『秋の気配』 剣心バージョン

剣心。私ね。この花好きなの。亡くなったお母様のお花。
いつも病弱な母にお父様は欠かさず枕元に生けてあったって。
本当はこの花は切花には向かないの…
でもお母様が好きなお花だから…

どことなく薫に似ている花…二藍の色が…

去年、祝言をあげるという報告のため、神谷家の墓参りに行った時、
薫が手を合わせた後、そんな事を言っていた。
今日は薫の母上の命日だ。

そんな事を思い出しながら、早朝の街を歩く。
花屋には色とりどりの花が並び、華やかだ。

「いらっしゃいませ。お侍さん。どうです。今朝入ったばかりの桔梗。
 綺麗でしょう。いい人にあげてみたら。
 花言葉。誠実の愛ですよ。
 きっと女子は喜びますよ。買って下さいな。」

薫が好きな花。桔梗っていうのか…

「ふたつ頂こう。」

「まいどあり〜」

ひとつは神谷家のお墓に手向け、
ひとつは薫の部屋の床の間に生けるとしょう。

帰宅途中。
花屋が言っていた花言葉…
ちょっと照れくさくなりながら、薫が起きる前に帰宅しょうと
歩みを早めた。
秋が深まるにつれ、庭先の木々も色づき始める。
ついこないだまでは、猛暑であったのに季節は確実に移ろぐ。
朝、晩は冷え込むようになった。
長月の庭には、白や黄の花が小菊が咲いている。
空はどこまでも澄んでいて雲一つ無い。
俺は洗濯物を干しながら、空を眺めた。

「今日も洗濯日和だな」

薫に…殿はやめてね…と言われてから、
二人の間では、ござるも使わなくなったが、
どことなく言いづらい…

「そうね…良く乾きそうね…」

縁側から空を見上げ答える薫が、寂しげにみえた。

「どうした?」

「…なんでもないわ…すっかり秋だなってね…」
遠くを見つめている薫は何処か寂しげにみえる。
最近、塞ぎがちで、何か考え事をしているようで、
聞きだそうとしても、はぐらかされてしまう。
妻となった薫は、毎日俺を支えてくれる。

「薫?」

風が強くなり、庭先にいた小鳥達の姿が見えなくなった。

「一雨降るな。洗濯取り込まないと」

慌てて洗濯物を取り込んで、畳む。
俺の横で薫は降り出した雨の音に耳を傾けていた。
急に降り出した雨が、庭先に幾つもの水たまりをつくる。

「一雨ごとに秋も深まるな…。冷えてきた。さあ、もう上がろう。」

「ええ…」

薫に手を差し伸べた。

俺の手に彼女の温もりを感じ安堵し部屋に戻った。

「お隣さんから頂いたよ。」

俺は嘘をついた。
俺が指差す先…欄間には二藍(ふたあい)の花…桔梗の花が一輪生けてある。
先ほど購入したものだ。
買ってきたなど言っては『お金は?』と余計な心配するであろう。

薄暗い部屋にぼんやりと灯る行灯(あんどん)に照らされている。

「綺麗ね。剣心が花瓶に?」

「ああ…水に生けないと可愛そうだから、薫。この花好きだろ?」

「うん。嬉しい。剣心。覚えてくれたんだ…」

「ああ。勿論」

忘れるはずはない…薫の全てを覚えておきたい。

「この花の花言葉知ってる?…」

はずかしそうに顔を伏せながら薫が問う。

「何?」

今朝、花屋言ってた事を思いだしながらわざと平静を装い聞く。

…花言葉は…
…変わらぬ愛・誠実の愛…
…永遠の愛を誓う花…

「…私も知らないの…」

「そうか…本当は名も知らなかった。でも薫が好きな花だから…」

「…ありがとう…覚えていてくれて…」

先ほどまで、降っていた雨も今は止み、空は互いの顔色と似た茜色に染まっている。
薫は気づいているであろうか…?
この花に誓った思いを…
照れくさそうにしている薫の顔色を見ながら、自分の頬が熱くなるのを覚えた。

− 完 −

あとがき

これで謎はとけたでしょうか?
剣心は勿論知っていて嘘をついたのです。
お互い素直になれずに照れて、嘘をついたのでしょう。
あいかわらずお馬鹿なお話っす。
ラブラブ好きなんですよ。
薫バージョンを読んでから
こちらを読んでもらう方がいいかな?
新婚さんいらっしゃいって感じなんです。
ご意見・ご要望・苦情は、ぽんぽこまで…