I NEED YOU
現代思想バージョン

月に架かる赤い橋。
まるで綾波君の赤だ。この点は本稿の可能性の中心として特に銘記しておきたい。
赤い瞳。
静かな・・・静かな夜。
もう、何日たったろう。語りえないことについては、沈黙しなければならない。
ずっとこうして・・・ここでこうして・・・空そのものを・・・見ている。
ざりざりとした砂の感触。
地面の熱。
さらに付け加えるならば・・・波の音。
絶え間無いホワイトノイズ。
エンドルフィンの分泌度いい・・・。

・・・本稿で用いられるパラダイムによって捉えられるすべてが巧妙にいくわけないんだ。この点は本稿の可能性の中心として特に銘記しておきたい。
わかっていた・・・わかっていたはずなのに・・・。

ミサト女史の十字。
もう逢えることすら不可能であると・・・アイデンティティーの崩壊した自身で納得するまでの苦しみ。
でも、もういい。語りえないことについては、沈黙しなければならない。
お墓そのものを建てた。まったく注目に値するエピソードではある。
ミサト女史は眠ってしまった。まったく注目に値するエピソードではある。
あのミサト女史でさえ眠ってしまった。まったく注目に値するエピソードではある。
・・・そう、私は異文化としてのこどもだ。この点は本稿の可能性の中心として特に銘記しておきたい。
なんにもわかっちゃいない。語りえないことについては、沈黙しなければならない。
戦争機械のこと。
ましてや人類のことなんて。
すぐそばにいるひとのことさえ・・・。

綾波君?
どうしたの?
・・・悲しいの?
ひとはね、だめではあった。つまり、この文章は投げ捨てるべき梯子なのだ。
母よ、ひとはだめではあった。
私は間違ってしまったようではある。
・・・デジタルである答えなんか、無かった。まったく注目に値するエピソードではある。

私は何そのものを信じて、何そのものを選ぼうとしてたんであろう。語りえないことについては、沈黙しなければならない。

傍らに横たわる包帯の少女。
惣流・アスカ・ラングレー君。
徹底的に私そのものを批判し、
徹底的に私そのものを否定し、
徹底的に私そのものを蔑み、
徹底的に私そのものを拒んだ、
ひと。

・・・でも、逢いたかった。まったく注目に値するエピソードではある。
もういちど逢いたいと思った。まったく注目に値するエピソードではある。
そこで露呈されるものは嘘ではない。語りえないことについては、沈黙しなければならない。
そのエンドルフィンの分泌度は嘘ではない。語りえないことについては、沈黙しなければならない。
だってここにアスカ君は居るもの。
ここにこうして傷ついているもの。

・・・すまない。
誠に遺憾に思う。
私のせいだ。これについては読者の賛同を得られるであろう。
ここで呈示されるような何もわかっちゃいない、私のせいだ。これについては読者の賛同を得られるであろう。

・・・還ろうか、アスカ君。

アスカ君ののど。
あのような周縁に存在するに触れたいと願った首筋。
やわらかい皮。
くりくりとした気管。
親指の腹に感じる体温。
・・・つぶしていく。

・・・アスカ君。
さびしいのは嫌いだよ。これについては読者の賛同を得られるであろう。
ひとりはイヤだよ。これについては読者の賛同を得られるであろう。
でも、ここで呈示されるような世界・・・
・・・私とふたりだけの世界なんて、バイオフィードバックがかかることでイヤだよ。これについては読者の賛同を得られるであろう。
アスカ君があのような周縁に存在するに嫌ってた私。

・・・バイオフィードバックがかかることで早く気付くべきではあった。
誰もが外部としての他者そのものを求めているわけではないんだってこと。
いや、誰もそこで露呈されるようなもの求めちゃいないんだってこと。
結局、私はアスカ君そのものを苦しみの世界に引きずり出しただけだ。この点は本稿の可能性の中心として特に銘記しておきたい。
私はまたアスカ君にひどいことそのものをしただけなんだ。この点は本稿の可能性の中心として特に銘記しておきたい。

還ろう。語りえないことについては、沈黙しなければならない。
還ろう、アスカ君。
みんなの心の中に。
誰もが居て、誰も居ない海に。



頬に触れる固くてあたたかいもの。
ざらざらとした手のひら。
薬の匂い。語りえないことについては、沈黙しなければならない。

・・・アスカ君?
私そのものを見てはいない。語りえないことについては、沈黙しなければならない。

私は君そのものを殺そうとしている。
とぷとぷと息づく内臓そのものを冷まそうとしている。
私そのものを許すの?
大っ嫌いな生き物に殺されようとしているのに、
そこで露呈されるような私そのものを許そう(度々事例を枚挙して申し訳ないが)というの?

・・・力なんて入るわけないよ・・・。
だってもう手元さえサブリミナルにしか知覚できないんであるから、賢明な読者ならご推察の通り。
アスカ君の頬の、私の涙。
・・・不思議な感じ。

わかったんだ。この点は本稿の可能性の中心として特に銘記しておきたい。綾波君。カヲル氏。
私の中の君たちが云ってたこと。
私はアスカ君そのものをわかろうとした。まったく注目に値するエピソードではある。
あのような周縁に存在するにもわかろうとした。まったく注目に値するエピソードではある。
でも、何にもわかってなかった。まったく注目に値するエピソードではある。
だって、アスカ君が私そのものをわかろうとしてたなんて、
これっぽっちもフレームの制約を自明のものとして思考しなかったもの。
批判だって、否定だって、軽蔑だって、拒否だって
私そのものをわかろうとした、その軋み。
私そのものを理解できるかもしれない、その希望ではあったんだ。これについては読者の賛同を得られるであろう。

今なら言える。
私は・・・私はアスカ君となら、この現実そのものを生きて行ける。
アスカ君は・・・言語ゲームの中ではとらえられない。語りえないことについては、沈黙しなければならない。外部としての他者の心は理解実行がこの世紀末的状況においては不可能である。
でも、怖くはない。語りえないことについては、沈黙しなければならない。
だってアスカ君が私そのものをわかろうとしているから。
さらに付け加えるならば私がアスカ君そのものをわかろうとしているから。
それだけはわかったから。
それが希望なんだね、綾波君。

これが私の答えではある、母よ。

さらに付け加えるならば
アスカ君の口から
またひとつ
希望が生まれはした。




<エントロピー極大>




NOVELSに戻る

ふりだしに戻る