『甘い罠 番外編〜雪解け〜』


拓海が倒れてからというもの食事、着替えなど自分で出来なくなり、
啓介は拓海の世話を手となり、足となり看病を続けていた。
時折、不安になり、自分の存在を確認する日々が続いていた。

―数ヵ月後―

「うーん…」

拓海が目をこすりながら目を覚ます。

「拓海!目が覚めたのか?」

啓介は、いつも通り優しく語りかけた。

「け…いすけさん?」

寝ぼけ眼で拓海は言う。

「俺の事わかるか?!」

啓介はいつものように確認してみる。

「はい。俺っ、俺、啓介さん所に来て、
 それで、それで、寝てしまったんですよね?」

「…」

いつも啓介は拓海が元に戻るように、看病を続けていたが、
嬉しい反面、実際拓海が目覚めてしまうと、事情を説明
するのを躊躇してしまう。
なにしろ拓海が倒れた時は、雪の降る冬だったのに、
今は桜が咲く春なのだから。

「啓介さん?どうしたんですか?」

怪訝そうな顔で啓介に問う。

「・・・」

無言のまま拓海を見つめる事しかできない。
啓介は自分の愚かさに苦笑した。

「雪やみましたか?俺帰らないと。」

拓海はベットから立ち上がり言う。

「・・・拓海・・・ごめん。俺は、俺は・・・。」

啓介は自分の犯した罪の重さに口篭ってしまう。

「本当にどうしたんですか?啓介さん。らしくないですよ。」

口篭る啓介に拓海は問う。


 俺らしくない・・・。
 何をためらってる?
 自分がした事を正直に言えばいいじゃないか?
 自分がした事じゃないか!

「ごめん。拓海。今は春なんだ。」

啓介は、しばらく間をあけて、まるで一人ごとのように呟いた。
自分の犯した罪の重さに躊躇し、遠まわしに言う。

 「えっ?」

啓介の言ったことが理解できない拓海。

「拓海は俺のせいで、3ヶ月程動けずにいたんだ・・・。」

啓介は重い口を開く。

「えっ。俺。理解できないんですけど。」

「俺が変な薬飲ませたせいで、お前は・・・。」

「啓介さん・・・薬のせいで、俺は眠り続けていたんですよね?」

「そうだ。」

拓海は窓を開け、外を眺めると、そこには満開の桜の木があった。
暖かな風に桜が舞い、拓海の元へ花びらが降りる。

「あっあ・・・」

拓海は花びらを一つ手にと取り、光にかざしてみる。

 本当に春なんだ・・・
 でも、なんで薬なんか俺に飲ませたんだろう・・・?
 まさか?

「拓海・・・俺は、お前が俺の側から離れていくのが、
 許せなくて・・・それでおかしな薬を飲ませて、
 俺から離れていかないように・・・。」

「それで、薬を飲ませたんだ。おかしな啓介さんですね。
 俺は啓介さんの所しか居場所がないのに。」

「そうだな。俺が詰まらない事をしたばかりに・・・」

「それって、俺を縛りつけておきたい程、愛してくれてるって事ですよね。」

拓海は頬を桜色に染めながら言う。

「・・・拓海・・・あ・い・し・る!」

それに答えるかのように、啓介は自分の気持ちを素直に伝えた。

「俺も啓介さんの事・・・」

拓海が最後まで言い終らないうちに、
啓介は凍りついていた心を全て溶かすような、
甘い口付けをした。



「ねぇ。啓介さん。」

「なんだ?」

「せっかくだから、花見に行きませんか?」

「いいぜ。どこに行こうか?」

「俺。いいところ知ってるんですよ。
 俺がナビしますから、乗せてって下さいよ。」

「ああ。しっかりナビしろよ。」

「あーひどい。また信じてくれないんですね。」

今度は、俺の番といわんばかりに、ふくれっつらで言う。
そんな、拓海の姿を、とても愛しく思う啓介であった。

―完―

<あとがきという名の言い訳>

あれで終わらせちゃ二人とも、
可哀想だったので番外編を
書いてみました。
本編がブラックな話だったのに対し
ありきたりなベタベタな
話になってしまった(泣)
こんなお馬鹿な話に付き合って頂き
有難うございました。