〜 a piece of "a story"...
#6 Hitomi
さわやかな風が吹く草原。
日差しは柔らかく、一面の緑も、また優しい。
(……最高の日和ね……)
そんな草原の中を、憂鬱な表情で1人佇む少女の姿があった。
(……こんなに最高な日和なのに……どうして悲しいのかしら、ね……)
長い髪をなびかせながら、少女は目を閉じて空を仰ぐ。
脳裏に浮かぶのは、過去。
全てが終わった、そして全てが始まったあの日のコト。
去っていった少年の後ろ姿と、止められなかった不甲斐ない自分自身。
その時感じた、痛いまでの悲しさと切なさ。そして、後悔の念。
(…………)
溢れそうになる涙を堪えながら、少女は何かを固く決意していた……
少女が背後に人の気配を感じたのは、丁度、目を開いて、視線を空から足下に落
とした時のこと。
それに反応する前に、密やかな足音が少女の背後で止まる。
「こんな形の再会でも……それなりに嬉しいものね」
薄く微笑みを浮かべながら、少女がゆっくりと振り向くと、そこには……静かに
佇む少年が1人。
「お久しぶり、相川君」
「……千堂さん、か……」
麻痺した心……
それは痛みを感じない心……
そして……なにも感じないまま、ただ、壊れていく……
少女は、少年の心がそうなる前に、なんとかするつもりだった。
幸いなことに……希望は、まだ、ある。
そう、こんな呼び出しに応じる少年ならば……
「元気、かしら?」
「……それなりには」
少しの躊躇の後、ゆっくりと答えを返してくる少年に対して、少女は姉のような
笑みを浮かべる……そう、かつてそうであったように……
「そう……よかったわ」
それでも、少年の表情は変わらない。
現れた時と幾分も変わらず、ただ、無表情。
少女には、それは悲しい事実だった。
「……ああ、そうそう、唯子ちゃんも小鳥ちゃんも元気にしてるわよ」
2人の名前が出た途端、ホンの少しだけ、そう、注意してみていないと解らない
程度ではあるが、少年の身体が揺れた。
「……そう、か……」
そして、ただそれだけを呟くと……若干顔を伏せ気味にし、視線を右方向へずら
す……
少女は、その様子を見て、少年が何かに耐えているように感じられた。
数分の沈黙。それを先に破ったのは少年だった。
「それで、何か用が、あるんじゃないんですか?」
既に様子は元の通り……
そして……先ほど以上に『色のない』声……
(なんて……感情のない声……もう、こんなに……)
その声に、少女は痛みを覚える。
だが、それを表面に出すことは出来ない。
痛みを堪えながら微笑みを浮かべ、少女は本題に入った。
「戻って来て、って言っても無駄でしょね……」
「……」
少年からの反応はない。だが、それは予想されていたこと。
だから、少女はそのまま続ける。
「それでも敢えて言うわ。もういいでしょう? 帰って、きて……よ……」
万感の思いを込めて放たれたその言葉。
しかし……間髪入れずに返された言葉は、拒否、だった。
「話はそれだけか?」
「!!」
少女の一瞬の躊躇。
「ならば……行く……」
それを見逃すはずもなく、少年は歩き始めた。
「まって!!」
少女は去りゆく少年にそう言葉を放つ。
効果を期待していなかったその言葉は、少年の足を止めるコトに成功する。
「……語る言葉は……もう……なにも……ありませんよ……」
そして紡がれる別れの言葉。
(!?)
少年は急ぐ様子もみせずに去って行く。
少女はただ、それを見つめるだけしか出来なかった……
(……まだ、時間があるのかも知れない……)
それでも少女はそう思った。
効果のないはずの言葉に、足を止めた少年を思って……
To be continue...