あなたが悲しくないように ―完全版
作者のより楽しみ方(?)
BGMにゲーム銀色の「銀色の風」とか、
もしくは、ONEの「雨」みさおソングとか、
それが無いなら、とらはのしっとりさんな音楽を聞くと
よれ一層お楽しみ戴けますm(_ _)m
――――――わたしは、幸せです…たとえ一人だとしても…幸せなんですよ――――――――――
『彼女が悲しくないように』
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酷く懐かしい夢を見た、
今では遠い昔の事で、
でもついこの間の事であったようにも思える、そんな日の夢
わたしがまだ少年で、そして彼女も少女だった頃の夢
親しい人達がまだ若くて、生きていた時代の夢
懐かしくて忘れがたい、彼女の誓いと想いの言葉の夢
『…先輩』
夢の中、ひさかたぶりに彼女は自分の事をそう呼んだ。
ふと思う
…そう呼ばれていたのは一体いつのことだっただろうか?
そしてそう呼ばれなくなったのは?
少し頭をめぐらし、記憶の糸を手繰る。
思った以上に鮮明に脳裏に蘇える記憶に
少し笑みがこぼれる。
自分の頭はまだ耄碌してはいないようだ。
春、夏、秋、冬
季節の移り変わり、
重ねてきた歳月、
時の流れ…。
…そして今の自分がいる。
寄り添う人の気配に夢の中の自分は少しずつ覚醒してゆく。
「…さくらかい?」
寝起きとはいえど酷くぼやけてしまった視界は彼女の表情を曖昧なものにしてしま
う。
けれども聞かなくともそれが彼女だということがわかる。
長年連れ添った相手のこと、
雰囲気や気配だけで何をしているのかわかるから
今は、ちょうど窓を開いて空気の入れ替えをしている。
「起こしちゃいましたか?」
少し申し訳なさそうにさくら
「いや、ちょうどいま目が覚めた所だよ」
身体を起こそうと、両腕に力をこめる、
・
・
・
…ベットの上でうねっているようにしか見えないだろう自分が少し恨めしい。
すっと背に回される手が、苦労している自分を手伝ってくれる。
自然に、何を言うでもなく、
「…ありがとう、さくら」
「いいえ、あたりまえの事ですから」
優しく、そして、幸せそうに微笑むさくら、
その様子は嬉しくもあり…
………。
先ほど開いた窓から、暖かく柔らかな日差しと穏やかな春の風が流れてくる。
何気なく外を眺めると、
窓の外に、もうほとんど散ってしまった桜の木々が見て取れた。
緑の葉と桜の交じり合った、葉桜は、それそのものもまた風情のあるものに思えて。
“ほうっ”とため息が漏れていた。
「真一郎さん桜の木、綺麗ですね…」
「ああ、そうだね」
かたわらで葉桜に見入る彼女の横顔を眺める。
初めて出会ったあの日から、
共に歩く事を誓い合ったあの日から、
普通の人よりも少しだけ長い時を一緒に生きてきた。
彼女はほとんど変わらない。
その理由は知っているし、納得してもいる。
それでも少し羨ましいと思う。
妬んでいるわけでも無く煩わしく思うわけでもなく、
ただ、少し羨ましい。
…いや少し違うか。
寂しくて。
悲しくて。
悔しいのだろう。
どうしてもさくらよりも早く老いてしまう自分が。
どうしてもさくらよりも早くいなくなってしまう自分が、
いつまでも一緒にいられないことが…。
伏せる事が多くなってきている。
最後に外に出たのはもう数年以上も前。
起きている時間は少なくて、
どれほど眠っていても、
体の真に僅かにくすぶる、
重さが消える事はない。
眠りの中で、夢を見ることなく、
ただ眠りつづける日々
残された時間がもう僅かしかない事がわかる。
気がかりは残して逝くことになるさくら
これからも続いていく彼女の人生の事
残される人の気持ちがわかるから。
ずっと昔、自分も感じたものだから
あの時私にはさくらがいてくれた。
だけれど、さくら自身には…。
その時が来たとき、
さくらはどれほど悲しい思いをするのだろうか…
「真一郎さん、どうかしましたか?」
少し私の様子に気づいたのだろう、さくらが私の瞳を覗きこむ。
青い瞳に老いた顔が映っていた。
こいうときは、
言葉の要らない関係というのも少し厄介なのかもしれない。
今思い浮かべていた多くの事を胸の奥に仕舞う。
さくらが不安にならないように…。
「…夢を見たよ」
「夢?」
「うん、さくらとはじめてあった頃の夢をね」
「そうですか…懐かしい…ですね」
「憶えてるかい?」
「はい、忘れてませんよ…」
廊下でぶつかった、何気ない出会いの事、
知り合うきっかけになった保健室での事、
図書館で一緒に食べたサンドイッチの事、
自分もさくらも思った以上にいろんな事を憶えていて、
だからこそ、どれもが大切な思い出なのだと確信する。
「…さくら」
彼女が悲しくないように、
どうすればいいのか答えは出ないけれど、
「…花を見に行こうか」
またひとつ思い出を紡ごうと思う。
「花見…ですか?」
残された時間は少ない。
「ああ、桜は散ってしまったけれど、桜だけが花見ではないから」
だけど、
「いまからですか?」
…だからこそ、
「い、嫌かな?」
いまこの時を大切に生きていく…
「いいえ、嬉しいです。」
願わくば、
「じゃあ、少し起きるのを手伝ってくれるかな?」
この大切な時間が、少しでも長く続きますように。
「はい」
彼女が笑顔でありますように
…願わくば、
いずれ訪れる別れのときに
彼女が悲しむことがないよう…
――――――わたしは、幸せです…たとえ一人だとしても…幸せなんですよ―――――――――
―――――――――――――二十年後
穏やかな木漏れ日
優しい、春の風
わたし以外、誰も居ない墓前
花束をそっと捧げる
「…桜じゃ無いですけれど
許してくれますよね?…真一郎さん…」
……時が流れました
あの日、桜を見て少し…
ほんのしばらくの間あの人が少し元気な日が続いて
そしてあの人が永い眠りについてから……
まだ時間はあるんじゃないかってそう思い始めたそんな……
……そんなある日
空が綺麗な日のことでした。
「…さくら外に出ようか?」
その日、また真一郎さんが外に出ようと、そう言いました。
―――予感
確かにそれがありました。
とても、悲しい予感
解ってしまったんです。
…いえ、本当は
解っていたんです。
―――その時が来てしまったということ
歩くことすら出来ないほどに
弱々しくなってしまったあの人
外に出る
ただそれだけ
たったそれだけの行為なのに
まるで永遠の様に
酷く長い時間
ただそれだけの間にも
滑り落ちていくあの人の命の雫
永く永く感じる時間
でも本当に僅かしかない時間
今にも尽きてしまうよう
それすら燃やし尽くしてしまう様に
肩を貸して
引きずる様に
それとも、引きずられる様に…
辿り付いたのは
あの日見た葉桜の樹の根元
荒い息
苦しそうな溜息
そして―――
「…さく…ら」
途切れ途切れの声
何かを伝えようとする声
もっと寄り添って
その声を聞くために
聞いてしまったらもう後戻りできないその言葉を待って
「今まで…ありが…とう…」
本当は聞きたくなんかなかった
聞けば終ってしまう
そんな、そんな恐れがあったから
聞いてしまったら、今この僅かな時さえ
無くなってしまうと思ったから
「永い…間…考え…てた」
一言一言紡がれる言葉
それが確かに、この人の命を奪っていく
ただそれだけの事が命を奪っていく
儚い人の命
だけど、それでも、
言葉を紡ぐ貴方
「この…いつか来る…別れの…こと…」
命の違い
生きていく時間の違い
わかっていた事、二人で納得していた事
この別れのこと
また大きく息をついて
どんな時が流れても
今、君を好きでいたっていうこの事実は変わらない。
たとえ誰も覚えてなくても
さくらを好きなこの気持ち
ずっとずっと残ってる
誰も覚えてなくて
誰もが忘れてしまっても、
今
俺が
君を
好きだと言う事
今
俺が
君と
好きあってたって事
―――愛しているということ
たとえ、死が二人を別つとしても
それは確かな真実だから
それが一番大切な事だから
だから、俺がいなくなったら、俺のこと忘れて良いよ
俺のこと忘れて、新しいさくらの幸せ考えても良いよ
さくらが笑ってくれると、俺も嬉しいから
さくらが幸せで笑っていられるなら、
俺も幸せだから
…………ね、さくら?
途切れ途切れの言葉
何度も支えながらあなたが伝えた言葉
わたしを、わたしの為だけに伝えてくれた言葉
とても残酷な言葉
涙が…流れている事に気づいた
それはたぶん…貴方が外に出ようって言った。
その時からずっと涙が流れていたもの…
…………。
「…真一郎さん…?」
ちんもく
「起きて…ください…ね…?」
何よりも恐ろしい沈黙
「ほら…?わたしを騙そうとして…
もう、だめですよ…ねぇ?」
何よりも恐れていた沈黙
「真一郎さん…ねぇ?真一郎さん、起きてください…」
何度も、何度も、
名前を呼んで、気づいているのに気づけなかった。
解っているのに認められなかった。
死を――――
いつまでも、いつまでも、泣きながら
いつまでも、いつまでも、名前を呼びながら
いつまでも、いつまでも、そこに居た
その時以来、私の涙は枯れてしまったのだと思う
「…それじゃあ、また来ますね…」
永い間、墓前に立ち尽して
ずっと向こう、ここには無い、あの人に語り掛けて
そして、背を向けた
さくらが幸せで笑っていられるなら、
俺も幸せだから
…………ね、さくら?
…ふと、声が聞こえた気がして、
立ち止まる
何も、変わらない、墓の前
「――――――わたしは、幸せです…たとえ一人だとしても…幸せなんですよ――――――――――」
そう呟いて返した
涙は…流れなかった。
<届かなかった言葉>
―――でも、
――――もしも、
――――そうもしも、
さくらが幸せになれないのなら…
<また少しの時>
ある日のこと
そんな日のこと
病院、
その白い壁と透明な硝子の向こう
高い大きな泣き声
新しい命の息吹
「さくら!産まれたみたい!」
忍の声、
聞かなくてもわかってるのに、
そんな大声
いつもと違って慌ててる
何人子供を産んで、何度もこんなときに立ち会ってるのに、
慌ててる、
なんだか微笑ましい。
クスッ
微笑ましく思えて…笑う。
自分の新しい孫が生まれるのだから、嬉しくて仕方ないのはわかるのだけど…
隣の父親の方が落ち着いていると言うのは、なんだかほんとにおかしい
「忍お嬢様、もう少しお静かになされた方がよろしいかと思いますが…」
「も〜なによ、ノエル…初孫じゃぁないけど、末の娘がやっと作った孫なのよ?」
「それでも、騒がしいのは、やはりご迷惑になるかと思われます。」
「ぶ〜〜」
ノエルと忍のやり取り、
変わらない様子を見るのはとても安心できて…
「御二方が大叔母様を
…さくらお嬢様を中でお呼びです」
大叔母と言うのは忍の孫達がわたしを呼ぶ時の
愛称として親しまれている呼び名
初めそう呼ばれた時は少々複雑な気持ちを抱いたものだけど
今ではそれほど悪い気持ちもしていない
…それでも、抵抗はあるのだけれど
「わたしを…?」
「はい」
「私は?このお母様をお呼びしてないのぉ」
「いえ…お呼びしておられました」
「何故に、私を後に回すの」
遺失工学、
かつて失われた一族の秘儀、
永い時をかけて忍はそれを蘇えらせて、
今ではその技術はかつての全盛期以上だともいわれている
その最も足るノエルは
本来エーディリヒ式には無いとされる心を持つに至っている
少々冗談が不器用なのは、彼女自身の性格なのだろう
不満そうな忍の声を背中に
生まれたばかりの赤子を抱く
今日、母親となった少女のもとに行く
火がついたみたいに泣き声を上げる
その新しい命
それを抱く、姿
ドクン
――――――なぜかひどく―――――せつなくなる。
ドクン
―――――――しあわせなひょうじょう
ははおやとしてのひょうじょう――――――――――――
ドクン
――――――――いとしい――――――――きもち―――――――
―――え?
なんだろう?
このかんかく――――――。
「…大叔母様…大叔母様…!!」
「…あっ、ごめんなさい、ちょっとぼうっとして…」
「大丈夫ですか?」
心配させてしまう
もう少し、しっかりしないと行けないのに
少し、疲れているのかもしれない
「大丈夫、よ、少し――安心したせいだから、それで…なんの話だったかしら?」
「…もう、しっかりして下さいね綺堂の大叔母様」
「ええ、も一度、お願いね」
「私達、今まで大叔母さまにお世話になってきました、
だから、この子の名付け親になって欲しいんです…お願いできますか?」
「わたしなんかよりも、忍じゃなくていいの?」
「二人で前から決めていた事ですから」
彼女からその子を受け取って愛子(あや)す
すると…
「…泣き止みましたね」
「…ふふ、大叔母さまの事気に入ったみたい…」
小さな手
柔らかくて、甘栗色の産毛
「…この子、男のこね…」
名前をつける
生まれて生きて百と数十年
実は初めての体験
この子の名前――――――か―――
その時こえがきこえた
確かに聞こえた
声
心に届いた
こえ
さ
く
ら
――――――――さ―
―――――――――――く―――――――
――――――――ら―――
―――でも、
――――もしも、
――――そうもしも、
さくらが幸せに成れないのなら…
―――たとえ、
死の顎が俺を飲みこんだとしても
――――――――――たとえ、
この命が尽きたとしても……………
いとしさと
うれしさと
せつなさと
よろこびと
言い現せないくらいの無限大の感情
わたしという器を満たして、
それでも溢れ出すいっぱいの――――
「…大叔母様?」
彼女の声
「さくらーどうかした…え…?」
入ってきたばかりの
忍の…
ノエルの…
みんなの…
戸惑った声
聞こえるけど
――――――――――――ただ
――――――――――――――――涙が――――――――――――――
帰って来てくれた
ただ帰ってきてくれた
約束を守ってくれた
あなたはいつも私をこんな風に―――――
凍った涙をとかすみたいに―――――――――
こんなに一杯の想いを――――――――――
みんなが慌てている
戸惑っている
私だけに届いた
あなたの言葉
死の顎すら越えて
届いた言葉
なら、決まっている
「―――――――この子の名前は―――――――」
あとがき
・・・てなわけで、あとがきです!
さて、神坂がはじめて書いたSS第三段ですこれ
ま、書いてから一年近いかな〜?って時間が経っていますし
大幅な加筆修正が加えられていますが。
色々と、思い出深いSSでもあります。
とあるHPのSS勝負、読者投票で一位をとったヤツでもあるしね〜♪
本来このSS、真一郎の物思いだけで終わるモンでした。
実際、当時、それで終ったままの作品でしたし
しかし!
これに対するここのHP管理人由樹氏の意見
・・・え―っと、正確には忘れたけど
ハッピーエンドじゃない、悲しいだけの話はとらハっぽくないと言うセリフ
・・・え??言ってない??
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
んーそう言えば言ってないかも・・・
ま、まあとも書くそれっぽいコメントを頂き
神坂の脳はそうコメントを認識して、この作品を書き上げちゃったのデス
こつこつと、暇を見つけては、切ない系の音楽聞きながらね。
で、出来たのがこのSS、
どんな感想が来るか楽しみ―です。
・・・こない可能性はメチャ高いが・・・
出来ればなんでも言いから感想ください
罵倒でも、忠告でも、励ましでも
誉め殺しでも、ラブコールでも構いません。
お願い下さい・・・てゆーか、くれ
実際感想と言うものはSSなどを書くうえで重要な栄養剤で、起爆剤
なので、だから、凄い、とか面白い、とかの短い一言でも言いから
感想メールをくれるとどんなSS作家でも嬉しいのです。
なので、面白いと思ったら、そのSSを書いた作家さんに
感想メールを送ってあげましょう
もちろん神坂にも
・・・いや、面白くねぇ、とか言われたら終るんだけどね・・・(T−T)
でも、ウィルスとか、嫌がらせ、誹謗中傷は止めようね?
・・・で終る。
以上
「そんなに感想欲しいのか、お前って感じの、神坂真之介でした」
由樹より 追加後書き(?)
神坂さんSSありがとうございますm(_ _)m
でも「ハッピーエンドじゃない、悲しいだけの話はとらハっぽくない」
なんて、言いましたっけ?(苦笑)
う〜ん、忘れてますねぇ(笑)
感想が来なかったら
それは、単純にこのページの集客力が薄い所為です(TдT)
ええ、お客少ないですよ(自爆)
で、簡単に感想……
忍の孫ですか……
って、事は
4親等……
結婚できるじゃんΣ( ̄□ ̄;)<たしか(笑)
さすが、真一郎(だよね?)
狙いが良いなぁ(笑)
忍の子じゃ駄目だもんね<これもたしかです。はい(笑)
しかし、
七瀬の所為か……
とらハは簡単に転生しそうなイメージがありますね(笑)
神坂さん、
シリアスが少ない。私としては、ありがたいSSです(笑)
随分 悩んだみたいですね。お疲れ様でした。
次回も出来ましたら下さいね♪(笑)
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