〜 a piece of "a story"...

#9 Yuki

風が吹き、雨が降り、そして、冬には雪も降る。
大きな変化もなく、ただゆっくりと時を刻む土地。

そんな誰も立ち寄らない湖の、更に奥底。
其処に厚い氷に閉ざされた空間がある。

本来生物が存在し得ないはずのその場所には、1人の少女が眠っている。
冷たいはずの氷が、暖かく、少女を包み込んでいた。

夢でも見ているのだろうか。
時々、少女の口元には笑みが浮かぶ。
柔らかな、そして優しい笑み。

「雪さん……ほら、花吹雪だ……」
「……綺麗……」

少女の夢の中で、少年は優しい微笑みを浮かべた。
今となっては、決して浮かべることのない表情を……

「うふふふ……」

その夢に連られてか、少女の表情に、笑みがみるみる広がっていった。
口元だけだったものが、顔全体に。
そして、全身に……

とくん

不意に、小さな、しかし確かな鼓動がその場に響いた。

とくん

定期的に鼓動する、新たな生命。
それに呼応してか『なにか』が身じろぎ、水面が微かに揺れる。

それは歓喜のようで、思索のようで……

「……真一郎、さん……」

在りし日の日々を夢に見ながら、少女は眠りつづける。
約束の日を夢見ながら……

To be continue...
かけら #9 Yuki かけら