〜 a piece of "a story"...

#3 Kotori

陽が傾き始めたことに気付いてから、すでに数時間。
光の色は、次第に朱みを帯び始め…辺りすべてに朱色のフィルターが掛かる。
(………)
少年が佇むこの場所でも、陽の光だけは変わらない。
変わるはずもない。
もしも変わるとすれば…それは心による意識の投影だろう。
今の少年の心は、無色。
景色を変える程の意識の投影は、事実上不可能だった。

やがて、世界が朱に染まる。
朱い光…それを今の少年が目にするのは、滅多にないことだった。
まして夕日を眺めることなど、あの時以来、失った行動のはずだった。
そう、あの時に…

朱い…澄んだ光が、高台を満たす。
すべての物音がなくなり、静けさと言うより寂しさが辺りに漂った。
「しん君……帰って、来るよね?」
それは、敢えて聞き逃した言葉。
聞いてしまったら、答えないでいることは出来そうにない台詞。
だが、幼なじみの少女に、嘘はつきたくなかった。
それに…たとえ黙っていたとしても…その少女なら表情と雰囲気だけで解ってし
まうだろう。
だから、聞き逃した。
聞こえない振りをしていれば、振り向く必要もない。
まして、足を止める必要も…

(今も、待っているんだろうな…)
その推測はほぼ間違いなく正鵠を射ている、少年はそう思う。
夕日を背にしながら、ただ少年の帰りを願いつづける少女の姿…
少年は、そんな光景を容易に思い浮かべられたから。
そして…その光景は、少年の心に暖かいものを呼び覚ます……
(…相変わらず要領の悪い奴だ…)
自嘲気味に、心の内で囁く少年の気持ちの中には、今だ捨てきれないものに対す
る親しみと苛立ちが駆け巡っていた。

もはや戻れないと信じている少年にとっては不用であるもの。
本来の少年が何よりも大切にしていたもの。

それらは完全に一致していて、それに気付かされる度に少年の心は引き裂かれた。
柔らかに…優しく…しかし、確実に壊れていく心…
(壊れきってしまえば、楽になれるんだろうな…)
少年は思う。
それと同時に、少年の心奥底に色が宿る。

『真紅』

すべてを焼き尽さんばかりの炎の色。
それは、安易な自滅を望んでいない、強固な意志の具現。
すべて一つの目的のため。
そう、なにもかもが…

そして、夜になる…

To be continue... かけら #3 Kotori かけら