「樹君の苦悩」

 バイト先であるガソリンスタンドからの帰り道。
愛車85で拓海ち送るのが日課になった俺だけど、
今日は愛車の健康診断日(車検)。
しかたなく、ボケボケ拓海と夜道2人で歩いてる。

 ヤローと歩く寂しさよ。泣けてくるぜぇ〜!!
 これが綺麗なお姉様だったら…
 勿論、ナイスバディで…
 でへでへっ♪
 この世はパラダイス……いかん。

樹は頭を左右に振り、ヨコシマな煩悩振り払った。
いつもより更にぼーとしてる拓海が、怪訝そうに俺を見てる。

   そう言えば、拓海の奴。元気なかったなぁ。
 いっちょ。景気つけてやるか!

 「よぅ〜拓海!最近元気ないぞ!どうしたんだぁ〜?
 俺に内緒で女でも出来たのかぁ?くぅ〜。うらやましいぞ!」

拓海を励ますつもりが、樹は完全に1人の世界に入ってしまい、
1人で盛り上がって、拳を握りしめいつものポーズきめてしまう。

   「樹と一緒にするなよなぁ。そんなんじゃねぇよ…」

言葉で否定しているが、一瞬、拓海の目が泳いだのを
長年コイツ付き合ってる俺は見逃さなかった。

 ヤバイ。逆効果だった…

 「なんだ。ずぼしかよ。ちぇっ…」

俺は内心後悔したが、今に始まった事じゃないし、
話を続ける事にした。

「なんだよ。しけた面して、大船に乗ったつもりで、
 この樹様に相談してみろよ。」

わざと大げさに胸をポンと叩き言うと

「何でもない…」

って気の無い返事返ってくる。

樹は深く溜息ついて、

『今、拓海に何言っても無駄だな。あんがい頑固もんだからな。』

ここは寛大な俺は黙って家に送る事にした。

拓海を送った帰り道。
雨が急に降ってきて、傘を持ってない俺は猛ダッシュして家路に急いだ。
そうこうするうちに、もう、拓海の暗い顔も忘れてしまった。

次の日

朝から拓海の様子が気になりはしたけど、
俺は眠くて、屋上で居眠りとじゃれこむ。
暖かい日差しに誘われ、つい爆睡してしまう。
なにやら、カヤガヤと話し声がし、

「樹!!お前もう昼だぜ。いい加減起きろよ!!
 次、バックレるのヤバイんじゃないか!!」

ってクラスの誰かの声が聞こえた。
俺は、眠い目をこすり、起き上がると

「次、保体だぜ!!じゃーな。俺は先に戻るからなっっ!!」

って捨てセリフのように言い走り去った。

……?…あっ…やべぇ…

腕時計に目をやると、
チャイムの音が鳴り響き、昼休みは既に終わりを告げて、
間もなく、時計の針は授業の開始のベルが鳴る
2分前を指している。
5時限目は『保体』で、鬼教師で有名な奴…
俺は猛ダッシュで教室に戻る事にした。
他の授業なら、バックレるんだけど、
アイツの授業をサボると校庭20周っていう有り難い
罰ゲームが待っている…
俺は恐怖で身震いした。
教室に入ると同時にチャイムが鳴り、
息が上がる俺は、

「まだ、来てないじゃん。セーフ!!」

ってガッツポーズ決めた。
席に着くと教師が竹刀を持ち教室に入って着た。

「始めるぞ〜!!」

と威勢の良い声が轟く。
いつも思うんだけど何であいつ竹刀なんて持ってるんだよぅ〜

授業を受ける気がない俺は、仕方なく、ただ時間が過ぎるのを待っていたが、
前方でいつも居眠りしているはずの拓海が何やらぼーとして、
考え込んでいるのが見えた。
時折、遠い目をして、溜息なんかついている。

これじゃー恋する乙女じゃないかよ。

やばいぜ。こりゃー。

教師の目を盗んで前方に座る拓海の頭に肘鉄食らわす。

「いてぇなぁー…何すんだよ・・・」

拓海は後ろを振り返り、樹を睨み、
勿論、授業中だからと言うこともあって、
勤めて控えめな声で抵抗した…
拓海の顔が、かなり不満そうだ。

「放課後、つき合わないか。」

って俺もなるべく小さな声で言ってみた。
こうなったら、どうしても、拓海の溜息の訳が知りたい…

「なんだよ。何か用か?」

「いいから、後でな!」

樹が言うのと同時に教師が振り向き、

「お前らぁ!!!何やってる!!静かにしろ!!」

と大声で怒鳴った。

拓海は俺を見つめ『ちぇ。お前のせいだ…』って風に
再び、前を向く。
教室の中は『クスツ…クスッ』と嫌な笑い声が漏れ、
冷ややかな視線で、「おまえら馬鹿じゃん」って冷やかした。

やっと授業が終わり、俺はこの場にいると、
ぜーったい、冷や化されるって思い、
足早に教室を後にした。
玄関で拓海の事待ってると、
ほどなく、拓海がやってきた。

「何だよ。樹!」

「いいから、いいから♪今日はバイトも休みだしぃ〜
 なっ。たまにはカラオケでも行こうぜ!!」

…う〜ん。我ながらグットアイディア!!…

拓海に向かって親指立てて言ってみる。

「いかねぇよ。俺…歌なんて知らねぇし…」

ところが拓海の奴が気の無い返事で俺を悩ませた。

…ガ〜ン…
…予想外の展開。俺にしてはグットアイディアだと思ってたのによぅ…
…こうなったら強引に連れてったるぅ〜!!…

「拓海。お前老けこむの早いぜ!!人生パァーと生きなきゃ損。損。
 たまには楽しもうぜ!!」

って強引に手をひき駅前のカラオケボックスへ連れ込むことにした。
すると、拓海は観念したか、ぶうたれながらついて来た。

受付をすませ、部屋に入ると
すぐに店員がやって来て

「当店はワンドリンク制になっております」

って言いやがった。しかたなく金がない俺は一番安いコーラを注文する。
拓海も「俺も…同じ奴…」無愛想な返事をした。

「いつからワンドリンク制になったんだよ。俺、金無いぜ…」

って拓海がぼやいてる。
俺も金欠だけど、誘った以上一番言いたくないセリフ言わなくちゃいけない…

「いいよ。俺おごるから…」

コーラ代(350×2)+室料(1000×2)=2700円
+消費税−所持金4000円=約1300円
で今月と過ごさないといけないっていう厳しい現実が
俺の頭の中をよぎり財布の中身を心配したけど…
拓海の為だぁ!!俺は涙目でぐっとこらえた。
でも、拓海の奴…350円だけ払ってくれないかなぁ〜と女々しく思った。

暫くするとノックする音と共に店員が入ってくる。
ドスッと音をさせて乱暴に置かれたグラスから
コーラが飛びテーブルを汚した。

「おい!待て!!」

と俺が叫んだのも聞こえてないかのように
部屋を出ていった…

「なんだぁ〜?あいつぅ〜!」

と俺が毒づいた。
仕方なくコーラを飲もう思い、俺がストローをとろうとした時、
拓海と眼があった。その瞬間、俺はフリーズしてしまう。

  …怖ぇー。拓海の奴…眼が据わっている…

長年付き合っている経験上…これはまさしくキレル一歩手前…
俺は勇気を振り絞って声をかけてみた。

「あのぅ〜拓海君…折角だから、飲もうぜ…」

「ああ…」

少し正気に戻った拓海の声はまだ怒りに満ちていた。

…ここは一発景気づけで、盛り上げないと…

と思いリモコンで曲をセットした。

…こう言うときはあれしかない!…

俺はマイクを握り美声?で歌いまくる。
歌と俺の華麗なダンスのおかげか?
拓海の奴のシケタ面も消えていった。

「樹…お前…むかしっから音痴だとは思っていたけど、
 音痴に磨きがかかってないか」

拓海の眼が俺を小馬鹿にしている。

「こう言うのがいいんだぜ。パンクっぽいだろ?」

「違う。違う。」

首を横に振り否定する拓海。

「ちぇ…俺だって下手なの解っているよぅ〜クスン・・・
 お前の為だと思ってよぅ〜」

わざと泣きマネして言う。

「悪かったよ…」

「ほら!またシケタつらして…お前の悪い癖だぜ。
 最近また何か悩んでるとかぁ〜?」

俺は冗談っぽく聞いてみた。

「ああ…でもお前、絶対馬鹿にするから言わない」

「絶対しないってぇ〜拓海君。お兄さんに言ってごらん♪」

「したら…樹…呪うからなぁ…」

「怖ぇーからしない…で、なんだ?」

「実は…」

「うん。うん」

「俺・・・気になる人がいるんだ…」

ためらいがちに言う拓海の視線は恥ずかしいからか
俺に向けられず、天井近くを見つめてる。

「あっ解った!あれだろ!熟女に恋したとかぁ。
 不倫とかだろ!」

「そんなんじゃねぇよ…」

「クラスの奴か?」

「違う。年上…」

「年上の女…いい響き…てへ。」

俺が妄想にふけっていると

「誰が女だって言ったよ…」

と小声で呟く拓海。

俺は数秒間…いや数分間言葉を無くし、

「…男とか?」

「ああ…俺…その人といると…すげぇ緊張して…
 秋名でバトルした時は俺が勝ったけど…
 あれは秋名だからだと思うし…
 あの人の走りは、なんって言うか、
 本能で走るって感じで…
 俺…眼が離せなくて…」

やっと口きいた俺に期待?通りの返事が返ってきた。
拓海の話はまだ続いたが、もう俺はそれどころじゃない。
俺の記憶が確かなら…
アイツの好きな奴って…赤城のレットサンズ…
金髪のお方…言わずと知れた高橋兄弟の弟…
高橋啓介…
いや…間違ってないだろう…

言葉を無くしている俺に追い討ちをかけるように

「話す前に言ったけど、他に言いふらしたら、殺すからな?…」

俺は首を激しくブンブンと横に振るのが精一杯だった。

電話がなり、受け取る拓海が遠くに見えたような気がした。

「解りました…樹…時間だってよ。おい!樹!大丈夫か?」

頭の中を拓海と啓介の顔がグルグル回り、気が遠くなりながら
フロントに向かった。

帰路へ向かう俺は無くした物が2つある…
財布の中身とノーマルだと思っていた藤原拓海…

…恋に悩む拓海…
…あれじゃー悩むわけだ…

今日の俺は眠れそうにない…

― 完 ―

  ― あとがき ―

やっぱりこのオチかよ!って激怒しました?
くだらないくせ長い文で…すいません。
たまにはこんなの書いて見たかったのぉー!!
本人はすごーく気楽で書けて
楽しかったです。
こんなお馬鹿な私を許して下さいまし。
では、今度こそシリアスでお会いしましょう…多分…

平成14年1月 脱筆