(うちは知らんかった… 涙がかれるほど悲しく思える事がある事を…)

  

雨(涙)



(ティオレ先生が亡くなったのは
 クリステラソングスクールの恒例チャリーティコンサートが終ってちょっとした時でした)

その瞬間から、フィアッセは気が狂ったように泣き崩れ、恭也が自然にそれを慰める事となる

「恭ちゃん……?」
そう、美由希が後ろから、声をかけ手を方に乗せた瞬間
バシッ!
その手を恭也は払いのけ
「なんだ!?」
「あ……ごめん……」
そう美由希が言うのが精一杯だった
「師匠、荒れてますね」
「しょうがないのよ、それだけの事が起ったし、まだ続いているんだから……」
親しい者の死がその人のみならずその空間までも変えていく……
結局、恭也をそっとしておく事しか出来ず
また、さらに辛いであろうフィアッセは恭也に任せるしかなく
ティオレと言う世紀の巨人は特にこの二人の心を壊し続けた

「お母さん、また……」
なのはがそう言って玄関口より、歩いて来る
何所で聞きつけたかと思うほどに、
亡くなって一日でクリステラの財産について代わる代わる誰かが来るのだ
桃子も最早言う事すら出てこない
「あ、俺も行って来ます」
「おととい、きい」
レンが今日七人目の来訪者を叩き出した後に救世主(椎名ゆうひ)は現れた




「師匠をフィアッセのボディガードとして、イギリスに送る?」
「そうや」
「何時の間にそんな事決まったんだ?」
「お前が門番変わってくれた時」
「お前、知ってて俺と変わったのか?」
「今ごろ気が付いたのか? このお猿」
「てめぇ」
「そうでもしないと、どっちも壊れちゃうよ……」
そう言うと、いつもの喧嘩もすっと止まる
ゆうひが持ってきたのはお葬式と称した、気ばらし(デート)それに一縷の望みを託して




すこし広めの教会で、世紀の歌姫と呼ばれた人が横たわっている…
もう、2度と起き上がることはない人が……



「ねぇ、フィアッセは?」
「さぁ? 何所かでまた泣いてると思う……」
「仕方ないよね……」
「うん……」
ゆうひの期待は淡く打ち砕かれ
フィアッセはイギリスでも泣き続けてる……
もう2度目覚める事の無い人を思って……


そのゆうひもお葬式に向けソングスクール一同と準備に追われている

天気のいい昼下がり
「ゆうひ! ゆうひ!」
激しく呼びたてられて、振り返る
「あぁ、なんや?」
何時もの見なれた顔がそこにある、共に学び、親しんで来た物が……
「なんや? じゃ無い! って、あんた……」
その表情は酷く蒼ざめて……
「ああ、これはな、ちょっと寝つきが悪かっただけなんよ。心配するほどの事はあらへん」
「はい、これ」
そう言ってダンボール箱を手渡す
「お?」
「それを持って、向こうに行って少し休憩しなさい」
「でもな」
「はいはい、少しは休む人居ないと、私がサボれ無いんだから、行った行った」
「ほいほい♪」
(ふぅ…… ゆうひもフィアッセも気にしすぎよ
 お年とお体考えたら先生がこうなる事はわかっていたでしょうに……)



そっとたたずむ人隣…
広い地平線が見渡せる場所で、その人は待っていたのかもしれない
ただ、現れたのは待ち人ではなかったが……
「恭也くん…」
「ゆうひさん…」
(うわ、顔色悪… まぁ、フィアッセがあんなんだからしゃあないか…)
(ゆうひさん、顔色悪いな。まぁ、仕方ないか…)
自分の事を棚に上げゆうひはゆうひ、恭也は恭也で相手の事を思いやる…
その雰囲気がこの場で語る言葉を変えさせる
「恭也くんは、こんな所でなにしてん? お姉さんを待っとんたんか?」
「ゆうひさんこそ」
「うちか?うちがサボらんと働き者達がサボれへん用なのでサボリや」
と、ゆうひが微かに笑みを浮かべる。久方ぶりに笑った気がした
「恭也くんの番や」
「は?」
「なんでこんな所におるか」
「ええと、美由希と一緒にお葬式に出ようと思いまして… でもじっとして居るのもなんでしたから…」
「そっか… うちな、泣かれへんのよ」
(なんでうちはこんな事話ているんやろ)
そうは思っても止まらない
言葉が
聞いてわかって欲しい想いが
のどを次々と押し上げる
「ティオレ先生が亡くなって、そう聞いた時も、今も、なんでか泣かれへん。
 ティオレ先生が言っていた「どんな心も感じられるように何時も心に新鮮さを」
 うちは……うちは……守れてへんのやろか」
「悲し過ぎると泣けないとも言います……」
「それは違うと思うん…… 現にフィアッセはおお泣きしとる」
「俺もね、父さんは死んでないと思うんです」
「?」
唐突に切り出された言葉は[それ]だけではゆうひにはわからない
でも、それが大切な言葉である事はわかる
「父さん自身は、この剣に今も居て」
そう言って恭也は誇らしげに剣を二振りゆうひに見せる
「そして、父さんは美由希に受け継がれていく…… そう思うんです」
「そっか……」
何と無く今のゆうひにはそれが[良く]わかった
「だから、だから、きっとゆうひさんの胸にもティオレさんが……」
そう言って恭也はにぎり拳でゆうひの胸をぽんっ♪と叩く
突然胸を触られたように感じすこし驚く
だけど
すぐにその意味に気がついて、恭也の拳を自分の胸に押し当てる
こんどは恭也が驚く番となった
「ゆうひ!……さん……?」
「うちのこの胸には世紀の歌姫が次の歌姫を作るために入ってる……きっと皆の中にも……それは……」
ゆうひがそうつぶやくと、その言葉に導かれるように恭也の心が言葉を作る
「ええ……きっと、きっと、人って死なないんですよ……」
ゆうひにその言葉はもう届かない、自分の納得できる道それが確信できたのだから……



「綺麗な〜♪
 時に抱かれて
 今♪
 ここにある
 風の吹く景色をそっと見つめつづけ
 心に感じる記憶と風景が
 今も
 今も
 このほほを濡らす……
 大好きな
 この風景と
 人に
 大切な想い
 そっと伝えて…
 嬉しい時の……………涙(雨)」




こうして、伝わる想いと歌はたしかにフィアッセという新世紀の歌姫を生み出した





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