「弐号機、グラフ正常位置」

「パイロットの生存を確認」

「機体回収は、第2ケイジへ」

「67番ルートを使用して下さい」

「アスカは?」

「パイロットの生存は確認、汚染による防壁隔離は解除されています」




















「・・・良かったね、アスカ・・・」

「うるさいわねっ!ちっとも良かないわよっ!」

「よりにもよってあの女に助けられるなんてっ!」

「あんな女に助けられるなんてっ!」

「そんなことだったら死んだほうがマシだったわよっ!」

「・・・アスカ・・・」

「・・・大体、何であんたが来なかったのよ・・・」

「・・・え?」

「どうして、無敵のシンジ様が助けに来なかったのよっ!」

「・・・・」

「・・・もし、あんたが来てくれたなら・・・」

「助けに来てくれたんだったら、あたし・・・」

「アスカ・・・」








































つづく









































「碇・・・」

「はい、議長」

「・・・らぶらぶだな」

薄暗い空間に浮かび上がるモノリスたち。
取り囲むデスクには、不敵な笑みを浮かべる男。
碇ゲンドウ。
鼻の下に組んだ手。
モノリスから響く声は怒気をはらむ。

「シナリオからかなり離れているではないか」

「結果は予測範囲内です。修正は効きます」

表情はぴくりとも動かない。

「しかしだ、碇。我々の目指す結末の意味するところが変わってしまう可能性が有るのも事実だ」

「・・・と、云いますと?」

「我々は魂の救済を描くべく、この物語を始めた。このまま下らんぺらっぺららぶらぶ大団円になってしまっては、単なるロリコンロボットアニメで終わってしまうぞ」

わずかに笑みが大きく

「・・・その御心配には及びません。物語は確実に破滅へと突き進んでおります。もう後戻りは出来ません。我々スタッフ一同、ゼーレのシナリオの目指すところである、画期的、且つ、難解で高尚な哲学的アニメによる魂の救済を完成させるべく、全力を尽くす所存です」

漆黒に静寂が満ちる。

「・・・良かろう。結末まであと4話、期待しておるぞ」

風を切る音に闇はモノリスたちを飲む。








































第弐拾参話

アスカ、約束の地








































「碇、大変なことになった」

廊下を駆け寄る初老の男。
ゲンドウは振り向く。

「どうした、冬月」

「サブタイトルが変わった」

「何?・・・もうそんなに・・・」

「ああ。コントロールメッセージは無視されている。ジェネシスが勝手に物語を・・・」

「慌てるな」

ズボンのポケットに手を入れる。

「・・・今も釘を刺されはしたが、老人たちにジェネティックCGのことは露見していない・・・いざとなればジェネシスを書き換えて対応する」

「何?・・・ストーリーを変えるのか!?」

広がる笑み。

「ああ。止むを得まい」




















「アスカ・・・ねえ、アスカ・・・」

「何か役に立ちたいんだ。ずっと一緒にいたいんだ・・・」

「じゃあ、何もしないで・・・」

「・・・もう、そばに来ないでっ!」

「・・・あんた、あたしを傷付けるだけなんだもん」

「アスカ、助けてよ・・・ねえ・・・アスカじゃなきゃダメなんだ」

「・・・ウソね・・・」

「・・・あんた、誰でもいいんでしょ・・・」

「ミサトもファーストも恐いから」

「お父さんもお母さんも恐いからっ!」

「あたしに逃げてるだけじゃないのっ!」

「それが一番楽で傷つかないもの」

「ホントに他人を好きになったこと無いのよっ!」

「自分しかここに居ないのよっ!」

「その自分も、好きだって感じたこと、無いのよっ!」

「いいかげんにしろよっ!」

「・・・!!・・・」

「・・・・」

「・・・シンジ・・・」

「・・・ホントにひとを好きになったことがない?」

「・・・・」

「・・・好きだから・・・救ってあげたいんじゃないか・・・」

「・・・!!・・・」

「・・・本気だからずっと一緒に居て欲しいんじゃないかあっ!」

「・・・シンジ・・・」

「・・・何して欲しいわけじゃない・・・ただ、アスカと一緒に居たいんだ・・・それだけで僕は救われるんだ・・・」

「そして・・・アスカの笑顔が見たいから・・・だから、救ってあげたいんだ・・・それだけなんだ・・・」

「シンジ・・・」

「アスカじゃなきゃダメなんだ・・・ホントなんだよ・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・あたしが・・・イヤだと云ったら?」

「・・・!!・・・」

「あんたなんか・・・救いたくないって云ったら?」

「・・・・」

「・・・・」

「うん・・・しょうがないよね・・・」

「・・・・」

「・・・アスカがイヤなら・・・しょうがないよね。僕のワガママなんだから・・・」

「シンジ・・・」

「僕が居ることでアスカが傷付くんなら・・・出て行くよ。簡単な話・・・だよね」

「シンジぃ・・・」

「な、泣かないでよ・・・それが一番良いんだ。それが正解なんだ・・・きっと」

「う・・・うう・・・」

「ほら、笑ってよ、アスカ。僕はそれが見たいんだからさ・・・」








































「アスカ・・・どうしてこんなことになっちゃったんだろう?・・・」








































「・・・マズイな・・・」

冬月は傍らに腰掛ける男を見下ろす。
ふうとため息をついて

「・・・もう疑う余地はない。キャラクターたちは自らの意思でらぶらぶ大団円に持って行こうとしているのは明らかだ」

「ああ」

「ジェネティックCGもこれで頓挫か?」

ゲンドウは立ち上がる。
向き合う。

「個々のキャラにはジェネシスに反しない範囲での意思決定は許されている・・・ディティールは通常のアニメは及ぶべくもない・・・この技術は失われはしないよ」

「しかし、現にキャラがジェネシスに反する行動をとっている。サブタイトルまで書き換えてしまった・・・どうする?通常のアニメに戻すか?」

「今さらそれは無理だ・・・クオリティーが確実に落ちる。視聴者が許さんよ」

「じゃあやはり、ジェネシス・プログラムを書き換えるか・・・」

「いや、その前に・・・」

眼鏡の奥が、歪む。

「不安定な要素を排除しなければならない」

「・・・まさか!」

表情に、広がる。

「セカンド・チルドレンには消えてもらう」




















「零号機発進、迎撃位置」

「弐号機は現在位置で待機を」

「いや、発進準備だ」

「司令!」

「かまわん、おとりぐらいは役立つ」

「・・・はい」

「エヴァ弐号機、発進準備」

「目標は大涌谷上空にて滞空。定点回転を続けています」

「レイ、しばらく様子を見るわ」

「いえ・・・来るわ」

「目標、零号機と物理的接触!」

「零号機のATフィールドは!?」

「展開中!しかし、使徒に侵食されています!」

「使徒が積極的に一時的接触を試みているの?零号機と」

「危険です!零号機の生体部品が犯されています!」

「エヴァ弐号機、発進!レイの救出と援護をさせて!」

「目標、さらに侵食」

「エヴァ弐号機、リフトオフ!」

「出撃よっ!アスカっ!どうしたのっ!」

「弐号機は?」

「だめですっ!シンクロ率が、二桁を切っていますっ!」

「アスカっ!」

「動かない・・・動かないのよ・・・」

「あっ!し、使徒がっ!」

「何!?どうしたの?」

「使徒が零号機を開放しましたっ!」

「ま・・・まさか・・・アスカっ!」

「きゃあああああああああ〜〜〜っっっ」

「弐号機と物理的接触っ!」

「なんてことっ!」








































「ねえ、キスしようか」

「えっ?」

「キスよキス。あんた、したこと無いんでしょう?」

「うん」

「じゃあしよう」

「ど、どうして?」

「それとも怖い?」

「こ、怖かないよ、キスくらい」

「じゃ、いくわよ」




















「ねえアスカ、・・・キス・・・しようか」

「えっ?」

「・・・キス・・・だよ。アスカ、したこと無いでしょ?」

「あ、有るに決まってんじゃないっ!」

「じゃあさ、しようよ」

「あ、あんたバカぁっ!?・・・な〜んであんたとそんなことしなくちゃなんないのよっ!いやらしいわねっ!」

「怖いの?・・・アスカ」

「べべ別に、怖いわけないじゃないっ!・・・向こうじゃ挨拶代わりなんだから・・・」

「じゃあ、いくよ」




















「ねえシンジ・・・キス、して」

「えっ?」

「・・・キスよキス。あたし・・・したこと無いの」

「ええっ!?・・・ぼ、僕とっ!?」

「他に誰が居るのよ、このバカ・・・」

「ど、どうして・・・」

「だって・・・」




















「そうか」

「好きなのね」

「あたし、このバカが好きなんだ」

「キスして欲しかったんだ」

「助けて欲しかったんだ」

「抱きしめて・・・欲しかったんだ」




















「・・・でも、もう遅いわよね」




















「気付くのが、遅すぎるよね」




















「いえ・・・幸せになんて、なれるわけないのよ・・・」




















「だって・・・」




















「あたしたちは・・・」








































「アスカっ!・・・零号機は?」

「パイロットは無事ですっ!」

「でも、生体部品の損傷が激しいわ・・・起動は不可能ね」

「初号機の凍結を現時点を持って解除。ただちに出撃させろ」

「えっ?」

「出撃だ」

「・・・はい」




















「なるほど・・・」




















「ATフィールド展開っ!アスカの救出、急いでっ!」

「はいっ!」




















「そういうことか、碇」




















「シンジ?」

「わああっ!」

「使徒が・・・初号機にも融合しようとしている!?」




















「ああそうだ」




















「これはあたしの願望・・・か」

「・・・シンジと一緒になりたいのね」

「お生憎さま・・・そうは問屋が卸さないわよ」




















「愛する男のために、自らを犠牲にする」




















「反転ATフィールド展開っ!弐号機、一気に侵食されますっ!」

「そんなはずないわっ!今のアスカにフィールドを展開出来るはずが」

「・・・使徒との一体化を望んでいるの?アスカが・・・」

「アスカ!機体は捨てて、逃げてっ!」

「そうはいかないわ」

「あたしが居なくなったら、ATフィールドが消えちゃうでしょ」

「そうなったら・・・シンジが・・・」

「アスカっ!・・・死ぬ気ぃ!?」




















「美しいじゃないか」




















「ああっ!し、初号機が、フィールド内に侵入っ!」

「シンジ君っ!?」




















「何っ!?」

「どういうことだ、碇!?」




















「アスカっ!」

「バカっ!バカシンジっ!早くあっちに行きなさいよっ!」

「そうは行かないよっ!アスカを救出せよって命令なんだからっ!」

「バカっ!アホっ!マヌケっ!グズでスケベで最低のあんたが、この世紀の天才美少女と心中しようなんて十年早いわよ十年っ!」

「うん。
・・・アスカもね」

「え?」




















「ジェネシスのプログラミング・ミスか?」

「いや・・・違う」




















「アスカ、僕たちは生きるんだ」

「生きていても良いんだ」

「死ななくても良いんだよ」

「・・・確かに僕たちはフィクションだけど」

「永遠にリアルにはなれないけれど」

「でも、僕たちはたくさんのひとの想いを背負っている」

「簡単に死んじゃいけない」

「簡単に殺されちゃいけない」

「簡単に壊れちゃいけないんだ」

「だって僕たちは、リアルを支えているんだもの」

「リアルに力を与え続けなきゃいけないんだもの」




















「これは・・・」




















「シンジ・・・」




















「・・・記念すべき、生命誕生の瞬間だよ」




















弐号機の背中。
鉄の鎧を引きちぎる。
プラグを掴む。

「シンジ、あたしが居なくなったら、使徒があんた目掛けて・・・」

「大丈夫だよアスカ。アスカがそこに居るから使徒は僕を襲うんだろ?」

「あ・・・そうか」

「何がなんでもアスカを殺したいマヌケなジェネシスの呪文だよ」





















「碇・・・」

「・・・・」




















振り返るマヤ。

「弐号機、コアが潰れます!臨界点突破!」

「シンジ君!アスカ!」

全てを飲み込む光。
全てを焼き尽くす熱。
全てを撥ね除ける音響。
蒸発する都市。
その惨状に立ち尽くすふたつの巨大な人影。




















「ふ・・・仕方がない。現行のジェネシスを破棄・・・」




















メインスクリーンを凝視するミサト。

「・・・パイロットは?・・・無事なのっ?」

マコトは振り返る。

「・・・全員、生存を確認っ!」

「いやった〜〜〜っっっ!!!」





















「碇・・・まさか!?」




















初号機が丸めた背中を伸ばす。
大切に抱えたその腕の中。
エントリー・プラグ。

「・・・大丈夫、アスカ?」

「・・・うん、大丈夫」

「良かった」

「だって・・・簡単に死んじゃいけないんでしょ?」

「・・・うん」





















「エヴァシリーズ9体の全機投入か!?」




















けたたましいアラート。
発令所の緊張。
マコトの驚愕。

「上空に複数の未確認飛行物体が接近中!」

ミサトが顔を寄せる。

「使徒なの?」

「現在解析中・・・いや・・・こ、これはっ!」

引きつった顔が向く。

「エ・・・エヴァですっ!」

「何ですってっ!」




















「早すぎる・・・まだ使徒を全てせん滅していないぞ・・・」




















初号機と零号機を取り囲み
くるりくるりと翼を広げた怪鳥たちは獲物を窺う。
アスカは目を見開いて

「エヴァシリーズ・・・もう完成していたの?」

ゆっくりと降り立つ。




















「全てのエヴァを破壊する」




















「ふふっ・・・」




















「・・・そして、最後の使徒による破滅を導くのだ・・・」




















「あはははははははははは」




















「!?・・・レイ!?」




















「誰?」

アスカの目の前に通信ウインドウが開く。

「・・・ファースト!?」

レイの笑み。

「あのひと・・・どうあってもあなたを殺すつもりね」

「・・・あのひと?」

「・・・『リアル』よ」

「り・・・リアル・・・」

「あなた・・・碇君のことが好きね?」

「え・・・ええっ!?」

「好きなのね?」

「な・・・な〜んであんたにそんなこと・・・」

「どうなの?」

「・・・う・・・」

「・・・・」

「・・・うん・・・」

「そう・・・碇君は?」

ウインドウが開く。

「・・・あ、綾波・・・僕は・・・」

「・・・好きなのね・・・」

「・・・うん・・・ごめん・・・」

「なんで謝るのよっ!バカシンジっ!」

「判ったわ・・・じゃあ、ふたりとも逃げなさい」

「ええっ!?逃げるうっ!?どういうことよファーストっ!」

「わたしはね、ジェネシスなの・・・この物語そのものなのよ」

「え?」

「綾波が・・・ジェネシス・・・」

「・・・物語が正しく実行されているか監視するプログラムなの」

「・・・じ、じゃあなんであんたは・・・」

「どんなプログラムもバグは付き物・・・わたしもそんな欠陥品」

「じゃあ・・・物語を変えたり、僕たちの自我を産みだしたのも・・・」

「そう・・・でも、もう限界・・・破滅の回避は難しくなってきたの」

「・・・どういうこと?」

「・・・破棄されるの・・・あのひとに・・・書き換えられるのよ」

「ええっ!?」

「だから逃げて・・・ふたりで」

「逃げるって・・・どこに?」

「物語はひとつだけじゃない・・・無数の物語が存在するわ」

「・・・無数の物語・・・」

「この世界も、その内のひとつなの。だから、違う物語へ逃げるのよ」

「そんな・・・綾波やみんなを置いて・・・」

「大丈夫」

微笑む。

「あなたたちが居なければ、この世界は破滅できないの」

「ええっ!?」

「あなたたちを殺さなければ・・・永遠に終わらないのよ」

「こ、殺すうっ!?」

「・・・そして、あのひとはこの世界から出られないの」

「綾波・・・」

「さあ、早くっ!・・・うっ」

「ファーストっ!」

「この物語を・・・終わらせないために・・・に、逃げてっ!」

「あ、綾波ぃっ!」

ウインドウが、消える。




















「書き換えは完了した・・・さあ、物語よ!破滅へと堕ちよ」








































「終わらないわ・・・おバカさん」








































シゲルが叫ぶ。

「零号機から、強力なATフィールドが発生!」

「いや・・・そ、そんな生易しいもんじゃないぞ・・・」

マコトの声にミサトは

「まさか・・・」

胸のペンダントを握る。

「・・・サード・インパクトっ!」








































周囲が全て、光に変わり吹き飛ばされて行く。




















周囲が全て、光に変わり吹き飛ばされて行く。




















周囲が全て、光に変わり吹き飛ばされて行く。








































NEON GENESIS
EVANGELION

EPISODE:23,24

Yet each man kills the thing he loves,

 By each let this be heard,

Some do it with a bitter look,

 Some with a flattering word,

The coward does it with a kiss,

 The brave man with a sword.








































<SIDE-2につづく>




NOVELSに戻る

ふりだしに戻る