藪漕ぎの楽しみ

鞍瀬の頭(北方稜線)を歩く

【アクセス】

 丹原町の横海集落へは、R11号を桜三里へと走る。桜三里を“滑川渓谷”を横目に“鞍瀬渓谷”への標識で右折する。近頃流行の○△百名山にも名を連ねる堂ガ森や二ノ森、そして石鎚山への縦走路の登山口として有名な「保井野登山口」の手前の集落が横海集落である。この集落には、登山口の案内などはもちろん無い。

 今回のレポートと直接の関係は無いが、鞍瀬渓谷は多くの滝を従えた谷があり、数多くの沢登りのルートがあるので、変化に富んだ山行が楽しめる山域でもある。

 この「国土地理院の地図(s47年製)」には、横海集落から成薮集落までの山越えの路が記されているが、最新の地図には破線さえも無い。安易に踏み込むと植林の作業道に惑わされる事となるので、十分な経験が必要であろう。

【参考:25,000図】

 

横海集落〜鞍瀬峪の頭(北方稜線)〜鞍瀬峪の頭】(2004年4月25・26日)

 

 今回のルートは、netで知り合った“天野さんのhp”の記録に興味を持ち、いつかは歩いてみたいと思っていたルートである。この鞍瀬渓の頭は、石鎚山の縦走路上にある、堂ヶ森と二ノ森の間にあるピークで、そこから南北に連なる長大な稜線を持っている。その稜線の盟主が1889mの無名峰(鞍瀬の頭、あるいは五代の頭のピークとも呼ばれている)である。先年、五代ガ森までの南方稜線は経験済みなのだが、こちら側は、計画はしてみたものの未だ実現に至っていなかった。
 完走は無理でも、どういう稜線なのかどういう風景が広がっているのか・・っと、興味津々である。

 

 

 とにかく、今日の登山口である横海集落に車をデポした。標高は320mほどだ。犬の散歩のご婦人に、駐車場所の許可と、「今日・明日は帰らなくても心配しないように!」と相棒が声をかけた。

 7時過ぎに身支度を整えて、さあ出発である。集落が見える最後の場所から垣間見える風景は、朝陽の到来前の時間だった。植林の作業に使われているこの路は、先ごろ経験済みである。車社会の到来する前は小松町の成薮集落へと結ぶ山越えの道だった。しかし、現在は荒れ果ててその面影も無い。

 

 

 さて、集落を右に廻り込む竹林の中、筍が顔を出している路を進み、涸れ沢を廻り込みながら高度を稼ぐ。鞍瀬渓を挟んで保井野の集落が垣間見えると暫らくで“いつもの休憩場所(’02、6,8)”である。再出発のあとの“例の倒木”は、朽ち果てて二つに割れていた。

 植林の切れた場所から望む景色が、今回の私達が進む路である。不安と期待を胸に秘めて、カメラに収める。

 

 

 路は、進むに従いだんだんと踏み跡も薄くなり、青晶谷(前述の天野さんの記録にもある)に降りている。8時半だった。小休止の後左岸に渡ると、小さな花々が所狭しと今にも咲き揃いそうである。再び谷を渡り、黙々と高度を稼ぐ。高度計が1000mを指す頃、小屋跡に着く。倒木を跨ぎながら、今回は1275mピーク寄りの稜線へと適当に昇る。

   

 

 眼の前の急斜面に右・左と植林が現れる。もちろん、登り易い場所を登れば良い。勾配が急な所は、自然林の中で木に縋りながら上がる。勾配が緩い所は、暗い植林の中を歩く。昇り始めて小一時間を経過して、稜線を間近にして小休止である。相棒が稜線の路を確認に行く。「オ〜イ!あったよ〜!」と、10mほど上で声がする。稜線の路は快適で、1275mのピークは直ぐだった。10時45分だった。

 

 花芽の付きの少ないしゃくなげの茂るピークを進むと、真新しい“ピンクのりぼん”が目立つ路が続いていた。そして、路は岩場へと消えていた。「おかしいなあ〜、こんな所がルートなんかなあ〜」相棒が躊躇している。しかし、前方にリボンが続いているので、この時は疑問には思わなかった。しかし降りるに従い、路は東方向へと振っていた。

 

 

 心の何処かで疑問を抱いたまま、真新しいりぼんと真新しい踏み跡に導かれて暫らく降り、右手が開けた箇所で相棒に「ちょっと見て来るから!」と声を掛ける。岩の先端(上の写真)で目指すピーク(東西に並ぶ1170mと1250mのピーク)を確認して「ルートが違っているみたいなんで、ここで飯にして、どうするか考えよう!」と、相棒に声を掛けた。

 12時がきた。結局、急斜面の路を登り返し、1240mあたりで偶然に赤テープを発見した。しかし、この正規のルートにもピンクのりぼんが続いていた。その急降下の路に“フデリンドウ”発見である。相棒の声が嬉しそうである。

  

 一時間のロスがこの後、どういう影響を及ぼすかは承知しているのだが、今は先を目指すしかないのだ。1100mの稜線に、何回かのアップダウンを繰り返す路は、先ほどの“間違い尾根”にあったと同じピンクのりぼんが続いている。やがて、1170mピークに取り付くが右手に尾根が曲がると笹原が広がっていた。そこには、真新しい「四等三角点」の標石があり高度計は1205mを指していた。振り返り見る1275mピークとこれから進む1250mピークを左手に、堂ガ森〜二ノ森〜西ノ冠へと続く尾根の中央に、鞍瀬の頭へと続く稜線が姿を現している。もう時計は13時40分を指していた。

 

 

“天野さんのhpの記述”にある「少し戻り気味に藪の中を下り、右曲がりに広い尾根を上る。視界が悪いと方向を見失いそうだ。」を思い出しながら、尾根の右側は植林で左手が自然林なので、歩き易い所を辿る。1250mピークからは、少々のアップダウンでピークというか“尾根上のこぶ”がいくつか連なっている。その二つ目あたりのこぶに前方が見渡せる場所があり、コーヒータイムとした。

 西ノ冠のドームの北西面は異様な姿を見せているし、高瀑も望見できる。“これから辿る尾根にある岩峰まで、今日中に歩けるだろうか?”と内心、弱気の虫がもたげてきたりもする。相棒の「とにかく、行ける所まで行って引き返せばいい!」の言葉で、腰をあげた。

 

 

 

 

 

 

 再出発後、痩せ尾根を辿る路になり、やがて岩の縁に出てしまった。ここは少々引き返して正しいルートを辿る事となるのだが、相棒が弱音を吐き始めた。所々で現れる痩せ尾根に「ロープを出してヨ!」とか、先が思いやられる思いだ。

 突然「ド〜ン・ゴロゴロ」と音がした。右手の谷に岩が転がって行く音だった。「鹿か猪が、岩を落としたのかなあ〜」と話しながら、尚も進む。右に左にあけぼのつつじが咲いている。左右に切れ込んだ谷は、木々が無ければ立ったままでは歩けそうもない箇所もある。

 踏み跡が薄いので、獣道を辿っては赤テープを見つけて辿り・・を繰り返しながら進む。そんな薮漕ぎの世界が待ちうけていた。そういえば、例の1205mピークの四等三角点からは、ピンクのりぼんが見当たらない。ここはすでに獣の領域なんだ。

 

 

 

 

  

 16時を過ぎたというのに例の岩峰に辿り着けない。「時間的にはもう限界じゃない!」相棒の声に「ちょっとその上を覗いて来るから!」と、小ピークの向こう側を覗きに行った。鞍部に赤テープを見つけた時、先ほどと同様の「ド〜ン・ゴロゴロ」と大きな音がした。木の間から垣間見たとりつきの斜面は、例の岩峰ではなかった。高度は1300mを指していた。今日の最高到達点だった。

 

 

 

 相棒の「今日あの岩を越えるのは無理だし、越えたら引き返せないんじゃない!私はもうここで十分なんで、あんたはnetの知り合いとでも一緒に来たら!」と、弱音の言である。「それじゃ〜今日は引き返そう」とツェルトの張れる笹の繁る場所まで・・・と撤退することとなった。結局、つい先ほど岩峰と西冠のドームを確認したピークまで戻って、明るいうちの夕食準備である。17時過ぎだった。

 

 

 

 質素で簡単な夕食は直ぐに腹に収まった。一人3gの水は、既に半分ぐらいとなっていたが、こういうときの我が家の定番となっている“ホットウィスキー”が疲れを癒してくれる。夕陽がドームを紅く染めるのを、カメラを構えて待っていたが徒労に終わった。「やっぱり、紅くなるのは秋なんかなぁ〜」との独り言に、「瀬戸内海が光っとるよ!」と背中の方で声がした。振り向くと、夕陽が落ちようとしていた。しかし残念な事に、その方向は木々に遮られ枝越しにしか視界が利かなかった。

 雲ひとつ無い夜空に、ポッカリとお月様が浮かんで、星が瞬くようになると、私達は暖かいツェルトの中で眠りに就く。ウトウトしていると「松山の明かりがスゴイよ!」相棒が声を掛けた。netで知り合った“ANちゃん”の画像で見た、松山の灯りである。

 

 

 

 

 

 

 

 朝が来る前に眼が覚めた。5時前だった。ツェルトから顔を出しタバコに火をつける。5分もしないうちに小鳥が囀り始めた。谷間にこだまする小鳥のささやきが朝を告げるかのように、朝陽の到来である。

 「嫁入り前の娘だったらどうなるん?」と、口が裂けても相棒は云えないのだが、目の上は腫れあがってしまい、ほっぺたには引っかき傷が残ってしまった。「私はもういいから、netの知り合いと一緒に来たら!」と、相棒は何度も何度も繰り返し言った。

  

 縦走は実現しなかったが、悔恨は無い。相棒がいつも口にしている「山へ行って、ガッカリした事ってないよねぇ!」である。どんな小さな山でも、同行の人とあ〜だ・こ〜だと言い争っても、自分自身がイヤになっても、山をイヤになる事は無い。簡単な朝食と後片付けを済ませて、昨日通った路を引き返す。

 

 淡々とした下山である。四等三角点の笹原で小休止だ。ここは周囲が開けた場所なので、目の前に現れた1275mピークとその奥に三ガ森が顔を覗かせた。そして、だんだん遠くなって行く鞍瀬渓の頭にも別れを告げる時が近づいてくる。

 1275mのピークへの登りは急斜面の上に、直登の路だ。200m近くの直登は辛いものである。しかしそんな辛さにも終わりが来る。一歩一歩進めばいいんだ!昨日、間違った場所は、頂上から直ぐの、しゃくなげのトンネルに現れたピンクのりぼんと真新しい踏み跡だった。その是非はともかくとして、旧来の路に赤テープを付けた。

 

 1275mのピークを過ぎると、視界が遮られてあたりの山々を垣間見ることが出来ない。しかし、昨日稜線の路を辿った時に“いい場所”を見つけていたので、楽しみは残っていた。そこは“とっても雰囲気のいいコバ”だった。木漏れ日の中に咲く小さな花たち・・・妖精が遊んでいそうな場所だった。

   

 今回は、花の写真を並べてアップする事とした。もちろん、花係りは相棒に任せている。

 

 

 

 

 

 そして、私達の計画を“間接的には邪魔した”形の測量のための杭・・・この杭を打つ為にピンクのりぼんが続いていたのだった。

 さて、このルートの続編はあるのだろうか?

 

 

 

 

 


 今回出合った花は、ワチガイソウ、ラショウモンカズラ、フデリンドウ、イチリンソウの他に、シハイスミレ、タチツボスミレ、マルバノコンロンソウ、エイザンスミレ、ユキザサ、エンレイソウ、ツクバネソウ、ナットウダイ、マムシグサ、ヤマシャクヤク、ヤマルリソウ、ヤマエンゴサク、キランソウ、ホウチャクソウ、黄色の花でキジムシロ?等だけど・・画像が少ないのは、装備は出来るだけ軽くしなくちゃ! と一眼レフを持ってなかったからじょ!

 装備といえば、シュラフをやめて羽毛のアンダー上着、私は毛のスパッツとズボンの上からカッパ、おっちゃんには私と肉じばん一枚違うので、私の撮影用の羽毛のアンダーズボンを貸して上げて、シュラフカバーで寝た。靴下の間にホッカイロを入れたら朝まで暖かかった。行動用の汗ですこし湿った半袖の下着を、持って来た長袖の下着の上に重ねて着たのも正解だった。

  それにしても、最後のシャクナゲ尾根は、登る時は両方が切れ落ちて・・、このまま行って帰れんかったらと思ったんじょ! 今となってみれば、岩峰の正体だけでも見るんだったと思うけど、おっちゃんがまだ三つくらい行かんと・・って言うから・・(ほんとは、ついそこだったのに)、惜しい事をしたわ〜 引き返す時はあまり怖くなかったのよ〜。

 あそこまでなら、もう一度と言われれば行ってもいいけど、やっぱり問題は岩峰ね・・。降りるのが苦手だし!

 という訳で、私はビビィシェルター(フレームを含めて750g)を買って、鞍瀬の頭で待ってるから誰かおっちゃんと一緒に行ってやってよ!! <(_ _)>