『真夏の夜の夢(涼介サイド)』


この日に為に仕立てた浴衣。

俺とは違う着こなしで

お前は何処かぎこちなく

歩きづらそうだ。

俺は手を取り

目的地へと足を運ぶ。

足取りは少し早めに…


お前はさっきから

言い訳ばかり繰り返し

俺を困らせる。

離れて行かないよう

繋いだお前の手は

熱る様に熱い…


お前が歩く度に

浴衣の裾が乱れて

足が覗いて

目やり場に困るぜ…

今日はお前の仕草が

妙に艶っぽく感じる。


俺らしくない…

俺のペースは

お前に乱されぱなしで

それでも良いと

思う自分が居る…


なるべく気にしない様にと

視線を前に集中して

歩みを更に早めた。


子犬のように

疑う事の知らないお前は

人込みをかき分け

繋いだ手離さず

黙って俺について来る。


…離さない…

…お前だげは譲れない…


繋いだ手をきつく握りしめる。


お前も俺と同じ思いなのか…?

期待してもいいのか?


俺の心は何時なく弱気なる。


小さなお社に着き

二人で賽銭投げて

願った事はお前も同じなのか…?


子供の頃から好きなかき氷

お前の為に買ってきた。

目を丸くして喜ぶ

仕草が可愛いぜ。

お社の裏手にお前を誘う。


シャカシャカ…

シャカシャカ…


と音立てて

冷たい氷ほおばっている。


お前は昔と変わらないな…

変わったのは俺の方か…


赤色の小さなが氷山

次第に形が無くなり

液体へと変わる。

浴衣の懐に飛んだ赤い滴。


「子供みたいな事してるんだ。染みになるぜ。」


心にはない事言って

お前を困らせたくなる。


慌てなくても逃げて行かないぜ…


心の中で呟いてみる。


浴衣の袂に飛んだ赤い滴。

お前は怒られた

子犬のようにしょげている。


思わず指しだす俺の手。

お前の表情が戸惑いを隠せない。


「何考えてんだ。拭いてやっただけだぜ。」


伏せ目がちなお前は少女のように

頬を染めてる。

俺を無意識に俺を誘う仕草は

犯罪者のようだぜ。


「お前が期待していた事しようか」


甘い薫りに誘われて

お前の軟らかい唇に

口付けた。


「甘い…」

と思わず口にした言葉に

顔を赤くして、反論するけど、

俺は誤るつもりはないぜ。


「全てお見通しだぜ」


お前の事は…

お前だけは…


甘い口付け。

甘いかき氷。

何処か似ていて。

赤い液体の残る器から

甘い薫り…

苺の薫り…

全ては真夏の夜の夢…

そう。つかの間の夢…