、手は引っ込む。

「はぁはぁ・・・アスカ・・・」

振り向く青い瞳。

「そ〜んな切ない顔しないでよ。知ってるでしょ、今は“ピル抜き”中だって。将来赤ちゃん産む為なんだから、しばらくナマは我慢してよね」

「判ってるよ。・・・って云うか、触って来たのはアスカだろ」

「ヒトの二の腕掴んどいて良く云うわね」

「もう・・・」

細い身体を背中から抱きすくめると、その股間に両手を滑り込ませる。

「な、何よ、更なる仕返しのつもり?」

「違うって。いつものやつ」

こんもりとまとめ上げられた明るく紅い髪に、鼻を埋める。
細い指が、湯中の陰毛をさわさわと撫でつける。

「あん、もう、・・・いつものヘンタイっぽいクセ?」

「こうしてると、何だか落ち着くんだ。・・・アスカの毛って気持ち良い・・・」

「上も下も?」

「うん。すごく柔らかくて、良い匂い・・・」

「そりゃ洗ったばっかだもん」

股間から、片方の手が白い乳房に這い上がる。

「こ、こら、そこに毛は無いわよっ」

「こっちも、柔らかいよ・・・」

爪の先が、淡い色の乳輪の周をゆっくりとなぞる。

「ちょっと、・・・その気にさせても入れさせてあげないわよ?」

「乳首勃って来た・・・」

ぷっくりと膨らむ乳首を、中指の腹で微かに擦る。

「も、もうっ・・・お尻も、あんまりすると痔になるからってヒカリが・・・」

「なっちゃったのかな、委員長」

陰毛を撫で付ける片手が、やがて淫裂上部の突起を優しく刺激し始める。

「く、口も、あんまりすると男が遅漏になっちゃうからって・・・」

「なっちゃったのかな、トウジ」

手の平を乳首に強く押し付けると、乳房全体を揉み始める。

「ちょっとっ、・・・もう、判ったわよっ」

「え?」

手を振りほどくと、ざばっと勢い良く立ち上がる。
滑らかな背中から、艶やかな尻から、滴り落ちる湯の玉。

「シンジ、ちょっとそっちに仰向けで寝なさいよ」

洗い場を指差す。

「・・・な、何で?」

振り返ると、ニヤリと笑う顔は、見下ろすきょとんとした顔に向かって

「素股、してあげる」

「す、・・・スマタぁ?」

「あんたのソレを、あんたの好きなあたしの毛で擦ってあげるから・・・早くしなさい、ほら」

腕を取って湯船から引き抜くと、洗い場へ放り投げる。

「いてててて、ちょっとアスカ、乱暴な・・・」

ベビーローションのボトルを取り、どぼどぼと床の身体に振りかける。

「つ、冷たっ」

自分も手の皿に流し込み、つやつやとした肌にぬるぬると塗り込める。

「倦怠期には、結構効果的だって・・・」

「け、倦怠期なのかな、あのふたり」

膝立ちの太股で相手の腰を挟むと、固さを増す器官を掴む。

「んふふ、ぬるぬるだあ〜」

「うくっ」

きらきらと青い瞳を輝かせ、器官をゆっくりとしごく。

「うわ、ビクビクがスゴいよシンジ・・・このまま手でイカせてあげようか?」

「び、微妙にヒネりを加えないでぇ・・・うむぅっ!?」

身体に覆い被さると、相手の唇を貪る。

「んむぅ・・・くちゅ・・・はぁ、はぁ、・・・さあて、始めるわよ」

上気する頬に悪戯っぽい笑みを浮かべ、相手の目を見つめたまま
片手で股間に当たる器官の位置を直し、腰を前後に揺らし始める。

「あ、当たってる、・・・アスカの毛とか、・・・あ、アレが・・・」

「アレって何?・・・シンジ、ちゃんと云ってよ」

(え、こ、こんな責め有り?)

息も荒く、小刻みに動き続ける身体の柔らかさ。

「ほおら、何?・・・あたしの何が当たるの?・・・伏せ字無しで云ってみなさいよ」

ぬるぬるとした感触と、とぷとぷと温かい鼓動の重量。

「ほ、ほおら、シンジっ!」

いきり立った器官を押し潰す、毛と肉の交互の刺激。

「あはぁ、お、お、おまんこですぅっ!」

「よおし、良く云ったわ。じゃ、御褒美」

ずりずりと身体を下げ、腰に屹立するぬるぬるの肉を、両乳房で挟む。

「ひょ、ひょっとして・・・パイズリ?」

きょとんとした顔に向かって。

「なによお・・・あたしのサイズじゃ無理って云いたいの?」

圧迫によるささやかな谷間から、赤黒い亀頭がぬるぬると見え隠れする。

「ああ、き、キモチ良いけど・・・大丈夫アスカ?・・・痛くない?」

「大丈夫よっ!・・・ヒカリがクリア出来たんだから、あたしだって・・・」

「いい加減、張り合わないでよ、アスカぁ・・・」

「あ、く、・・・くう・・・」

歪む表情の下、圧迫された白い肌が、段々赤みを帯びて来る。

「な、何かやっぱり痛そうだよ。・・・そうだ、アスカ」

「え?・・・あ、ちょっと・・・」

するりと相手の下から腰を抜くと、そのまま腕を掴んで手前に引き倒す。

「な、何よ、どうするのよ?」

「こっちの方が、アスカがまだ楽かも」

うつぶせの背中に回り、張りの有る臀部の上にしゃがみ込むと、
ふたつの白い肉を掴み、その間に赤黒い肉を挟む。

「な、何!?」

「お尻の肉なら、大丈夫でしょ?」

ぬるぬると、そのまま腰を振り始める。

「あひ、ちょ、シ、シンジ・・・何か、変なカンジ・・・」

「も、もうちょっとお尻を突き出せる?」

「こ、こう?」

膝を折り、尻を高く持ち上げる。

「そ、そう・・・うっく・・・」

くちゅくちゅとした音の隙間を、荒い呼吸が埋めていく。

「うあ、き、来た・・・ちょっとアスカ、そのまま脚を閉じて・・・」

「え、う、うん・・・」

四つん這いの閉じた太股の間に、肉を差し込む。

「こ、これで素股に逆戻り・・・」

「あはぁ、シンジ・・・擦れてる・・・」

「ど、どこに?」

「え、そ、それは・・・」

激しい摩擦が、ローションとは違う粘液を迸らせる。

「ほらアスカ、云ってごらんよ、ふ、伏せ字な・・・」

「おまんこおまんこおまんこおまんこおまんこおまんこぉっ!」

「あ、アスカ・・・」

「・・・あたしのおまんこにぃっ、シンジのちんぽが擦れてぇっ、クリトリスにぃっ、カリ首が当たってぇっ、す、スゴいことになってるうううぅっ!」

「そ、そんなプレイされたら・・・ぼ、僕・・・うわぁ!」

「あくぅっ!」

引き抜く強い摩擦で、ふたりに快感の電流が走る。
反り返り、強張り、ぶるぶる痙攣する背中を見ながら立ち上がる。

「アスカ、ごめん!」

「くっ・・・え?」

そのまま背中にまたがると、後頭部にまとまる髪に肉を差し込む。

「うわああああああああっ!」

柔らかくまとわりつく感触の中に、熱い粘液を放出する。

「い、いやああああああああっ!」

「ああ、スゴい、アスカ・・・やっぱり・・・キモチい・・・ううっ」

続く放出が、髪の束から粘液を流れ出させる。

「い、いやああああああああっ!」

灼熱の溶岩が、どろどろと額を舐めるのが判る。

「シ・・・シンジぃ〜〜〜っ!」

振り返る形相を汚す、幾筋もの白濁。

「ご、ごめん、アスカ・・・」

「・・・云いたいことはそれだけ?」

睨む視線。

「あ、えっと、・・・その・・・」

「その、何よ」

「いや、何か、・・・は、花嫁のベールみたいだなって・・・」

「このバカっ!」

振り向きざま突き上げるヒジが、相手のわき腹に刺さる。

「ぐげっ」

そのまま横っ飛びになった下半身が、浴槽のヘリに激突する。

「あぐっ」

バランスを崩した上半身が、逆さになって湯の中に没入する。

「ぐぶぅ〜〜〜っ・・・」

盛大なしぶきを浴びながら

「もうイヤっ!・・・また洗わなくちゃならないじゃないっ!」

浴槽のヘリに現れた手が、息も絶え絶えの頭を引き上げる。

「・・・ぼ、・・・僕も手伝う、よ・・・」

「ヘタにいじられて、また興奮されちゃたまんないわよ」

「そおんなぁ〜〜・・・」

髪を解き、シャワーの湯ですすぎながら、湯船の脱力した表情を眺める。

(はあ・・・明日来るとか云う新顔が、他のチルドレンがこんな変態だと知ったら、どう思うかしらねえ・・・)




















「有り得ないわね」






















「・・・もし本当だとしたら、それは『奇跡』と云えるかしら」

「・・・リツコぉ〜?」

「あ、じゃあ、そういうことで・・・」

受話器を置くと同時に、女を招き入れたドアが閉まる。
イスに座る白衣の背中に向かって

「・・・誰と電話してたの?」

「もちろんオトコに決まってるじゃない。デートの約束を断られてハートがブレイクしたところ」

「ふうーん・・・」

雑然とした部屋の壁にもたれ掛かり、赤いジャケットの腕を組む。

「・・・ま、いいか。・・・で、リツコ、あんたはどう思う?」

金髪を掻き揚げなら、白衣の女はイスをぐるりと相手に向き直る。

「何が?・・・その唐突に話を切り出すクセ、直した方が良いんじゃないかしらミサト」

「委員会が新たに送り込んできたチルドレンよ。決まってるでしょ」

「シンクロテストでの数値は見事なモノね。今までで最も優れていると云えるわ」

「ちょっと都合が良すぎるんじゃない?」

壁際に置かれたコーヒーサーバーに近付く。
ポットになみなみと入った黒い液体を紙コップに注ぎながら

「チルドレンを注文したら、あっさり、それも非常に優秀なモノがポンと届くなんて」

「注文したのはあなたでしょうミサト。現体制ではいくらなんでもと・・・」

「そりゃ、過去の経験と反省を踏まえて、様々な改善を要望するのは当然でしょ。各種ハッチをエヴァからオープン出来る様にしたり、・・・コレだって、インスタントじゃあんまりだから、・・・」

「じゃあ、何が不満なのかしら?」

紙コップの簡易な把手をつまみ、口元まで持って来て、止まる。

「・・・ウマいハナシにゃウラが有るってことよ。あんただって、それは感じてるんじゃないの?」

「わたしが?」

「だから、司令に電話したんでしょ?」

「・・・・」

ずずず、と、コーヒーをすする音。

「う・・・やっぱウマいハナシは無いわね」

ばしゃん、と、ゴミ箱にカップが落ちる。

「・・・で、デートはいつ?」

「先方はそれどころじゃないみたいね。お連れさんが一大事だそうよ」

「一大事?」

「ええ。・・・“奇跡”、でね」



真っ直ぐと伸びる、明るく清潔な樹脂の床。
きゅっきゅと、二組の靴が鳴りながら進む。

「・・・あ、あの、アスカ・・・カッコ良かったね、彼」

「・・・・」

「シンクロテストも、すごい数値だったし・・・」

「・・・・」

「彼なら、初号機を僕より上手く操縦出来るかも・・・」

「・・・・」

「ねえアスカぁ・・・昨日のこと、まだ怒ってるの?」

きゅっ、と、一組の靴が止まる。

「怒ってないわよこのヘンタイっ!」

窓の無い廊下に響き渡る声。

「いや、その・・・あの、か、髪に出しちゃったのは、ゴメン・・・」

「・・・あんた、そのザーメンまみれのあたしをよりにもよって何に例えた?」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・何だっけ?」

「死ねっ!」

鋭いヒジが、相手のみぞおちに刺さる。

「ぐげっ」

そのまま前屈みになった顎に、蹴り上げられる膝が激突する。

「あぐっ」

反り返り、床に伸びる腹に、ダメ押しのストンピング。

「ぐぶぅ〜〜〜っ・・・」

ぽんぽんと手を叩く、勝ち誇った表情。

「・・・じゃあね、シンジ。先に帰ってたっぷり反省しときなさい」

それを映す、のたうつ涙目。

「うぐぐ・・・ア、アズガは・・・?」

「ちょっとリツコに呼ばれてるから」

「な、何で?」

「“あんたがあたしの髪に出さなきゃいけない件について”よっ!」

もう一回のストンピング。

「げぼっ!」

「じゃあね」

きゅっきゅと、去っていく靴をしばらく眺める。

「・・・・」

「災難だったね」

「・・・え?」

反対側に振り返ると、微笑む少年が、手を差し伸べている。
銀色の髪、紅い瞳、半袖シャツから伸びる白い腕。

「・・・な、渚くん、・・・だっけ」

「カヲルで良いよ、碇シンジくん」

その手を取る。



「シンジ君に接触したわね」

発令所の司令塔に、ひとり腕組みをする赤いジャケットの女。
広大な暗闇に浮かぶ、ふたりの少年の映像。
広大な暗闇に響く音声。

『案内を頼みたいんだ。大人たちは皆忙しいみたいだから』

『いいけど・・・何が見たいの、カヲルくん?』

女は厳しい表情の口元だけを歪めて、笑む。

「単なるスパイ?・・・なら、まだ良いんだけどね・・・」



「ここが、ケイジだよ。エヴァの格納庫」

照明を映し、ゆらめく水面に掛かるブリッジの上を、ふたりは歩く。

「そして、これが初号機。多分、カヲルくんが乗ることになる機体だよ」

水中からそそり立つ巨大なヒト型の頭部は、無機な輝きに沈黙する。

「そうか。これが初号機・・・」

「大きいでしょ。でもカヲルくんなら、すぐに操れる様になると思うよ」

「そうだね。そして、目的を果たすことが出来るだろうな」

「・・・目的って?」

ふっと浮かべる笑みに、暗い影がよぎる。

「エヴァと、そのパイロットの無力化」

「・・・え?」

「そして、我が種族へと、栄光を導くこと」

「な・・・君が何を云ってるのか判らないよ、カヲルくん・・・」

向き直る紅い瞳に光る、残忍な炎。

「ごめんよ、シンジくん。老人たちでは、どうしても扉を開けることが出来なかったから・・・」

「・・・カ、カヲルくん・・・?」



暗闇に浮かぶ映像が、一瞬にして砂あらしにまみれる。

「な、どうして?」

コンソールのスイッチを叩くと、無数の映像が開く。
そのうちのひとつ。

「・・・ま、・・・まさか・・・」

ジオフロントの地表レベルに、今まさに現れた大きなヒト型。

「初号機!?・・・だ、誰が操縦しているの・・・?」

映像を拡大すると、その左手に握られている、小さなヒト型。

「え・・・ええ!?」

さらに拡大し、意識の無い表情を捉える。

「・・・シ・・・シンジ君!?」



エントリープラグには、銀髪の少年。
その笑みを照らす、外界の映像。

「さて、ネルフの皆さん。取り引きをしましょう」

ネルフ本部ピラミッドを背景に、差し出された巨大な左腕が視界に入る。

「当方が用意したのは、彼の命です。・・・そして、そちらに用意してもらいたいもの・・・」

目を閉じ、その胸の深いところから吐き出される、声。

「“ブルー・ウォーター”」



「ちっ、アンビリカル・ケーブルがロックされててパージ出来ない!」

「ミサト」

白衣をひらめかせ、女が歩み寄る。

「リツコ・・・“ブルー・ウォーター”って何?」

「え?・・・そ、それは・・・」

「知ってるのね?」

「・・・・」

突然響く、大音量。

『待ちなさーいっ!』

「え?」

沈黙から映像に向き直ると、もうひとつのヒト型が対峙する様に現れる。

「メオトゲリオン・・・アスカ!?」



『ちょっとあんた、シンジを離しなさいよ!』

地表に響き渡る声。
向かい合う巨人は、片方がじりじりとその間を詰める。

『あんたさっきの新顔ね。・・・何よ、何でこんなことするのよっ!』

『何、ちょっとしたゲームみたいなモノ、かな』

『ゲームぅ?・・・何だか判らないけど、そんなモノにシンジを巻き込まないでよっ!』

『彼は大事な要素なんだ。悪いけど、利用させてもらっているよ』

かなり狭まった間合いに、片方がゆっくりと肩からナイフを抜く。

『・・・それで切りかかったら最後、彼はバラバラになってしまうけど、それでも良いのかい?』

『く・・・』

『さあ、僕はこれからネルフと取り引きをするんだ。悪いけどそこをどいてくれないかな?』

『・・・・』

ナイフを構えた腕が、ぶらりと下がる。

『そうそう。早目にお引き取りを願うよ』

『・・・ふ・・・』

『?』

『ふふっ、・・・あはははははっ!』

『?・・・一体・・・』

大きくナイフを振りかざす。

『メオトゲリオンをナメんなっ!・・・フィールド全開っ!』



「アスカ!?」



一瞬で相手に擦れ違うと、ナイフの一閃が背後のケーブルを断ち切る。
爆発音と共に飛び散る、巨大な火花。



瞬時にレッド・ライトが灯るプラグ内。
活動停止へのカウントダウンが始まる。

「なるほど・・・そうか」



「駄目よアスカっ!・・・シンジ君がっ!」

「いえ、ミサト、見てごらんなさい」

「え?」

断たれたケーブルを背中にぶらさげたヒト型は、相手へと振り返らない。



「ふぐぐぐぐぐぐぅぅぅぅ〜〜〜〜っ!」

歯を食いしばり、相手を睨み付ける形相。

「シンジをぉ〜〜〜・・・離せえぇ〜〜〜・・・」



「リツコ、これって・・・“ATフィールド制御システム”!」

「そう。メオトゲリオンが初号機をコントロールしようとしてるわ」

「じゃあ、完全にコントロールを奪ってしまえば・・・」

「少なくとも、相手の活動限界まで持たせれば、勝ちよ」

「さすがはアスカ・・・」

「どっかの作戦部長さんよりは上手ね」

「な・・・」

「・・・でも・・・」

「・・・でも?」



制止するふたつの巨体。

『さすがはチルドレン、優秀だね』

『は、離しなさいよぉ・・・』

『でも、こちらの制御に精一杯で、君も一歩も動けないみたいだね』

『ち、ちくしょおおおお・・・』

『しかし、僕は・・・』

ゆっくりと、片方が相手へと振り返る。

『え・・・ええ!?』



「リツコ!」

「シンクロ率の異常な上昇・・・やはり人間ではない様ね。見なさい」

コンソールのディスプレイが点滅する。

「パターン青・・・し、使徒・・・!?」



『ど、どうして・・・』

『その機体は本来、ふたり乗りらしいね』

『く・・・・』

『つまり、ふたりの時に最高の力が出せる様、チューニングされている』

『くううううう・・・』

『そうしたものは大抵、ひとりでは通常以下の力しか出せないものだよ』

少年を握る手が突き出される。

『そろそろ、反撃してもいいですか?』

ぎしっと、かすかな音が聞こえると

「う、うわあああああああああっっっっ!!!!」

少年が悲鳴をあげる。

『シ、シンジっ!・・・ちくしょうおおおおおっっっっ!!!!』



「いけないっ!」

「どうしたのリツコ!?」

「メオトゲリオンのバイアス・レベルが“デュオ”に設定されたわっ!」

「え?」

「このままじゃ、フィードバックでパイロットの脳が焼けてしまうっ!」



空中に開くウィンドウに、叫ぶ女の映像。

『アスカ!・・・ダメよ!・・・そんなことしたら、あんた・・・』

「か、かまわないでよミサト・・・出力を上げるには、これしか・・・」

『あんた、死ぬわよっ!』

「良いのよ・・・」

『アスカ・・・』

「初めて会った時・・・あいつはあたしの為に死のうとした」

『・・・・』

「・・・初対面の・・・プライドだけ高くて、そのくせ嫉妬深くて、性格悪くて・・・そんなイヤな女を助けるために・・・あいつは自分の命を投げ出そうとしたのよ・・・」

苦悶の中にも、ふっと浮かぶ、微笑み。

「・・・だから・・・あたしはあいつの為に死ねる。・・・情けなくて、バカで、臆病で・・・そして、飛びきり優しくて、愛しい・・・あいつの為に・・・」

口の端からたらりと垂れる涎に、赤が混じる。



「初号機の活動限界まで、あと1分よミサト」

「アスカ・・・」



ぎしぎしと、巨体はゆっくりと身体を屈め始める。

『くううううぅぅぅ・・・さあ、シンジをそっと降ろすのよ・・・』

握っていた手が次第に開くと、手の平にぐったりとした少年が見える。

『そ・・・そうよ・・・ゆ・・・ゆっくり・・・と・・・』



「あと20秒」



片膝を付き、背中を丸め、片手を地面に向かって降ろし始める。

『・・・そう・・・そ・・・の・・・ちょう・・・し・・・』



「10秒」



手の甲が、地面に付こうとした、瞬間。

『フフ、・・・ゲーム・オーバーだね』

肩口から吹き出る火花と共に、その腕が大きく跳ね上がる。
空高くへと、投げ出される、少年。

『・・・しん・・・じ・・・っ』



「0・・・初号機活動限界!」

「シンジ君!・・・アスカ!」



巨体が、高く、跳ねる。



空中に舞う、少年へと手を伸ばす。



頭上で柔らかく受け止めると、そのまま両手で胸元へと迎え入れる。



丸めた背中から、着地する。



地響きと土煙が鎮まると、胎児の様にうずくまる、ヒト型。



その先に、身体中から黒煙を吹き上げ沈黙する、身を屈めるヒト型。



静けさの光景に、静止する巨大なふたつの異形が、影を落とす。






























































暗い部屋の床にをぼおっと映し出される、巨大な映像。
白衣のポケットに両手を入れたまま、女は足下を顎で指す。

「これが“ブルー・ウォーター”よ、ミサト」

きらきらと青く輝く、宝石の様な物体。
凝視する険しい顔。

「・・・で、これは何なの?」

「一辺1センチの正八面体特殊透明アクリルに封印された、青色透明の液体。ネルフ本部最深度地下施設“マスタバ”に保管されているわ」

「説明になってないわね」

しばらくの沈黙の後、溜め息がひとつ。

「・・・全ての地球上の生命の起源。・・・太古、地球に接近した彗星テュフォンから降り注いだ“ウルトラ・コロイド”。それがコレよ」

「そんなモノが・・・何故ここに!?」

「逆よ。ネルフ自体が、このブルー・ウォーターを守る為に設立されたの。使徒の手からね」

「何故使徒は、これを狙うの?」

「繁栄と栄光の証しだからよ。現人類と云う種族は、これを持っていたからこそ、この地球の王になれた。使徒は、王になったかも知れない別の選択肢、オリジナル・ヒューマンたちなの」

「じゃあ、これを奪われたら・・・」

「現人類は駆逐されるわ。王は交代する。・・・それを避けるのが、わたしたちの仕事」

「あの使徒チルドレンも、これを狙って・・・。でも、彼は間違いなく委員会から派遣されたはずよね。それが何故・・・」

「彼がプラグから跡形も無く消えてしまった今、確かめようが無いわね」

下からの光に浮かぶ、お互いの表情。
苦悶の痕跡、疲れ切った悲しみ。

「ミサト、・・・シンジ君は?」

絞り出す声が、かすかに、震える。

「・・・ひとりに、してくれって・・・」



白い部屋。白い壁。白い光。
天井に貼り付く蛍光灯に照らされた、白いベッド。
冷たい静寂に横たわる少女の、白い手術着。

「・・・・」

傍らに佇む少年からようやく吐き出される、白い息。

「今日さ、カレーにしようと思うんだ。しばらくやってなかったよね」

見下ろす白い肌、虚無の表情、閉じられた瞳。

「余ったら、明日はカレーうどんにするよ」

頬に落ちる、睫毛の影。

「それでも余ったら冷凍するから。続けると怒るよね」

ゆるく寝台を這う、紅い色の髪。

「それとも、まだポン酢が余ってるから冷しゃぶにする?」

そっと触れて、なぞる。

「肉を多めに買って、お弁当のおかずの生姜焼きにしてもいいし」

頬に、遡る。

「先に行って、買い物しておくよ。もちろん、お風呂も沸かしておく」

冷たい顔を、撫でる。

「待ってる。待ってるからさ。・・・待ってるのに・・・」

ぴたりと止まる手の甲に、ぱたぱたと、温かい滴が落ちる。

「・・・何で・・・何で、もう帰ってこないんだよ・・・アスカ・・・」



闇に、ぼおと浮かび上がる白いヒト影。
全裸の少年は、びっしょりと濡れそぼり、不敵な笑みを浮かべる。

「まさか、音声認識キーとはね。・・・さすがはネルフ司令だな」

銀色の髪から液体を滴らせながら、すうっ、と息を吸う。

「オマンコっ!」

反響する声に応える、地鳴り。

「・・・遂に、来た。・・・フフ、フフフッ・・・」

振動と共に暗闇が裂け、漏れでる光にゆっくりと開き始める。



白く冷たい部屋に、けたたましい警報が鳴り響く。

『・・・本部最深度地下施設に使徒が現れた模様!・・・第一種要員は各自戦闘配置に着け!・・・他人員はシェルターへと直ちに非難せよ!・・・これは訓練ではない!・・・繰り返す・・・』

「・・・了解、ミサトさん・・・」

ベッドの上の冷たい少女を、抱きかかえる。

「・・・行くよ、アスカ」



慌ただしい司令塔に立ち、白衣の女は溜め息をつく。

「“ヘブンズ・ドア”が開かれた・・・そう、そう云うこと・・・」

「何よリツコ・・・どう云うこと?」

「自らLCLに融合し、排水させ、システムに侵入。隔壁の向こう側へとアクセスし、キーを入手する。・・・考えたわね」

「じゃああの、初号機の乗っ取りは!?」

「ブラフね。マスタバの扉を開き、ブルー・ウォーターを入手する為の・・・」



降り射す一筋の光に浮かぶ、白い裸体。

「ブルー・ウォーター・・・」

摘んだキラキラと輝く粒を頭上にかざし、青を透かす。

「・・・さあ、我が種族に、栄光を・・・!」

指から離れた輝きが、まっすぐと口中へ落ちていく。



凶暴な揺れに、発令所ごと悲鳴は震える。
夜を映すスクリーンに蠢く、非現実な不定形の白い影。

「本部前人工湖に、巨大な物体が出現!・・・パターン青、使徒です!」

「マスタバに現れた使徒と同一ね、マヤ?」

「はいセンパイ!・・・地下から巨大化した模様です!」

「ブルー・ウォーターと融合したのね・・・マズイわ・・・」

「リツコ・・・これって・・・」

「・・・15年前と同じ・・・“光の巨人”よ」

「光の・・・巨人!?」

水のしぶきを引きずりながら、ゆらゆらと陸に上がる。

「・・・え!?」

「どうしたのマヤ!?」

「メ、メオトゲリオンが・・・発進します!」

「なんですって!?」

「・・・シンジ君!?」



「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」

佇む異形に向い、構えたレール・ガンの引き金を引き絞る。

「死ねっ!・・・死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!」

プラグから見渡す視界の向こう側に、弾幕による夥しい煙。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえぇっ!」

弾が尽き、からからと鳴る武器を放り捨てる。
ハンドガンを構えると、なおも撃ち放つ。

「くそっ、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!」

それも尽きると、投げ捨てた手でソニック・グレイブを拾い上げる。
煙の奥にぼんやりと浮かぶ白い影を見定めると、握る槍を上段に構え

「死ねええええええっ!」

飛び上がりながら高周波振動刃を振り降ろす。
ぐにゃりとした手応え。

「はあ、はあ、はあ・・・」

『ムダだよ、シンジくん』

「!」



煙が晴れると、中程まで切り裂かれた、ぶよぶよとした塊。
暗く開いた一組の目らしきモノの他、ヒトとは見えぬ不定形なそれ。

『もう遅いんだよ。僕はブルー・ウォーターと融合したんだ』

どこからか発せられる、男とも女ともつかぬ声。
夜に立つふたつの巨大な影は、微動だにしない。

『このまま成熟し、分裂し、無数に増殖して、・・・そして、この世界を七日間で焼き尽くす』

開いた傷口は、やがて塞がる。

『やがて、僕たちの細胞から産まれた新しい人類が、新しい地球の王となるのさ。我々の種族に栄光が訪れるんだ』

ゆっくりと刃が抜かれると、その傷も消える。

『・・・・』

『どうしたんだい、君たちも歩んだ道だろう?・・・前文明を焼き尽くし、地球の王となった、現人類が・・・』

『関係ない・・・』

『え?』

『関係ないっ!』

地を蹴って飛び付くと、首を思しき部位に掴み掛かる。
そのまま、重なって倒れ込む。

『お前は、アスカを殺した・・・だから死ね・・・苦しんで死ねっ!』

ずぶずぶと、大した抵抗無く指が食い込む。

『フフ、・・・本当はね、君も殺すつもりだったんだ。バラバラにしてね。・・・でも、腕一本折ることが出来なかったよ。彼女の激しい抵抗に遭ったから』

掴んだ首の両脇、肩らしき部位から、にゅっと突起が生え始める。

『畜生・・・』

『その代わり、彼女はかなり苦しんで死んだみたいだね。・・・生きたまま脳を焼かれると云うのは、どんなカンジなのかな?・・・フフフフ・・・』

不定形な造形がヒト型に伸びると、徐々に輝き始める。

『畜生・・・畜生畜生畜生っ!』

『今の、この、無力な君を救うタメに、カノジョはジゴクのクルしみのナカ、シんでいったんだ・・・ホントに・・・アイとは・・・ザンコク・・・ナ・・・モノ・・・ダネ・・・ハハ・・・ハハハハッ・・・』

感情の消え失せた、無機質な笑い声を遮って

『当たり前だっ!』



発令所に響く音声。

『“夫婦”って何なんだ?・・・単なる恋愛の延長?・・・セックスの免罪符?・・・子供を産む為の単位?』

「・・・ミサト、現在用意出来るN2爆雷の数は?」

「・・・保安上、起爆可能なのは3発よ」

『違うんだ。・・・自分を補完する手段なんだ。どうしようもなく不完全で、出来損ないで、イビツな個人を、より完全な形へと導く、最も簡単で手っ取り早い方法なんだ』

「・・・足りないわ」

「どうして?」

「こうなったら一か八か・・・成熟前に、完全焼却するしか無い」

『ふたりでひとりなんだ。自分がもうひとり増えると云うことなんだ。だから、自分が殺されそうになれば、それを救う。・・・当然なんだ。アスカは僕で、僕はアスカなんだから・・・』

「成熟後に、焼き払おうとすれば?」

「15年前がそうだった。・・・だから、あの災厄が起こったの」

『だから、僕は君を殺す。君は、僕を殺したから。アスカを殺したから』

「それって・・・じゃあ、サードインパクトが!?」

『・・・と云うワケで、ミサトさん、リツコさん、了解しました』

「「はあ?」」

コンソールを見つめていた驚愕が振り返り

「メオトゲリオンのライブラリ・ホイールから、自律自爆コマンドがロードされましたっ!」

「「なんですって!」」

「自己焼却ボルト、アクティブ!」



『シンジ君、自爆する気!?』

「ミサトさん、・・・それしか方法が無いんですよね?」

プラグの中、空中のディスプレイに返す、力の無い微笑み。
ホイールの振動は低い唸り声を上げてインテリアを揺らす。

「タイムリミットはもうすぐなんでしょ?・・・なら、今しか無い」

『シンジ君・・・』

「いいんですミサトさん。これは単なる復讐です。僕のエゴなんです。・・・人類とか、地球とか、関係無いんだ」

そっと、後ろを振り返る。
シートに力無く横たわる、少女。

「そうだミサトさん、証人になって下さい」

『え?』

立ち上がると、後席に歩み寄る。

「ごめんねアスカ。ベールは無いけどさ・・・」

優しく肩を抱き寄せる。
頭ががくりと、胸に入る。

「あの時のこと、覚えてる?・・・僕は覚えてるよ。全部」

微笑みながら、愛しげに髪を撫でる。

「“わたし、碇シンジは、惣流・アスカ・ラングレーを、妻とすることを誓います”」

頬を撫でる。

「・・・例え肉体が失われようと、永遠に、永遠に、・・・」

『シンジ・・・く・・ん・・・っ』

スピーカーから漏れ出る、嗚咽。

「行こうアスカ。・・・慎ましやかで、平凡で、幸せな世界に・・・」

もの云わぬ唇に、そっと、くちづける。


















































『・・・まあ、それで“THE END”でも良いのだがな』

低い声が響く。

「え?」

『シンジ』

「・・・と、父さん!?」

『久しぶりだな』

「な・・・何?」

『お前に、云いたいことが有る』

「云いたいこと?」

すぅーっと、息を吸い込む音が聞こえる。

「?」

『・・・・』

「・・・?」

『・・・・』

「・・・・」

『オマンコっ!』

「!」

途端に視界が暗転し、全てが静止する。



「メオトゲリオン、自爆装置もろとも活動停止しました!」

「そんな・・・リツコ!?」

「・・・MEOTOSに音声認識の強制終了コマンドを仕込んであったとはね・・・それも、とびっきりの小学生ワードで・・・」



夜の闇に光り輝く巨人に伸し掛かる、静止したヒト型。
その肩口に現れ、光を照り返すヒト影。

「久しぶりね」

虚無の眼が、その少女を認める。

『オマエ・・・ハ・・・』

青い髪と制服のスカートを風になびかせながら、見下ろす紅い瞳。

『ワタシ・・・ト・・・オナジ・・・』

「あなたは負け犬。一緒にしないで」

険しい視線。

『ダガ・・・モウスグ・・・ワレワレノ・・・セカイガ・・・』

「始まらない。永遠に始まらないわ。神の祝福が無いもの」

『シュクフク・・・?』

「そう、祝福」

スカートの中に両手を入れると、するするとショーツを脱ぎ下ろす。
両脚から外すと、投げ捨てる。

「見なさい」

スカートを両手で捲り上げ、剥き出しの下半身を晒す。
白い下腹と、うっすらと繁る陰り。

「んっ」

それらがひくりと震えると、その下から、粘液が垂れ落ちる。
太股を伝う、紅い色。

「わたしはもう分裂する必要が無い。生殖することが出来るから」

『・・・アリ・・・エ・・・ナイ・・・』

「神は奇跡を以て、わたしたちを祝福したの」

『・・・ソン・・・ナ・・・』

「あなたは既に見捨てられていたのよ。永遠の負け犬なの」

『・・・バカ・・・ナ・・・』

すぅーっと、息を吸い込む。

「・・・・」

『・・・・』

「・・・・」

『・・・・』

「この童貞

『ウ・・・ウギャアアァアアアアァアアアァアッ・・・・』

身体から輝きが失せると、その表面が、がさがさと崩れ始める。
みるみると白い塵になり、その形を留めず、ばさりと地に撒ける。

「そう。塩に、なったのね」



いまだ流れ出る涙をぬぐいながら

「ど・・・どゆことリツコ?」

「さあ?・・・兎角この世は謎だらけね・・・」

「解説キャラを放棄しないでよ・・・」



一面に広がる大量の塩の中に、少女は佇む。
じっと見つめる足下から、両の手の平に掬い上げる。

「有ったわ」

胸元に盛る白い山に、内からの青い光が透ける。



エントリー・プラグの暗闇が、突然の振動と共に、淡い光で照らされる。

「・・・非常電源が起動した・・・?」

少年は深呼吸をひとつすると、胸に抱く物云わぬ少女を見つめる。
金属の壁を見回す。

「一体・・・どうなったんだ?・・・父さんは何故・・・」

コントロールパネルに手を伸ばすと、通信装置のスイッチを入れる。

「だ、誰か・・・」

『シンジか』

「と、父さん?」

『シンジ。ピトー管からの緊急用ダクトを開け。外気を注入しろ』

「別に、LCL浄化装置はアクティブだし、呼吸は・・・」

『早くしろ』

「・・・う、うん。判ったよ」

パネルを操作すると、しゅっと云う音と共に、僅かに視界が揺らぐ。

『見えるか、シンジ』

「え?・・・あ・・・」

目の前に、輝く青い光。
小さな光の粒が、ゆらゆらと漂いながら、落ちて来る。

「こ・・・これは・・・」

『“ブルー・ウォーター”だ』

「ブルー・・・ウォーター・・・」

『全ての生命の源。ネルフが守ってきた“人類のフェイルセーフ”。その最後の滴』

「ネルフは、・・・これを?」

『“オリジナル・ヒューマン”と“ブルー・ウォーター”さえ有れば、現人類は例え滅ぼうとも蘇ることが出来る。その為のネルフだったのだ』

「・・・・」

『だが今や、現人類を見捨て、自らが神にならんとした老人たちの、その野望の滴となった』

「・・・それが、この・・・」

浮かぶ液体の玉を、両手で覆ってみる。
指の間から漏れだす、青い光。

「これの為に・・・アスカが・・・」

『シンジ。それを、お前の為に使え』

「・・・え?」

『お前の愛した者に与えろ。お前の愛を蘇らせろ』

「え!?・・・もしかして、これで、アスカが!?」

『神の祝福が有ればな』

喜色の中に浮かぶ、逡巡。

「でも・・・人類にとって大事なモノだって・・・」

『老人たちの思惑が明らかになった以上、もはやそれは人類にとって危険なモノでしかない。ならば人類はそれを失うべきなのだ』

「・・・僕たちが、命懸けで守ってきたものを・・・失う・・・」

『・・・・』

「・・・・」

『・・・・』

「・・・・」

はあ、と溜め息が聞こえる。

『・・・いーじゃんっ!

「え?」

『俺はオリジナル・ヒューマン貰っとくからさぁ、お前はそれ貰っとけばいーじゃんっ!・・・じゃあなっ!

ぷつん、と通信が途切れる。

「・・・・」

ぽかんとした表情に、やがて決意が広がって行く。



「任務、完了」

天井都市の灯を見上げながら、携帯電話にコトバを注ぐ。

『よくやったな、レイ』

「これより直ちに帰還・・・したいのに」

『何だ?・・・どうした?』

きょろきょろと辺り一面の塩を見回す。

「パンツが、見つからないの」



青い光を両手からそっと口に含む。
胸に抱く少女の両頬を押して、口を開かせる。
輝く滴を舌に載せ、差し込むと
それは舌の上をころりと転がって、注がれる。

「・・・アスカ・・・」

暗い口蓋の中でぼうっと輝く光。
咽喉を反らせると、やがてその奥に、にゅるりと落ち込む。

「“神の祝福”・・・」

暗がりに照らされる表情を見つめる。

「・・・“奇跡”のことだよね、父さん」

冷たい手を握る。

「奇跡は、起こるさ」

微笑む。

「・・・だって、僕はアスカに出逢えたんだから・・・」




















































木目に沿って広がる天井の染み。
タイル張りの壁を煙らせる湯気に、擦りガラス越しの午後の光が漂う。
桧の風呂桶にちょこんと浸かる、青い髪の少女。
突き出る白い肩を、ほのかにピンクに染める。

「湯加減はどうだ、レイ」

壁の向こうからの声に、無表情は

「少し、ぬるいわ。司令」

外光に影がよぎると、木枠の窓が、きゅっと軋みながら開く。
小さな穴からぬっと突き出る、タオル鉢巻きのヒゲ面。

「その呼び方は、もう辞めてくれ」

少女は、水面で両手を握り合わせると、隙間をきゅっと絞る。
ぴゅうと飛んだ湯の塊が、正確に男の顔を濡らす。

「命中」

「・・・・」

「その代わり、“レイ”と云う呼び方も辞めると約束したわ。先に違反したのは、そっち」

お互いを見つめあう。

「・・・悪かった」

「別にいいの。早く一緒に入りましょう」

「ああ。ではもう一、二本くべてから行こう」

「判ったわ」

「・・・・」

「どうしたの?」

「いや・・・」

湯の滴る思案顔が消えると、窓はきゅっと閉まる。



がらんとした部屋に、積み重なるダンボール箱と、イスに座る白衣の女。
ヒザの上の書類の束から一枚読んでは、脇の小型シュレッダーに掛ける。

「あれ、リツコ」

廊下から、開け放たれたドア越しに、赤いジャージ姿の女が覗き込む。
眼鏡の縁の上から、ちらりと見る。

「ミサト?」

「何、まだ残務整理?」

視線を戻すと

「イタズラ書きの処分」

きゅっきゅとスニーカーが部屋に入ると、覗き込もうとする。
ばさりと束は、そのままシュレッダーのスリットへと消える。

「隠滅完了」

「どーせ猫の絵かなんかでしょ」

「まあ、そんなところね。決して決して同僚の悪口なんかじゃないわよ」

「あ、そ」

壁際のコーヒーサーバーに近付く。
脇に置かれた瓶を取りながら

「しっかし、あれからピッタリ一年で解体完了とは、さすがの急ピッチよね〜」

「そりゃあ、これだけの力を持った組織を遊ばしておいたら危険だわ。速やかに解体となるのも当然よ。危機管理として」

「明日にゃ遂に、エヴァごと移管かあ。・・・何だか、住み慣れた家を追い出される気分」

瓶から、紙コップに褐色の粉を振り入れる。
ポットの残り少ない湯を注ぐ。

「そう云えばミサト、あの子たち来てるみたいよ」

「え?」

紙コップが口元で止まる。

「さっき発令所のマヤから連絡があったわ。お別れを云いに来たそうよ」

「そんな、お別れって。もう会えなくなるワケじゃなし」

「ふふ、違うわよ」

微笑む顔から、眼鏡を外す。

「メオトゲリオンに、よ」



狭い空間に聞こえる、音。
制服どうしの、衣擦れの音。
すすり込む水音に混じる、肉と肉の立てる擦過音。

「ん・・・ん、ん・・・」

エントリー・プラグはLCLも無く、金属の肌を見せる。
インテリアに座る少年に、少女は馬乗りで覆い被さる。

「んんっ・・・んちゅっ・・・」

口と口の間から、ずるずると絡み合う舌がはみ出す。

「ん・・・んんっ、ふはあ、・・・シンジ・・・」

ようやく解放される唇。

「アスカ・・・」

解放した唇は、柔らかい笑みを浮かべる。

「・・・あの時と、おんなじね」

「・・・どの時?」

「初めての時に決まってるでしょ、バカシンジ」

くるりと険しくなる表情の頬を、下から伸びた手が撫でる。

「でも、ココではたくさんしたからなあ・・・覚えてないよ・・・」

「はあ?・・・何ニヤニヤしながらサイテーなこと云ってんのよ!」

払い退ける。

「女にとって、“初めて”ってのは人生の三大イベントなんだからね」

「・・・そうなの?」

腕組みをしながら、顔を逸らす。

「はん、どーせあんたはあたしに出会わなきゃ、ミサトにでも筆下ろししてもらうつもりだったんでしょ」

微笑みは絶えずに

「僕は、恋人と出来て良かったと思ってるよ」

「恋人?」

悪戯っぽい笑みが向く。

「じゃああんたは、会ってたった何時間かで、あたしに恋したっての?」

「ま、まあ。・・・状況が状況だったかも知れないけど・・・」

「“危機的状況下にある男女は恋に落ちやすい”・・・ってヤツ?」

「うーん・・・でも、あんなことでも無ければ、アスカは永遠に僕のことなんか見向きもしなかったんじゃないか、とも思う」

「・・・・」

「だから、僕はあのことに感謝してるし、・・・永遠に忘れることなんて出来ないよ」

「シンジ・・・んっ」

「!?」

満面の笑みで、唇を重ねる。

「ふう・・・あんた、あたしをからかったわね・・・」

「・・・あ、いやその、・・・ごめん」

「これはお仕置き決定ね・・・よい、しょ」

「?・・・あ、ちょっと、アスカ・・・」

制服のズボンに手を伸ばすと、ゆっくりとチャックを開ける。

「・・・やっぱり・・・大きくしてる・・・」

「だ、だって、アスカがあんなキス・・・」

「ヒトをスキモノみたいに云わないでよ」

固くなりかけた器官を中指と人差し指で挟むと、しごき上げる。

「ひうっ」

びくびくと肉はみるみる反り返り、腫れた先端に潤いを滲ませる。

「スキモノはあんたよ。全然準備おっけーじゃないの」

「それは、・・・この頃、してないし・・・」

「まあ、忙しかったしねえ・・・にしても・・・」

ぷくりと湧き出た透明の滴を、人さし指ですいっと拭う。

「あはぁ」

ぺろりと舐める。

「ふむう・・・こりゃ、カウパーだけでニンシン出来そうね」

「え?」

「よいしょっと」

そそり立つモノへと腰を向かわせると、制服のスカートに手を入れる。

「ちょ、ちょっと、アスカ、・・・ホントにするの!?」

「あったりまえじゃない、最後なんだから!」

「・・・でも、しばらくナマはガマンするんじゃ・・・」

「するったらするの!・・・んんっ!」

「あぐぅ」

少年の胸に手を付いて、腰は長いストロークで上下に振り動く。

「や、やっぱりイイっ・・・ひ、久しぶりだから、あたし・・・」

「アスカっ」

スカートから覗く両腿を掴むと、相手に合わせて下から突き上げる。

「はん、はん、・・・はああっ、シンジ!」

「アスカっ、・・・お、おっぱい見せてっ」

弾む身体に下から両手が伸びると、するすると襟のリボンを解く。
ブラウスのボタンをもどかしげに外すと、胸元を大きく広げる。
ブラジャーのフロント・ホックを解放する。

「や、やっぱり、大きいね・・・」

胸元からこぼれ出た、はち切れんばかりの白い肉。

「今だったら、パ、パイズリ、出来るかも・・・」

「く・・・な、何の為のおっぱいだと思ってるのよぉ・・・」

「し、知ってるよ」

ゆっくりと、両方を両手で根元から揉みしだく。

「ちょっと、そ、そんなにしたら・・・」

きゅうと、縦に絞る。

「あ、・・・ああっ!」

先端から、幾筋かの液が迸る。
飛行する滴を、口で受け止める。

「あ・・・ん、んく・・・」

「シンジ、あんた・・・へ、ヘンタイっ」

「んっ・・・直接、飲ませて」

繋がったまま半身を起こすと、相手を反らせる。
大きな肉の片方に、かぶりつく。

「ああ、いやああっ」

「んく、ん・・・ちゅ、ちゅううっ」

「ダメよシンジ、あ、あんたんじゃないんだからああっ!」

「ん、こくっ・・・こくっ・・・」

飲む度に、咽喉が震える。

「ん、おいしいよアスカ。・・・アスカにも、飲ませてあげる」

反対側の乳房に食らいつく。

「ああっ」

「・・・ん、んちゅうぅ・・・」

乳首から離れた口が、そのまま相手の唇を塞ぐ。

「ん、んんっ!?」

「ん、くち、じゅる・・・」

唾液を絡められた生暖かい液が、舌で送り込まれる。

「ん、ん・・・こくっ・・・」

「んちゅ、・・・ねえアスカ、どう?」

抱えた身体に、下から強く突き込む。

「ああっ、いやあっ、・・・シ、シンジぃ!」

「お母さんの味がしたよっ、ねえっ、アスカはどうだったっ」

だらしなく開いた口から、送り込まれた液が滴り落ちる。

「そんなしたら・・・イく・・・イっちゃう・・・あっ!」

抱き締められた身体が、痙攣する。

「今度は僕が出すよ・・・あ、アス・・・カっ!」

抱き締め合うお互いが、痙攣する。

「はあ、はあ、・・・シンジ・・・」

「アスカ・・・」

頬を寄せ、まさぐる手が、少女の肩までの髪を撫でる。

「はぁ、はぁ、・・・シンジ・・・ごめんね・・・」

「・・・え?」

「シンジの好きな髪・・・切っちゃって・・・」

「ヘッドセットを外す時に、ふたりで決めたことじゃない」

「あたしは後悔してないけど・・・シンジが・・・」

「僕が好きなのは、ただの髪の毛じゃないよ」

顔を離すと、見つめあう。

「“アスカの”髪の毛だ。・・・愛しいひとの、分身なんだよ」

「・・・・」

微笑み掛けても、きょとんとした顔。

「・・・あれ?」

「・・・シンジ」

「・・・・」

「・・・やっぱり、ヘンタイっぽい」

「あ、いや、・・・まあその、ごめ・・・」

突然、空中に女の形相が浮かぶ。

『くおおおおおらあああああああっ!』



「あんたたち、何ヤってんのよっ!」

発令所の暗黒を前に浮かぶ、巨大スクリーン。
上気した顔を向けるふたりに向かって

「お別れを云いに来たとは、しらじらしいわね」

『あ、ミサトさん、どうも』

「どうもじゃないでしょシンちゃんっ!」

「あ、あの・・・あまり大きな声を出すと・・・」

コンソール前に座るGパンにTシャツの女は、抱き抱えた白い布に目をやり

「・・・ハルカちゃん、起きちゃいますから」

包まって眠る小さな顔に、微笑み掛ける。

「うふ、・・・かっわいい〜・・・」

後ろに立つ白衣の女は溜め息をつきながら

「母性本能が覚醒したかしら、マヤ・・・」

画面には、勝ち気な瞳を輝かせる少女。

『ハルカは、ところ構わずびゃーびゃー泣くようなそこらへんのバカガキとはデキが違うわよ』

「あらもう親バカ?」

『あら〜?・・・今、リツコの声に似た負け犬の遠吠えが聞こえたけれど〜?・・・気のせいかしら〜?』

「ふう、・・・云うじゃないの中学生経産婦

「とにかくっ!・・・ふたりともすぐに降りてらっしゃいっ!」

現れる少年。

『すいませんミサトさん、すぐに降りま・・・ち、ちょっと、アスカ』

押し退けられると

『ハルカちゃん、ココはね・・・』

目を閉じる。

『パパとママが、初めてヤった場所なの・・・』

うっとりとした顔。

「んもぉ〜アっタマ来たっ!・・・プラグをイジェクトしてやるっ!」

コンソールに飛びつく女を溜め息混じりに見ながら

「ちょっとミサト、落ち着い・・・」

画面の少女は、ニヤついた顔で目を開くと

『オマンコっ!』

突如、画面は暗転する。

「・・・強制終了ね」

ふう、と、何回目かの白衣の溜め息を見ずに、息荒く

「あんのバカップル、今度はあそこで年子を作るつもりね・・・」

----------

ふたり分の身体を沈めると、湯は盛大にこぼれ落ちる。
後ろから抱きかかえる男は、少女の首筋に鼻の頭を当てて、擦る。

「後悔、しているのね」

「何がだ」

「あなたがネルフから逃げたのは、使徒を失わない為でもあったのに」

「・・・・」

「でも、あなたは殲滅してしまった。何故?」

「・・・・」

「“使徒”って、一体、何だったの?」

ぎゅっと、抱き締める腕に力を込める。

「・・・“方便”だ」

「方便?」

「過激なセックス、過剰なヒロイズム、過分な全能感。・・・その為の触媒だよ」

「・・・・」

「判るだろう。使徒とは、それらセックスやヒロイズムや全能感の単なる“方便”なのだ。・・・童貞の妄想たる、幼稚なこの世界のな」

「“彼”の?」

「・・・・」

ヒゲが、柔らかい頬に触れる。

「使徒を失った今、この世界は存在意義を失った。ネルフの様に」

「なら、何故」

「“ハッピーエンド”も良いじゃないか。そんな終わりもな・・・」

窓からの光、揺れる木の影。
啼き切れる蝉の静寂。

「・・・この世界には、それが相応しい。そう思ったのだ」

「そう。あなたがそう思ったのなら、それが正しいのね」

白い両肩を、撫でる。

「さあ、始めよう。・・・ハッピー・エンドを」

振り向いた無表情に、微かに浮かぶ笑み。

「ええ」

少女は男を残し湯船を出ると、洗い場のスノコに、桶を逆さに座る。
使い古したヘチマに石鹸を泡立て、そっと身体を擦る。

「名前は、考えた?」

「ああ」

湯船に浸かりながら、白い裸身に目をやる。
細い胴から異様に膨れ出た腹に、痛々しく透ける血管。

「男だったら秀明、女だったら・・・」

ギロっと、紅い視線が刺さる。

「いや、・・・な、波愛にしよう、ママ」

「読めないわ、パパ」



















































<THE END>




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