題名 献血大会 題名 献血大会(とらハ編)




「はい、コレで良いですよ」
 フィリス・矢沢が高町恭也のテーピングを終え、ニッコリ笑って言った。
 ここは、海鳴中央病院。今日も恭也とその妹、美由希は定期検診のため、ここを訪れていた。
「……いつもすみません」
「そう思っているなら、サボらないで来てください」
 ジト目で恭也に言う。
「……善処します」
「済みません、わたしからもよく言って聞かせますので」
 まるで母親のような口調で美由希が頭を下げる。

「失礼します」
 そんな事をしていると看護婦さんが病室に入ってきた。
「フィリス先生、パンフレットをお持ちしました」
「どうも、ありがとう」
「沢山、来てくれると良いですね。それじゃ、失礼します」
 看護婦さんが去っていく。
「何の話ですか?」
 美由希が聞いてみる。
「今度の日曜日にね、献血大会をやるの」
 そう言って、美由希にパンフを見せる。そこには「献血大会 イン海鳴」と書かれていた。
「……大会ですか」
「ええ。日ごろ興味あっても、なかなかやってみる機会が無い人って結構いるから…
 そうだ。二人とも参加してみない?」
「えっわたし達ですか? どうしよう、恭ちゃん」
「…そうだな、何事も経験だ。先生、お願いします」
「はい、それじゃ日曜日に♪」

「…という訳なんだ」
「へ〜、献血大会かあ。俺も行こうかな」
 その日の高町家の夕飯。話題は献血大会である。
「ウチ等は年齢制限引っかかるから行かれへん」
 レンが塩鮭を食べながら言う。
「う〜、残念…」
「それ以前に、病人は献血しちゃダメよ」
 桃子がなのはの器に、おかわりを入れながら話に加わる。
「桃子はどうする? わたしは恭也達を車で送り迎えするけど」
 フィアッセが桃子に聞く。
「う〜ん、行きたいのはやまやまなんだけど…。お店があるから今回はパス」
 残念そうにうなだれる。
「結局、わたしと恭ちゃんだけか…。那美さんも誘ってみよっと」
「だったら、赤星にも声かけるか」

「献血…ですか」
 お昼休み、美由希は神咲那美とお弁当をつついていた。
「はい、今度の日曜なんですけど」
「どうしましょう…」
 那美はエビフライをくわえて考える。
「献血が終わったら、抽選会もありますよ。1等は温泉ペアチケットみたいです」
 先日、フィリスから貰ったパンフを那美に見せる。
「本当ですね。あっ、結構景品ありますね。良いかも…」
「ですよね。恭ちゃんも行きますし、みんなで行きませんか?」
「分かりました。じゃあ、行きましょうか♪」

 そして、日曜日。フィアッセの車で病院に向かう、恭也と美由希。那美と赤星は現地集合である。
「はい、着いたよ。帰りは電話してね。すぐ迎えに来るから」
「うん、ありがと。じゃあフィアッセも仕事頑張ってね」
「行ってくる」
 回りを見ると、結構人がいる。
「……美由希さ〜ん、恭也さ〜ん。どこですか〜」
「…? 那美さんかな」
「向こうだな」
 声の聞こえる方に行ってみると那美と赤星が二人を探していたようだった。
「高町、受け付けはあっちみたいだな」
「ああ、じゃあ行こうか」
 受付に行くとそこには、
「はい、次の方〜」
 白衣を着た、銀髪でメガネをかけた女性がいた。
「フィ、フィリス先生? 何やっているんですか?」
「あら、どちら様でしょう? 私はフィリスなんて名前じゃないですよ。
 私の名前はエフ。エフ博士と呼んでください♪」
 そう言うと 女性は可笑しそうに笑った。
「えーと、受付、お願いできますか?」
 よく分からないような顔をして赤星が女性に聞く。
「はい、献血手帳はお持ちですか?」
「いえ、今日が初めてです」
「それでしたら、新規作成ですね。少々お待ち下さい」

「はい、それでは、名前が呼ばれたら、検診のほうに行ってください」
「いよいよですね」
 緊張している那美と美由希。誰だって注射は嫌いなものだ。
「え〜赤星勇吾さん。検診3番においで下さい〜」
「それじゃ、行って来るよ」
 まるで緊張していない赤星が検診に向かった。
「次、神咲那美さん、高町美由希さん。検診2番においで下さい〜」
「はっ、はい」
「那美さん、落ち着いて」
 美由希に連れられて那美が検診に向かう。しかし、
「きゃあああ!」
 ドテッ
 何も無い所で転んでしまった。
「だ、大丈夫ですか? しっかりしてください、那美さん」
 美由希が手を貸す。
「平気です…」
 頭を打ったらしく、涙目で答えながら手を取って立ちあがる。
「はい、次の方〜。高町恭也さん、検診5番においでください〜」
「…行くか」

「恭也様、まずは血圧を測定させて頂きます」
 検診には意外な人がいた。
「ノエルさん? どうしてこんな所に?」
 恭也の友人、月村忍の家族であり、メイドでもある女性が机の向こうに座っていた。
「はい、フィリ…、エフ博士から依頼を受け、手伝いをしているのです」
「そうですか…、右腕でいいですか」
「はい、お願いします」
 恭也の右腕を取って、機械で血圧を測定する。
「……。特に異常ありません。次は血液検査です。向こうの椅子でお待ち下さい」
「分かりました。ノエルさんも頑張って下さい」
「ありがとうございます。…次の方」

「高町恭也さん、3番ベットにおいで下さい〜」
 血液検査も終わり、いよいよ献血開始である。
「はい、恭也君。靴を脱いで横になって下さいね」
「…はい、フィリス先生」
「あらあら、私はエフ博士ですよ〜?」
 相変わらず、とぼけるメガネの女性に頭を下げる。
「ええと、恭也君は400mlですね。左腕を出してください」
「どうぞ」
「ちょっと痛いですけど、我慢してくださいね〜」
 プスッ
 恭也の左腕から血が流れていく。それを見ている女性が話し掛ける。
「今日は、来てくれてありがとう」
「いえ…。自分の血が何かの役に立つんですから…」
「そう言ってくれると嬉しいわ…」
 そう言って、何かを考えるエフ博士。
「……わたし達、HGSは病人だから…
 わたし達は輸血を必要としないけど、多くの人のおかげで今、ここで
 生きている。だから、今度はわたしがみんなを助けたい。
 …みんながわたし達を救ってくれたように…」
 そう言って、
「もちろん、恭也君もその一人ですから♪」
 彼女が笑う。
「…お願いします」
「ハイ♪ ですからちゃんと診察に来てくださいね」
「……努力します」

「恭也さん、お疲れ様でした」
 献血も済み、先に終わった那美の元に向かう。
「はい、お茶をどうぞ」
 那美が持参していたポットからお茶を貰う。
「献血した後って水分補給しないとダメなんですよ」
「そうなんですか」
 そんなこんなで美由希達も帰ってくる。
「後は、抽選会だけだね」
「そうだな、じゃあ、俺達も行こうか」

 四人で抽選会場に向かう。
「は〜い、混んできましたので皆さん二列で並んでくださ〜い」
 係りの人が腕を大きく動かしている。
「結構、いるね」
「でも、まだ温泉チケットまだ当たってないみたいですよ」
「楽しみだな、高町」
「ああ」
 そして、恭也達の番になった、
「はい、次のひと〜」
「まずは勇吾さんからどうぞ」
「じゃあ、お先に」
「はい、確認のため献血手帳をお見せ下さい」
「どうぞ」
「…はい、結構です。どうぞ」
 そう言って、箱を見せる。赤星が箱の中からくじを引く。
「十等です」
「は〜い。十等はポケットティシュです」
 そのまんまである。赤星は笑って、
「ありがとうございます」
 とポケットティシュを受け取る。さすが人格者は違う。
「次は美由希さんですね」
「よ〜し、いきます」
 箱の中からくじを引く。
「えっと、五等?」
 カランカラン
「おめでとうございま〜す。五等は駅前商店街の商品券、五千円分で〜す」
 鐘を鳴らす係りの人を信じられないといった表情で見ながら
「あ、ありがとうございます」
 と美由希は商品券を受け取った。

「良かったね、美由希ちゃん」
「あはは…」
「次の方、どうぞ〜」
 那美の番である。
「がんばってくださいね」
「はい、がんばります」
 くじを引くと、
「……六等…?」
 カランカラン
「おめでとうございま〜す。六等は湿布薬一年分で〜す」
「……はい?」
 何が起こったのか分からない那美。追い打ちをかけるように、
「後で、お家の方にお送りますので〜」
 イヒチオールと書かれたダンボール箱にマジックで「神咲那美様」と書く係りの人。
「ううっ」
何て言ったらいいのか分からない一同。
「つ、次は恭ちゃんだね。早く引いて」
「そうだな」
 恭也がくじを引く。
「……」
「何等だ、高町」
 赤星が覗きこむ。
「……四等だ」
 カランカラン
「はい、四等はなんとマッサージ券十回分で〜す」
「マッサージ券…ですか」
「はい、海鳴中央病院ナンバー1の先生による全身マッサージです〜」
「……それってまさか…」
「ええ、わたしのことです♪」
 笑顔でフィリスが現れる。
「恭也君、楽しみにしててね」
 本当に楽しそうに笑う彼女に恭也はただ、
「……お願いします……」
 頭を下げることしか出来なかった。

 数日後。
「……ぎゃ〜〜〜……」
 海鳴中央病院に恭也の叫びが木霊した。

終わり


後書き

 どうも、mop3です。
 今回の話は献血中に思いついたものです。
 これを読んで献血に行ってもらえればとても嬉しいです(笑)。
 感想などありましたらメールでお願いします。
 では、またの機会に。
mop3