B   L   U   E








































ま〜ったく、なんであたしがこんなことで悩まなきゃなんないのよ!

大体、何を着て行こうとあいつに何か云われる筋合いは無いわ!

・・・そう云えば、あたしあいつの好みなんて全然知らないのよね・・・。

だ、だからこそあいつの方があたしの好みに合わせるべきよ!

教育よ教育!

このナ〜イスセンスなアスカ様が、趣味の良さとは何かを叩き込んでやるわ!

・・・何ニヤけてんのよ!

あんたもっとマシな写真は無いのお?

くら〜い顔して辛気臭さの権化みたいな顔してるか

何がおかしいんだかニヤついた顔してるのしか無いじゃない!

・・・ふん。むっつりスケベが。

あんたの考えてることなんかお見通しよ。

大方、あたしやミサトやファーストの裸かなんか思い浮かべてたんでしょ。

ったく、男って何でこうバカでスケベなのかしら。

信じらんないっ!

・・・なんてこと考えてる場合じゃないわ!

待ち合わせの時間は・・・と

あ〜、もうすぐ出なきゃ間に合わないじゃないっ!

遅刻だけはずうぇ〜ったい避けなきゃ。

ああっ、もう、どうしよ。






・・・青いチョーカー。






で、うわさのサードチルドレンはどれ。まさか今の・・・。

「違うわ。あの、真ん中の子よ」

ふ〜ん。冴えないわね。

「どうだ?碇シンジ君は」

つまんない子。あんなのが選ばれたサードチルドレンなんて、幻滅。

「しかし、いきなりの実戦で彼のシンクロ率は40を軽く越えてるぞ」

サードチルドレン!・・・ちょっとつきあって。

「ねえ、どこ行くんだよ」

ちょっとここで待ってなさいよ。

「何だよ、もう」

きゃあああっ!のぞかないでよっ!エッチ!

「ご、ごめん」

なんで男の子ってバカでスケベなのかしら。






・・・あたしってば、成長のあと無しね・・・。

はっ、感慨に浸ってる場合じゃないっ!

・・・う〜ん、いくら一年中夏だからっつっても

クリスマスにあのカッコは無いわよねえ・・・。

これは去年着てったしい・・・ああ、もう!






あ・・・この服・・・。






ジェットコースター待ってる間に帰って来ちゃった。

「そんなに列、長かったの?」

ううん、ほんの15分。だってタイクツなんだもん、あの子。顔は美形だけど。

「それはないと思うな・・・」

あ〜あ、まともな男は加持さんだけね。






・・・フッ、ガキね。まったく・・・。

・・・だからこんなことしてる場合じゃ無いっつーの!

やっぱりこの日の為に買ったやつにしよっかな・・・。

・・・そうよね。この日に為に買ったんだもんね。

あたしってば何悩んでるのかしら。バッカみたい。

ああ・・・でもこっちのが・・・ああ〜んっ、もういやあっ!








































はあはあ、まだ10分過ぎよね。

大体、今年に限って何でリニアになっちゃったのよお。

クリスマスぐらい仕事サボりなさいよミサトお!

これだからセカンドインパクト世代はつまんないのよね。

仕事だけが人生みたいな顔しちゃってさ。

も、もうすぐ駅ね。え〜と、あの土産物屋の前だから・・・。

居るかな・・・いや、遅れて来るはずないわ。

・・・居た。

「・・・待たせたわね」

すました顔して・・・ホントは怒ってんじゃないの?

でもそれを表に出すわけないわね。

「どのくらい待った?」

「12分32秒よ」

何それえ?

「・・・悪かったわね、ファースト」

「急ぎましょ。もうリニアが来てるわ」








































特急リニアなんて久しぶり。

ふ〜、でもお腹空いちゃったわね・・・。

終業式終わってから・・・何にも食べずに出て来ちゃったもんねえ・・・。

お昼も買い損なっちゃったし・・・。

「はい、これ」

「えっ?」

「お弁当よ」

「あたしの分?」

「食べてないんでしょ」

「う・・・うん。買っておいてくれたの?」

「乗り遅れるわけにはいかないもの」

「そうね・・・」

云わなきゃ。

「・・・フ、ファースト」

「何?」

「あ・・・ありがとう」

「礼には及ばないわ。当然のことだもの」

可愛くないわねえ。

でもこのさっぱりしたとこがファーストのファーストたる所以ね。

「葛城三佐は来れないそうよ」

「え?・・・そう。本部で会ったの?」

「残念そうにしていたわ」

「はっ、仕事人間にはありがたいんじゃないのお?」

そうか・・・この子、本部に行ってたのね。

サボリかと思ってた。

でも・・・変わったわね、ファースト。

「すてきよ」

「何?」

「その服」

白いワンピース。

「あ・・・ありがと」

変わったよ。そのちょっぴり素直なとこ。

「食べないの?」

「え?」

「お弁当」

「・・・あんたは?」

「わたし、もう食べたわ」

「え?」

「駅前で。にんにくラーメン」

変わってないわ。









































う〜ん、良い気持ち。

第三新東京も都会のようで結構自然があるけど

やっぱり本物の田舎にゃかなわないわよねえ。

むせる草いきれと、うるさいぐらいの蝉。

駅前からしてすでに・・・。

「・・・タクシーなんか一台も無いもんねえ」

「そうね。バスにしましょ」

もう時刻表チェックしてんの?

抜け目の無いお嬢様だこと。








































しっかし旧式のバスよね。

排ガス規制パスしてんのお?

ガソリンだって高いし

税金だって電気のが低いのにこんなの使ってて儲かってんのかしらねえ。

「見えたわ」

「え?何ファースト?聞えな・・・」






海!






いつも見てる海とは違う・・・本当の海・・・。

都市の残骸も、自然の死骸も無い、生まれたままの海・・・。

「・・・もうすぐね、ファースト」

「ええ」

「今年も・・・来たのね。あたしたち」

「そうね」








































・・・逢いに来たよ、シンジ・・・。

あんたを失った、この日に。








































・・・きれい・・・。

たくさん夕陽を見てきたけど

この丘から見るのが一番きれい。

海に吸い込まれそうな、輝き。

ミサトがあんなに飛び回って探した甲斐があるわね。

「お花、買ったわ。行きましょ」

「・・・うん」




















無数の幾何学の柱が描く模様。

その中に飲み込まれる時は、いつも怖い。

還って来れなくなっちゃうんじゃないかって・・・。

だってそのひとつひとつに、想いが込められているもの。

あたしたちと、同じくらいの想いが・・・。

他と寸分違わない金属の板。

でも、ひとつひとつに込める想いは様々なもの。

いえ、ひとつに対してだってひとりひとり想いは違う。

あたしと・・・ファースト。

この眺めの良い丘で、この碑を見る時

一体、何を考えているの?

「碇君・・・来たわ」

「よっ、シンジ。一年ぶり」




















「・・・アスカ・・・」

「・・・やっと逢えたね・・・アスカ・・・」




















花の色が金属に映えて、まるで明かりが灯ったよう。

ファーストの白い服もそこに溶けているわ。

そして、あたしのこの服もそこに溶けているのね・・・きっと。

「・・・失いたくないのね」

「えっ?」

「碇君を、失いたくないのね」

何?

何を云ってるの?

シンジを失う?

・・・失う・・・。

「・・・何云ってんのファースト・・・失うも何もシンジはもう・・・」

「死んでは居ないわ。あなたの中では」

「・・・・」

「でもだめ。あなたは一度失わなければならない」

「・・・何ですって?」

「現実を受け入れなければ」

何を云ってるのこの子!?

「碇君は自分の為に死んで行ったのよ」

思いっきり頬を叩く。

ファーストの顔がぼやけて見えない。

「何云ってるの!?シンジはあんたを身を挺して守ったんじゃない!」

あ・・・あ・・・あたし・・・。

「ネルフや街や、人々の為に命を賭けたんじゃないっ!」

溢れてくる・・・流れて行く・・・。

「それを・・・それをよくも・・・」

「アスカ」

・・・え?

「アスカ、ひとの死は、そのひとひとりの中に留まるべきものなの」

・・・ファースト・・・。

「死は、エゴイズムなのよ。それ以上でも以下でもないわ」

「・・・ゴメン・・・」

「碇君の死は、みんなのこころに傷跡を残したわ」

「・・・いろんなことがありすぎて・・・」

「碇君を失うまいとすることは、その傷を癒すまいとすることなの」

「いや・・・本当は怖かったんだ。・・・アスカでなくなってしまったアスカが・・・」

「でも、わたしたちは生きている。生きている限り、傷は癒されてしまうわ」

「・・・ぼくに勇気が無かったから・・・現実を受け入れる勇気が・・」

「それは罪悪じゃない。それは必要なことなの」

「・・・アスカはアスカだよね・・・何があろうと・・・」

「アスカ・・・あなたは癒されて良いの。救われて良いのよ」

「・・・こんなことになるんだったら、もっと早く逢いに来るんだった」

「それは生きている証だもの」

「もっとアスカに話せばよかった。」

「もっとアスカを見ていればよかった。」

「もっとアスカといっしょに居ればよかった」

「もっとアスカと・・・触れあえばよかったんだ」

「・・・でも・・・もうダメ。もう遅いんだ」

「・・・行かなきゃ」

「・・・ゴメン・・・」

「・・・ありがとう、アスカ・・・」

「・・・アスカに逢えて・・・うれしかったよ・・・」

シンジ・・・。








































「アスカ、ひとが祈るのは死者の為にじゃ無いんだ」

「それは、自分のこころを癒す為なんだよ」

「それが、祈りなんだ」

「祈りは残されたものの為にこそ有るべきなんだ」

「死は死者のエゴイズムで、祈りは生者のエゴイズムなんだ」

「生も死もエゴイズムなんだ・・・等価値なんだよ」

「だからアスカ・・・アスカは癒されて良いんだよ・・・」

「祈りが有る限りひとは救われる・・・救いは有るんだ」

「そして祈りが有る限り、ひとは孤独では無いんだよ・・・だって」




















「僕が見てなきゃ怒るだろ?アスカ。・・・フフッ」









































いいにおい。

水?

新鮮な水のにおい。

「・・・ごめん、ワンピース、濡らっしゃった・・・」

「良いの」

こんなに泣いたの久しぶり。

ファーストの肩、びちょびちょ。

・・・ファーストのにおいなんだ。

「ねえ、ファースト・・・」

「何?」

「アスカって・・・呼んでくれたよね?」

「気に障ったのなら謝るわ」

「ううん、そうじゃないの・・・うれしかったの」

そう・・・うれしかった。

「ファーストが、あたしに近づいてくれたような気がして」

「そう。じゃあ、これからもそう呼ぶわ」

相っ変わらず可愛くないわねえ。

「アスカ」

「な・・・何?」

「わたしの服、褒めてくれたわね」

「え・・・ええ」

「でも、わたしはもっとずっと美しいものを見つけたわ」

「・・・ファースト・・・」

「青」

「青?」

「青い瞳。あなたの瞳の青。深い空の色。新鮮な水の色」

あたしの・・・瞳?

「流れる涙に海が染み込んで、光が降り注いでいた、あなたの瞳の青」

瞳の・・・青・・・。

「あなたのその美しい瞳が好きよ。アスカ」

「ねえ・・・」

「何?」

「・・・レイって呼んで良い?」

「良いわ」

「ねえ、レイ」

「何、アスカ」

「あたしたち・・・親友よねっ!」

「命令があればそうするわ」

変わってないっ!

・・・変わった。






レイの笑顔。








































<おしまい>




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