永遠という名の絆
 
 
 
   真一郎は一人、臨海公園に訪れていた
   何をする訳でもなく・・・・ただ、じっとベンチに腰掛け目を閉じている
   考えるコトは一つだ。
   真一郎は今年3年生・・・そして季節は春を間じかに控えた3月
   今日、風芽丘高校の卒業式だった――――
   「卒業」それが今考えていることの原因となった訳ではないが
   楽しい日々の中で、つい忘れがちになる・・・小さな不安
   二人の・・・真一郎とさくらの行く末―――――
   さくらとは、永劫に
   そう、これからもずっと幸せに暮らしてゆける自信がある・・・・・だけど
   小さな不安・・・・・何が?
   ――――解らない
   だけど、不安がある
「もうすぐ、さくらの誕生日か」
 (恋人な関係になって1年は過ぎている
  決して短い時間じゃない、だけど何時も何かしてもらうのは俺の方なんだよな)
  当然の如く沸き起こる疑問―――――自分はさくらに、何かしてあげられているのだろうか
  ため息混じりで空を見上げる・・・そこには忍の顔が
 
「うわっ!
「――――人の顔見て驚くとは失礼な」
「いきなりな奴・・見ろ、鳥肌だ」
「・・・ところで何考えてた?」
「帰ってメシにするか」
「人の話を聞け」
「・・・忍ちゃんには、まだ解らないだろうからね」
「――ケイソウ並みの脳ミソも無いんだから悩むだけムダね
 あんたのガラじゃないんだから、考えるより行動したら?
 世の中、形にしなければならないものだってあるのよ」
「・・・・・・・」
「さぁて、ご飯にするんでしょ?
 あーあ・・・お腹すいた」
 
「形に―――――か」
 
 
 

「さくらぁ、たーだいまー♪」
  勝手知ったるなんとやら・・・忍は扉を開けて、ずかずか部屋へ入ってゆく
「あら、忍。おかえりなさい―――先輩と一緒だったんだ」
「大変迷惑な話だが、途中でそうなってしまった」
「ただいま・・・さくら」
「先輩、お疲れ様です♪先輩は今日で風芽丘、卒業ですね
 学校へ行っても、先輩が居ないのは寂しいですけど―――」
  ・・・寂しい
  二人には一緒にいるのが当たり前過ぎて
  そう考えることなどなかった・・・・・何時も一緒にいるのが・・・
  当たり前だと―――――
「あ、あの―――先輩?」
  そう思った途端に真一郎はさくらを抱きしめていた
  二人が別々の世界へ行ってしまいそうな・・・そんな錯覚を覚えて・・・
「さくらは・・・ずっと俺の腕の中にいるよな?ずっと―――
「・・・もちろんですよ先輩
 先輩の所に居られなくなったら、私・・・何処へ行けば良いんですか?
 私の居場所は、ここしかありませんから―――」
  真一郎の背中に回した手に、ぎゅ・・・っと力をこめる
「あ、あのさぁ・・・・
  ものすごーく、目の毒なんだけど・・・・」
「い、あぁ・・・あはは。そ、そうだね」
「忍〜ごめん。えーと、すぐご飯の用意するから」
「そーしてくれると助かるよ」
  ダイニングへと消えてゆくさくらを見送り真一郎たちはテーブルへと着く
「考えすぎなのかな・・・・」
  臨海公園での忍の話しを思い出したのか、突然そう告げる
「かもね。さくらとあんたの問題なんだし、本来なら私が口出すことじゃ
 ないのだけれど・・・あんたが何を悩んでいたか
 それを思い出すことね――――」
「それは・・・・・」
「何をしてあげられるのか・・ということと、何をやっているのか
 というコトには一光年くらいの隔たりがあるのよ
 さくらは、何でもしてくれるメイドかなにかかしら?」
「お、俺はそんなつもり・・・!」
  真一郎が語気を荒立たせて、立ち上がると同時にさくらが姿を見せた
「?先輩・・・・どうかしたんですか?」
「あ・・・いや、別に――――おぉ!今日のは一段と美味しそうだね」
 「はい♪先輩に教わった料理ですもの
  もっともっと上手にできるように頑張りますよ♪」
「・・・・・・・・」

             ・
             ・
             ・

 ―――― 夜
 真一郎は床に着いたものの、寝つけずにいた
 黙って静かに寝息をたてるさくらの髪をそっと撫でる
 ―――――――何時も、自分が何かをしてもらっている
 
 自分は何もしてやれていないのに―――――――
 
 さくらの寝顔を眺めながらも真一郎の頭には、様々な思考が廻る
 ふと、その隣でくっつくように寝ている忍のあどけない表情が目に入った
 
 世の中、形にしなければならないものだって――――
 
 何をしてあげられるのか・・ということと
 何をやっているのかというコトの間には、一光年くらいの隔たりがあるのよ
 
 ―――― さくらは、何でもしてくれるメイドかなにかかしら?
 
 違う!さくらは何者にも代えがたい大切な存在だ
 ―――ならば、答えは出ているではないか
 だけど・・・・
 真一郎は考えがまとまらずに、思わず目を閉じてしまう
 そうすることで全てのしがらみから開放されるかの様に・・・・
 
             ・
             ・
             ・
 
  次の日の朝――――空はよく晴れ渡っている。
  雨という日があることを忘れたというくらいに、最近は晴れ続きだ。
  そんな快晴の空の下を真一郎とさくらは、並んで歩いていた。
「最近は、よく晴れますね」
「ん・・・そうだねぇ」
   さくらの問いかけにもどこか、ぼぅっとして答えている。
「ところで・・・先輩は、どちらへ行かれるのですか?」
「どちらって・・・・・あ」
   指摘されて初めて、自分が風芽丘の制服を着て出てきたことに気がつく。
   しかも、今は登校時間だ。
   何の弁解もしようが無い――――
「ふふふ・・・・」
   小さく微笑むその笑顔が、なんだかとても嬉しくて・・・・
「あっ・・・先輩」
   思わずさくらを抱きしめていた。
   突然のことで少々驚いたようだったが、さくらも真一郎の背に手を回して
   優しく抱き返す。
「さくら――――俺は、さくらに対して何か出来ているのか?」
   さくらを抱きしめたままで、静かに問う。
「・・・・・」
   目を伏せて静かに真一郎の鼓動を感じているさくら。
   少しの間を置き、そっと真一郎との抱擁を解いて真っ直ぐな瞳を向ける。
「じゃあ・・・私は、先輩の役に立てていますか?
「それは――――」
   当たり前じゃないか・・・・そう語られる前に、真一郎の唇は
   さくらの唇によって塞がれていた。
   ほんの短い時間のキスのあと、さくらは照れくさそうに真一郎から離れ
   通学路を駆け出した。
   数メートル駆けたところで振り返り
「私は・・どんな時も、どんな運命の中であっても
 先輩のことを愛しています」
  そして、振り返ることなく真一郎の視界から消えてゆく。
  真一郎はさくらが視界から消えた後も、しばらくそこをじっと見つめていた
   暖かな気持ちで満たされる心と、更に増してゆくモヤモヤとした感情。
「さくらからの想いに・・・甘えているのか、俺は・・・・」
   制服姿の自分を気にするでもなく、真一郎はそう自嘲しながらその場から離れた。
             ・
             ・
 
  真一郎が向かった先は鳴海駅。
「くそー、こういう時に限ってあいら揃って出かけやがって」
  悪態をついた対象であるあいつら――――とは無論、唯子と小鳥である。
  朝方の鳴海駅前は、出勤途中の会社員や何やらで結構いっぱいになり
  皆一様にホームへと向かって機械的に歩みを進めている。
  もちろん、就職もしていない真一郎が出勤しようとしている訳では無く
  駅前にあるデパート“ALCO”へ向かっているのだ。
  自宅に電話しても居ないものだから、やむを得ず唯子のピッチにかける―――
「ざーんねーんでしたー♪唯子たちねぇ今、ALCOにいるんだよ♪」
「真くんごめんねー、急ぎの用事だった?」
   ・・・・・その時の会話を思い出して一人腹を立てる。
「小鳥は、まぁ・・良いとして。唯子くせにナマイキな・・・」
  相変わらず無茶苦茶な言い分を立てながら、ALCOの洋服売り場へと歩いてゆく。
   ――――が、居ない。
「だあぁぁぁ!!うにゅーの刑ではすまさんぞ!電話だ電話」
  慌てて近くの公衆電話を使い唯子のピッチに連絡をいれる。
「か、金が・・・」
   ピッ―――
「はいはーい、唯子だよーん♪」
「しばくぞ!コラァ!!」
「あれ・・・しんいちろー、どったの?」
  真一郎はしばらくの間、唯子に罵詈雑言を吐いてやろうかと思ったが素早く思考を切り替えた。
「通話料金が、ばかにならん・・・・唯子、さっさと居場所を教えるよーに」
「んーとね。今ね・・・・・」
 
             ・
             ・
 
  真一郎は臨海公園に走ってきていた・・・・。
「今、臨海公園いるんだよ♪」
  とのことだったからである―――――
    真一郎は臨海公園へ着いて、まず一番に屋台を探す。
「ありゃ・・・・しんいちろー、早かったね」
「早かったね・・・じゃない!」
「わわわ・・・真くんごめん」
「小鳥はとりあえず後で軽く、うにゅーの刑で許してやるとしても・・・
 唯子!お前はぐりぐりーの刑だ!」
「うわ、しんいちろー。差別だよぉ」
  食べかけのたいやきを両手に持ちながら、言っても説得力はない。
「・・・・・・」
「あれ、どうしたの?」
「真くん?」
   ぐりぐりの刑だと言って、そのまま微動だにしない真一郎を見て
  心配そうに顔を覗き込む。
「あのさ・・・・ちょっと、真面目な話しがしたいんだ・・・・」
  唯子と小鳥は辛辣な表情を浮かべる真一郎に、お互いの顔を見合わせた。
「・・・ごめんね、しんいちろー」
「話しだったら、私の家に来ない?ね?」
「悪いな二人とも・・・・」
  いつもと違う雰囲気の中、3人は並んで臨海公園を後にした。
 
             ・
             ・
 
  小鳥の住むマンション『ウィンドヒルズ』に着くまでの間
  3人は大した会話も交わさなかった。
「卒業するとさ・・・・やっぱり、みんなと会う時間なんて少なくなるんだよね」
  数少ない会話の中でも、唯子が言ったその寂しげな言葉が耳に残っていた。
  小鳥のところにくるのも随分久しぶりだな・・・と真一郎は感慨深げに玄関の戸をくぐる。
  大まかな内装は変わっていないものの、やはり細部はすっかり様変わりしていて
   1年という時間を否応無しに認識させられる。
   小鳥が飲み物を勧めるてくれるが、真一郎はそれを断り話しを急いだ。
「しんいちろーは、さくらちゃんとうまくいってる?」
  知ってか知らずか、唯子はいきなり話しの本質を衝くようなことを真一郎に尋ねた。
「そのことなんだけどさー――――――」
   今日、この二人に逢おうとした目的・・・・それは決して昔を懐かしむためではなく
   自らの決意と思いの方向を固めるためであった。
 
昨日、思っていたことの不安―――――
 
忍との会話――――――
 
今の自分の気持ち――――――
 
   こんなことを相談できる相手はこの二人しかなかった。
   ずっと小さな時から近くで育った、二人の可愛い妹分たち・・・・・・・
「それで――――」
「すとーっぷ!」
「?」
「あのね、しんいちろー・・・そういうコトは、自分で最後まで考えて決めるの」
「うん。真くん・・・私もそう思う。
 私たちは真くんのそういう悩みは聞いてあげられるけど・・・」
「答えをだすのは、しんいちろーだよ♪」
「・・・・・そう・・・だな」
  ふいに唯子が立ち上がりその胸に真一郎の頭を抱き寄せる。
   小鳥もそれにならうかの様にして、反対側から真一郎の体に手を回す。
「唯子は・・・真一郎のこと好きだよ、今でも・・・・」
「私も・・・好き。でも、さくらちゃんも大好き・・・だから」
「「―――だから、二人にはいつも幸せでいてほしい」」
  真一郎はこみ上げてくる熱い思いを隠すかのように、二人の体を強く抱き返す。
  唯子の言葉が・・・・
「迷ったなら、いつでも聞いてあげる。悩んだなら、いつでも来ていい・・・」
  小鳥の言葉が・・・・
「二人が何時までも幸せでいられるには、どうしたらいいか―――」
  真一郎の迷いを、全て拭いさってゆく。
「ああ・・・・もう、解ってる」
  そして二人の言葉が胸を打つ――――――
「「私たちは、何時でも・・・何時まででも一番近い・・・友達だから」」
   もう涙を我慢する者はいなかった。
   それは、幼馴染たちとの終わりと始まりの儀式であるかのように・・・・・。
   お互いに強く抱き合いながら、静かに泣いていた。
 
 
 
「さ、しんいちろー。行って行って♪」
「いつまでもここに居ると、決心が鈍っちゃうよ」
「そーそー、しんいちろーってば『ゆーじゅーふだん』なんだから」
「唯子・・・お前、明日・・・良いコトしてやろう」
「ふっふっふー、やだもん。唯子、小鳥と逃げるもん」
  唯子は小さな小鳥を、むぎゅ〜っと形容するしかないような抱きしめ方をしながら答えた。
   そんな二人を見ていると、真一郎は自然と顔がほころんでくる。
「ありがとうな・・・二人とも」
「がんばってね、真くん」
   真一郎は唯子と小鳥に見送られながら、マンションの部屋を出た。
「・・・・がんばらないと・・・駄目なんだから・・・・」
「唯子・・・・大丈夫だよ。真くんだもん」
 
             ・
             ・
             ・
 
 真一郎が抱いていた、その心の霞みはもう晴れていた。
 どんなに心が近づこうとも、愛し合おうとも
 俺たちは生きけいる時間が違う・・・いずれ自分の方が先に
 さくらの前から居なくなる―――――
 それは、今から・・・・そして出逢う以前から決まっていた結果だ。
 どうすることも出来ない。
 だけど・・・・俺たちが共に生きている間は、さくらに・・・さくらとの思い出を
 ・・・・そう二人にとって・・幸せな思い出でいっぱいにしたい。
 そして、その一歩を今・・・・・俺の手で――――――
 

「おぅ、相川。珍しいじゃないか、お前から呼び出しとは」
   連絡をしてからすぐに、羽平市から出てきてくれたのであろう。
   15分後には端島大輔が鳴海駅に現れた。
「悪いな、わざわざ」
   どうしても大輔の力を借りるしかなかった・・・それは・・・
「いや、いいよ。卒業しちまったら、急に退屈でよ〜
 あのまめダヌキは、今や護身道部部長だもんな。忙しいからって
 俺の相手もしてくれねーでやがんの・・・」
「・・・・・・・」
「ん?相川、どうした?」
  いつもの雰囲気と違うものを感じ取った大輔は、真顔に戻って尋ねた。
   すると――――ばっ、と真一郎は駅の床に土下座した。
「お、おい・・・?」
「たのむ大輔!俺からの一生のお願いだ!」
   そう言って頭を下げる真一郎。
「おい、そんなコトやめろよ。相川!!」
   見かねた大輔は、強引に真一郎の腕を掴み立たせる。
「そんなコトしなくたって、お前がマジなのは解ったから・・・何でも言ってみろよ」
「ごめん・・・大輔」
「いいから、ほれ言ってみろ」
 
             ・
             ・
 
  真一郎たちの傍を駅からの様々な通行人が通り抜けてゆく。
  その間大輔は、真一郎の心の内に真摯に耳を傾けていた。
「そうか・・・ついに決心したか。
 ――――他ならぬ親友の頼みだ、聞いてやらんわけにいくまい?」
  さりげなく真一郎の肩を叩く。
「大輔・・・この恩は・・・」
「あぁ、一生着てもらうぞ」
  冗談めかした大輔のセリフに二人して笑いあう。
「さ、明日の誕生日に間に合わせるんだろ?」
「ありがとう、大輔」
  大輔は黙って手振りで返事をかえす。
 

  次なる真一郎の目的地は・・・・ジュエルショップ。
「(高価すぎるものを贈っても、さくらはあまり喜んではくれないだろう・・・
  これからずっと、二人の記念となり続ける物なのだから―――――)」
 
「いらっしゃいませ」
 
             ・
             ・
             ・
 
翌日・・・・
 
  風芽丘へ向かうさくらを見送って、真一郎はこの決意の原点ともなった
  臨海公園へと来ていた。
  だが、当時の真一郎とは決定的に違うところがある。
  それは彼の心には、もう一点の曇りもないということだった。
 
   真一郎は海岸に向き合い、海からくる風を黙って受けていた。
「やはり、ここだったね・・・・・」
   さくらの姪っ子、忍が小さな体を真一郎と並ばせる。
「まさか、まだ悩んでるなんてコトは――――」
「―――――――」
  忍を見る真一郎の瞳には強い輝きが宿っていた。
  それを短い時間見据えて、忍は晴れ渡る空に視線を移す。
「・・・そうか、答えは――――出たんだ。
 人って・・・何時どうなるか解らないものなんだよね
 私はまだ、たいした時間を生きてきたわけじゃないけど
 ―――――誰もが正しい選択ばかりをしている訳じゃない・・・
 あの時こうしていれば――――なんて、なんの役にも立ちはしないんだから・・・」
  忍はゆっくりと真一郎の後ろから、今とは反対側へと歩いてゆく。
「でも・・・今のあんたの選択は大正解だと思うよ」
  その言葉に真一郎は忍の方へ顔を向けて、笑顔で答えた。
「うん。・・・・・・色々と忍ちゃんにも教えられたからね・・・」
「いらないお節介だったけどね」
  今まで見せたことのない忍の無邪気な笑顔――――。
 
「ちょっと体が冷えちゃった」
「大丈夫かい?家まで、送っていこうか?」
  真一郎は海岸に背を向けて歩いていこうとする忍に声をかける。
「いいよ、遠いから」
「え?・・・あ、そうか」
  忍は一度だけ振り向いて、真一郎に軽く言葉を投げかけた。
「うん。自分の家に帰るの、これ以上いたら確実にオジャマだからね☆」
「じゃ、またね」
「ん―――さくらによろしく言っといて。じゃあね」

  走ってゆく忍の後ろ姿は、あっという間に見えなくなり真一郎の周りに再び
  静かな空間が訪れた。

真一郎は、その手にあるシンプルな色で整えられた小さな化粧箱を開けた。
そこの中には、指輪が一つ。

特に取り留めて言うべきものはない指輪ではあるが・・・その中央に輝く
深い海のようなブルーサファイア。
さくらの瞳と同じ色で輝く宝石を持つその指輪は――――
真一郎の決意の証であった。
 
 
 

―――― 夜
 
 
全ての運命を決める夜
さくらと初めて結ばれた、あの時の様に早鐘を打ち続ける胸
自然と緊張に捕らえられ真一郎の口数が少なくなる。
 
 どうかしたのですか?
 
そう問われるものの、ただ曖昧な笑みでそれを返す。
時計の秒針だけが辺りに響き、この一瞬・・・世界は二人だけとなる。
真一郎のその態度で何か悟ったのか
さくらも次第に緊張を隠せないようになっていた。
 
言わなくてはいけない
二人の時が・・これからも永遠である為に
 
真一郎は立ち上がり、さくらへと向き直る
 
 さくら――――
 
さくらは沢山の言葉も想いもくれた
それなのに、まだ何も応えていないし
何もしてない・・・・だから―――今、言わなくては
 

 さくら
 

 愛してる・・・・・・
 

 ――――――  俺と  結婚してほしい
 

真一郎の手にある指輪をそっと包み込み
さくらは真一郎を見上げた
 

その瞳からは ―――――涙
 
嬉しい ――――――涙
 
 
 
どちらともなく紡ぎ出される言葉・・・・・・
 
 
 
 
       何処までも続く
 
                   この空のように
 
      二人の想いは
 
                     永遠に変わらない
 
    かけがえのない
 
                  あなたがいるから
 

      温もりも安らぎも
 
                     この手の中に
 
    
 世界の誰よりも
 

         あなただけを
 
 
 

   ――――  愛している    
 
 
 
 
 

    遙に漂う波間のように
                                君と永遠を生きよう―――――