春眠
春の麗らかな日差しが差し込む窓辺に頬づえついて、
眺めた景色。
熱っぽいのも手伝ってじょじょに遠ざかる意識。
紅梅が咲く庭先。
ただなんとなく眺めていた景色に
急に視界に飛び込む愛しい人の笑顔が俺を驚かせた。
「うふふ…うたた寝してたでしょ…?剣心?」
薫の顔が急に真近で見え、驚く俺に、
「剣心がぼーとしてるなんて珍しいわね。」
にこやかな表情の薫の手に湯のみがにきられていた。
「はい…お茶。そんなところで居眠りしてると風邪をひくわよ。」
「ありがとう…」
薫から茶を受け取る。
ふいを突かれて俺はなかなか焦点が定まらずにいた。
「具合悪いの?」
「そうではござらん。あまりにも気持ち良くて、つい眠ってしまったのでござるよ」
実際に俺は疲れていた。
日に日に増すけだるさが俺を悩ませていたのも事実だ。
今すぐに悪化する事はないのだが…
「そう…それならいいけどね…でも無理しないでね…」
不安げに見つめる薫を見つめ、
「今日は少し調子が良いから…案ずる事はない…」
「でも…昨日…やっと熱が下がったばかりじゃない…布団に入って…」
思うように成らない身体に苛立ちを感じる。
もうこうなるのは解っていた。
数年前から、微かに体調が悪い事も…
「あっ…あの木の枝…ほら…見て鶯!」
薫の無邪気な声が俺をかきたてた。
結婚して5年になるというのに、妻は出会った頃と同じようだ・・・
薫が指差す木の枝には鶯が一羽とまり、美しい音色を奏でていた。
「ああ…美しい音(ね)でござるな…」
「…でしょ…捕まえてみましょうか?」
やや声を潜めて言う薫に
「捕まえてどうするでござる?」
と問うた。
「剣心この頃、ずーと塞ぎがちだから、鶯の鳴き声で…」
「それは鶯を籠にいれると言うのでござるな?」
「うっ…駄目?」
まるで怒られた子供のように言う薫に
「籠に入れると言う事はその鳥を独りにする事でござるよ…
拙者一人の為にするのは、可愛そうでござる。」
と気を咎めないように言った。
「それもそうね…」
薫はちょっと残念そうにうなだれた。
「薫殿…拙者にはこうして案じてくれる良き妻がいる…
それだけで幸せでござるよ」
薫は頬を赤らめ
「じゃ…良き妻の言う事…聞いてくれるわよね?布団に素直に入ってくれる?」
まるで照れ隠しかのような口ぶりに思わず笑みがこぼれた。
「はい。はい。おおせのままに…」
おどけて言う俺の背中を押し、無理やり布団に押し込めた。
いつの間に鶯は小枝から飛び立ち
春空へと消えていった。
―あとがき―
今回は病み上がり剣心書いてみました。
短い文章ですね。
自分が具合悪い時、
心から心配してくれる人が
側にいるって、なんて幸せなんだろう
と暖かい気持ちになりますよね。
そんな思いをこの文に込めてみました。
平成14年2月某日 脱筆