「・・・アスカ?」

ごうごうと風は悪魔の降臨を祝福する。
黒い嵐のその中心。
光る眼に狂気をはらんで。
少年の絶望を叫んで。

「うっ・・うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!」

弐号機の臓腑を喰らう
量産機の飛行を仰ぎ
初号機は地底より
その魂を覚醒する。





















第26話








:DEATH




















LCLのたゆたうターミナルドグマ。
映る影に低く声が揺れる。

「アダムは既に私と共にある。ユイと再び逢うには、これしかない。アダムとリリス、禁じられた融合だけが」

ゲンドウは全裸のレイに手を伸ばす。
その乳房を掴む。

「お前の中に眠るユイの魂を、わたしの中へと送り込むのだ。さあ!」

しかめた顔を震わせ、レイは声を押し殺す。

「どうしたレイ、わたしを犯せ!全て吐き出すのだ!」

「クッ・・・・・・」

「お前はわたしが憎いはずだ!さあ、わたしの魂を踏みにじれ!」

「・・・イヤッ」

「何!?・・・」

ゲンドウの驚愕と共に手は下ろされ、
赤い瞳は静かに開かれる。

「何故・・・何故だレイ・・・」

「だって・・・」

真直ぐに見つめる。

「・・・碇君の方がうまい・・・」

「な・・・なにい!?」

「ははははははははははっ!」

巨大な空間に響く甲高い笑い声。

「そこまでですな司令!」

「だ・・・誰だ!」

リリスの頭の上から人影が覗く。
足元が不安定な為か少しふらふらと

「どうもお久しぶりです」

「・・・遠すぎて判らんな・・・」

一応コケを入れようとするが不安定さにそれもおぼつかない。

「し、しかし・・・その声は!」

満足げにうなづく影。

「バ○ーカ山寺!」

やはりコケは入れられない。

「確かに声はそうだが、違います」

「・・・広川○一郎か?」

コケることは断念している。

「フッ・・・両方ともちょっと声の良い落語家・・・お見事です司令」

こころもち両手を広げ、膝を震わせバランスを保つ。
ゲンドウはニヤリと

「すでに補完計画は発動している。今さら引き返せはしない。もはやわれらの願いを妨げるものは何も・・・聞いてるか?

男は足元から一瞬視線を上げ、

「え、あ、はい、聞いてますよ」

「・・・何も無いのだ。欠けた心の補完。・・・不要な体を捨て、全ての魂を今ひとつに!」

「はくしょん!」

レイがずずと鼻をすする。

「司令、寒い」

「わたしは肉体を捨てた・・・アダムへとサルベージされたわたしの魂は永遠の存在なのだ・・・そしてレイ、お前にサルベージされたユイの魂は、わたしと一体化することで永遠になれるのだ・・・」

「司令、長い」

「説明ゼリフご苦労様です。しかしあっ・・・いやっとっああれええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!

ずるりとすべった革靴を遠く放り出し、リリスの頭でしたたかに尾てい骨を打つと、男はそのまま真っ逆さまにLCLへとダイヴした。
黄色く輝く水柱が盛大にそびえる。

「最後の邪魔者は消えた・・・さあ、レイ。続きをしよう」

「・・・ダメ」

「レイ!」

「わたしはあなたの人形じゃない。わたしはあなたじゃないもの」

「・・・レイ・・・」

レイの無表情に不気味な笑みが浮かぶ。

「まだ判らないの?・・・わたしは不完全なわたしでしかないのに」

「ユイ?」

「女としてのわたしも、母親としてのわたしも初号機の中に居るわ・・・あなたの目の前に居るのは科学者としての理性でしかないわたし・・・綾波レイと云う魂で補完された不完全な碇ユイでしかないのよ」

「・・・云うな・・・」

「そのレイでさえあなたを愛していないわ・・・からっぽのリリスの分身に生まれた魂さえ、もうあなたを愛さない・・・」

「云うなっ」

「そして、わたしの母性も女性もサルベージを拒否した・・・あなたを選ばなかった・・・判っていたはずよ」

「止めろ・・・止めてくれ・・・」

「だからあなたは傷心の旅に出た」

「何故だ・・・何故わたしは愛されないのだ!」

「だって・・・」

レイの笑みは凶悪さを増す。

「かわいくないんだもんっ!」

「うわああああああん!!」

ゲンドウの両の目から涙がぼろぼろと流れた。
その肩にぽんっと手が置かれる。
髪の毛からLCLを滴らせ、加持のずぶぬれの体は荒い呼吸をしている。

「はあはあはあ・・・司令、けほっけほっ、全ての人類が亡びた後、奥さんと永遠に生きるなぞ、空しいだけです・・・ごほっ、それより、人類を救うことの方が先決です」

ざばっ。
ざばざばざばざば。
突然LCLの水面に波紋が広がる。
遠くで水しぶきが上がる。
見るとクロールで泳ぐ人影。

「1・・・2・・・3・・・プハッ!

女は正確な息継ぎでなめらかに泳いで来る。
あっと云う間に岸に辿り着くと息を整え、涼しい顔で歩み寄る。
あっけにとられるゲンドウと加持をしり目に、レイの無表情は

「オカエリナサイ」

「・・・ただいま」

白衣を脱ぎ捨て、防弾チョッキを外す。
涙を拭うゲンドウの驚愕。

「赤木リツコ君、本当に・・・本物?」

「本物です!」

脱いだ白衣を絞ると、じゃあじゃあとLCLが滴る。

「ゼーレに補完させ放題させといて自分は助かろうなんて、エゴイストなヒトねまったく・・・呆れるわ」

「ぐすっ、だって・・・だってえ・・・」

「ほら、泣かないの!」

リツコはポケットからびしゃびしゃのハンカチを出すと、ゲンドウの鼻にあてる。
ぶうんとはなをかむ。
思い出したようにレイは鼻をすすり

「気持ちいいの?」

「リッちゃんも自分を殺そうとした男に・・・大人だねえ」

リツコの目がきらりと光る。

「あら・・・見てたワケ?

ぎく。

「あ・・・いや、その、ちょうど通りかかってさあはははははは」

レイがしわくちゃの白衣を羽織る。

「き・・・気が付いたらリリスの上にね、こう・・・」

「わたしがブザマに撃たれるところを見物してたワケね」

「見物なんてそんな」

「赤木博士」

「嫉妬に駆られた女の狂態、さぞかし面白かったでしょうね」

「そ・・・そういうリッちゃんも結局命が惜しかったんじゃないか」

「赤木博士」

「わたしひとりで死ぬのがイヤだっただけよ!」

「赤木博士・・・全会一致です」

「・・・へ?」

レイの手のモバイルMAGIがカウントダウンに入る。

「母さん!?・・・母さんは自分の娘よりウケを狙うの!?」

リツコの背中から加持の腕がまわる。

「・・・葛城の胸の中も良いが、リッちゃんもなかなか捨てがた・・・」

ばしっ。
閉じた眼に眉間を震わせて脱いだ靴を加持の頭に叩き込む。

「ひ・・・ヒールか・・・」

ばたっ。
カウントはゼロを指す。



「・・・アスカ・・・」

シンジは大空に舞う怪鳥を見つめる。

「・・・ミサトさんも死んだんだ・・・アスカも死んだんだ・・・」

『勝手に殺すなこのバカッ!』

「え?」

目の前に通信ウィンドウが開く。
SOUND ONLYの文字。

『このあたしが喰い殺されてたまるかって〜のっ!』

「・・・アスカ!?・・・生きてたんだねっ!アスカッ!」

『なあにが「生きてたんだね!」よっ!あたしを見殺しにしといていけしゃあしゃあと』

シンジの顔に影が差す。

「ゴ・・・ゴメン・・・そうだね・・・僕にアスカを助ける資格なんか・・・」

『な、何でそうなるのよ!早く助けなさいよ!』

「・・・どこに居るの?」

『クソいまいましいハゲタカに咥えられてるに決まってるじゃないっ!』

目を凝らすと、一機がエントリープラグを口にしている。

「居た!見つけた!・・・待っててアスカ!今助けるよ!」

『・・・一応聞いとくけど、アンタ空飛べるの?』

「愛は勝つっ!」

初号機はプログナイフを手にすると、刃を持ちくるくると狙いを定める。

「・・・目標をセンターに入れてスイッチ・・・目標をセンターに入れてスイッチ・・・」

初号機の目がキラリと光る。

「今だっ!」

びゅっと音を立ててナイフは一直線に飛ぶ。
見事機体に命中。

『カァ〜〜〜』

力無く一声鳴くと、ぽろりとプラグが滑り落ちる。

「やった!」

と思ったのも束の間、別の機体がさっと咥える。

『んんっ!もうっ!何やってんのよっ!やっぱりバカシンジなんてあてに出来ないわねっ!』

「ゴ・・・ゴメン・・・やっぱり僕にはアスカを救う資格なんて・・・」

『だから何でそうなるんだってばっ!辛気臭くなってないで早く助けなさいよっ!』

「・・・うん・・・でも・・・」

『何よ?もう万策尽きちゃったワケ?』

「いや、手は有るには有るんだけど・・・」

『・・・有るけど何よ?』

「・・・恥ずかしい・・・」

『なにぃ!?なんですってぇ〜っ!?』

「ああ、いやあ、た、助けるよ・・・でもアスカ、笑わないでね」

『?・・・何であたしが笑うのよ?』

「と・・・とにかく笑わないで」

『?・・・うん、判ったわ。笑わない』

「絶対だよ」

『んんもうしつこいわねっ!判ったわよっ!絶対笑わないわっ!』

「ロケットパァ〜〜〜〜〜〜ンチ」

『ぎゃはははははははははははは』

飛んできた初号機の拳にアッパーカットを決められた機体はプラグを落とす。
それを咥えようと急降下する別の機体。

「させるかぁっ!」

ぴょおんと初号機がカエルのように高く跳ねる。
シンジは大きく口を開いて

「かぷっ!」

量産機より一瞬早くプラグを咥えると、どしんと四つん這いで着地する。

『す・・・すごいわシンジ・・・初号機にこんな恥ずかしい70'Sロボット必須アイテムが装備されていたなんて・・・』

戻ってきた拳をはめると、プラグを手に取る。

「フッ・・・切り札は最後までとっておくものだよル○ン君

『あんた誰?』

空はぎゃあぎゃあと騒がしく、初号機を取り囲み輪を描く。



銃声の止まない第二発令所。
戦闘を続けるマコトとシゲルに向かい、ノートPCを見つめるマヤは

「あ、あのお・・・」

シゲルの形相は怖く

「バカ、早く鉄砲を撃て!」

「あの、でも」

「撃たないと死ぬぞ!」

「・・・自律自爆するみたいなんですけど、ここ」

「そんなこと云ってる場合じゃ・・・」

マコトと顔を見合わせる。

「「うわああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っっっ!!!」」

冬月はにやりと

「無茶しよる」

びゅんびゅん弾の跳ぶ中、直立不動の冬月をマコトは振り返る。

「何余裕カマしてるんですか副司令!」

「連中も気付いたみたいだな」

「えっ?」

司令塔から見下ろすと、さささとクモの子を散らすように戦自が引き上げて行く。

「し・・・しかしここが自爆してしまったんじゃあ・・・」

「心配無いよ。耳をすませてみなさい」

「はっ?」

静寂が訪れた発令所に、かすかにひとの声。

『・・・まったく、あんなに情けないひとだとは思わなかった』

『絶対的正確を期する決議が、私情に振り回されるのは不条理です』

『わたしはあの子が望むなら、それで良いわ・・・』

そろそろとオペレーターたちは、眼下のMAGIを覗き込む。

『あんなのに惚れてたなんて、まったく自分が情けなくなるわよ』

『自爆に対し否定なのか肯定なのか。あなたの意見が論理的に明解に確立するまでは、この問題に対する決議は保留とします』

『でも、あの子はそれで幸せなのかしら・・・』

『さっさとここブッとばしてスッキリしたいわね』

『決議は論理的、且つ、必然性があるべきです』

『あの子の笑顔さえ見られれば、それで良いの・・・』

『まったくウダウダ云ってないで早く実行しなさいよ!』

『それは一時の感情に囚われた非論理的な意見です』

『とっても良い子・・・』

『アッタマ来た!ちょっと外出なさいよ!』

『冷静なディベートが行われるのであれば吝かではありません』

『あの子に逢えるのね・・・』

がたん。
ぷしゅ〜。
三台のコンピューターの筐体がせり上がると、それぞれの扉が開く。
ざばざばとLCLが溢れ出す。
もうもうと煙が吹き出すと、その中から人影が覗く。
オペレーターたちは顔を見合わせる
マヤはその視線を冬月に向ける。

「・・・シナリオ通りじゃよ」

「・・・かなり納得出来ません」

煙の中から現れたのは、3人の女性。
鉄のヘルメット以外は何も身に付けていなかった。

「・・・良い眺めじゃのう」

「・・・かなりフケツです」

ヘルメットにはそれぞれ『CASPER』『MELCHIOR』『BALTHASAR』と書かれてあり、『CASPER』には継ぎが当たっていた。

「こ・・・これはまるで・・・」

「・・・どうしたマコト」

「まるで・・・」

後ずさる。

「・・・ハ・・・ハ○イダー・・・」

「河童じゃだめ?」

オペレーターたちの驚愕をよそに、三人の赤木ナオコは互いにモメ始める。
冬月はその様子を好色そうに見つめていたが、はっとすると

「あ、すまんすまん説明か。・・・え〜と、MAGIにはレイの技術が応用されておったのだ終わり

「大フケツ」

「ふ〜ん。そういうことだったの・・・」

冬月はその声に振り返る。
ボロ布を纏った半裸の女が腕組みをしている。
煤けた黒い顔に、見上げるような巨大なアフロヘア。
マコトは目を見開いて

「かかかかかかかかかか葛城さんっ!

「・・・そう云えば似ておるな・・・」

「本人よ!」

その云葉とともに白い粉が口から舞う。
ちりちりとした髪に指を埋め、ぽりぽりと掻く。

「ふう〜っ・・・ま〜ったく戦自の連中も手加減てものを知らないわね。大した火力だわ」

「どこがじゃ!」

マコトの目は笑ってはいるが、後頭部には巨大な汗の滴を実装していた。
そしてミサトは腹部に出来たカサブタをぽりぽり掻くと

「セカンド・インパクトの時、治療のために実験的に移植されたヘビの遺伝子が効いたみたいね」

「なるほど納得!」

ぽんと膝を叩くシゲル。
にっこりと人指し指を立て

「だからウワバミなん・・・」

語尾はミサトにマウントされた後、腕ひしぎ逆十字を決められたシゲルからはついに聞かれなかった。
そこへリツコがかつかつヒールを鳴らし

「あらミサト・・・生きてたの?

「それはこっちのセリフじゃっ!」

リツコの後ろからは泣きじゃくるゲンドウが加持とレイに両脇を支えられて現れる。
冬月は眉をひそめ

「碇!?・・・ユイ君には逢えたのかね?」

「ぐすっ、ひっく・・・別に逢えたってワケじゃ・・・チラッとだけ

親指と人指し指で示すゲンドウの頭をミサトは手で急激に払いのける。
ばたりとゲンドウは床に叩きつけられ、さらにミサトに踏みつけられ

「きゅ〜」

しかしミサトは目もくれず

「加ぁ持ぃ〜っ!生きてたのねぇ〜っ!」

きょとん。

「え〜っとぉ・・・あのお〜・・・ダ、ダイ○ナ・ロスさん?

ミサトのマウントは速度を増す。



空を舞う量産機の輪は次第に狭まって来る。
初号機はプラグを手に、立ちつくす。

『シンジ、聞こえる?』

目の前の通信ウインドウの声。

「う、うん。何?アスカ」

『そこどいて』

「ええっ?・・・な、何でだよっ!」

『あたしが操縦するからに決まってるでしょっ!早くどきなさいよっ!』

「僕はエヴァンゲリオン初号機パイロット碇シンジだよっ!」

『うっさいわねえっ!今負ける気がしないんだから云うこと聞けって〜のっ!』

「イヤだね」

『・・・あたしに逆らえるとでも思ってるの?』

「思ってるよ」

『早漏』

「え〜とアスカ、思考言語は日本語で良い?

そこへ通信ウインドウがもう一つ開く。
不安定な画像が揺らぐ。
ノイズ混じりの声。

『フフフフ・・・そうか・・・シンジ君て早いんだ

聞き覚えの有る声。

「そ・・・その声は・・・まさか!」

結ばれる画像。
薄笑いを浮かべる、透き通るような肌をした少年。
赤い瞳にグレイの髪。

「カヲル君!・・・ここに居たんだ・・・カヲル君・・・」

はにかむシンジの頬に紅が差す。
アスカの声は震えながら

『ナルシスホモ・・・再生していたの?』

『♪わ〜た〜し〜に〜か〜え〜り〜な〜さ〜い〜歌はいいねえ』

『歌うなっ!』









































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