春…
花の息吹が聞こえる頃に…
1組のカップルが歩いて行く……
「………さくら…?」
「はい?」
その声に反応するかのように少女がすっと振りかえる……
「あー、ごめんごめん、ほら」
そう言って差し出された手に桜の花びらが一つ咲く
「どこから、飛んできたんだろう、ね…?」
「たぶん……向こうの方だと思いますよ♪」
そう言って、差し出された指先の方には……
「うーん?」
「見えません?」
「うん、見えない」
「じゃ、ちょっと行って見ません?」
「いや別にさくらの目を疑ってなんかいないよ?」
「あはは、違いますよ一足早いお花見ですよ♪」
いつもと同じ帰り道
川沿いの道を歩きながら
ふとした事で始まる幸せ…
「へー……」
「結構大きいですね」
それは、桜の花に彩られて…
「ハイ♪ 先輩」
そう言って少女がすっと差し出した物…
それは
「ワンカップ酒……」
「お花見と言えばこれですよね♪」
「いや、そうだけど…」
何故これが出てくるんだろう…
それ以前に何時買った?
少年が思うのも無理は無い…
少女が一口カップからお酒を飲む
「んー♪ おいし…」
(色っぽいよなぁ…)
少年は少女をじっと見詰める……
「先輩?」
「さくらって本当に美味しそうにお酒飲むよね…しかも制服姿で……」
「あはは、だってまだ学校帰り……」
パタパタと手を振る仕草も可愛くて…
その姿を見ながら少年はカップに口をつける
「先輩、ちゃんと桜を見なきゃ♪ 花見なんですし」
「んー、だからさくらを見てるでしょ?」
「せんぱぁい…」
ハートマークが飛んでいそうな甘い声を魚に
幸せを飲む
少年が感じるのはこんな事だろうか……?
「ったく、ちゃんと走れ!」
「ウチは、そんな早く走れへんて…」
小さい子が二人川辺を走り去って行く…
「あの二人もカップルかな?」
少女がその後をほほえましく見つめる
「え? 二人とも女の子じゃありませんでした?」
「あれだけ元気良いんだし、男の子でしょ?」
「そうですね、可愛い男の子も結構居ますし」
そう言って少女はそっと少年を見る…
「って、ひでぇ…」
そう言った少女の頭をすっと少年は押さえ付ける…
「あはは、ごめん、ごめんなさい」
「いや、その顔は全然反省してない」
たしかに少女の顔はまぶしいほど笑っていた
「先輩」
「ん?」
「お花見行きません? 鷹城先輩とか野々村先輩とかもと一緒に…」
「そうだねぇ……」
ふっとその光景を思い浮かべたのだろう
少年が腕の力を緩める……
「隙あり♪」
と、少年がその声を聞いた時ふっと唇が温かくなった………
………
……
…
ひとしきりの幸せも夕暮れは奪い去っていく
「んじゃ、帰ろっか?」
「はーい♪」
次に又来る幸せに、胸を踊らせながら影がゆっくりと延びていく…
「春♪
花の息吹が聞こえる頃に
夏♪
星の瞬きに背を向けて
秋♪
景色が色づく頃に
冬♪
白い幸せ降ってくる…」
「SEENAの新曲だねぇ…」
「お酒好きの理屈ですよねぇ…この歌」
「あれ? そうなの?」
「だって、春はお花見
夏は星座
秋は紅葉
冬は雪
全部お酒の肴でしょう?」
「そう思うのはさくらだけだよ…」
「あれれ?」
ちょっと、赤い顔しながら又明日
春の風景でした。
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