〜 a piece of "a story"...

#1 Shin

ヨーロッパ中央部ルーマニア。

幻想と現実が交わる場所。
吸血鬼の故郷。

トランシルヴァニア。

少年は、闇の中、そこに在った…


「…我が同胞…すべからく葬りしは…やはり汝か…」
初老…そう、声に反して初老に見える男は、その嗄れた声でそう呟いた。
いや、目の前の気配が希薄すぎる少年にそう尋ねたのだろう。
だが少年は答えない。
その沈黙を肯定とみたのか、初老の男は問いを重ねる。
「……なにゆえ…? 我らは…汝に敵対した憶えなど…ないはずじゃ…」
「…雑草を間引くのに理由が必要か?」
なんら感情を感じ得ない声。
肯定も否定も、拒否も許容も、嫌悪も歓喜も、束縛も解放も、善も悪も……
厭世感や…義務感すらも感じられない『ただの音』
それが『今の』少年の声だった。
「…少なくとも…汝には…必要だったはずじゃ…」
少年は答えない。
ただそこに佇むのみ。

「老……ここは我らに…」
不意に、そう、まさに不意に、初老の男を気遣う声が聞こえたかと思うと、少年
の前に十数人の影が立ちふさがった。
「……まだ残ってたのか」
ぽつりと呟く少年。
今度は、一瞬だが感情を感じられた。
その感情は…落胆。
もっとも、残念と言うより、面倒の意を感じる、そう言う落胆。
「…最新型…それも戦闘用…か……よくぞここまで…」
少年とは対照的に、男は感慨深げにそう呟く。
「…老。お早めにご退去下さい。我らが、奴を碎きます。」
「無駄じゃよ……」
男はそう言いながらも、この場から遠ざかるように歩みを進める。
「…また、後で、な…」
音とも思える少年の声。
男は内心を努めて隠しながら、少年にこう答えた。
「……そうじゃな……また、後で、じゃ…」

男がその場から去っても、しばらくはなにも起きなかった。
少年も、後から現れた影も…なにも、そうなにも行動を起こさない。
静かに、ただそこに、在る。
「……老は行ったな…クックックッ…もはや、我らを止める者はない!!」
やがて、先ほど男に話しかけていた人影がそう叫ぶ。
そのシルエットは、明らかに人の形ではない。
生物の形ですらないだろう。胸からドリルの生えた、金属の光沢を持つ生物など、
存在するはずもないのだから。
「さぁ、殺戮の時間だぁ!! ひ弱な人間を切り刻め!!」
歓喜の表情、愉悦の声。
その言葉は、仲間達以上に少年へ向けて放たれたのだろう。
が、当の少年の表情に変化はない。
ここへ来たときと、全く変わらない顔をして、その場に佇んでいる。
「…どうした? 恐怖で声もでないか? くっくっくっくっ…」
ふと、少年が顔を伏せる。
「ゴタクはいい……来いよ、ガタクタ」
「!!」
色めき立つ、影達。
「こっ、殺せぇぇぇぇぇ!!」

そして、殺戮が始まった。
一方的な、美しくさえある殺戮が…

数分後、その場に佇み事の出来たのはただの一人。
「………まだ、まだ、か…」
その一人、つまり少年は、床に転がる残骸を眺めながらそう呟くと、先ほどの男
が向かっていった方へと歩き始めた。
その歩みに淀みはない。
機械的に、ただ、歩く。

(いつか、たどり着くことが出来るのだろうか…)

そう考える彼の表情に、感情は、無い…

To be continue... かけら #1 Shin かけら