…冗談だろ…

繰り返し呟く言葉

  夢であればいいのに…
  いつも冷静なアニキが
  あんなに怒るなんて…
  冗談だろ…

始まりはとても些細な事
いつものようにじゃれ合っていた時
突然、怒り出したアニに
反論出来るはずはなく、

「いってくる…」

とだけ告げてキャンパスへ向かう。

普段、不在がちな啓介に悪友は
ふざけてからかうけど、当の本人は
心ここにあらずって感じで、
ぼんやりと外を眺めてる。

「だめだこりゃ…よほど重症だぜ…」

って呟く声も勿論啓介には届いていない。

  アニキ…
  何怒ってるんだ?
  俺悪いことしたか?

講義なんてうわの空…
これじゃ何の為にきたのか解らない。
そうしている間に時間だけが過ぎて逝く。

誰も居なくなった校舎、携帯見つめ1人格闘する。
何度もかけようとし、ベルがなる前に切ってしまう。

  誰かに見られたら
  笑われるんだろうな…
  まさか、この歳で兄弟喧嘩なんて
  言えるはず無い…
  俺。何をしてんだ?

記憶の糸を手繰りよせる。

  いつものようにリビングでくつろぐ
  俺に珍しく声をかけてきたのは
  確かアニキの方

 「聞きたい事ががあるんだ」

 って俺をアニキの部屋に連れてった。

 「何?アニキ?」

 と聞いても返事無くて後を追って部屋に入る。
 アニキの部屋から珍しく煙草の匂いした。

 「何かあったのか?」

って聞いても答えてくんなくて。

 「何でも無い…」
  呟くアニキの声。
  鋭く尖った声。
  近寄るアニキから漏れる吐息。
  酒くさかったような…?

 「そうか…」

 って俺は部屋を出て行くしかなかった。

  後にも先にも見当がつかない。
  アニキ怒らせることしたか?

「う〜ん。」

考えれば考える程、深みにはまる一方。
一週間前からアニキの様子変だったのは
気づいてる。避けられているようなそんな感じがした。
振りかえってみると、もう何年もそうだったような気がする。
その度寂しくなる俺の心に隙間が出来る。
埋められない思いが何なのか俺には解らない。

  俺達兄弟だよな…

  呟く言葉。虚しくなる。

  俺達。兄弟だよな…
  俺はアニキの弟…

口にする程寂しくなる。

  俺考えてるんだ?

気づき始めた本当の思い
溢れだす涙

  俺はアニキを愛してる…?

言葉にすると崩れ去る自尊心

不意に鳴り響く着信音。
音だけでアニキからだって解る。
プチッと音と共に切れる
受話器の向こうにいる
アニキの声聞いたら
余計泣きたくなる。
二度目のベル鳴り響き
俺は出る事が出来なかった。
暫く鳴り響き、そしてまた切れる。
今度は、メールが届く。
そこには

   『声が聞きたい』

  とただ一言書かれていた。

 アニキらしいな…
 そっけないのが余計に…

三度目のベルが鳴り、俺は受話器を取る。

 「すまない…」

 「……何でアニキが誤るんだ…」

 「……声が聞けて良かったぜ…」

 「それじゃ。まるで別れ話じゃないかよ!!」

 「………………」

 「俺を捨てる気か?」

 「………啓…介………」

 「答えてくれよ…」

 「俺はお前の側には居てやれない…」

 「なんでだよ…なんでそうなるんだよ…
 俺…俺…アニキの事…」

 しゃくりあげた声では言葉に成らない。

   「………!?」

  …ドコニモイカナイデ…
  …オレノソバニイテヨ…

 「…アニキ…」

啓介が呟いた瞬間プッリと切れてしまう。

「アニキ…どうしてきっちまうんだよ…俺…俺…」

思いは空回りし、素直になれない。
やっと気づいた気持ち少し戸惑いがあるけど、
もう、嘘つくこと出来ない。
啓介はもう一度アニの携帯に電話した。
だけど、ワンコールで
『ただいま電話に出る事が出来ません…』と
機械音の虚しい声が聞こえってきた。

「ちきしょー…。」

留守電にした受話器からアニの声は聞こえることは無く、
余計虚しさが募るばかりで、いっこうに前には進まない。
啓介は車のキーを握り締め、大学を後にする。
愛車FDへ向かう時、まだキャンパスに残っていた悪友達が
声をかけても、もう啓介の耳には届いていない。
ただアニに会いたくて…会いたくて。

  アニキ…
  俺…もう会えないなんてヤダ…

啓介は愛車に乗り込み、アクセル全開で車を走らせた。
心にもう迷いは無かった。
アニとの思いでが沢山詰まっているそこに行けば、
会えると確信していた。

  今ならまだ間に合うかもしれない…
  待っていてくれ…

ステァリングが汗ばみ
心臓が破裂そうなぐらい鼓動が早まる。
走りなれている赤城の峠も
まるで、牙をむける獣のように
啓介に襲いかかる。
黄色い車体は壊れんばかりに
悲鳴をあげる。
いつもならこんな無謀な運転はしない。
ただ、かりたてる思い…
それだけが彼の走りに拍車をかけていた。
頂上付近にさしかかり白いFCが
猛スピードで走り去るのが見えた。

  アニキ…待ってくれ…

啓介はアクセルを更に深く踏み込む。
白い彗星の車体は次第に近づく。
クラクション鳴らし呼びかけても止まること無いFC。
啓介は賭けに出た。カーブで少し間が開く
その隙間に割り込みFCのインをつき、
ステァリングを思いっきり右に切った。
黄色い車体は、横を向き迫る白い車体とクラッシュ寸前
キッ…キー…という激しい音と共に車体が止まった。
あと何メートルない先に止まるFC。
白い車体から長身の男が降りてくる。
啓介の元へ駆けよるアニの姿。
いつも冷静なアニキが珍しく焦った顔してる。

「啓介!!危ないだろ!!大丈夫か?!」

「アニキ…やっと会えた…」

「会えたじゃない!心配しただろ!」

「心配したのは俺のほうだぜ。アニキ急に居なくなるから…
 もう会えなくなるなんて、俺…俺…やだったから…」

涙くむ俺に

「悪かった。でも、こうするしか道はなかった。」

少しうつむき呟くアニキ。

「なんでだよ!!俺…心配して…心配して…
 会えなくなるって思った時…俺…寂しくて…
 俺…アニキが…居ないなんて…耐えられなくて…
 それで…それで…アニキ…俺の事嫌いになったのか?…」

涙声で言葉が上手く見つからない俺に

「啓介…お前の事嫌いになんかならない…なるものか!」

アニキは少し声を荒げて叫んだ。

「だったら出て行くなよ!俺の側に居てくれよ!」

俺は精一杯の抵抗をした。

「しかたがなかったんだ。
 もうこのままでいる事、出来なかった。
 俺の中で増幅する心が、お前に知れる事、 
 恐れていたのかも知れない…」

弱気なアニキの声が小さく震えて聞こえた。

「確かめもしないで結果だすなんて
 アニキらしくないじゃんか!」

  「啓介…どうしてお前の側にいれる?
 俺はお前の事、愛してるんだぜ。
 結果は解りきってる事じゃないか。
 実らぬなら側にいるだけで
 余計辛くなれだけだぜ。」

「俺もアニキの事。好きだぜ。それがいけない事か?
 一緒に居たいって思うのが悪いことか?」

「俺とお前の間に消せない事実が有るんでぜ。」

「そんなこと関係無い!!俺は世間体なんて気にしない。」

 …アニキ、現実から逃げるなよ…

俺はアニキに向かって凄んでみせた。

「…啓介…お前にその覚悟があるか?
 俺と一緒に落ちる事できるか?」

アニキの声、俺をガキンチョあやすみたいに語りかけてくる。

「アニキとだったら、どんなに辛くても平気だぜ…」

まっすぐ、アニキの目を見つめ答えた。

「俺の負けだな…啓介…愛してる…」

低めの声で囁かれる言葉の意味…言われてみると照れ臭くて、
下を向いてしまう俺。
アニキの視線は、まっすく俺を見据えて答えを待っている。
言葉にするのってなんか、妙にはずかしくて、でも伝えなくちゃって思い
精一杯の勇気振り絞って

「俺も・・・俺も…アニキの事…」

っていうのが事しか出来なくて、アニキは何も言わず俺を抱きしめてくれた。
俺の頬から伝う涙は、アニキの指で拭われ、そっと指を俺の唇に重ねる。
ゆっくりと近づくアニキの顔が…重なる唇が…そっと目を開けて見ると
アニキの瞳にもうっすらと涙が光っていた。
俺は目を見開き見つめる事しかできなかった…

― 完 ―

― あとがき ―

携帯見つめている内に
思いついたのがこの話…
寂しい時、恋人や友達からの
一通のメールや電話が凄い嬉しかったり、
安心したりしますよね。
この話にそんな思いを込めたつもりです。
題名は「お前の本当の心を知りたい…」
って意味でつけました。
全然違う感じになっていまいましたが…
暗い話しだわ…(泣)
しかも兄弟喧嘩…(汗)
啓介サイドで語り口調で進めてみました今回の駄文。
いつか涼介サイドも書いて見たいと無謀な野望も有り?
それにしても、この話、涼受けっぽい?
最後までお付き合い頂き有難うございました。

平成14年1月某日 脱筆