〜 a piece of "a story"...

#4 Sakura

太陽は必ず昇り、そして必ず沈む。
つまり、朝が必ず来るように、夜もまた、必ず訪れる。

夜は……今の少年にとっては……自らの時間だった。


疾走する影。
時折響く鋭い金属音。
怒号と悲鳴。

街中に溢れる硝煙と血肉の芳香。
振るわれる度に血煙を上げる鋼鉄の刃。
無数に散っていく、かけら達……

それでも街は表面上の静けさを保つ。
まるで、すべてが夢幻であるかのように…


ふと空を見上げれば、満天の星達。
そして、月。
月は常に表情を変え、街を、すべてを、ただ、見守る。

今宵は満月。
天空に光り輝くはそれは、いわば巨大な宝石。

宝石から放たれる光が、その場を包む。

劇場は公園。
すべり台が踊り場。
観客は辺りの木々達。

これで舞台はすべて揃った。
ただ…
舞う演目だけが、決まっていない…


劇場に足を踏み入れた少年を待っていたのは、1人の儚げな少女だった。
「…先輩」
「……そろそろ、現れる頃だと思っていた……さくら…」
その少女は…大切な友人、だったひと。
…今は……今では………
(なんだろう、な…)
少女に対する思いは複雑すぎて、少年自身にも明確になっていないようだった。
だから、その場に、ただ、佇む。
何もしない。
聞くことも、見ることも、視野の中を意識することも…
少女の存在を、ぼんやりと感じる、ただ、それだけ。

一方少女の方も、何か口に出そうとする度に躊躇してしまい、結局何も言葉を発
することなく、静かに少年を見つめ続けた。
…ただ、少年とは違って、その姿にも強い意志が感じられた。
強い…そう、とても強い……しかし、脆くて儚い意志を…


時は、優しく静かに、そしてゆっくりと流れていく…


数分…あるいは数時間…
…短くも長い、それでいて心地の良い沈黙の時間。
そんな沈黙を破ったのは、やはり少年だった。
「…そろそろ、行く…」
「そう、ですか…」
少年の言葉に、少女は残念そうにそう答える。
…何かを伝えたくて…再び躊躇し…手を伸ばし掛けて…更に躊躇する…
そうしている間にも、少年は少女の目の前から遠ざかっていく。
結局何1つ、言葉に出来ないまま…
(…そんなのイヤ…)

不意に、温かくなる少年の背中。
(さくら…)
歩みを止めた少年に、背中越しで伝わる少女の想い。
そして…呟く声…
「…先輩は先輩です。今までも、そして、これからも……」

少女が離れると、少年は再び歩き始めた。
それを見るのが辛くて、少女は天上を…月を仰ぎ見る。
月明かりに少女が映える…

(いい夜だ……)
少年の呟きは、闇の中へと、ただ飲まれていく。
そして、少年自身をも、闇はどん欲に飲み込んでいった。
後に残るものは、なにも、ない…

To be continue...
かけら #4 Sakura かけら