『秋の気配』 薫バージョン

庭先には、蜻蛉がゆらりと気持ちよさそうに飛んでいる。
空が、抜けるように高く澄んでいて、雲一つない。
朝、干された洗濯物が、ひらひらと風に舞っている。

「今日も洗濯日和だな」

と私の隣に腰をおろした剣心が、軟らかく微笑んでいる。

「そうね…良く乾きそうね…」

と生返事した。

秋の深まりとともに、鈴を転がすようになく虫も、夜の静けさの中で、毎夜合唱している。
ついこないだまでは、どの家にもつるされいた風鈴の音も今はしない。

季節は確実に移ろいで、時を止める事は誰にも出来ない。
そんなの始めから解っているのに…
こんなにも不安で仕方ないの…
「どうした?」

「…なんでもないわ…すっかり秋だなってね…」

貴方と出逢って、ここにとどまると約束してくれたのに…
どうしょもなく、不安なの。
剣心と言う人を愛して、こんなにも幸せなのに…
私の前だけしか使わない言葉も
薄れてきた十字傷も…
貴方が私を愛している証…
でも、でも…こんなに愛してくれているのに…

「薫?」

夫婦(めおと)になっても
…薫殿…と呼ぶ剣心に
…殿…は他人みたいだからって、
我がまま言って困らせてみた日から
照れくさそうに呼び捨てにしてくれた。
その日は、とても嬉しくって眠れなかった。

風が強くなり、庭先にいた小鳥達の姿が見えなくなった。

「一雨降るな。洗濯取り込まないと」

私には出来すぎる旦那様。私、家事何一つ満足に出来ないのに
家事は俺の仕事と文句一つ言わない。
剣心が洗濯物を取り込んで、手際良く畳んでいる。
その横で降り出した雨の音に耳を傾けた。
急に降り出した雨が、庭先に幾つもの水たまりをつくる。

「一雨ごとに秋も深まるな…。冷えてきた。さあ、もう上がろう。」

「ええ…」

差し伸べられた貴方の手に自分の手を重ね部屋に戻る。

「お隣さんから頂いたよ。」

剣心が指差す先…欄間には二藍(ふたあい)の花…桔梗の花が一輪生けてある。
薄暗い部屋にぼんやりと灯る行灯(あんどん)に照らされている。

「綺麗ね。剣心が花瓶に?」

「ああ…水に生けないと可愛そうだから、薫。この花好きだろ?」

「うん。嬉しい。剣心。覚えてくれたんだ…」

「ああ。勿論」

「この花の花言葉知ってる?…」

ちょっと恥ずかしくて、顔を伏せて聞いてみた。

「何?」

嬉しそうに尋ねる剣心が、少し気になったけど、
私に聞くって事は知らないって事だよね…

…花言葉は…
…変わらぬ愛・誠実の愛…
…永遠の愛を誓う花…

「…私も知らないの…」

答えるの恥ずかしくて、嘘ついた。

…言える訳無いじゃない…

「そうか…本当は名も知らなかった。でも薫が好きな花だから…」

「…ありがとう…覚えていてくれて…」

先ほどまで、降っていた雨も今は止み、空は互いの顔色と似た茜色に染まっている。
深まる秋の気配を感じながら、照れくさそうに笑う剣心に笑顔で答えた。

− 完 −

あとがき

設定的には
結婚したばかりって所ですかね。
まだ、素直に気持ち表すの恥じらう感じ。
まー幸せな二人を書きたかったんですよ。
久しぶりに書いたのがこんなのとは…お恥ずかしい限りです。
全ては私の煩悩の赴くままですね。
”すき”から”愛してる”に変わる乙女心ってものを
感じられる文を書きたかったのですが、
文才なさすぎなのと、目下修行中の私には
これが精一杯なんですよぉ〜。

今回は薫バージョンです。
これで剣心バージョンも書くのさ。
二つ読むと、ああ、納得って思ってもらえると思います。
対で一つのお話なんて無理が有りすぎですね…
トコトン一人称が好きな私…書けないとも言う。
展開が急なのと説明不足で読みにくい文だよね。
短いわ〜。sssだね。

今回は私の大好きな花でもある桔梗をモチーフにしてみた。
花言葉はちゃんと調べたからあってるはず。
私がネットで調べたのには
花言葉 変わらぬ愛・誠実・従順
と書いてあった。
他にもあるのだろうけど、こちらを使う事に…
つまり変わらぬ愛を貴方にあげるって事ね。
しかし、明治の世に花言葉なんてなかったかもね…
きっとなかったと思う。さらっと流してもらえれば助かります。

薫ちゃんの年齢より遥かに年上の私ですが、
まだまだですから…
こうなったらいいなって思う事を書いたのさ。(ひらきなおり)
狸は山里へ逃げるよ〜!!!捕まえないでね。

あとがきのほうが、長いわ…

平成14年8月某日 ぽんぽこ拝